ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
143 / 173

143話 ダンジョン封鎖計画 9

しおりを挟む
 オリンを介してのダンジョン内都市計画は緩やかに始まった。

「いやぁ、血抜きしてもらうだけで随分と助かるよ。ああいうのって技術云々以上に、洗い流すのに魔法を無駄に使うからな」

 資源が定められてるから、無駄使いができない。
 水は純粋に貴重であるのと同時、限られた水源により洗濯は最終手段。
 洗顔に至ってはそれよりも後。

 衛生を後回しにしなきゃいけないのは現代人にとって相当きついが、今はそれよりも大切にすることがたくさんあった。

 個人の贅沢などはいってられない状態だ。
 皆が皆、生きるための我慢を強いられている。

 解体なんかは特に意見が分かれる。

 皆が皆、解体の知識を持ってるわけではないし、ダンジョンセンター任せの探索者も多かっただろう。
 ただでさえ慣れない血抜き、ほとんどの人が返り血を浴び、服を汚している。
 それを洗い流そうにも、水は命を繋ぐのに優先してとっておきたい。
 特に魔法は回数が決められてるのもあり、無駄遣いはできない状況だ。
 
 そこに登場したオリン。

 水分を一切使わず、綺麗に血抜き。
 または労力を使わずゴミを処理してくれる。
 正に喉から手が出るほど欲しい逸材。

 特にモンスター肉は血が臭みの原因となることが多い。
 完璧な下処理や熟成なんかを使えば血も上手く食うことができるが、そういうのは時間や食料に余裕がある人だけの特権。

 明日生きていくのに不安な生活を送ってる人たちにとっては逆効果の技術だった。
 その日の食事はその日獲った獲物で賄う。
 そう、暗黙のルールができつつある。

 働かざる者食うべからず。
 特に好き好んで探索者になった人たちにとって、それは当たり前のことだった。

「その他に、この子は純水を蓄えておくこともできる。それと、俺たちとの物々交換の案内もしてくれるようになるぞ」

「すると、加工食材の交換なんかも?」

「それは流石に元となる食材次第だし、100%還元は難しい。けど、珍しい素材があったら俺たちも嬉しいから、色はつける。あんまり多くは期待しないでくれ。その代わり、食材の交換は受け付けるぞ。要望を書いた紙と一緒に入れてくれれば、なるべく要望に沿ったようにしたいけど」

「そこまで上手い話はないかー」

「そこはケースバイケースってやつだな。俺たちが欲しい代物なら、手持ちを総動員する可能性もある」

「またその逆も然りってことか」

「そういうこと。わかってんじゃん」

 ヨッちゃんが交渉に割って入ってくる。
 外との連絡係が来ている以上、俺たちが施しすぎて楽を覚えさせてもな。

 俺も可能な限り援助はするが、好物の面倒までは見てられない。
 それこそ、欲しいものを得るための頑張りを邪魔しかねない。

 人が頑張る時ってのは、何かしら欲しいものがある時ってのは経験から学んでいる。
 総合ステが低い人なら尚更だろう。

 探索者だったらランクだったり、地位だったり。
 お金は、外に出れない以上持ってても仕方ないものではあるが。

 ダンジョンデリバリーサービスが、何を対価にして活動してるか不明瞭だし、それに備えて持っておく人は多そうだ。

 そもそも、ダンジョンセンターに預けてる人がほとんどで、ダンジョンセンターが閉鎖してる今、外に出ても引き出せないのだが。

 そういうのは外に出てから考えればいいかな?

 
 俺たちは行ける範囲の各ダンジョンにオリンの分体を置いてまわり、交渉をした。

 俺も各地のダンジョン素材を一度に入手できるし、なんだったらそれらで作った加工物を物々交換の商品にできる。

 今の有力候補はお湯を注ぐだけで食べる、飲むことができるインスタント飯。
 熟成乾燥(強)で水分を抜き取って旨みを増幅させる機能を見つけたからな。
 それを施して模倣インスタントラーメンを作った見たところ、意外とウケが良かった。

 問題はそれらを入れる容器となったが、それらは食事処-鮮焼-提供でなんとか凌いだ。

 やりくりする上での情報はメモ帳とペンで解する。
 交換日記のようなものだ。
 各ダンジョンの要望を、こっちのできる限りで叶える。
 全ては無理だが、叶えられる限りはやるつもりだ。

 特に食い物に関して妥協するつもりはなかった。
 むしろ俺がしたくてしてるのもあり、向こうも食事の質が上がるんならと大喜びだ。
 
 どうしても作りたての食事は冷めると旨味が大幅に下がるからな。
 それに日持ちがしない。
 一度に回れるダンジョンに限りがある場合、インスタント食料の入手は必要不可欠だった。

