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172話 ニアの目的
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最初は行方不明の妹を救出するための旅だった。
天真爛漫な彼女は、うっかりミスで飛行船のエネルギーを使い尽くしてしまい、立ち往生してしまったのだろうことは容易に想像できた。
「それで長官、次の任務についてですが」
「ふむ。君が以前から進言していた妹の救出だったかな?」
「はい。長期休暇をいただき、その際に連れ戻してこようかと。彼女は彼女で我が国に必要な人材ですので」
「君の妹である以上にかね?」
「我らナイアールトテップ族の本質に一番近しいのは彼女なのです。私たちは、規律にとらわれすぎています。本来ならあのような奔放な、それでいて自己中心的なものの考えをしていたと」
「また昔話のお伽噺を持ち出すのかね?」
「伝承であり、信託でもありますから」
遠い昔。私たちがまだ一つの神格だった頃。
それは自由に存在し、奔放に振る舞っていた。
しかし外敵との長く続く戦いに疲れ、生き延びるために分体を増やした。
増やしすぎたといってもいいだろう。
それが今になって再び集結しようという時に作った法、規律が本来の奔放さを失っているのではないかという懸念。
「我々ナイアールトテップ族以外にも、多くの種族が再び一つの個体、神格に戻ろうとしている以上、本来の性質を持つ妹を捨て置くのは愚策かと」
「多種族の台頭に出し抜かれると?」
「今ひとつになりつつあるクトゥルフ族の復活は早そうです。腑分けされた部位は全て完璧に揃い、あとは時を待つだけと言われています」
「親身になってくれるとはいえ……復活の遅れが縁の切れ目と考えられるか?」
「まず間違いなく」
断言して答える。
ナイアールトテップはアザトースに仕える忠臣。
復活の前に懇意にしてくれる相手を減らすのは得策ではない。
「だがその前に、我々の種族の抱える問題もある」
「ええ、増大しすぎた欲望の化身。眷属たちの反乱ですね。いずれ従える存在とはいえ、増えすぎるのは問題かと」
「なので君には妹の救出と同時に眷属の減少手段。可能であるなら植民地の選別もしてこい」
「あの、私は休暇をもらいに行くのですが?」
「我々にそんな時間的猶予が残されていると思うかね?」
「はい……」
願望叶わず。長官に言いくるめられて仕方なく了承し、妹の救難信号を辿って地球という惑星にやってきた。
空間跳躍を5回。量子ワープを3回。
とんでもない田舎へやってきたものである。
あいつめ、好奇心旺盛にも程があるだろう。
すぐに見つけ出し、復活させたのだが……
「ごめーん、お姉ちゃん」
「ミーア、あなたはもう少しおとなしくなさい」
「ムリだよー。私の腑分けされたミスティックは原種に近しいものらしいし。気になるところに一直線なんだから!」
この体たらくである。
「だってだって~。でも収穫もあったんだよ!」
そう言って、新しく手がけた神殿を見せてくれた。
「目新しいものは見当たらないけど?」
妹の見せてくれるデータに取り分けて目新しいものは見つからなかった。
神殿なんて、神格を呼び起こすための装置。
中央に供物を捧げ神格の魂を降霊。
のちにアドバイスを貰い受ける送信システムとなる。
私たち神格の腑分けされた一族は、特殊な通信手段でやり取りをしているがこうも遠い星では届かない。
しかしこの模造神格を用いれば、こんな田舎でも本部との通信も容易いのだ。
有難いといえば有難いが、なんで休暇を取った翌日に本部に連絡をしなければならないのだ。
妹の救出を終えたら、ノンびr胃休暇と洒落込もうと思っていたのに。
「違う違う、そこじゃないよー。現地人に腑分けした神格スキルを与えてみたのよ」
なんてことをしてるの?
私たちのスキルを現地人に与えるだなんて!
下手しなくても発狂して死ぬわよ?
「結構死んだんじゃない?」
「それがねー、適応者が現れたの!」
「それは、また。で、何人?」
「少ないよ。人口の一億人に一人くらいかな?」
「分母を知らないのだけど?」
「2000億人は居たよ」
居た?
