ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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142話 ダンジョン封鎖計画 8

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 封鎖されたダンジョン内に、新しい人の流れが生まれた。
 それが加工スキル持ちのデリバリーサービスだ。

 最初こそ不慣れなその配達人は、少しづつ我欲を見せつけ始める。
 
 正規の値段から、上前を跳ねるために中抜きを始めたようだ。
 そんな話を、新しく開拓したダンジョンで見聞した。

 ヨッちゃんは相変わらずダンジョンから出られないが、移動制限は解除されてF~Sまで行きたい放題。
 俺はそれに加えて外にもいける。

 いいことづくめのようにも見えるが、それはそれで問題もある。

 外での情報は、基本的に菊池さん経由になるのでだいぶ偏ったものになるが、お米や素材、調理器具なんか融通してもらってる手前あまり文句も言えなかった。

 それこそ出歩くとなれば、報道陣に取り囲まれるのが目に見える。
 それが嫌でダンジョンに篭ってる俺たちは、表立って行動できなくなっている。

 それこそ、出入りできるなら英雄としての振る舞いを求められるだろうし。
 あれは疲れるから嫌なんだよね。
 中途半端に探索者ランクを上げたツケが回ってきた感じ。

 おかげで地方への観光が絶望的になってしまった。
 これだったらミィちゃんの件は後回しにして先に全国回っておくんだった。

『別にそう悲観せんでもダンジョン内の境界線が全て繋がってる現状、行くのは容易いぞ?』

 今までずっと音信不通だったオリンとの念話がようやく繋がる。

『意識だけはあったのじゃが、お主に声を届けられんかった。ようやく一番殿の調整が終わったんじゃろうな。これからは共に歩めるぞ』

 嬉しそうに肩の上で跳ねるオリン、もといドールのスライム。

 ドールとのリンクを強制的に解除させられていたようだ。
 そう言えばジュリは?

『妾が常日頃から頭痛の種と言っとるように、それは一番殿にとっても同様じゃ』

 問題児だから調整に時間がかかる?

『未公開ダンジョンの洗い出しに手間取っておるようじゃの』

 ああ、うん。
 エネルギー不足で作ったはいいものの、途中で飽きた不良債権が三桁あるからね。

 公開して繋げようにも他のリソースを食いかねない危険エリアだ。
 あとで回ってエネルギーを満たそうと思ってたけど、その前にダンジョン封鎖されちゃったからな。

『一番殿の狙いはそれだけではないがの。あの方はどうも創世者様を囮にして、迎えにきた同族を迎撃するおつもりじゃ』

 うん、急に話がきな臭くなってきたぞ?
 その創世者様はエネルギーが貯まれば母性にお帰りになるって話じゃなかったの?

『そうじゃの。概ねはそうじゃ。じゃが、一番殿の契約者はそうは思わんかったのじゃろうな。それはきっと先遣隊で、この星を植民地にするのが狙いじゃないか? と思ったようじゃ。なまじダンジョンを植え付けた時点でそうとられても仕方のないことをしておるからの』

 ああ、じゃああの人の狙いは最初から世界征服でもなんでもなく……

『むしろこの星を別惑星の侵略者から守るための行いじゃろうな。そう思い込んで行動しとるみたいじゃ。妾は創世者様からそのようなことは聞いておらぬが』

 まぁ、わからなくもないか。
 一度目のダンジョンブレイクの被害でこの世界のほとんどの人々が亡くなった。

 そしてダンジョンブレイクは災害のように恐れられて、人々に生き抜く力を植え付けるために総合ステータスでカースト制度を作った。
 それによって守られた世界。
 
 人々はステータスを底上げするため、適合するモンスター食材と適合調理でそれに備えた。
 
 そう考えると一応辻褄は合うな。
 納得はできないが。

 おかげで迫害されたけど、それですらあの人の中ではまだ温情だったと。

 ありえない妄想の果て、来るはずのない侵略者に怯えて、計画は最終フェーズに入った。

 それで、あの人はなんでまたダンジョンの封鎖なんてしたんだ?

