ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
141 / 173

141話 ダンジョン封鎖計画 7

しおりを挟む
「へぇ、最近はそういうのができたんですねー」

 ダンジョンデリバリーサービス。

 おそらく政府から声をかけられた加工スキル持ちが、ダンジョンに閉じ込められた探索者相手に出入り業者の真似事をするシステムだろう。

「そうそう、だからポンちゃんも定期的にこっちに立ち寄んなくても大丈夫になってさ」

「別に狙ってこっちに来れるわけじゃないですよ? 偶然ですよ、偶然」

 その偶然が週に一度のスパンで続いただけのことだ。
 だから狙ってこっちに来れるのを向こうも勘付いてるんだろうけど。

 ここはかつて富井ミートさんが管理していたAランクダンジョン。

 オークの牧場があった場所だ。
 富井さんが管轄から離れた後、一般開放されて今ではこうやって俺もオーク肉を調達しにきているんだ。

 そんなわけでここのダンジョンの人たちとは結構顔を合わせてることになっていた。

「そうなんだけどさ。ポンちゃんは気にしいだからさ。どこかで気にしちゃうじゃん? ま、俺たちもそれにあやかってたところはあるんだけどさ。もう大丈夫だから」

 そう言って、ここのダンジョンで暮らすことになった門川さんは不器用なりに仕上げた工作品を見せてくれた。
 それはダンジョン素材を切って貼って作り上げた何かだった。
 削り出した石に金属の何かを当てはめた、無骨な指輪……のような何かである。

 あいにくと俺は芸術には詳しくないのでそれを正しく評価できないが、割とよくできていると思う。

「でもこれで、何か変わるのか? デリバリーは物々交換が主体なんだろ?」

 ヨッちゃんが無骨な指輪を持ち上げて不躾な質問をする。
 あ、俺が敢えて聞かないようにしてたことをわざわざ指摘するなよ。

「ぐっ、確かにこれは出来が悪いかもしれないが、でも何もしてないヨリはいい。それに、ただここで死を待つより、暇つぶしにもなるんだ」

 門川さんは苦悶に満ちた表情をする。
 でも、何かに打ち込めるのがあるだけで気が晴れるというのはわかる気がした。

「わかります。俺も辛い時、打ち込める仕事の有無で乗り越えることができました」

「そっかー、オレは打ち込める仕事が皆無だったから、酒にばっかり逃げてたなー」

 おい、元ダンジョンセンター職員。
 とは言うが、彼女は自分の苦労話をあんまりしたがらないからね。
 今が楽しければいい、そう言う前向きな性格に俺もよく助けられてきたっけ。
 これは彼女なりの励ましなのだ。

「と、冗談はさておき、俺たちも何か手伝えることがあれば教えてくれ」

「いいのかい? こっちの都合なのに。とは言ってもポンちゃんに料理以外で頼むことなんて……モンスターの討伐はこっちの戦力で足りるしなー」

 戦力的に過剰。料理以外で困ってることなんてないと言っているが、実際問題衣食住は最重要課題なのはみて取れる。
 ヨッちゃんの魔法でトイレやシャワー室は作ったが、まだまだプライベートの空間はない。

「俺は確かに料理人だが、料理だけしておしまいってわけじゃない。こういう一見無駄なことだって、何かの役に立ち場合もあるんだ。俺にもやらせてほしい」

「そうだな、今はまだ無駄だと思うかもしれないが、その活用法を見出すのも俺たち次第か」

「そうそう。俺たちは好き好んでダンジョンで暮らしてるが、みんながみんなそうじゃない。早く帰りたい人だっている。けどここで諦めないためにも……」

「何か仕事を見つけるのも大切ってことか。敵わないなぁ」

「ほしいものがあるうちは、仕事なんていくらでもあるでしょう。まずは環境の整備から。そのためには時間はいくらあっても足りないはずです」

「そうだな。俺のこいつも、少しくらい政府に高値で買ってもらって、こっちの要望を通しやすくしないとだ」

「その意気です。俺も微力ながら協力しますよ」

 そう言って、慣れない仕事に向き合う。
 俺も何かしら見よう見まねで作業する。

「なー、ポンちゃん。オレもなんか手伝うか?」

 ただ一人、さっきの会話を聞いてなかったのか。
 ヨッちゃんが暇そうな顔をして俺の作業に目を向けた。

「うーん、そうだな。じゃあこれくらいの水を頼む」

「オッケー」

 ちゃぽんと出された水たまり。
 そこに泥だらけの草を放り込んで水洗い。
 じゃぶじゃぶ洗ってる場所をジロジロ見られながら、スキルの包丁を取り出した。

「それは何してんの?」

「んー? これは編んで紐にならないかなって。引っ張ってみた感じ、結構頑丈だったからさ。あるものだけでなんとかならないかって思った」

「ふーん」

「最悪、命綱になれば御の字」

「オレは空飛べるから」

「俺は飛べないんだよなぁ……」

 お互いに得意分野が違うからね。
 それは今更だけど。

「と、出来た」

「紐だなぁ」

「紐でも、この頑丈さはどこかで何かに使えるでしょ」

「例えばどこで?」

「うーん? チャーシューを縛るのに、凧糸が見つからない時の代わり?」

「いいねー、それ食べたい!」

 いや、用途を聞かれたから答えたけど、今すぐ作るなんて言ってないからな?