つまり滅ぼした人数はもっと多いと。
いまさら田舎の惑星ひとつ滅んだところでどうってことはないけど、上層部は植民地をお望みだ。
あわよくばこの地をその場所に選択しようと思ったが、住む場所を見つけても餌がいないんじゃどうしようもない。
その現地人を餌にすれば余計な経費はかからなくて済むという計画が早くも頓挫する。
「それで、覚醒した人類は我々に対抗しうるの?」
「眷属ぐらいなら倒せちゃうかも!」
「ふぅん。あなたの口から始めて有効な情報を引き出せた気がするわ」
「で、その覚醒者はどこ?」
「普通に暮らしてるからどれがどれかわかんないんだよねー」
「は?」
初めて妹に対して「よくやった!」という気持ちが沸いたのに「やはりか」という感情が強くなっていく。
「でもね、でもね! お姉ちゃんが来た頃くらいからかな? 現地人が覚醒者を集め始めたのは」
「朗報ね。そういうのを早く出しなさいよ」
「えへへー、もっと褒めてくれていいんだよ?」
「それで、その集会所はどこ?」
「その場所にね、これから行こうと思ってたんだー」
「は?」
私は再び妹の提案を理解しかねた。
何故? 普通に本国に連れ去ればいいだけじゃない。
わざわざ表に出向いて姿を見せる必要があるのだろうか?
「実はそこにね、私たち以外の種族が混ざり込んできたんだよねー。漁夫の利ってやつ? 私の施した覚醒者を横から掻っ攫おうとしてるんだー。ずるいよね?」
「大変じゃないの! こっちの収穫物を黙って取られそうな時に、あなたは何をしてたのよ!」
「え、寝てたけど? エネルギー不足でさー」
全く、この愚昧は。
元の神格に近しいのはその溢れるほどの好奇心だけで、それ以外は見てられないほどに無能だ。
これは置いて行ったほうが最終的に私たちのためかもしれない。
「それで、わざわざそこに入り込んで何をするっていうのよ。あなたの権限があれば全て取り戻せるでしょう?」
そう、この世界に神殿を建てたのなら、建設権限を持ってるのはこの子ミーアだ。
寝ていたって、それくらいの権利は持っているはず!
「実はさー、寝ている間に部下反乱されて権限を奪われちゃったんだよねー! いや~まいったまいった」
「なに! してんのよ! この子は!」
まいったまいった! ではない!
寝てたにしてたって、胞子種族に裏切られるなんてことは普通ならありえない。
そう普通ならば。
ミーアは我々ナイアールトテップ族の落ちこぼれ。
いや、出来損ないと言っていい。
だから任務中に平気で行方不明になるし、そのまま帰還しないなんて問題をあまりにも堂々と起こすのだ。
その上部下に裏切られても反省した様子はない。
まさか休暇中に尻拭いに奔走されるとは思ってもない。
せっかくの休暇が、妹のせいでパーになるなんて……
たとえ休暇申請が2年ぶりに取れたのが妹のおかげといえどもこればかりは許せそうにない。
怒り骨髄に至り候である。
「やってきました!地球! いやー、一度普通に歩いてみたかったんだよね。あ、お姉ちゃんあのお店行こ」
「やめなさいよ、キョロキョロするのは。私たちは目的があってここにきてるんだから」
擬態を用意して、目的の施設に向かおうとしているのに、妹の奔放さがここでも足を引っ張る。
イライラするな、私。これも任務だ。
グギギギギ……
「だってー、この体あまりにも何にもできないんだもーん」
「だからって食事にお金をかけすぎよ」
「使い切ったらまた現地人から奪えばいーじゃん!」
この愚昧、反省をするという行動を腑分けされる際に本体へ置いてきてしまったようだ。
そして目的の施設へ。
そこでは思った以上に神格の子孫が紛れ込んでいた。
同格はそれほどいないが、それらに放たれた奉仕種族が複数。
あれはまだ自覚は薄いが使えそうだ。
あとで接触して意識を引き上げてしまいましょうか。
そして覚醒者へ与えた腑分けスキル。
それは加工スキルという形で顕現していた。
そのスキルは今までの間埋もれており、迫害を受けていたのだそうだ。
だからか、窮地から挽回するために躍起になっているのは。なんというか、目的のために行動しているとはいえ、悪いことしてる気がしてきたわ。