『それはわからぬが、戦力の温存じゃろうな』

 歩いてみて回った限り、そのアテにしてる戦力は疲弊していってるんだけど?

『それこそ篩じゃろう。この程度の困難に乗り越えられないようでは、先の戦いで生き残れないと』

 ただの妄想に俺たちを巻き込まないで欲しいんだが。

『実際、妾も一番殿に説得されてようやく解放されたからの』

 表向きは協力者として現状に甘んじろってことか?

『そうではない。協力者としてってのは当たっておるが、向こうの指示に従うとまでは言っておらん。こういうてはなんじゃが、妾の直属の上司はジュリ殿じゃからの。一番殿は先輩ではあるが、妾に命令する権利はないのじゃ。そもそも管轄が違うしのぅ』

 よくわからないが、この状況を受け入れこそするが命令に従うつもりはないそうだ。
 となれば、直属の部下となってる加工スキル持ちは?

『契約者殿の子飼いと見て間違いないじゃろう。そこまで権利は持たされておらんが、今後どのように動くか動向を探っておこう』

 悪いな、助かる。
 
『任せておけ!』

 ぴょんぴょんとはねるスライムドール。
 懐かしいな。
 オリンが俺のテイムモンスターとして一緒に行動し始めた時の感覚が蘇る。

 そう言えば、オリン。

『なんじゃ?』

 ダンジョン内でなら、ドールを何体まで自由に動かせる?

『うーぬ、難しい質問じゃの。具体的に申さぬか』

 オリンのドールは同時に何体まで動かせる?

『愚問じゃの。監視も含めて各ダンジョンに一匹は設置しておる』

 なら、話は早い。
 少し頼まれてくれないか?

『ひたすら嫌な予感がするが、話してみよ』

 俺は、遭難者専用のゴミ吸収、血抜き専用スライムになってくれないか提案してみた。

 条件に、エネルギーを好きなだけ与える。
 そういう契約を結ぶ。

 ダンジョンが全て繋がった現状、どこかで過剰に使えば、どこかで破綻しかねない。
 ジュリの管轄ダンジョンが即座に繋がらない理由もそこだろう。

 リソースを回収したいのに、むしろリソースが枯渇している。
 公開しようにも旨みが一切ない上、ジュリの記憶も曖昧ときている。
 ここにきてジュリの適当さが相手に思わぬ打撃を与えていた。

 相手の狙いが判明するまでは俺たちも派手に動けないが、ダンジョン側から漂流者に協力する存在が現れれば、少しは住みやすくなるだろう。

 それに、俺たちはいつも通り、飯を作って食うだけでいいしな。
 食材が即座に揃わないのだけが難点だが、むしろ今回の提案はそれらの先行投資になる。

 ダンジョンでの暮らしは何に置いてもゴミ問題がつきまとう。

 ダンジョンモンスターの死骸はダンジョンに取り込まれるが、加工物は打ち捨てられたまま。
 そういうのを掃除するのが本来のスライムの役割なんだが、迷宮管理者の計略によってはそれを怠る手合いも多い。

 ゴロウは命令権を首輪で剥奪されて人類に都合のいいダンジョンにされてたので、リポップするのはオークのみになっていたし。
 ダンジョンを運営する意識は低かったんだろうな。

 その呪いの首輪の出所も、あの人だっていうし。
 相当前からこうすることを決めていたのは確かだろう。

 そうなると、あの船上パーティですら仕掛けの一つか。
 むしろ俺たち反乱分子の戦力を集めてる隙に実行したまである。
 
 どれだけ用意周到なんだろう。
 むしろ自分の意見が絶対正しいと信じてる分、非常に厄介である。

 それに付け加えて、俺とミィちゃんの攻撃は一切通用しなかった。
 唯一のイレギュラーであるヨッちゃんは、今日ものほほんとしながら俺の焼いた串肉を頬張っては幸せそうな顔を浮かべていた。
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