ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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163話 新米邪神継承者 2

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「今日はありがとうございました」

『ましたー』

 ルゥちゃんとサハギンが一緒にお辞儀する。
 なんかこうしてみると、家族って感じがするよね。
 全然似てないけど。

 完璧主義者っぽい瑠璃が見たら怒りそうだ。
 それほどまでにサハギンはルゥちゃんに対して気安い態度をとっていた。どう見ても主従のそれではない。

「初めての収録で緊張しなかった?」

「少し。でも、こうやって少しずつ活動理念を皆さんに知ってもらうことが大切なんですね。まだちゃんとやれるか気持ちが揺らいでるところがありますけど、いつか必ずや、この手で地上を支配してやろうと言う熱意が湧きました!」

「そっか、頑張ってね」

「はい!」

 <コメント>
 :おい!
 :他人事だなぁ
 :ダンジョンの方が先に攻略されるんやで
 :地上はそれから
 :まぁ、そうなんやけど
 :戦力を見せつけられちゃったしな
 :見せつけてたか?
 :今回はただの料理番組だったろ?
 :なにを料理したかによる
 :あのサハギン、終始マイペースだったもんな
 :言えてる
 :草
 :笑い事ではないんやで

 ルゥちゃんは一人でダンジョンの奥へと帰っていった。
 そしてなぜか、一匹のサハギンが俺たちのところに残る。

「君は帰らないの?」

『|◉〻◉)見張りです。門番ていうの? 任されました』

 ルゥちゃん、意外と抜け目がない。
 あのまま一緒に帰ってくれるもんだと思ったのに、まさか居残るとは。

「こいつ、なんで残ってるんだ?」

 ヨッちゃんが、その場で座ったり寝転んだり終始落ち着きのないサハギンを見かねて、俺に苦言を呈した。

「なんか見張りらしいよ?」

「オレたちの?」

「と言うか、多分改装したてのこのダンジョンの見張りだと思うんだよ。あとはどんな探索者が来るか逐一チェックしてるんだと思う」

「その割にそわそわしてるけど?」

 ヨッちゃんにはこの訴えかけてくるような念話が聞こえないのか。
 すごくうざったい感じにドヤってくるこの声が。

『|◉〻◉)暇です。ただ見張りしろって言われたけど、なにをするか聞いてなかったので』

「暇なんだって。なにをするかも決められてないとかで」

「上司との報連相しっかりしろ!」

『|◉〻◉)ぶえー』

 思わずヨッちゃんの方がキレた。
 無理もない。
 こんな神経が図太かったら、なにが足りないとか考えも及ばないだろうし、そもそも自分になにができるのか考えもしないんだろう。

 中途半端にフィジカルも強いから、気軽にツッコミも入れられない。
 まさに理不尽。非常に厄介な相手だった。

「仕方ねぇなぁ、じゃあ遊び場作ってやるか」

『|◉〻◉)いいんですか!』

 表情がパッと明るくなるサハギン。
 意外と表情豊かなんだねぇ、この子達。
 多分念話みたいなものが聞こえるから、そう思っちゃうだけかな?
 
 普通のスライムとオリンが全く違う生命体だと感じたように、このサハギンも別の生命体のように感じてしまう。

 さっき食べたし美味しかったけど。


 数分後。
 拠点のすぐ横にプールができた。
 ぱっと見は噴水だが、サハギンが30匹は遊べる広さを誇るので、プールという表現で差し支えないだろう。

 これを数分で拵えてしまえるヨッちゃんがすごいのだ。

 <コメント>
 :この規模の水、どうやって賄うんですか?
 :どうせ魔法だろ?

「水の張り替えは遊ぶ奴が補填する。お前も水棲生物なら、水魔法の心得とか持ってんだろ?」
 
『|◉〻◉)まぁ、ありますけどね。なるほど、タダじゃないんだ。あ、友達とか呼んできていいですか?』

「なんて?」

「友達呼んできていいかって」

「好きにしろ!」

 そんなヨッちゃんの言葉を真に受けて、サハギンが慌てて奥に引っ込み、30匹ほど友達を連れてくる。多い多い多い!
 全員が同じ顔。どれがさっきまでの個体か分かりやしない。

 その上で思い思いの行動をするもんだから、自由なんて言葉では聞かない。さっきまでゲストとしての対応が、一瞬にして迷惑モノに成り代わった。
 余裕があると思われたプールが一瞬で満杯になり、もはや生簀の体裁である。

