ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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160話 ダンジョン生活生配信 6

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 今回このダンジョンに赴いた理由は卯保津さん救出以外にもいくつかあった。

 単純にジュリを封印されてオリンの権限では飛べなくなっていたこと。

 そしてこのダンジョンに現状迷宮管理者との契約者がいなくて危険ということ。

 最後に、全世界のダンジョンと繋がってる可能性が出てきて、余計迷い込んできた場合の対処が直接取れないことにあった。

 一度オリンを通して行き来できるようになれば話は変わってくるが、不便は不便だしね。

 ジュリは近くにいるだけでいろんな迷惑をかけてくるけど、いなきゃいないでまた困ることもあるのだ。

 なんだかんだであの子、権利だけは持ってるからね。



「はーい、みなさん見えてますかー? あれがファンガスです」

 景色を見せつけながら、モンスターがどこにいるのか探してもらう。
 俺たちは発見したけど、リスナーたちはまだだろうと親切心での提案だ。

 <コメント>
 :どこ?
 :この中から探せっていうのは無茶
 :ウォーリーより難度高いんですが、それは
 :ファンガスって例の動くキノコだよね?
 :特殊調理食材だっけ?
 :マイク様の攻撃が通用しない相手
 :それが雑魚で出てくる場所やぞそこ
 :封鎖しろ!
 :実質封鎖されてるようなもん
 :好き好んで行きたい人だけしか来ないぞ?
 :拠点にしようとする人が二人現れたって話だよ

「見えませんかー? 俺たちは見えてますけど、少しヒントを出しましょうかね。ヨッちゃん、お願い」

「おっしゃ」

 ヨッちゃんは両手を天に掲げて水の魔法を頭上に構築。
 それを森に向けて発射。

 ふよふよと森の上を通過しようとしたところで、パンと弾けた。
 ファンガスに捕捉されたのだろう、木からツルのようなものが現れて迎撃されてしまった。
 鹿を捕食してパワーアップしたように、今回は自然すら意のままに操れるようになってるね。
 本当、ちょっと訪れないうちにガンガンパワーアップするんだから手に負えないよ。

「見えましたか?」

 <コメント>
 :今何が起きたんや?
 :森の上を通ったら水が弾けたやで
 :なんの攻撃です?

「攻撃も何も、この森そのものがファンガスだぞ?」

「ヨッちゃん、ネタバレ早いよ」

「えー、だってこれ。堂々めぐりで結局時間ばっかりかかるやつじゃね?」

 それもそうなんだけど。急に場所がひらけて森が現れたら注意しよう、って説明したかったのにさ。
 ちなみにマッドアングラーの場合は急に通路が狭まって、フィ羽自然なくらいに荒地になってたら注意が必要。

 スパイダーツリーは林かな?
 森というほど密度はなく、しかし巨大蜘蛛が動き回れるくらいのすぺースを保持してる空間。

 各モンスターごとに見事に特色が出ているのでわかりやすいよね。

 <コメント>
 :森が敵はスケールがでかい
 :せめて一部なら
 :まぁ、近づかなきゃ安全なら
 :待て、それじゃどこで食材入手するんだ?
 :そういえばそうじゃん
 :むしろ成長させすぎて森になったまである?
 :これで雑魚なのほんと脳みそバグるわ

「でも煮込むと美味いんだよねー。多分政府はこういう食材を求めてるんじゃないかって」

 <コメント>
 :危険物表に輸出するのやめろ
 :これをクララちゃんに採取させる?
 :命がいくつあっても足りないよー
 :誰が調理してくれるんだよ、こんなの
 :調理人入るぞ? ただ安定的に入荷ができないだけ
 :入手しても食べるのに億の値段が動くから
 :結局食えないのな
 :むしろタダで食えると思ってるやつの方が問題だろ
 :それが原因でぽんちゃんたち引きこもってしまったんやで
 :応援とクレームを履き違えてるやつ多くて困るよな
 :ほんまね
 :ところでこれ、ダンジョンでの生活を教えてくれるチャンネルじゃなかったっけ?

