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ダンジョン学園
行方不明のFクラス生
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「何、Fクラスの生徒がダンジョンに入ったまま戻ってこないだと? 何故それをすぐ私に知らせない!?」
教頭室で報告を受けた毛根が後退し切った男──足柄山公雄57歳が教員に対して苛立たしげに声を荒げた。
「ですが教頭、Fクラスなど学園の落ちこぼれ。どこで野垂れ死のうが知ったことではないと言っていたのは貴方ですよ?」
教員から言い含められ、口籠る。
確かに言った。
常日頃から教員全員に言い含めている事実。
それが学年カースト制度。
上の学年に上がるための篩。
周王学園はエリートの排出だけを求められて作られた施設。
卒業生に落ちこぼれを作る必要はなかった。
この学園のノルマは出資者である御堂グループの兵隊を育て上げる為のカリキュラムが組まれている。
しかし長く続く平穏によって、それらは瓦解した。
生徒達は覚醒した才能でダンジョン内で無双!
そして一般人に対してマウントをとり始めた。
出資者は優秀であれば性格は咎めないとした。
そのちょっとした歪みが、生徒や教員、そして学園のカリキュラムにまで影響を及ぼす。
最初こそ一般生徒の取り組みの奨学金枠は上位生徒のストレスの捌け口として扱われるようになり、生徒も教員もそのおかしさに気づかないまま数年が過ぎれば……それが日常となった。
教頭・足柄山公雄もまたその一人。
探索者として全盛期ほどの稼ぎを出せなくなった彼は、教員として再スタートする。
最初こそダンジョン内でのノウハウを教え込んでいたが、しかし生徒は当時の自分よりも上に上に登っていく。
なんだったら上位クラス生は一学年でも全盛期の自分以上の成績を収めた。
この時から元探索者の優位性は失われ、ストレスの矛先を探し続ける。
目についたのはFクラス生。
すでにイジメが横行していたそのクラスで、教員だった彼もまたストレスの発散に殉じていた。
それによって保たれたメンツで彼は教頭にまでたどり着く。
故にFクラス生の役目は上位クラスに上がらせる為ではなく、ただのストレス発散のサンドバッグとしての立ち位置を得ていた。
生徒からも、教員からも都合の良い駒。
生き餌。
その生き餌が消えた。
たった一人を残して上位クラスへと上がった。
そして残った残り一人もダンジョンに行ったきり帰ってこない。
生き餌クラスに誰もいないんでは困るんだよ!
足柄山公雄は叫び出したい状況にありながら冷静を取り繕い、報告に来た教員に促した。
「名を、なんと言ったか?」
「私のでありますか?」
「生徒のだ!」
バンッと執務机を叩けば教員が怯んだ。
Fクラスの生徒名簿を慌てて取り出し、その名を確認する。
足柄山公雄の先導でFクラスの生徒の名前は覚える価値無しという風評が学園内に蔓延していた。
教頭である足柄山公雄も知らなければ、目の前の教員もまた知らないのだ。
しかし入学した以上、生徒名簿はある。
上位クラスに編入した生徒を排除していけば、自ずと名簿はバツマークで埋まっていく。そして綺麗なままで残った名前は……
「六濃海斗です」
たった一人でも残っているのならまだ良い。
いや、良くない!