 相当に暇を持て余してたんだろうなぁ、というか。
 無意義に生み出されたのだろうかと疑念が尽きない。
 そんなわけないと思うのだが。

『|◉〻◉)弱ったのから食べてもらえって、なのでここで全力で遊ぶ所存です』

 食べちゃっていいんだ。
 そっちから言ってくれるんなら食べるけど、自分からは気が進まないぜ。

 早速遊び疲れた個体がいくつか出て来て、その辺で寝っ転がって泥だらけになったり、太陽の光から隠れるように森の中に逃げたり、ファンガスに捕食されたりと思い思いに動いている。

 見てる分には非常に面白いが、後始末をしなきゃならないのは俺たちなので今から憂鬱だ。
 なまじ精神が人間に傾いたりしてるのがなぁ。
 もしやそう言う戦略か? なんて思ってしまう。

 <コメント>
 :軒先貸したら母屋まで取られる典型になってて草
 :まさか友達があんなに多いとか思わんやろ
 :まぁ言うて、借りてるのはポンちゃんの方だけど
 :違うぞ? 勝手に住んでるところに、勝手に大家が現れたんやぞ?
 :それは草
 :そこらへんの利権関係どうなってるねん
 :ダンジョン内なんて言ったもん勝ちやろ
 :その割に、ダンジョンの生態系変わってるんやけど?
 :あの子、立派に大家やってるんだなぁ
 :大家というより支配者だがな
 :これからあのサハギンが背景にチラつくのかー
 :見てる分には楽しいし、いいんじゃね?

 コメント欄ではいまだに他人事。
 これが地上に出てくると言う危機感が足りないのは高いステータスを持って生まれた余裕から来るのだろうか?

 まぁ、同盟を結んでるからか、サハギンたちから敵対視されずに済んでるのは間違いないが。
 俺たち以外はその限りじゃないんだよなぁ。

 配信上でフレンドリーだからと、人類に対してそこまで仲が良いかと言われたらよくわからないと言うのが正解だ。
 
 ただ配信に協力してくれる機会を活かし、囲炉裏路と調理法を公開していけたらと思う。
 
 ルゥちゃん曰く、この子たちが一番の雑魚で替えが聞く存在と言ってた通りなら、日常的に間引きしてもいいと言われたようなもんだし。
 そう考えて動くことにした。

 数日後。
 ヨッちゃんがサハギンたちの家を作った。

 自分たちの生活スペースに勝手にズカズカ入ってくるサハギンたちが目障りだったらしい。
 トイレとか普通に借りに来てたんだよな。
 シャワーも使い方を覚えて勝手に使ってたし。

 大概女を捨ててるヨッちゃんだけど、脱衣室にべったり張り付くサハギンたちに対して背筋に寒気が走ったらしい。
 まぁびっくりするよね。
 ちなみに窓にも張り付いたりするので心臓に悪い。

 俺には声が聞こえるけど、ヨッちゃんは聞こえないからなぁ。
 そこら辺の差でコミカルから一転してホラーになるとかなんとか。

「おらよ、今度からここに住め。もう二度とこちらの許可なく家宅侵入を試みるんじゃないぞ?」

『|ノ◉〻◉)ノわぁい』

「返事だけは一丁前だよな、こいつら」

「リスナーみたいだね。こっちのお約束を守らないタイプの」

「ああ、なんか既視感あると思ったら!」

 <コメント>
 :風評被害で草
 :俺たちは、サハギンだった?
 :なーんか親近感湧くと思ったらそう言うことか!
 :そこまで自由にはしてないが?
 :昔っからのファンはそうよ
 :多分ポンちゃんたちが言いたいのは、利用してやろうと近づいてくる連中のこと
 :ユニコーンとか、ただ飯食いのやつとか
 :ああ、そう思うとそうだな
 :誠に遺憾
 :というか、俺らなら地上を支配しようとは思わんやろ
 :すでに支配し終わってるからな、改めてはせんやろ
 :草
 
『|◉〻◉)地上の支配は種族の悲願なので、やります』

「地上は最終目的なので絶対やるって。特にこの子達の総意とかではなくて、国が決めたらそれに従うって感じらしい」

 <コメント>
 :それは、俺らだなぁ
 :もういっそ、穏便に解決してほしい
 :例えば?
 :決着は殺し合いじゃなく、アイドルとしての活躍票みたいな
 :まだ地下アイドルに固執してる奴いるんか
 :そりゃ決定権は持っておきたいだろ
 :そう考えると人間って傲慢だよな
 :傲慢だから地上を支配してるんだぞ?
 :それはそう
 :|◉〻◉)悲しいなぁ
 :何か来た
 :|◉〻◉)ノ オッスぼくサハギン。みんなの意見を聞きに来たよ
 :こんなに流暢な日本語を!
 :|ー〻ー)多言語くらいできなきゃ眷属は務まらないのさ
 :意外に優秀なのな
 :|///〻///)ヾ エヘヘ
 :ちょろい
 :ちょろい
 :ちょろい

