ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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158話 ダンジョン生活生配信 4

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 コメント欄の話題は、出来の良い友達の作り方盛り上がった。確かに俺からみてもヨッちゃんの性能はおかしい。
 突出しすぎていると思うことがある。

 でも、今ほど魔法を上手に扱えていない時代も知ってるのも相まって、今のヨッちゃんは当時努力したからここまで卓越したスキルを扱えるようになった。

 その過程を無視して、同様のことができる友達が欲しいと言うのは、聞いていてあまり面白くはないな。

 だってそれはあまりにもヨッちゃんを馬鹿にしすぎてる。
 もし自分がそのように言われた場合を考えてない者の発言だ。

「どうして他人は成功者の下積み時代を無視して今の状態のみを語るんだろうね?」

 自分で努力して、その地位に就きたい人は居ないんだろうか?
 あまりにも他力本願がすぎる。
 まぁ、俺も似たようなことを思った事はある。

 ヨッちゃんのような魔法が使えれば、なんてね。
 当時は自分と全く違うスキルを持つヨッちゃんを羨ましく思ったものだ。
 けどそれが叶えば叶ったらで今の俺は居ないとも思ってる。

 あの時魔法を欲して、結局手に入らなくて自分の質を高めることに打ち込んだ俺だからヨッちゃんは誘ってくれたって思ってる。

 結局魔法は使えなかったが、料理の技術だけは上がり。
 結果、魔法使いの胃袋を掴めた。

 これが俺の生き方、人生。
 そしてこれからも、いろんな人たちと交流していく。
 そのために料理に打ち込んでいる。
 未だに飽きずにやれてるのは、人に恵まれたからだろうね。

 真っ直ぐに打ち込める環境に恵まれた。
 そう思って生きている。

「本当ですよね、何故そこで自分が努力しようって考えが浮かばないのでしょう?」

 クララちゃんも呆れた、とばかりに相槌を打つ。
 彼女もまた努力の人だからこそ、俺の言わんとしてることがわかるのだろう。
 反論するようなコメントが打ち込まれるが、殆どは「隣の芝は青い」ことわざを例えた。

 <コメント>
 :努力しても報われなかったんや
 :悲しいなぁ
 :そりゃ生まれ持ったスキルの差異で決まったからしゃーない
 :それは理由にならんやろ
 :実際に物理スキルもらったら、魔法は羨ましいしな
 :ただの無い物ねだりで草
 :そこは無いなりに考えを変えるとか
 :だってずるいじゃん

「結局自分の能力を最大限に高める努力をしたかどうかだと思うことにしたよ。俺は料理で魔法使いの胃袋を掴んだ! おかげでこうして付き合えてる。みんなも自分の得意分野を活かしてアプローチしてみたらどうかな? もしかしたら、相手にとって自分の能力を欲しいと思ってもらえるかもしれないよ?」

 <コメント>
 :正論すぐるwww
 :正論パンチやめろ
 :それができる人が一体どれほど居るのやら
 :所詮ワシらは敗北者じゃけぇ
 :勝手に敗北者にすんなし
 :なんもかんもステータス格差社会が悪い

 それはそう。俺もそれには激しく賛同する。
 しかしだ、だからと言って自分の能力を極めないのはまた違うお話である。

「なになに? なんの話?」

 そんな会話をしていれば、当事者であるヨッちゃんが大荷物を持って現れる。

「随分もらってきたねー」

「作ったスペースがめちゃくちゃ評判でな。瞬く間にオレの噂が広まって、感謝の品がこの量になった。早速で悪いけど、なんか作って!」

「なにが良い? このサイズのキハダマグロとなると刺身だけじゃ勿体無いな。肝焼き、いや、煮物も捨てがたい。けどこっちの細長い魚はどんなものができるだろう? あれこれやりたいけど、生は鮮度が命だしなー」

 ヨッちゃんが貰ってきたのは多種多様な魚。
 季節から外れたものもあれば、今は旬のものまで多様だ。

 旬のものならば刺身で。
 いや、ちょうど米もあるんだ。アレで行こう。

 まずはヨッちゃんの魔法で炊いた米を桶に入れ、米酢と砂糖を合わせて酢飯を作る。
 ここら辺の塩梅次第では、ネタの味付けで微妙に口の中で違和感も出てくるが……

 ヨッちゃんは飲兵衛だ。
 酒と合わせれば違和感にもすぐ気づくだろう。

 シャリに乗せるサイズは気持ち大きめ。
 そして厚さもネタに合わせて変えてみる。

 俺は直接この料理を口に入れたことはないが、方向性はいくつもの料理を経て見えてきている。
 握る時はシャリに力が入りすぎないように心掛ける。

「はいよ、召し上がれ」

「寿司かぁ! オレ食うの初めて」

「実は俺もない」

 <コメント>
 :ちょっwww
 :素人が手を出すのはあかんやつーー
 :ポンちゃん、いうほど素人か?
 :見様見真似ですごいもん作ってるんですが
 :普通にうまそうなんだが?