ストレスの発散先が一人では意味がないのだ。
すでに上位クラス生、教員までもがそのクラスで発散するのが日常になってしまっている。
生贄は全員揃ってこそ生贄なのだ。
「生存確認はしたのか?」
「いえ、ただ帰ってこないとだけ」
「死んでないならまだなんとかなる。だが無事に戻ってきたならふんじばってでも外に行かせるな! 我が学園始まって以来の不測の事態だ。もしFクラスが消滅するのなら、その捌け口を求めて才能覚醒者の原石であるDクラス、Eクラスにまで被害が及ぶのだぞ?」
「そんな!」
二学年に上がれるのはA~Cクラスのみ。
D~Fクラス生はもう一年留学させてTPを横流しさせるためのTP奴隷だった。
この学園ではAクラス以外の生徒のTPを中抜きをする不正操作が蔓延していた。
肉体へのストレス発散はFクラスに。
TPを着服する発散先はBクラス~Fクラスにまで及ぶ。
事実上の不正は秘匿されてるが、クラスが上がるごとにTP換算率が上がる事実は生徒のやる気につながっていた。
だがFクラスの崩壊が、教員の私腹を肥やすD、Eクラスにまで向かうとなると話が変わってくる。
教員にとってD、Eクラス生は特別ボーナスを持ってきてくれる金を産む卵だった。
その卵を、生贄クラスに添えるというのは事実上の臨時ボーナスを失うのと同義だった。
そしてクラス毎のバフがさらに拍車をかける。
Fクラスにバフが一切かかってないのに比べ、Eクラスから10%づつ上昇していく。最高で50%。その力がFクラス生に向くのだ。
どう足掻いたところで勝てる道理はなかった。
「だが我が学園にはFクラスが絶対に必要なのだ! 最悪そいつ一人というわけにはいかん!」
「ですが、これ以上TPの稼ぎが落ちれば困るのは教頭も同じでは?」
学園の着服金は役員とヒラでは取り分が違う。
クラス毎のバフもあるが、それでも負けが込めば稼ぎが減るのだ。
これでは新しいストレスの種が生まれかねない。
教員の指摘に足柄山公雄は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「それでいい、必要なのはエリートだ。今期の学園生には出資者のお嬢様が通われているのだぞ? 多少の損失には目をつぶれ。もしお嬢様が無事ご卒業できなければ私達は終わりだ!」
足柄山公雄の言葉に、教員は押し黙る。
クビか臨時ボーナスの減額か。
どちらか選べと言われたら後者を選ぶ他なかった。
こうして上位クラスに編入したFクラス生の皺寄せは、Dクラス、Eクラスにまで及んだ。
教員だってできれば自分の臨時ボーナスを減らしたくないが、今失業して新しく再就職するのも難しく、背に腹は変えられなかった。
「そんな、俺たちがFクラスに降格処分だなんて! 一体なんの冗談ですか先生!」
「決まったことだ。仕方ないだろう、Fクラスの生徒のほとんどがCクラス、あるいはBクラスへ編入されてしまったのだ。君達の能力を疑うわけではないが、学園には生き餌が必要だ。分かるね? 君たちが今まで踏みつけにしてきた者と立場が変わったということだ。我が周王学園は実力主義。踏みつけられたくなければ実力を示したまえ。私からは以上だ」
Fクラスに降格する生徒にこれ以上述べる事はないという様に、教師はEクラスを去った。
同様にDクラスにもその勧告令が下された。減ったEクラス生の補填がDクラスから行われたのだ。
<side秋庭幸人>
あれから六濃君と別れた俺は、木下君と一緒にCクラス入りを果たしていた。
関谷さんや紅林さん、佐咲さんとは離れ離れになってしまったが、知り合いが一人いるだけで随分と心強い。
席も近く、それは能力が近い位置にいるという意味もあった。
かつてFクラスに居た時、散々俺たちを虐めてくれた生徒達は俺たちより下の成績なのか、出席番号が低い。
どうして俺たちが自分より上にいるのか理解できないという顔をしている。
そんなもん、実力以外に何かあるんだろうか?
最初の組み分けで全てが決まるなんて誰も言ってないのに、元Fというだけでやたら奇異の目を向けられる。
これからは同じクラスになるってのに酷いぜ。
しかしそれはクラス対抗戦で証明すればいい。
かつてはイジメを公認する最悪の授業だったが、今になって思えばこの授業の本質は才能を見せつける為のものだ。
やられる方は溜まったものじゃないが、やってみせる方に回れば、これほど好条件の授業もない。
「木下君、これって六濃君が何かやらかしたのかな?」
「多分ね。きっと上位クラス生を返り討ちにしたとかじゃない?」
「ありそう。彼、才能がないとは思えない行動力あるから」
「だね。その行動力に僕達、何度もお世話になってるし」
正直、その精神性の逞しさだけなら上位クラス生に匹敵するほど。
上位クラスに来るまでは、雲の上の存在だと思った人達は、彼と行動を共にした後は「こんなものか」と思ってしまうほど才能に頼りきりな人があまりにも多かった。
六濃君は言った。
モンスターは別に才能がなくても倒せると。
正直今でも半信半疑だけど、実際に倒せたのだからその言葉を疑うことはない。
ではどうやって倒すか?
