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145話 クララちゃん頑張る 3
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新たな目標を胸に、私たちが次に向かったのは資材受け取りセンター。
なんとここは、ダンジョンセンターがダンジョンに取り込まれたのを察知して新たにこの日のために作り上げた組織だという。
どう考えてもこの数週間でできた作りではない。
まるでダンジョンブレイクを予測してたかのような、正確なタイミングで工事を着工してたような用意周到さに怪しさが過ぎるけど、今はそんなことを考えてる暇はない。
せっかく用意してくれたのだから、それを活用しない手はないだろう。
渡りに船だと気持ちを改めて、そこで本格的に準備を整える。
今日講習会に行って、その帰りにその場所に向かう人ってどれくらいいるんだろうか?
そんな疑問は杞憂に変わる。
そこには何名か、先の講習会で見た顔があった。
少しおとなしそうな、積極的に動く感じじゃない顔。
私だったら戦力に入れないタイプだが、守るべきものを失ったユウジは違うようだ。
「なぁ、あんた」
「あ、さっきの講習会の。君も居ても立ってもいられなくなったタイプ?」
なんのお話?
彼のギラギラした視線に少し嫌な予感を抱えて、今すぐこの会話を打ち切りたい予感に駆られる。
彼のその瞳の奥に渦巻く感情は、復讐に染められていたからだ。
多分きっと、今回の機会で下剋上を果たそうとしている。
いじめて来た相手、それか上司がダンジョンに閉じ込められてしまった。
そこで酷い目にあっていた時、差し伸べる手段を手に入れた対象はどのような手段に出るか?
火を見るより明らかである。
「すごいよね、こんな僕なんかにそんな力が秘められてるんだって! そう聞いたらワクワクしてきちゃって」
「そうだな、残してきた仲間に恥じない行動をしたいよな!」
全く違う行動指針を述べるユウジに、相手の男は訝しむような顔を浮かべる。
「え?」
「えっ」
お互いに自分の発した言葉に自信をなくし、なぜか一緒にいた私に助けを求めた。
私は頭を抱えながら、これ以上関わり合いになりたくない相手に、ズバッと彼の性格を告げた。
「悪いわね、彼ってバカなのよ」
「あぁ……」
「おい、倉持。よりによってその説明の仕方はないだろう!」
先程まで仲間意識を持って近寄ってきた対象は、その一言だけで納得した。
ユウジはその事実を黙って受け入れる気はないようだ。
「事実よ、受け入れなさい。つい先程まで店を辞めたくなくて、この仕事をシフト制にできないかって本気で迷ってたあなたが、居ても立っても居られないほどこの仕事に命をかけてる彼に対して失礼だと思わないの?」
「それを言われたら弱いな、俺が悪かったよ」
「あの、僕はそこまで命懸けってわけじゃ……」
バカを怒るついでに相手の意気を挫くことに成功した。
ヨシッ!
ここでさらに追い込むわよ。
「改めて自己紹介をさせて。私は彼が言ったように倉持クララ。元ダンジョンセンター職員よ。閉じ込められたダンジョンセンターのみんなを助けるべく行動してるわ、よろしくね」
「次は俺だな? 俺は長谷部ユウジ。ダンジョンが封鎖されたことによるモンスター食材の安定供給のために大好きな店での仕事を辞めてここにきた! よろしく頼むな!」
「あ、いや……えっと、僕はレン。高原レンだよ。君たちほど立派な志は持っちゃいないけど、よろしく。あはは」
これであとは勝手に相手は距離を取ってくれることだろう。
何せダンジョン内での活動指針が大幅に変わる。
一緒にいたら、目的を果たせないから仕方ないわね。
もしダンジョンセンターが健在だったら、彼の行動は見過ごせない物。
けど今は災害時。
そんな暗い気持ちを持つ彼でも、戦力の一つだ。
今は道を違えても構わない。
けどそれをやりきったあと、途方に暮れる彼を勧誘してもいいくらいに追い込む。
どうせ復讐。完遂したあとは暇だろう。
今は一人でも多くの仲間が欲しい時ではあるが、皆が皆、私たちの志に惹かれて行動しようとは思っていないはずだ。
むしろ私たちの方が異端なまである。
それほどまでに、虐げられてきた人たちの感情は、悪い物で渦巻いている。私だって彼の気持ちはわかる。
私を遠巻きに見ていたクラスメイトに何か言い返してやりたいと何度だって思った。
でもそれをしたとして、スッキリするのは一瞬だ。
その一瞬のためだけに人生を棒に振るのはバカのやることだと、捕まった笹峰優斗を思い出しながら自己完結した。
そんなことを考える余裕がないほど忙しかったというのもある。
気を遣って私がそんな考えに没頭しないようにしてくれたんだろう。