「あーうん。普段はこのダンジョンでのサバイバル入門編をお見せして、たまーに他のダンジョンもみせる感じで行こうかと」

 <コメント>
 :倒す力と生活力は別個なんだよな
 :適材適所だからね
 :よもやここに住もうと考える輩がどれほどいるか

「え?」

 俺たちは戦えた上で食えるし、なんだったら魔法の応用で快適に暮らしていける。

 早速ヨッちゃんが一軒家を建築し終えて、休憩中にコメントを拾う。
 当たり前のような建築スピード。
 DIYの匠が眼を剥く制度でものを作るよっちゃんである。

 昨日、立ち寄った柏崎ダンジョンで設置した居住スペースを、ここでも再現したみたいだね。

 普段使いするためには魔法が必須だけど、代わりにオリンを置いておく。
 ついいでに張り紙も置いておこうか。
 水魔法、または水分をスライムで濾過すると使えるようになります、と。

 完全に日本語だけど大丈夫だろうか?
 まぁ、翻訳機能に全部投げればいい。

 基本、自分たちで使えさえすればいいのだ。

 <コメント>
 :あっという間に一軒家が建築されてた件
 :もう、チートなんよ
 :魔法で建築か、せや!
 :※一般のマジックキャスターには真似できません
 :チィッ
 :これできるの本当にヨッちゃんだけなの? チラッチラッ
 :ところで、何属性を同時に扱ってますか?
 :あ、それ知りたい
 :二属性ならワンチャン!

「うーんまずは土。これをこねるのに水、さらに乾燥させるのに風と火。重くなっても浮かないから重力で軽くして、雷の磁力でくっつけて、最後に時空魔法で存在を固定、くらいかな? これを同時にやれるくらいじゃないと無理だと思うぞ?」

 <コメント>
 :ごめん、なんて?
 :聞いたことのない属性あるんやが
 :重力とか、時空とか何?
 :俺も聞いたことない
 :《卯保津飯男》あとで詳細を聞かせろ
 :言うなよ、ここで言うなよ? の前振りかな?
 :まぁ、情報を欲しがる奴はいるもんな
 :流石にここで教えてもらえるワケ……

「え、別にいいんじゃね? 重力魔法は水・風属性をⅠ、Ⅱ、Ⅲまで覚えた状態でⅠを熟練度マックスにすれば覚えられる。同様に重力は火・土・雷を同様にマックスにすれば覚えられるぞ!」

 <コメント>
 :ごめん、なんて?
 :よくわからなかった
 :二つか三つまでが限界だって話じゃないっけ?

「それさ、オレも最初はそうだと思ってたんだよ。けどさ、魔力と精神がAからSに上がった時に扱える属性は全部になった。オレもよくわからねぇけど、ここであの属性も使えたらって繰り出したら発動してさぁ。マジックキャスターはそこを集中してあげた方がいいと思うぜ?」

 <コメント>
 :そんな裏技があったんやなー
 :なんだろう、すごい情報なのに誰も真似できない説明渡された時のこの気持ち
 :正しく「できるもんならやってみろ!」なんだよなぁ
 :ポンちゃんも似たようなもんやろ
 :特殊個体定期
 :あれ、でもリンダ様もステータス的には条件満たしてない?
 :そうだっけ?
 :じゃあ、教えてあげた方がよくね?
 :誰か連絡先知らないのかよ
 :コミュニティでもいいから!
 :問題はステータスを満たしてても、熟練度をそこまであげてない可能性
 :まず全属性扱えたところでってのがあるからなぁ
 :その先にあるの次第だろ

「その先にあるのが建築技術。できるやつが増えてくれりゃ、オレも楽できていいんだが」

 <コメント>
 :この環境下で最適だが、これ取るための努力を考えたら普通に大工頼むわ
 :大工「悪いが、工具と材料ないと何もできねぇんだわ」
 :草
 :そりゃそうだよ
 :なお、ダンジョン内は電気も使えないから工具の使用禁止でーす
 :大工「このお話は無かったことに」
 :宮大工ならワンチャン
 :そんな人をモンスターが跋扈するダンジョンに連れて来いって?
 :土台無理な話なんだよ