 ヨッちゃんの教えで、初級水魔法『ウォーターボール』の派生スキル『ホットボール』と『アイスボール』は普及しつつある。
 
 これらは任意で内容物を温めたり冷やしたりできる、いわば熱燗、ぬる燗、お冷の選択肢を与えるもので。
 お酒なんて贅沢品は扱えないが、いつでも温かい食事が取れるのが何よりも励みとなるのだ。

 それと並行して、携帯できる味編調味料なんかの制作もすすめていく。
 調味料、と言っても肉を漬け込んでおくだけでいつもより美味しく食べられるというものだ。

 感覚的には焼肉のたれに近い。
 それに合うモンスター肉と合わないモンスター肉を分布していく。

「ポンちゃん、Fランク専用調味料、爆売れだったぜ?」

 さっそく、売り子をしに行ったヨッちゃんが好評だったことを教えてくれる。
 あと爆売れ、という表現はあまりよろしくないな。
 物々交換できる素材のほとんどはモンスター肉。
 相手にとって都合のいい交換なので、そりゃ皆がこぞって寄ってくるのは当たり前だ。

 これがAランクのオーク肉となったら話は変わってくるだろう。

「ゴブリン肉は見た目こそ不衛生だけど、ある程度筋を切ってよく煮込めば鶏肉に近い味わいになるからな。味はまぁ……調味料次第か。この調味料の組み合わせなら、そこそこ上手く食えると思ったが、どうやら当たりだったようだな」

 もちろん売り込む際、パフォーマンスなどもする。
 そのダンジョンで調理担当の人をこまねいて実践し、調理するのだ。
 ゴブリン肉に抵抗のあった人たちは最初こそ奇妙なものを見る目で、しかし料理が完成する頃には匂いに釣られてお腹を空かせていた。

 あとは飛ぶように売れたというわけである。
 俺は調理n忙しかったので詳しく知らないが、ヨッちゃんの顔を見るに成果は上々と言ったところか。

「例の旨辛鍋の味付けだったな。あともう一個、スライムの味変ピューレの売れ行きも良かったぜ」

「ああ、そっちも売れたんだ?」

 味変ピューレ、ただの果実の絞り汁なんだけど、ないよりはマシかなって程度。
 実際に俺みたいにマテリアル隠し包丁の使い手が少ないのを考慮して、あの独特の癖を気にせず口にできる味わいに設定した。

 こんなところで引き算の料理が役に立つとは思わなかった。
 菊池さんや越智間さんの得意分野。

 アルコールと料理を合わせることで劇的に上手くなるアレだ。
 あれを今回スライムに合わせて調整したのである。

 果汁なんかは各地のダンジョンで入手できるので、こればかりは俺だけの力というわけではないが。
 そうか、気に入ってくれたんなら俺としても嬉しい。

「やっぱり底辺からテコ入れをしてったのは元々同じ境遇だったからっていうのもあんのか?」

「んー、そういうのもあるけど。でもなんだかんだ言ってもさ」

 ──熟練度が圧倒的に足りない。

 そのことを示せばヨッちゃんは「あー」と納得した。

 熟練度、経験値。
 それらは生きる術として何よりも優先される。

 モンスターを倒すのに必要なのはステータスだと言って憚らない人たちもいるが、そのステータスばかりが高くても戦闘経験がなく、非常時にまるで役に立たない人を俺たちは見てきた。

 逆に戦う術さえ知っていれば、逃げ方や生き残る手段の経験も積んでいる。
 上位ランクに上がれる人っていうのは、そういう素質を持っている。

 特にこのランク制。
 Cに上がるのだって人脈が必要だ。
 その上にいる人たちが、力だけでのし上がってきたなんて思わない。

 何かしらの統率力、観察眼。
 そして経験をしてきている。

 けど、Fに存在するのは圧倒的経験不足。
 未来ある若者といえば聞こえはいいが、何も知らないひよこと同義。

 ステータスこそ高くとも、戦闘経験皆無の烏合の衆。
 統制も取れなければ、我欲の強い連中ばかり。

 俺たちも人の言うことを黙って聞くような手合いじゃなかったしなぁ。
 そう考えると、ダンジョンセンターには世話になりっぱなしだった。

 なので今は、あの時世話になった恩義をこういう形で返している。
 ダンジョンセンターに見えないところでの活動だが、クララちゃんなら気がついてくれるだろう。

 卯保津さんとはあれから一切連絡が取れなくなった。
 今どこで何をしているのか、俺たちにはわからないことばかりだった。
しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...