「ねーねーお姉ちゃん! 楽しそうだね」
「あんたは……もう少し自分が当事者だって自覚を持ちなさいな」
「えー、これ私悪くなくなーい?」
だめだこりゃ。
こうして私は現地人に紛れて妹と一緒に植民地の視察と覚醒者の選別を始めるのだった。
天真爛漫な彼女は、うっかりミスで飛行船のエネルギーを使い尽くしてしまい、立ち往生してしまったのだろうことは容易に想像できた。
「それで長官、次の任務についてですが」
「ふむ。君が以前から進言していた妹の救出だったかな?」
「はい。長期休暇をいただき、その際に連れ戻してこようかと。彼女は彼女で我が国に必要な人材ですので」
「君の妹である以上にかね?」
「我らナイアールトテップ族の本質に一番近しいのは彼女なのです。私たちは、規律にとらわれすぎています。本来ならあのような奔放な、それでいて自己中心的なものの考えをしていたと」
「また昔話のお伽噺を持ち出すのかね?」
「伝承であり、信託でもありますから」
遠い昔。私たちがまだ一つの神格だった頃。
それは自由に存在し、奔放に振る舞っていた。
しかし外敵との長く続く戦いに疲れ、生き延びるために分体を増やした。
増やしすぎたといってもいいだろう。
それが今になって再び集結しようという時に作った法、規律が本来の奔放さを失っているのではないかという懸念。
「我々ナイアールトテップ族以外にも、多くの種族が再び一つの個体、神格に戻ろうとしている以上、本来の性質を持つ妹を捨て置くのは愚策かと」
「多種族の台頭に出し抜かれると?」
「今ひとつになりつつあるクトゥルフ族の復活は早そうです。腑分けされた部位は全て完璧に揃い、あとは時を待つだけと言われています」
「親身になってくれるとはいえ……復活の遅れが縁の切れ目と考えられるか?」
「まず間違いなく」
断言して答える。
ナイアールトテップはアザトースに仕える忠臣。
復活の前に懇意にしてくれる相手を減らすのは得策ではない。
「だがその前に、我々の種族の抱える問題もある」
「ええ、増大しすぎた欲望の化身。眷属たちの反乱ですね。いずれ従える存在とはいえ、増えすぎるのは問題かと」
「なので君には妹の救出と同時に眷属の減少手段。可能であるなら植民地の選別もしてこい」
「あの、私は休暇をもらいに行くのですが?」
「我々にそんな時間的猶予が残されていると思うかね?」
「はい……」
願望叶わず。長官に言いくるめられて仕方なく了承し、妹の救難信号を辿って地球という惑星にやってきた。
空間跳躍を5回。量子ワープを3回。
とんでもない田舎へやってきたものである。
あいつめ、好奇心旺盛にも程があるだろう。
すぐに見つけ出し、復活させたのだが……
「ごめーん、お姉ちゃん」
「ミーア、あなたはもう少しおとなしくなさい」
「ムリだよー。私の腑分けされたミスティックは原種に近しいものらしいし。気になるところに一直線なんだから!」
この体たらくである。
「だってだって~。でも収穫もあったんだよ!」
そう言って、新しく手がけた神殿を見せてくれた。
「目新しいものは見当たらないけど?」
妹の見せてくれるデータに取り分けて目新しいものは見つからなかった。
神殿なんて、神格を呼び起こすための装置。
中央に供物を捧げ神格の魂を降霊。
のちにアドバイスを貰い受ける送信システムとなる。
私たち神格の腑分けされた一族は、特殊な通信手段でやり取りをしているがこうも遠い星では届かない。
しかしこの模造神格を用いれば、こんな田舎でも本部との通信も容易いのだ。
有難いといえば有難いが、なんで休暇を取った翌日に本部に連絡をしなければならないのだ。
妹の救出を終えたら、ノンびr胃休暇と洒落込もうと思っていたのに。
「違う違う、そこじゃないよー。現地人に腑分けした神格スキルを与えてみたのよ」
なんてことをしてるの?
私たちのスキルを現地人に与えるだなんて!
下手しなくても発狂して死ぬわよ?
「結構死んだんじゃない?」
「それがねー、適応者が現れたの!」
「それは、また。で、何人?」
「少ないよ。人口の一億人に一人くらいかな?」
「分母を知らないのだけど?」
「2000億人は居たよ」
居た?