才能を持っていれば容易だ。
しかし彼は才能なしでそれを可能とする。
その圧倒的観察力と胆力は、この学園にいる誰もが敵わない。
一緒に行動したあの時のパーティー全員がそう思っている。
特に一緒に行動していた時に自身の才能のメリット、デメリットについて詳しく把握できたのがとても大きな財産になっている。
「それより、彼自身が上にいってFクラス生に誰もいなくなったからこその移動とか?」
「そっちの可能性も大きいか。でもおかしいんだよな」
俺は生徒手帳の成績ランキングを覗く。
もし彼が上位にいるのなら、自分たちを優に超えているはずなのだ。
だというのにランキングに変動が無いのだ。
「ランキング、変動ないもんね?」
「ああ、六濃君なら俺たちより上にいっててもおかしくないはずなんだよ」
なんせ……彼は単独でゴブリンを引っ張ってくるだけに限らず、討伐もしてみせた。
俺たちが才能を持ってようやく倒せた相手を、相手の習性や行動パターンを読んで、その上で攻略してみせたのだ。
「そういえば聞いた? 来週の対抗戦の相手?」
「いや。俺いじめに興味ないし」
イジメ。
クラス対抗戦は何処か学園側がイジメを容認しているイメージがある。
才能が劣る相手にああも追い詰めるような真似を黙認するなんて、学園が素行を見極める為の場としているのではないか?
そして特にひどい相手がクラス降格の落ち目に合う。
今回Cクラス生からも降格処分を受けた生徒がいた。
C→D、D→E、E→Fとクラスを一つづつ下げていく処置。
成績順の変動による上位クラスの編入とは違い、クラスの降格は生徒にとって天から地に落ちるようなものなのだろうな。
なんせ虐めてた側がいじめられる側になるのだから。
前までいじめられてた俺たちが、今はいじめる側。
だからクラス対抗戦に対してあまり興味は向かなかった。
力を示す。
それは逆にいえば能力の弱点を晒すことにもつながる。
力は強いが、隙が多いスキルって割と多いのだ。
うちのクラスにもその傾向が多くあり、当たりの才能を得て、当たりのスキルが使える自分が強いと思い込んでいる人があまりにも多かった。
「僕はそこまで意識してないけど、でも元学び場だと知ったらね」
「なるほど、Fクラスか。じゃあそこに行けば六濃君の在籍が確かめられる?」
「そういう事。あれから僕達も強くなった事、彼にも見てもらいたいじゃない?」
「居たら、な」
居なくて当たり前、だがもし居たら?
それはそれとして実力がどれだけ詰まったかの検証が出来る。
いじめは嫌いだが、六濃君が相手となったら俺たちでも負けそうという気がするんだけど。
ほら、彼は俺たちの苦手な分野をよく理解してるから。
きっとその隙をついてくると思うんだ。
その日までに、俺たちは隙を幾つ消せるか。
それが勝負の決め所だと思う。
教頭室で報告を受けた毛根が後退し切った男──足柄山公雄57歳が教員に対して苛立たしげに声を荒げた。
「ですが教頭、Fクラスなど学園の落ちこぼれ。どこで野垂れ死のうが知ったことではないと言っていたのは貴方ですよ?」
教員から言い含められ、口籠る。
確かに言った。
常日頃から教員全員に言い含めている事実。
それが学年カースト制度。
上の学年に上がるための篩。
周王学園はエリートの排出だけを求められて作られた施設。
卒業生に落ちこぼれを作る必要はなかった。
この学園のノルマは出資者である御堂グループの兵隊を育て上げる為のカリキュラムが組まれている。
しかし長く続く平穏によって、それらは瓦解した。
生徒達は覚醒した才能でダンジョン内で無双!
そして一般人に対してマウントをとり始めた。
出資者は優秀であれば性格は咎めないとした。
そのちょっとした歪みが、生徒や教員、そして学園のカリキュラムにまで影響を及ぼす。
最初こそ一般生徒の取り組みの奨学金枠は上位生徒のストレスの捌け口として扱われるようになり、生徒も教員もそのおかしさに気づかないまま数年が過ぎれば……それが日常となった。
教頭・足柄山公雄もまたその一人。
探索者として全盛期ほどの稼ぎを出せなくなった彼は、教員として再スタートする。
最初こそダンジョン内でのノウハウを教え込んでいたが、しかし生徒は当時の自分よりも上に上に登っていく。
なんだったら上位クラス生は一学年でも全盛期の自分以上の成績を収めた。
この時から元探索者の優位性は失われ、ストレスの矛先を探し続ける。
目についたのはFクラス生。
すでにイジメが横行していたそのクラスで、教員だった彼もまたストレスの発散に殉じていた。
それによって保たれたメンツで彼は教頭にまでたどり着く。
故にFクラス生の役目は上位クラスに上がらせる為ではなく、ただのストレス発散のサンドバッグとしての立ち位置を得ていた。
生徒からも、教員からも都合の良い駒。
生き餌。
その生き餌が消えた。
たった一人を残して上位クラスへと上がった。
そして残った残り一人もダンジョンに行ったきり帰ってこない。
生き餌クラスに誰もいないんでは困るんだよ!