「急に食うの怖くなってきたぞ? だが、ポンちゃんなら信用できる! 男は度胸!」

 ヨッちゃんは女性なんだよなぁ。
 それをいうのは野暮だ。好きなようにやらせるのが俺たちのルール。

 そして、今回寿司にした理由は。
 一口サイズで生も煮魚も、焼き魚も堪能できる懐の深さがあるからだ。

 サラダを巻く軍艦のようなスタイルもある。
 そしてこの少量を同時に幾つも食べていくのはフレンチのオードブルにも通じる。

「合わせるお酒はお好みで」

「見たことないのもある」

「りんごのお酒?」

 シードルにクララちゃんが食いついた。
 俗にいう果実酒だ。女性向けの甘いもので、飲み口は軽い。
 しかしアルコールはしっかりあるので、飲み過ぎは厳禁である。
 特に彼女のようなアルコール初心者には入りやすい入り口であると同時に、深みにハマりやすいものでもある。
 
「ポンちゃんがオレ向けにこんな優しい酒を用意するとは思えねぇ。これはつまり、これと相性バッチリの寿司がこの中のどれかに混ざってるってことだな?」

 クララちゃんとは違い、ヨッちゃんはオ俺の仕掛けにすぐさま気がついた。

「正解。寿司ならコンパクトで色々食べ比べできるし、複数の味わいを感じられると思ってさ。もちろん他のも同様に楽しんでみてくれ」

「確かにこれならいくらでも食べられる!」

「クララちゃんもどう? ネタはいくらでもあるから。皆さんも作業を終えたら取りにきてください!」

 余所者だけで盛り上がっても仕方ないので、全員を巻き込む。
 飲酒については自己責任とした。

 ここには大人以外に子供もいる。

「私は成人したのでようやく飲めます! でもまずはこれからいただいてもよろしいですか?」

「どうぞ」

 ようやくお酒が飲める年齢になってウキウキなクララちゃん。
 ずっと飲みたそうにしてたもんね。

 けど年齢が邪魔をして、その他大勢が美味しそうに食べている様を見せつけられてきた過去が、今この時を後押ししている。
 アルコール初心者がしちゃいけない顔だ。
 そして年齢制限が外れたという免罪符を手に入れて、クララちゃんは早速食べ比べする。そしてたどり着く、最適解に。

「あ! これ鯖のお寿司と合いますね。これです、これ」

 俺とヨッちゃんは渋い顔。
 しかしそれ以外は確かめるように組み合わせを確かめて舌鼓を打った。

「ネタバレはNGだよ。探す楽しみもあるんだから。いや、今回はもういいけど」

「ごめんなさい! 見つけたことが嬉しくなっちゃって!」

 別にそれは悪いことではない。
 でも今回は彼女のためだけに用意したわけではないし、他の人の楽しみまで奪うのは違うよ、と嗜めるだけにとどめた。

「こいつは気持ち炙っても美味いな」

 ヨッちゃんは早速オリジナルチャートに入り込む。
 料理人泣かせだが、それもまた客の自由。
 店を持ったら、こういう客と嫌でもかち合うし、いい勉強だと思っておく。

「シードルと合わせるなら生がお勧め。炙るならこっちだね」

 お酒ではなく、梅を一緒に煮詰めた煎り酒を提供する。
 飲む用ではなく、醤油の代わりだ。

 鯖の繊細な味わいを醤油だと壊し過ぎてしまうからこその配慮。
 今回シードルを選んだのも、その繊細な味を壊さないための配慮だ。
 別にそこまで気にしないって人もいるけど、作る上でこだわるのが俺のやり方だしね。
 