つまり滅ぼした人数はもっと多いと。
いまさら田舎の惑星ひとつ滅んだところでどうってことはないけど、上層部は植民地をお望みだ。
あわよくばこの地をその場所に選択しようと思ったが、住む場所を見つけても餌がいないんじゃどうしようもない。
その現地人を餌にすれば余計な経費はかからなくて済むという計画が早くも頓挫する。
「それで、覚醒した人類は我々に対抗しうるの?」
「眷属ぐらいなら倒せちゃうかも!」
「ふぅん。あなたの口から始めて有効な情報を引き出せた気がするわ」
「で、その覚醒者はどこ?」
「普通に暮らしてるからどれがどれかわかんないんだよねー」
「は?」
初めて妹に対して「よくやった!」という気持ちが沸いたのに「やはりか」という感情が強くなっていく。
「でもね、でもね! お姉ちゃんが来た頃くらいからかな? 現地人が覚醒者を集め始めたのは」
「朗報ね。そういうのを早く出しなさいよ」
「えへへー、もっと褒めてくれていいんだよ?」
「それで、その集会所はどこ?」
「その場所にね、これから行こうと思ってたんだー」
「は?」
私は再び妹の提案を理解しかねた。
何故? 普通に本国に連れ去ればいいだけじゃない。
わざわざ表に出向いて姿を見せる必要があるのだろうか?
「実はそこにね、私たち以外の種族が混ざり込んできたんだよねー。漁夫の利ってやつ? 私の施した覚醒者を横から掻っ攫おうとしてるんだー。ずるいよね?」
「大変じゃないの! こっちの収穫物を黙って取られそうな時に、あなたは何をしてたのよ!」
「え、寝てたけど? エネルギー不足でさー」
全く、この愚昧は。
元の神格に近しいのはその溢れるほどの好奇心だけで、それ以外は見てられないほどに無能だ。
これは置いて行ったほうが最終的に私たちのためかもしれない。
「それで、わざわざそこに入り込んで何をするっていうのよ。あなたの権限があれば全て取り戻せるでしょう?」
そう、この世界に神殿を建てたのなら、建設権限を持ってるのはこの子ミーアだ。
寝ていたって、それくらいの権利は持っているはず!
「実はさー、寝ている間に部下反乱されて権限を奪われちゃったんだよねー! いや~まいったまいった」
「なに! してんのよ! この子は!」
まいったまいった! ではない!
寝てたにしてたって、胞子種族に裏切られるなんてことは普通ならありえない。
そう普通ならば。
ミーアは我々ナイアールトテップ族の落ちこぼれ。
いや、出来損ないと言っていい。
だから任務中に平気で行方不明になるし、そのまま帰還しないなんて問題をあまりにも堂々と起こすのだ。
その上部下に裏切られても反省した様子はない。
まさか休暇中に尻拭いに奔走されるとは思ってもない。
せっかくの休暇が、妹のせいでパーになるなんて……
たとえ休暇申請が2年ぶりに取れたのが妹のおかげといえどもこればかりは許せそうにない。
怒り骨髄に至り候である。
「やってきました!地球! いやー、一度普通に歩いてみたかったんだよね。あ、お姉ちゃんあのお店行こ」
「やめなさいよ、キョロキョロするのは。私たちは目的があってここにきてるんだから」
擬態を用意して、目的の施設に向かおうとしているのに、妹の奔放さがここでも足を引っ張る。
イライラするな、私。これも任務だ。
グギギギギ……
「だってー、この体あまりにも何にもできないんだもーん」
「だからって食事にお金をかけすぎよ」
「使い切ったらまた現地人から奪えばいーじゃん!」
この愚昧、反省をするという行動を腑分けされる際に本体へ置いてきてしまったようだ。
そして目的の施設へ。
そこでは思った以上に神格の子孫が紛れ込んでいた。
同格はそれほどいないが、それらに放たれた奉仕種族が複数。
あれはまだ自覚は薄いが使えそうだ。
あとで接触して意識を引き上げてしまいましょうか。
そして覚醒者へ与えた腑分けスキル。
それは加工スキルという形で顕現していた。
そのスキルは今までの間埋もれており、迫害を受けていたのだそうだ。
だからか、窮地から挽回するために躍起になっているのは。なんというか、目的のために行動しているとはいえ、悪いことしてる気がしてきたわ。
「ねーねーお姉ちゃん! 楽しそうだね」
「あんたは……もう少し自分が当事者だって自覚を持ちなさいな」
「えー、これ私悪くなくなーい?」
だめだこりゃ。
こうして私は現地人に紛れて妹と一緒に植民地の視察と覚醒者の選別を始めるのだった。
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