 コメントを見てると、どうやらサハギンがトマトと同様に配信に興味を示したようだ。
 トマトと違い、乗っ取らずして理解する地頭の良さ。
 どうやって接続してるのか謎だが、何匹かが、あぐらをかいて瞑想している。
 それで繋がるんだ?
 
「お前邪魔! ここに洗濯物干すからあっち行ってろ!」

 ヨッちゃんがらしくもなく、洗濯物を持ってサハギンを蹴散らした。 あっちこちで自由に暮らしてるのもあって、ちょっと意地悪したくなったのかもしれない。

 すると、接続が切れたのかコメントが書き込まれなくなった。
 やっぱり瞑想して書き込みしてたんだな。

 謎がまた一つ増えたね。


 それからすっかりサハギンが日常の一部になって、ルゥちゃんが再びやってくる。

「あの、うちに兵士がこっちにサボりにきてませんか? 数日前から数が足りなくて」

「え? あー……」

 ヨッちゃんが作った砂場やプールで遊ぶ魚人たちを眺め……
 そう言えば随分と数が増えたなと思っていたところだ。

 最初は一気に三十匹だったから、細かくは数えなかったけど、やっぱり増えてるのか、これ。
 プールではギチギチになりながら、水分の奪い合いをしている。
 人間でもこうはなるまい。

「妙に数が増えてると思ったらそう言うことか。俺も入場規制してないからな。多分あそこで遊んでる何匹かがそれだと思う。見分けがつかないからはっきりとはわからないけど」

「なるほど、自由に出入りさせてた理由はそこですか。私は色で管理職を見分けられますが、本宝治さんには難しかったですね」

「そう言う権利みたいなのはないからね。もらった魚を捌いて食うしか脳のない男だ」

「でしたらこちらでも罰を与えておかないといけませんね。こーらー! お前たち、持ち場に戻りなさい! 訓練の時間ですよ!」

 ルゥちゃんが声を上げると、遊びに来ていたサハギンが『|◉〻◉)ヤベッ』という顔をしてどこかに走り去っていく。

 仲間内でこの場所はリゾートみたいな扱いを受けてるのかな?
 随分と人気だ。

 ヨッちゃんがサハギンたちの家をあちこちに作ったからね。
 だから数が増えても視覚的に見えなくなってるんだ。
 家からも何匹かが笑笑と出ていった。
 
「すいません、門番を寄越したのに、まさかこのようなことになるとは思わず……」

「ああ、いいのいいの。なんだかんだ俺たちも楽しんでるし。うちの配信でもすっかり馴染みの顔になったからね」

「それではこちらの示しがつきません。罰として3匹置いていきますので、それは煮るなり焼くなり好きにちゃってください」

「あーうん」

 ルゥちゃんはこの場所を遊び場にしたサハギンに罰を与えるべく、俺たちに始末を押し付けた。
 つまり食べて見せしめにしてやれってことらしい。
 めちゃくちゃ気が引けるけど、どんな食事に仕上げようか考える。
 どっちみち食べるんなら上手く仕上げたい。

『|◉〻◉)?』
『|◎〻◎)!』
『|ー〻ー)……』

 三匹は自分がこれからどうなるかわかりもせず表に出され、そして俺の包丁が振るわれる。

 一匹が死を覚悟した後『|◉〻◉)ぎゃーーーーー』と情けなく喚いて死亡。
 普通ならそこで他の二匹が慌てると思うのだが……

『|◉〻◉)ワクワク』
『|◉〻◉)僕たちって美味しいって聞きました!』

 まるで自分たちも食べる側であるかのようなワクワクのところ悪いけど、君たちも食材だよ?

『|◉〻◉)!?』
『|>〻<)やだー』

 やだも何も、文句ならルゥちゃんに言って。
 俺たちは残りの二匹も始末して、鍋の具材にした。

 残りのサハギンが、ご相伴に預かりに来たけど。
 この子達に共食いの概念はないのだろうか?
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