そう考えると、支部長には救われている。
そんな支部長の恩義に報いるためにも、ダンジョン封鎖の原因となる仕掛けを暴かなくちゃいけなかった。
案の定、私たちから距離をとったレンを見送り、私たちは受け取り用のバッグと持っていくべき商品を見定めた。
カードに記載された上限は100万ポイント。
持っていける資源にポイントがついていて、それが尽きたら決められたポイント以上の持ち出しができなくなる仕掛け。
そこで登場するのが加工品の持ち込みだ。
ダンジョン内で加工した商品に限り、その分ポイントが加味されるらしい。
よくわからない仕掛け。
けどセラヴィと契約した今ならわかる。
政府は、微力ながらも私たちにエネルギー稼ぎをさせるつもりなのだ。
まるでダンジョンができた時に探索者を増やすような姿勢で、私たちのやる気を出すべく促した。
その上で数をたくさん入れられるバッグの交換もポイント制だ。
これはマジックバックの類だから高いのは仕方ないとして、結構な大盤振る舞いだと思うのは私だけかしら?
いや、それぐらいの投資をしてでも今の現状を打破しようという心構えが見て取れる。
一体どこまでが計算か分からなくもあるが、この政策に舵を切った相手こそが本当の敵。
つまり総理大臣が敵だ。
決めつけるのは早計かもしれないけど、この用意周到さを注目しないのは無理がある。
それほどまでに今の状況を見越しているのだから。
「へーなるほどね。確かにマジックバックでもないと持ち込むのも、持って帰るのも大変だ。しかしポイント交換でさらに入るのも可能、と。こればっかりは実際に現場に行ってみないとわかんねーな」
そう言いながらレンジ対応のレトルト米を手に取るユウジ。
確かに普段お世話になる防災グッズとしては有効だろう。
だがダンジョン内は電化製品の使用が不可能。
そんなの、探索者やダンジョンセンター職員にとっては常識。
「そのお米、持っていってどうするの?」
「え、そりゃレンジでチンだろ? そんなこともわからないのか」
「そのレンジを持ち込んでる探索者がどれほどいるのかって話よ。ダンジョン内で電子機器は使用不能、常識でしょ?」
「いや、そんな常識知らんし」
呆れた。
そんな無学の徒を募って、政府は何をしたいのやら。
「ってーことは、ここにある資源のほとんどが無駄なものってことか。悪質だなぁ、ポイントを無駄にしちまう」
「それを見極めるための鑑識眼も必要なのでしょうね。想像と現実は違うわ」
「なるほど。じゃあ、一度ダンジョン災害を経験してる有識者ならどうするかをお伺いしたいね」
「そうね、私なら」
ユウジに乗せられた形ではないが、皆の注目が集まる中でダンジョンの特性を活かした素材の活用法のレクチャーを始める。
「まず最初に、持ち込むものは消費期限が長いもの。推奨されるのは缶詰でしょうが、これはNGよ」
「なんでだ? 保存食の定番だろうが」
「バカね、ダンジョン内で取り込まれるのは死体に限るのよ? モンスターの死体、それと人の死体。それ以外の無機物は取り込まれずゴミとなるの。だから武器なんかがそこら辺に落ちてるのよ。それを取り込んで掃除するのがスライムなの。ダンジョンはそうやって活動してるわ」
「なるほどなぁ」
「じゃあレトルトなんかは嬉しい反面ゴミになる可能性も秘めてるわけか」
「そういうこと。持っていってもビニールタイプかプラスチックね。魔法で燃やすことができれば、それほどゴミにはならないわ」
「問題は一酸化炭素中毒か。ゴミを燃やせば二酸化炭素が消失されるだろ? その問題点はどうする?」
「あなた、魔法のことをよく知らないのね。魔法の炎は空気中の酸素を消費しないのよ? けど燃える現象を付与する。そんな不思議な現象を総じて魔法と呼ぶの」
「つまり燃やせるものならゴミの対象になると?」
「そのために回数制の労力を避ける余裕があればだけど」
そこでマジックキャスターの得意分野のお話をする。
ユウジ以外に集まった同業者も私の蘊蓄を聞き齧りながら持っていく商品を変えていた。
マジックキャスターは全属性を扱えるわけではないこと。
魔法で水を出すことが得意な人もいれば、火を起こすのが得意な人と得意分野が異なること。
確かに複数属性操れる人もいるけど、それは限られたごく少数の中でも上澄み。
藤本さんクラスとなれば世界中を見渡してようやくだ。
なのでライターやそれを着火させるためのオイル、ペットボトルの水なんかも必要な場所は多いだろうことを告げる。
中には食材以前にモンスター肉が食べられない現実的問題を抱えてる場所もあるからだ。
それがゴーストやゴーレムしか現れないダンジョンだ。
無機物しか存在しないダンジョンを告げると、そんな場所に閉じ込められたことを考えて身を震わせる一同。
少し脅しすぎたかしら?