足柄山公雄は叫び出したい状況にありながら冷静を取り繕い、報告に来た教員に促した。
「名を、なんと言ったか?」
「私のでありますか?」
「生徒のだ!」
バンッと執務机を叩けば教員が怯んだ。
Fクラスの生徒名簿を慌てて取り出し、その名を確認する。
足柄山公雄の先導でFクラスの生徒の名前は覚える価値無しという風評が学園内に蔓延していた。
教頭である足柄山公雄も知らなければ、目の前の教員もまた知らないのだ。
しかし入学した以上、生徒名簿はある。
上位クラスに編入した生徒を排除していけば、自ずと名簿はバツマークで埋まっていく。そして綺麗なままで残った名前は……
「六濃海斗です」
たった一人でも残っているのならまだ良い。
いや、良くない!
ストレスの発散先が一人では意味がないのだ。
すでに上位クラス生、教員までもがそのクラスで発散するのが日常になってしまっている。
生贄は全員揃ってこそ生贄なのだ。
「生存確認はしたのか?」
「いえ、ただ帰ってこないとだけ」
「死んでないならまだなんとかなる。だが無事に戻ってきたならふんじばってでも外に行かせるな! 我が学園始まって以来の不測の事態だ。もしFクラスが消滅するのなら、その捌け口を求めて才能覚醒者の原石であるDクラス、Eクラスにまで被害が及ぶのだぞ?」
「そんな!」
二学年に上がれるのはA~Cクラスのみ。
D~Fクラス生はもう一年留学させてTPを横流しさせるためのTP奴隷だった。
この学園ではAクラス以外の生徒のTPを中抜きをする不正操作が蔓延していた。
肉体へのストレス発散はFクラスに。
TPを着服する発散先はBクラス~Fクラスにまで及ぶ。
事実上の不正は秘匿されてるが、クラスが上がるごとにTP換算率が上がる事実は生徒のやる気につながっていた。
だがFクラスの崩壊が、教員の私腹を肥やすD、Eクラスにまで向かうとなると話が変わってくる。
教員にとってD、Eクラス生は特別ボーナスを持ってきてくれる金を産む卵だった。
その卵を、生贄クラスに添えるというのは事実上の臨時ボーナスを失うのと同義だった。
そしてクラス毎のバフがさらに拍車をかける。
Fクラスにバフが一切かかってないのに比べ、Eクラスから10%づつ上昇していく。最高で50%。その力がFクラス生に向くのだ。
どう足掻いたところで勝てる道理はなかった。
「だが我が学園にはFクラスが絶対に必要なのだ! 最悪そいつ一人というわけにはいかん!」
「ですが、これ以上TPの稼ぎが落ちれば困るのは教頭も同じでは?」
学園の着服金は役員とヒラでは取り分が違う。
クラス毎のバフもあるが、それでも負けが込めば稼ぎが減るのだ。
これでは新しいストレスの種が生まれかねない。
教員の指摘に足柄山公雄は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「それでいい、必要なのはエリートだ。今期の学園生には出資者のお嬢様が通われているのだぞ? 多少の損失には目をつぶれ。もしお嬢様が無事ご卒業できなければ私達は終わりだ!」
足柄山公雄の言葉に、教員は押し黙る。
クビか臨時ボーナスの減額か。
どちらか選べと言われたら後者を選ぶ他なかった。
こうして上位クラスに編入したFクラス生の皺寄せは、Dクラス、Eクラスにまで及んだ。
教員だってできれば自分の臨時ボーナスを減らしたくないが、今失業して新しく再就職するのも難しく、背に腹は変えられなかった。
「そんな、俺たちがFクラスに降格処分だなんて! 一体なんの冗談ですか先生!」
「決まったことだ。仕方ないだろう、Fクラスの生徒のほとんどがCクラス、あるいはBクラスへ編入されてしまったのだ。君達の能力を疑うわけではないが、学園には生き餌が必要だ。分かるね? 君たちが今まで踏みつけにしてきた者と立場が変わったということだ。我が周王学園は実力主義。踏みつけられたくなければ実力を示したまえ。私からは以上だ」
Fクラスに降格する生徒にこれ以上述べる事はないという様に、教師はEクラスを去った。
同様にDクラスにもその勧告令が下された。減ったEクラス生の補填がDクラスから行われたのだ。
<side秋庭幸人>
あれから六濃君と別れた俺は、木下君と一緒にCクラス入りを果たしていた。
関谷さんや紅林さん、佐咲さんとは離れ離れになってしまったが、知り合いが一人いるだけで随分と心強い。
席も近く、それは能力が近い位置にいるという意味もあった。
かつてFクラスに居た時、散々俺たちを虐めてくれた生徒達は俺たちより下の成績なのか、出席番号が低い。
どうして俺たちが自分より上にいるのか理解できないという顔をしている。
そんなもん、実力以外に何かあるんだろうか?
