ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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168話 共食い狂想曲3

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 さて、実食。
 なぜかカエル君まで同席して、同胞を食う。
 いや、そう仕向けたんだけどね。

「ん! さっぱりとした肉の味で濃いめのタレがよく絡む! こいつは紹興酒か、ワインか悩むところだな」

「カエル料理はフレンチにもあるからワインで飲んだら?」

「実際にはこれを初めて食うから。あ、そういえばスパークリングワインあったろ、ダイちゃんの。アレで合わせたい」

「あったねぇ」

 ここはヨッちゃんの感を信じて、俺もご相伴に預かる。
 紹興酒は一度飲んだが、ほんのりとした甘さ、独特の薬品のような渋さ、酸味が料理に深みを増す万能タイプ。

 飲み手に好き嫌いが分かれるタイプの酒ではあるが、地元では料理酒としての用法が多いことからそのまま飲むより料理に使うという意見をよく聞く。

 だから俺はあまり得意ではないタイプ。
 ヨッちゃんはなんでも好き嫌いせずに飲むのもあって、選択肢に入れるほどだ。

 なんにせようまく飲めるコツを知ってるらしい。
 全く教えてくれないけど。

 ダイちゃんのスパークリングワインも合う予感。
 あっちは普通にソフトドリンクとしても通じそうな味わいだし。
 とりあえず飲んで試して、かな?
 お互いに注いで試飲。

「ああ、うん」

「これは違うかな?」

「あわなくはないけど、食欲が増す感じはないかも」

「じゃあ、もう一方ので」

「今出すから待ってて」

 紹興酒は飲みつけてないのもあり、在庫はたくさんあるから。
 グラスに他の酒を残したままで注ぐこともできないので、換えのグラスを出しつつそれに注ぐ。

「うーん、これも違うかなぁ? 濃口のタレにならこっちだと思ったんだが」

「今回は菊池さんのような仕込みは一切してないからなぁ」

 初めて扱う食材だったし、方向性もわからなかった。
 素材そのものは悪くなかった。
 けど、味が簡素にまとめすぎてたのが失敗だったな。

 いや、普通に美味しかったんだよ?
 そこにアレンジを加えられなかった俺が悪いんだよ。

「そっかぁ、残念」

 二人でアルコール談義をしていると、一人と一匹から白い目を向けられていた。

「あの、お二人はこの料理にご不満が?」

「別に料理に対しての文句はねーよ? ただ、なぁ?」

「勘違いさせてそうだから訂正させていただくけど、俺たちは飲むための材料を何処かで探す癖を持つ人ってだけだよ。なんなら坂に合わせる職を作り上げるスタイルでダンチューバーをやらせてもらってる。もちろん食材はダンジョンのもので、だ」

「こんなに美味しいのに」

『┗Θ〻Θ)ゲロゲーロ』

 すっかり一つ目の料理から気をゆるされてしまってる。カエル君も同胞を食べたというのに早くもお代わりしたそうな構えである。

 いや、悪かったって。

「なら今度はフレンチ流の引き算で仕上げるか」

「よろしくー」

 菊池さんがスープに使ったスパークリングワインの風味を最大限に使った味を思い起こす。

「よし、アレで行こう」

 ここ最近は驚きの連続でインスピレーションが枯れ果てていたのを痛感する。そうだよ、料理は楽しいものなんだ。
 腹を満たすのは二の次で、そのおいしさを体全体で楽しむためのものだ。

 もうおいそれとゲストには呼べないけど、あの時があるからこそ今がある。それを思い出しながらもう一品作り出す。

 肉の方の味付けもすべて変える。
 ここは濃いめの味付けで行くのではなく、あの複雑な味わいの合わせ調味料、マッドアングラーを使用。
 熟成乾燥を(中)で使用し、味に深みを出しながら煮込む。
 ここに先ほど仕上げたカエルスープに、紹興酒を少量潜ませ、みりん、醤油、ごま油を少量。
 あとはサハギンのしゃぶしゃぶ用スープを合わせて一煮立ち。

 味味をし、唸る。

「うまいのか?」

「うまくなりすぎて困ってる。これじゃあ肉の方を合わせるのが至難の業だ」

「そんなにか?」

「俺も味が気になります」

『┗Θ△Θ)ゲロゲロ』

 とりあえずスープ皿によそって試飲会。
 一口飲みながら、全員が今自分が何を飲んだのか理解できずに皿と相手の反応を見た。

 全員が全員、飲み干したスープ皿を凝視して、誰が盗んだのか探りを入れている状態。
 そう、飲んだ記憶だけがすっぽり抜け落ちているのだ。
 さっき無言で飲んでたよ。

「これは、革命ですよ!」

『┗Θ⊿Θ)ゲローーー!!』

 イスト君は随分興奮してるようだ。
 カエル君も『この旨みの根源に自分が?!』と随分驚いている。

「他に、どんな材料を使ったんですか?! 後生です、教えてください」

 君が恐れ多いと敬っているところの私兵、サハギンだよ。
 他にその住処でよくその私兵を捕食してるマッドアングラーのダシを使ってるところまで話したらイスト君は「もう聞きたくないっす」と言わんばかりの顔をした。