でも、ダンジョンがどれほど危険な場所なのかはわかってもらえたと思う。
私たちは戦闘の経験がないズブの素人だし、それこそ交渉百戦錬磨の探索者に勝てるわけもないのだから、最初は向こうの要望に応じてやるくらいでいいとその場にいた人たちに触れて回った。
相手が途方もないことでも言い出さない限り、私たちの感情を表に出すべきではない。
もしそんなことをされたら、こう言ってやればいい。
「じゃあ、もうここに来るのは辞めますね」
それだけで相手は態度を変えるはずだ。
何せ相手をされているうちが華だと嫌でも気づくからだ。
向こうはこちらに対して何もできない。
何もさせないように立ち回るのが大切であると教える。
戦えば負けるが、害すればその情報はたちまち仲間に広まり、距離を置くことが容易に想像できる。
その想像力を失った輩から破滅していくのだから。
「そこまで考えてんのなー」
「無力な一般人が横暴な探索者に対抗するための知恵よ。ダンジョンセンター職員を舐めないでちょうだいってね」
「おっかねー」
ユウジは笑うが、それ以外は自分がこれから商売する相手を見極められるか、そんな気分でいっぱいだったろう。
相手は腐っても探索者。
一般人とは隔絶した力を持つ超人なのだ。
これくらいは注意していて問題はないだろう。
なんとここは、ダンジョンセンターがダンジョンに取り込まれたのを察知して新たにこの日のために作り上げた組織だという。
どう考えてもこの数週間でできた作りではない。
まるでダンジョンブレイクを予測してたかのような、正確なタイミングで工事を着工してたような用意周到さに怪しさが過ぎるけど、今はそんなことを考えてる暇はない。
せっかく用意してくれたのだから、それを活用しない手はないだろう。
渡りに船だと気持ちを改めて、そこで本格的に準備を整える。
今日講習会に行って、その帰りにその場所に向かう人ってどれくらいいるんだろうか?
そんな疑問は杞憂に変わる。
そこには何名か、先の講習会で見た顔があった。
少しおとなしそうな、積極的に動く感じじゃない顔。
私だったら戦力に入れないタイプだが、守るべきものを失ったユウジは違うようだ。
「なぁ、あんた」
「あ、さっきの講習会の。君も居ても立ってもいられなくなったタイプ?」
なんのお話?
彼のギラギラした視線に少し嫌な予感を抱えて、今すぐこの会話を打ち切りたい予感に駆られる。
彼のその瞳の奥に渦巻く感情は、復讐に染められていたからだ。
多分きっと、今回の機会で下剋上を果たそうとしている。
いじめて来た相手、それか上司がダンジョンに閉じ込められてしまった。
そこで酷い目にあっていた時、差し伸べる手段を手に入れた対象はどのような手段に出るか?
火を見るより明らかである。
「すごいよね、こんな僕なんかにそんな力が秘められてるんだって! そう聞いたらワクワクしてきちゃって」
「そうだな、残してきた仲間に恥じない行動をしたいよな!」
全く違う行動指針を述べるユウジに、相手の男は訝しむような顔を浮かべる。
「え?」
「えっ」
お互いに自分の発した言葉に自信をなくし、なぜか一緒にいた私に助けを求めた。
私は頭を抱えながら、これ以上関わり合いになりたくない相手に、ズバッと彼の性格を告げた。
「悪いわね、彼ってバカなのよ」
「あぁ……」
「おい、倉持。よりによってその説明の仕方はないだろう!」
先程まで仲間意識を持って近寄ってきた対象は、その一言だけで納得した。
ユウジはその事実を黙って受け入れる気はないようだ。
「事実よ、受け入れなさい。つい先程まで店を辞めたくなくて、この仕事をシフト制にできないかって本気で迷ってたあなたが、居ても立っても居られないほどこの仕事に命をかけてる彼に対して失礼だと思わないの?」
「それを言われたら弱いな、俺が悪かったよ」
「あの、僕はそこまで命懸けってわけじゃ……」
バカを怒るついでに相手の意気を挫くことに成功した。
ヨシッ!