 刷毛を塗って提供すれば、「店を出せるレベル!」と、ヨッちゃんなりの褒め言葉を受け取る。

 それに比べてクララちゃんはさっきから無言だな。
 見やれば、表情はコロコロと変えながら食事を堪能していた。

 ネタバレがNGと言ったのを気にしすぎているんだろうか?
 最初からキツく言い過ぎちゃったかな?
 と思っていたら……

「ヒック」

 これは酔っ払ってるね。
 目が座っていて、シードルを飲むペースが異様に早い。
 その分食べているんだけど、やっぱり飲むペースがおかしい。

「洋一すぁん」

「うん、なに?」

 呂律が回ってないのか、それすらも気にせずに次のセリフを待つ。
 ひたすら嫌な予感がするけど気のせいかな?
 周囲は寿司に感動しながら酒盛りまで始めてる。

 この状況に助け舟を出してくれる人はいなそうである。
 どうしたものか、と身構えていれば。

「美玲すぁんとはどこまで行ったんですか?」

「それ、聞いちゃう?」

「聞きたいれす……ヒック」

 これ、説明しても覚えてないパターンじゃないかな?
 しかしここではぐらかせば余計に疑いをかけられるのも事実、か。

「どこまでというか、一緒にお料理したり、それを食べて意見を言い合ったりはしたよ」

「それでお付き合いしたっていえるんれすか!」

 クララちゃんはグラスを強烈にテーブルに叩きつけながら語尾を強める。
 別に俺たちがどのように過ごしてようといいじゃないか。

「これが俺たちなりのお付き合いだよ。世間一般の恋人とは違うだろうけどね」

「ぶー、不満です」

 <コメント>
 :クララちゃんェ……
 :話聞いて自分の要望満たそうとしたら、それ以下の回答が来てご不満のご様子
 :俺でなくともおままごとレベルを疑うわ
 :どっちもピュアなんだよ
 :そもそも普通にお付き合いできるほど暇を持て余してないだろ
 :お互いに英雄だしねぇ
 :むしろご飯食ってるだけならよっちゃんで事足りつのでは?
 :それ!

「何か勘違いしてるようだけど、作ってるのはミィちゃんで、俺はそれを食べてアドバイスをしてる方だよ?」

「!」

 <コメント>
 :それは意外
 :美玲様、料理できたんか
 
「そりゃできるでしょ。彼女は俺と同じ特殊調理スキルを持ってるからね」

 <コメント>
 :ハリケーンミキサーって調理スキルだったんか
 :そういえばミンチ肉作ってましたね
 :あの謎肉の経緯って、そういうことだったんか

「そうだよ。俺のミンサーの上位互換が彼女のハリケーンミキサーなんだ。ちなみに範囲が凄まじいから、その戦闘力ばかりに目がいってるみたいだね。彼女の調理技術も低いのもあって、それでも大丈夫みたいだけど」

 <コメント>
 :軽くdisるのやめてもらっていいですか?
 :まぁ、料理できるようには見えないからな
 :解釈一致
 :このいいようである
 :実際に近しい間柄だから言えるんやぞ?

「誰だってはじめは素人なんだから、そこを庇う必要ある?」

「そうだぞー、覚えようって気概があるだけマシだ」

 ヨッちゃんが「自分は覚える気がないです」と言わんばかりにミィちゃんの肩を持つ。

「私だったら、もっと何かしら策は打ちますね」

「無駄なんだよなー。ポンちゃんはその全てを凌駕してくる。オレは観念して食べる担当になった。それが全てだ」

 <コメント>
 :まるで威張れるセリフじゃないんですよ
 :安定のヨッちゃん
 :でも、世界中でも同じ災害起きてるのに、こんな悠長にお話ししてていいんですか?

「あーそれね。ミィちゃんは今頃手料理を振る舞っている頃だと思うんだよね。確かにこっちに連絡は来てないけど、今の彼女はヒーローという側面だけではなく、新しい、料理人としての側面も見せてる頃だと思うんだよ」

「まじか。公衆の面前で手料理を? すげー」

「流石に私も自分の料理を食べさせられるかって考えたら緊張して手が震えてしまいそうですが」

 <コメント>
 :さすが美玲様! そこに痺れる憧れるー
 :でも、ハリケーンミキサーで作る料理ってなんなんだ?

「ユッケ」

 <コメント>
 :ああ、はい
 :草
 :それ、オレでもできそう

「さっきも言ったように、彼女のスキルは俺のミンサーの上位互換。有機物、無機物関係なく肉に置き換えることができる。確かに調理工程だけ見れば難易度は低いかもしれない。けど、それがゾンビやスケルトン、リビングアーマーを対象にした時、ミィちゃんと同じように処理することってできる?」

 <コメント>
 :あ、そういう……
 :これまじで救世主扱いされるやつや
 :まじで食糧難で、調理器具揃ってないとそれが最善になるまであるからな
 :その上でにっくきモンスターを直接食らえると
 :料理の工程数でこそポンちゃんが上回るけど
 :美玲様は今頃引っ張りだこか
 :そりゃ愛にも来れないわ
 :実際、美玲様がおインチのところとか想像できないもんな

 そうなんだよね。環境においては、ファンガスにも適用されたし、どこでも生き延びるスペック持ってるから、あんまり心配してないってのもある。
 それはそれとして、心配もしてるんだけどね。
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