 自力で集められそうなら、挑戦したかったらしい。
 そういえば彼はダンジョンデリバリーとして参加してるんだったね。
 なんの特殊効果か聞いてなかったや。

「そういえば君も加工スキル持ちなんだよね? どんなの?」

「俺のは本宝治さんの持ってる熟成乾燥ですよ。だいぶ使い勝手が良くてポイントを稼がせてもらってます。

「ああ、だから真似できると思った?」

「はい。あの、それだけじゃまだ足りませんか?」

「相手が死んでるなら調理は可能」

「あれ、一般モンスターはこれでなんとか殺せるようになりましたが?」

 うん、一般モンスターになら通じるね。

「残念ながらEXランクには通じないよ。俺はエレメンタルボディに隠し包丁を入れられるから倒せるけど、君はそれ無理じゃない?」

「知りたくなかった現実を知った!」

「ちなみに、君の眷属も普通にEXランクだからね?」

「あんまり現実を突きつけないで!」

 「ちくしょう、どおりで俺の命令を聞かないわけだよ!」と憤りながらイスト君はヤケクソになっていた。
 そう悲観的になることないのにね。

「まぁ、とにかくだ。君の眷属はそのままでも美味しいけど、上位存在の私兵と合わせるともっと美味しくなる素質を秘めているってわけだ」

「それ、一生下剋上できないやつじゃないっすか」

「おっと、どこで聞き耳を立ててるかわからない相手を前によく啖呵を切れるね」

「あっそうじゃん。ここら辺に遮音結界的なのは張ってあったり?」

「する意味がねぇ」

「ですよねー」

 ヨッちゃんがそもそもオレらがそんな魔法使えるわけねーじゃんと一蹴すれば、イスト君は引き下がる他ない。
 
「ちなみにコストは何で還元してるの?」

「一応は支配したダンジョンのエネルギーを流用してるんですが」

 これ以上一般人に情報は流せないと口を引き結ぶ。

「なるほど、今の食事で回復してたりしない?」

「あ、してます。え、なんで?」

「君、ダンジョンの構造についてよく知らない人?」

「逆に本宝治さんはなんでそこまで知ってるんすか?」

「言ってもいいけど、今は内緒にしておくよ」

「えー、教えてくださいよ」

「君が今後俺たちと敵対しないと誓うなら教えてあげてもいいよ?」

「じゃあ、いいです」

「ちなみに。ルゥちゃんとは協力関係だ」

「うぉおお、後出しがすぎるだろ!」

「サポートなんてその時に仲間になってればいいんだから、今は戦力を増強することを優先したら?」

 葛藤するイスト君に助言をしてやる。ルゥちゃんと同じ理屈で。
 と、いうのも今回のスープがおいしすぎてストックが消えてしまっているからだ。

 俺とイスト君が半仕込んでる間に、勝手に飲み干した犯人がいる。
 そこのカエルとヨッちゃんだ。
 サハギンの時も思ったが、同胞を口にしてる気引かんとかないのか?
 俺たちが言えたことじゃないけどな。

 今後とも作りたいので素材の提供をしてくれるんなら、協力を惜しまないつもりでいる。

「よし、商談成立だな! じゃあ早速こいつを料理しようぜ」

『┗Θ⊿Θ)ゲロォ!?』

「待ってください、こいつとはこれからも協力関係を築くために必要なんです。代わりを出しますから、こいつだけは勘弁してください!」

 ヨッちゃんはすっかり食べる気でいるようだったが、イスト君がどうしてもというのでその条件を飲むことにした。

 そういえば実際に生み出す光景を見たことなかったな。
 
『┗Θ△Θ)ゲロゲロ』

 イスト君は何やらぶつぶつ唱得ながら地面に落書きをする。
 指に傷をつけ、血を一滴垂らすと落書きが淡い光を放ち、地面から何かが起き上がった

 泥のようなそれが、形をとるとひび割れて中からカエル君が現れる。

『┗Θ〻Θ)ゲロゲーロ』

 なんということでしょう、新しくカエル君が生まれたではないか。

「すいません、お待たせしました」

「いいよいいよ。俺も初めての光景で感心してたんだ。そうやって生み出すのかって」

「え、知ってるのかと思ってました。ルゥさんと協力関係だってさっき」

「協力してるのはエネルギーの献上だけだよ」

「くそっ、騙された!」

 騙した覚えなんてないのに。勝手に勘違いしたのをこっちのせいにしないでほしいな。

「じゃあ、この子を早速使わせてもらうね?」

『┗Θ△Θ)ゲロ!?』

 腕をむんずと掴んで、加工の魔眼で隠し包丁、先ほどの続きを再開した。騙されただのなんだの言ってるけど、スープが出来上がると目の色を変えるんだからイスト君も大概だよねぇ?
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