ここでさらに追い込むわよ。
「改めて自己紹介をさせて。私は彼が言ったように倉持クララ。元ダンジョンセンター職員よ。閉じ込められたダンジョンセンターのみんなを助けるべく行動してるわ、よろしくね」
「次は俺だな? 俺は長谷部ユウジ。ダンジョンが封鎖されたことによるモンスター食材の安定供給のために大好きな店での仕事を辞めてここにきた! よろしく頼むな!」
「あ、いや……えっと、僕はレン。高原レンだよ。君たちほど立派な志は持っちゃいないけど、よろしく。あはは」
これであとは勝手に相手は距離を取ってくれることだろう。
何せダンジョン内での活動指針が大幅に変わる。
一緒にいたら、目的を果たせないから仕方ないわね。
もしダンジョンセンターが健在だったら、彼の行動は見過ごせない物。
けど今は災害時。
そんな暗い気持ちを持つ彼でも、戦力の一つだ。
今は道を違えても構わない。
けどそれをやりきったあと、途方に暮れる彼を勧誘してもいいくらいに追い込む。
どうせ復讐。完遂したあとは暇だろう。
今は一人でも多くの仲間が欲しい時ではあるが、皆が皆、私たちの志に惹かれて行動しようとは思っていないはずだ。
むしろ私たちの方が異端なまである。
それほどまでに、虐げられてきた人たちの感情は、悪い物で渦巻いている。私だって彼の気持ちはわかる。
私を遠巻きに見ていたクラスメイトに何か言い返してやりたいと何度だって思った。
でもそれをしたとして、スッキリするのは一瞬だ。
その一瞬のためだけに人生を棒に振るのはバカのやることだと、捕まった笹峰優斗を思い出しながら自己完結した。
そんなことを考える余裕がないほど忙しかったというのもある。
気を遣って私がそんな考えに没頭しないようにしてくれたんだろう。
そう考えると、支部長には救われている。
そんな支部長の恩義に報いるためにも、ダンジョン封鎖の原因となる仕掛けを暴かなくちゃいけなかった。
案の定、私たちから距離をとったレンを見送り、私たちは受け取り用のバッグと持っていくべき商品を見定めた。
カードに記載された上限は100万ポイント。
持っていける資源にポイントがついていて、それが尽きたら決められたポイント以上の持ち出しができなくなる仕掛け。
そこで登場するのが加工品の持ち込みだ。
ダンジョン内で加工した商品に限り、その分ポイントが加味されるらしい。
よくわからない仕掛け。
けどセラヴィと契約した今ならわかる。
政府は、微力ながらも私たちにエネルギー稼ぎをさせるつもりなのだ。
まるでダンジョンができた時に探索者を増やすような姿勢で、私たちのやる気を出すべく促した。
その上で数をたくさん入れられるバッグの交換もポイント制だ。
これはマジックバックの類だから高いのは仕方ないとして、結構な大盤振る舞いだと思うのは私だけかしら?