「オーク狩ってきたぞー! 飯にしようぜー」

「ほら、ちょうど飯時だしチャーシュー! 焼豚!」

「なんだかなぁ」

 そのままなし崩し的に、チャーシューを作ることになった。

「本宝治さんも一品作ってくれるんですか? 助かります」

「悪いね、うちの相棒がチャーシューが食いたいって駄々こねちゃって」

 オークの肩ロース肉を少しもらい、そいつを塩、胡椒で味付け。よく揉み込んだら、さっきの紐で縛って鉄板の上で焼き色をつける。
 
 オーク肉は巨大なので、煮込むとなったらフライパンという選択肢はない。
 大きめの寸銅鍋を用意して、そこにヨッちゃんに水を用意してもらい、ひたひたに浸かるまで流し込み、火にかける。

 そこにヴァンパイア醤油、巨大タコから加工した生姜をすりおろして入れ、市販のハチミツと、富井さんからもらった日本酒を熟成乾燥させたお酒を注ぐ。

 こいつをアク抜きしながら数時間煮込めば、いい感じの香りがしてくる。
 
「あー、腹の減る匂い」

「白飯が欲しくなるなぁ」

「残念ながらストックはないぞ」

「くそー、絶対うまいって確信があるのにこの食糧難だよ!」

「なので、こういう食い方をお勧めする」

 取り出したのは小麦粉……のような粉末。
 これはこのダンジョンに生息している植物の根っこを煎じていたところ、粘り気を持ち始めたので熟成乾燥を施し、粉末状にしてストックしているものだった。

 これを水で解き、熱々の鉄板の上でシート状にする。
 原理としては春巻きの皮に近いな。
 ライスペーパーほど、薄くはない。

「へぇ、それをクレープみたいに巻いて食うのか」

「味まで小麦粉ってわけじゃないが、手を汚さず食うのにゃこういう工夫が必要だ。コメがありゃ最高なのは俺もわかってるんだがな」

 早速出来上がったのを配る。
 俺が仕上げて、ヨッちゃんが分配だ。

「うめー」

「生きててよかった!」

「こっちの生姜焼きもうまいぞ!」

「くそー、ラインナップのどれもがご飯と相性が良過ぎる!」

「豚肉はそれだけご飯のお供としてやってきてるからな」

 別にそれだけが正解だとは言わないが、ご飯がベストと思うのは日本人ならではだろう。

「ポンちゃん、なんとかご飯持ってこれねぇか?」

「それこそ政府のダンジョンデリバリーに頼むしかないな。物さえあれば俺もなんとかしたいが、モノがないんじゃどうしようもないし」

「まじかー」

 ヨッちゃんにこう言ったが、今の俺たちの手持ちは僅かだ。
 ダンジョンを出入りできる関係上、持ち込む分には可能だが、それはずっと面倒を見る場合に限る。

 政府側がどのような対処をとってくるかまだ分からない以上、こちらの切り札を切るのはあまり良くないと思うのだ。

 ここでは同じ遭難者としての対応が求められてる。
 もしここで俺たちが、ダンジョンデリバリーと同様の仕事ができたとして。

 彼らだけを優遇するのは違うと思うんだよなぁ。
 北海道のダンジョンブレイクでもそうだったが、一度始めたら他のところにも同様にしなきゃいけなくなる。

 俺が始めたら、それにヨッちゃんを巻き込む形になるし。
 それは彼女本人も望んで無いだろう。

「ま、米に変わるものが早く見つかればいいな! もし見つかったらオレに教えて。勿論人力炊飯器としてすぐに炊き上げてやんよ!」

「それは心強いな。ダンジョン内で家電は使えないから」

 ここはまだ食材で困ることはない。
 ヨッちゃんは自分にできることを提示しながら、何も無いなら無いなりに自分の価値を知らしめた。

 みんながナイナイ尽くしで困ってる中、自分のできることを宣言するのは誰にだってできることじゃない。

 俺が料理をできることは周知の事実だが、ヨッちゃんのようなマジックキャスターの見せ場は戦闘。
 それ以外での出番はない場合が多い。

 けど彼女がそう名乗り出るだけで、戦闘一本の魔法の使い手が生産に加わりやすくなる。

 すぐにヨッちゃんクラスにはならないけど、何も出来ないと嘆くことはないとの指標になるだろうし。

 オークダンジョンを離れ、二人きりになる。
 すると彼女は「どうよ、オレの芝居は神掛かってたろ?」と自慢気だ。

「マジックキャスターの地位向上でも狙ってたのか?」

「そんな大したもんじゃねーけど、オレが手本になれば誰か真似し始めるかも知れねーじゃん?」

「いっそそう言うライフハックみたいなの動画にしたら?」

「うーん? そんなもんが役に立つのか」

「俺がいうのもなんだが、自分でできるからって他人も自分と同じ芸当ができるって期待しない方がいいぞ?」

「そりゃそうだろ」

「自分が昔苦労を思い出しながら、やってみたらどうだ? ヨッちゃんのダンジョン内ライフハックとしてコーナー作ってもいいし」

「考えてみる」

 そう言って、今日も何か初級魔法で色々模索した。
 俺も、誰でも真似できる、切るだけ、焼くだけの料理を模索した。
しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...