最初の組み分けで全てが決まるなんて誰も言ってないのに、元Fというだけでやたら奇異の目を向けられる。
これからは同じクラスになるってのに酷いぜ。
しかしそれはクラス対抗戦で証明すればいい。
かつてはイジメを公認する最悪の授業だったが、今になって思えばこの授業の本質は才能を見せつける為のものだ。
やられる方は溜まったものじゃないが、やってみせる方に回れば、これほど好条件の授業もない。
「木下君、これって六濃君が何かやらかしたのかな?」
「多分ね。きっと上位クラス生を返り討ちにしたとかじゃない?」
「ありそう。彼、才能がないとは思えない行動力あるから」
「だね。その行動力に僕達、何度もお世話になってるし」
正直、その精神性の逞しさだけなら上位クラス生に匹敵するほど。
上位クラスに来るまでは、雲の上の存在だと思った人達は、彼と行動を共にした後は「こんなものか」と思ってしまうほど才能に頼りきりな人があまりにも多かった。
六濃君は言った。
モンスターは別に才能がなくても倒せると。
正直今でも半信半疑だけど、実際に倒せたのだからその言葉を疑うことはない。
ではどうやって倒すか?
才能を持っていれば容易だ。
しかし彼は才能なしでそれを可能とする。
その圧倒的観察力と胆力は、この学園にいる誰もが敵わない。
一緒に行動したあの時のパーティー全員がそう思っている。
特に一緒に行動していた時に自身の才能のメリット、デメリットについて詳しく把握できたのがとても大きな財産になっている。
「それより、彼自身が上にいってFクラス生に誰もいなくなったからこその移動とか?」
「そっちの可能性も大きいか。でもおかしいんだよな」
俺は生徒手帳の成績ランキングを覗く。
もし彼が上位にいるのなら、自分たちを優に超えているはずなのだ。
だというのにランキングに変動が無いのだ。
「ランキング、変動ないもんね?」
「ああ、六濃君なら俺たちより上にいっててもおかしくないはずなんだよ」
なんせ……彼は単独でゴブリンを引っ張ってくるだけに限らず、討伐もしてみせた。
俺たちが才能を持ってようやく倒せた相手を、相手の習性や行動パターンを読んで、その上で攻略してみせたのだ。
「そういえば聞いた? 来週の対抗戦の相手?」
「いや。俺いじめに興味ないし」
イジメ。
クラス対抗戦は何処か学園側がイジメを容認しているイメージがある。
才能が劣る相手にああも追い詰めるような真似を黙認するなんて、学園が素行を見極める為の場としているのではないか?
そして特にひどい相手がクラス降格の落ち目に合う。
今回Cクラス生からも降格処分を受けた生徒がいた。
C→D、D→E、E→Fとクラスを一つづつ下げていく処置。
成績順の変動による上位クラスの編入とは違い、クラスの降格は生徒にとって天から地に落ちるようなものなのだろうな。
なんせ虐めてた側がいじめられる側になるのだから。
前までいじめられてた俺たちが、今はいじめる側。
だからクラス対抗戦に対してあまり興味は向かなかった。
力を示す。
それは逆にいえば能力の弱点を晒すことにもつながる。
力は強いが、隙が多いスキルって割と多いのだ。
うちのクラスにもその傾向が多くあり、当たりの才能を得て、当たりのスキルが使える自分が強いと思い込んでいる人があまりにも多かった。
「僕はそこまで意識してないけど、でも元学び場だと知ったらね」
「なるほど、Fクラスか。じゃあそこに行けば六濃君の在籍が確かめられる?」
「そういう事。あれから僕達も強くなった事、彼にも見てもらいたいじゃない?」
「居たら、な」
居なくて当たり前、だがもし居たら?
それはそれとして実力がどれだけ詰まったかの検証が出来る。
いじめは嫌いだが、六濃君が相手となったら俺たちでも負けそうという気がするんだけど。
ほら、彼は俺たちの苦手な分野をよく理解してるから。
きっとその隙をついてくると思うんだ。
その日までに、俺たちは隙を幾つ消せるか。
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