いや、それぐらいの投資をしてでも今の現状を打破しようという心構えが見て取れる。
一体どこまでが計算か分からなくもあるが、この政策に舵を切った相手こそが本当の敵。
つまり総理大臣が敵だ。
決めつけるのは早計かもしれないけど、この用意周到さを注目しないのは無理がある。
それほどまでに今の状況を見越しているのだから。
「へーなるほどね。確かにマジックバックでもないと持ち込むのも、持って帰るのも大変だ。しかしポイント交換でさらに入るのも可能、と。こればっかりは実際に現場に行ってみないとわかんねーな」
そう言いながらレンジ対応のレトルト米を手に取るユウジ。
確かに普段お世話になる防災グッズとしては有効だろう。
だがダンジョン内は電化製品の使用が不可能。
そんなの、探索者やダンジョンセンター職員にとっては常識。
「そのお米、持っていってどうするの?」
「え、そりゃレンジでチンだろ? そんなこともわからないのか」
「そのレンジを持ち込んでる探索者がどれほどいるのかって話よ。ダンジョン内で電子機器は使用不能、常識でしょ?」
「いや、そんな常識知らんし」
呆れた。
そんな無学の徒を募って、政府は何をしたいのやら。
「ってーことは、ここにある資源のほとんどが無駄なものってことか。悪質だなぁ、ポイントを無駄にしちまう」
「それを見極めるための鑑識眼も必要なのでしょうね。想像と現実は違うわ」
「なるほど。じゃあ、一度ダンジョン災害を経験してる有識者ならどうするかをお伺いしたいね」
「そうね、私なら」
ユウジに乗せられた形ではないが、皆の注目が集まる中でダンジョンの特性を活かした素材の活用法のレクチャーを始める。
「まず最初に、持ち込むものは消費期限が長いもの。推奨されるのは缶詰でしょうが、これはNGよ」
「なんでだ? 保存食の定番だろうが」
「バカね、ダンジョン内で取り込まれるのは死体に限るのよ? モンスターの死体、それと人の死体。それ以外の無機物は取り込まれずゴミとなるの。だから武器なんかがそこら辺に落ちてるのよ。それを取り込んで掃除するのがスライムなの。ダンジョンはそうやって活動してるわ」
「なるほどなぁ」
「じゃあレトルトなんかは嬉しい反面ゴミになる可能性も秘めてるわけか」
「そういうこと。持っていってもビニールタイプかプラスチックね。魔法で燃やすことができれば、それほどゴミにはならないわ」
「問題は一酸化炭素中毒か。ゴミを燃やせば二酸化炭素が消失されるだろ? その問題点はどうする?」
「あなた、魔法のことをよく知らないのね。魔法の炎は空気中の酸素を消費しないのよ? けど燃える現象を付与する。そんな不思議な現象を総じて魔法と呼ぶの」
「つまり燃やせるものならゴミの対象になると?」
「そのために回数制の労力を避ける余裕があればだけど」
そこでマジックキャスターの得意分野のお話をする。
ユウジ以外に集まった同業者も私の蘊蓄を聞き齧りながら持っていく商品を変えていた。
マジックキャスターは全属性を扱えるわけではないこと。
魔法で水を出すことが得意な人もいれば、火を起こすのが得意な人と得意分野が異なること。
確かに複数属性操れる人もいるけど、それは限られたごく少数の中でも上澄み。
藤本さんクラスとなれば世界中を見渡してようやくだ。
なのでライターやそれを着火させるためのオイル、ペットボトルの水なんかも必要な場所は多いだろうことを告げる。
中には食材以前にモンスター肉が食べられない現実的問題を抱えてる場所もあるからだ。
それがゴーストやゴーレムしか現れないダンジョンだ。
無機物しか存在しないダンジョンを告げると、そんな場所に閉じ込められたことを考えて身を震わせる一同。
少し脅しすぎたかしら?
でも、ダンジョンがどれほど危険な場所なのかはわかってもらえたと思う。
私たちは戦闘の経験がないズブの素人だし、それこそ交渉百戦錬磨の探索者に勝てるわけもないのだから、最初は向こうの要望に応じてやるくらいでいいとその場にいた人たちに触れて回った。
相手が途方もないことでも言い出さない限り、私たちの感情を表に出すべきではない。
もしそんなことをされたら、こう言ってやればいい。
「じゃあ、もうここに来るのは辞めますね」
それだけで相手は態度を変えるはずだ。
何せ相手をされているうちが華だと嫌でも気づくからだ。
向こうはこちらに対して何もできない。
何もさせないように立ち回るのが大切であると教える。
戦えば負けるが、害すればその情報はたちまち仲間に広まり、距離を置くことが容易に想像できる。
その想像力を失った輩から破滅していくのだから。
「そこまで考えてんのなー」
「無力な一般人が横暴な探索者に対抗するための知恵よ。ダンジョンセンター職員を舐めないでちょうだいってね」
「おっかねー」
ユウジは笑うが、それ以外は自分がこれから商売する相手を見極められるか、そんな気分でいっぱいだったろう。
相手は腐っても探索者。
一般人とは隔絶した力を持つ超人なのだ。
これくらいは注意していて問題はないだろう。
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