「みんな難しく考えすぎなんだよな。基本的にこんなのは応用だぞ? ポンちゃんと一緒に料理したりしてるうちに応用の幅は広がったもんな。熟練度底上げに相性のいいやつ見つけて切磋琢磨すればお前らもそのうち上がるさ。何事も第一歩からっていうじゃん?」

 <コメント>
 :無理難題で草
 :当たり前なんだよなぁ
 :これが胃袋を掴まれたマジックキャスターの行きつく先か
 :まぁ、相性はあるもんね

 適当にファンガスをしばきつつ、ヨッちゃんの作った拠点で打ち上げよろしくいつもの料理をお披露目する。

 <コメント>
 :当たり前のように解体されるファンガス君
 :近づく前に死ぬのはいつみても芸術なんよ
 :普通に最上位探索者だからね、この人
 :ついつい忘れそうになるけど
 :料理しかしてないからや
 :戦闘は得意じゃない(キリッ)
 :料理できる時点でそのモンスターを処理可能だからね

 俺たちの日常は他人の非日常。
 そのギャップを楽しむのがダンチューブなのに、みんなおかしなことを言うよね。

 それはさておき、ファンガスは煮ても焼いても美味しい料理。
 レパートリーは豊富で、保存も効く。いいこと毒目の万能食材。

 ちょっと討伐難易度が高いのだけが玉に瑕。
 今回は食べる分だけ炒めて、あとは干物にした。
 熟成乾燥様々だ。

<コメント>
 :この配信見てると、常識がひっくり返されるんだ
 :何言ってんだ? 古参の時から常識を疑ってたぞ?
 :まぁ、初手からゴブリン食ってたしな
 :今は食材の価値が変わっただけ
 :価値が変わっても好んでゾンビドッグは食わない定期
 :クララちゃんがいなかったら、きっと詰んでた

 確かにそれはあるね。
 まぁ、詰んでたまでは言わないけど。
 もっと苦労してただろうことは容易に窺えるだろう。
 そんな団欒をしている時に、来客の姿があった。

「あら? ここには誰も来ていないと思ったのですが」

 緑の髪を背中で一つにまとめた少女が困ったような顔で俺たちを見ている。

「やぁ、こんにちは。迷子、にしては随分と落ち着いて見えるね。俺は本宝治洋一」

「オレは藤本要。ヨッちゃんって呼んでいいぞ」

 気さくな挨拶を交わす俺たちに、彼女は自己紹介をすべきかどうか迷って、それでもしてくれた。

「申し遅れました。私は久藤ルゥ。このダンジョンに呼ばれてやってまいりました。このこは瑠璃」

 そう言って、肩に乗ってる人形を紹介してくれた。
 不思議ちゃんなのだろうか?
 そう考えていると……

<コメント>
 :誰に向かって挨拶してるんだ?
 :わからん
 :誰かそこにいるの?
 :ねぇ、ちょっと怪奇現象とかやめてよ
 :ちょ、砂嵐がかかってるんだけど
 :え、何それ……こわっ

「カメラに映らない? 壊れたかなぁ」

 ヨッちゃんが目の前の少女がカメラ映りが悪いことを気にかけて、レンズを覗き込む。
 リスナーからの反応は駄オップやめろときっちり映り込んでいるようだ。
 ただ。緑が身の少女を写し込もうとすると、なぜか砂嵐がかかる不思議現象が起こった。

「キュ(こやつ、我らと同じ権限を持っておるぞ!)」

 オリンが警戒体制を促した。
 同じ権限、つまりは迷宮管理者か?

「何が何だかよくわかんないけど、食ってく? ちょうど食べてるところでさ」

 状況を理解できないままに、ヨッちゃんが袖擦り合うも他生の縁とばかりに食事に誘い、少女は困惑しながらも誘いに乗っていた。

 俺はちょっとだけ警戒しながら、料理を振る舞った。
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