ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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131話 私がお父さんです 2

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「え、ミィちゃんが狙われてる?」

 卯保津さんから寝耳に水の問題を掲げられ、俺とヨッちゃんは問題とされてる探索者慰労会へと顔を出すこととなった。

 卯保津さん曰く、今回は特におかしいそうで、マイクさんやリンダさんが同日にダブルブッキングして同行できてない事。

 俺たちにも届いたが、欠席可能な事。

 そして入国したことを掴んで現在に至るそうだ。

 Dフォンで事実確認したら、本当だと言っていた。

 オリンに頼んでミィちゃんだけこっちに持って来れないか?
 そう頼んでみても、ダメ。

 対象がワープ可能範囲からロストしてしまっているそうだ。

 契約はミィちゃんがいつでも俺たちを屋台ごと呼び寄せる効果であり、俺たちがミィちゃん単体を呼び出す効果はないと言われてしまう。

 彼女は強いからなんでもできると思われがちだが、そんなことは断じてない。寂しがりやで甘えん坊の側面を持つ。
 他者を寄せ付けないのはその弱さを隠すためだろう。

 俺だってヨッちゃんがいなければいつまでもウジウジしてた覚えがあるからこそ言えるんだ。
 
 いい人に出会えてようやくそこから動き出せた。
 彼女の場合はマイクさんやリンダさんがそれだ。
 俺も中に入ってるらしいが、いつでも行動を共にしていたわけじゃない。

 恩人と親友は別枠だろう。

 オリンがダメならジュリに頼もうにも、あいつはここ数日姿を見せない。
 肝心な時にいないんだから困ったものである。

 またどこかで遊んでるんだろうなと思いつつ、手間ではあるが直接船上パーティに潜入した形だ。

 何事もなければいい。
 美味い料理を口に運び、メニューの引き出しを広げるチャンスだ。

 そう思っていたのに、早速異変。

「ポンちゃん、この船おかしいぞ?」

「具体的にどこが?」

 船に乗るのも初めての俺。
 ヨッちゃんはテレビで見たことある情報を思い出しながら、豪華客船がこんな狭いわけないと、妄想を口にする。

「まるでダンジョンの中にいるみたいだ」

「息苦しいのはその格好のせいじゃなくて?」

「ば、ばばば馬鹿野郎! そんなんじゃねーよ、断じて!」

 変なこと言うな、と背中を強打されてしまった。
 今回のヨッちゃんは着慣れないドレスを身に纏っている。

 もちろん借り物だ。
 俺も借り物のタキシード。
 髪を切り、髭を整え、おめかししてこの船に乗り込んだ。

 普段の状態で来れるほど、ここの格式は低くなかった。
 そんなこんなでヨッちゃんも慣れない女装で大変恥ずかしい目にあってる最中だ。

 似合ってるぞって言ったら「ばーか」と返される。
 本人曰く、虫唾が走るのだそうだ。
 こりゃ重症だな。

「そういうのは轟美玲のために取っとけ。オレに言うセリフじゃねーわな」

「悪かったって。でも確かにここは空気が重いな。晴れやかなパーティ会場とは思えないくらいだ。ジュリの反応をロストしたのも同じ理由か?」

「わかんねーけど。それよかターゲットを探そうぜ? ここはおかしい。さっさとおさらばしてポンちゃんの飯が食いたいぜ」

「そうだな」

 本音はその慣れないドレスを脱ぎ捨てて、今すぐ普段着に戻りたいと言ったところか。
 ドレスってほら、割と上半身が無防備になるから。

 さっきから違う意味で冷や汗をかいてるヨッちゃんだった。

 そしてターゲットを発見、ヨッちゃんの格好について軽く雑談した後、様子のおかしい男たちに絡まれる。
 
 あの天下の轟美玲に対して、まるでナンパでも仕掛けるような態度で、ワインボトルとグラスを持って足を運ぶ男たち。

 俺はらしくもなく飛び出し、彼女を連れて退避を図る。
 ヨッちゃんはここは俺に任せて先に行け! と格好をつけていたっけ。

 彼女なら任せても大丈夫だと言う信頼があるが、一応女性だしな。安全を確保したらあとで拾いに行かなきゃだ。

「オリン、ミィちゃんだけでも武蔵野支部に返せるか?」

「キュ(無理じゃ。信号が途絶えてしまっておる。これではまるで……)」

「洋一さん、その子は何を言っているの?」

「どうもここはオリンのワープポータルが通用しない場所なのだそうだ」

「世界中を移動できると言う御触れ付きだったでしょう?」

「キュ(旅をするだけなら可能なんじゃが、妾も万能ではないと言うことじゃ)」

「ミィちゃん、あまり責めないでやってくれ。オリンは特殊個体だが、それよりも上の存在が介入してきたら、妨害も容易い」

「上位存在の介入? どうしてまたそんなことに」

『それを説明するためにはまず自己紹介をしないといけませんね』

「キュ(三番迷宮管理者シャルル殿)」

 目の前に浮かび上がる人型のシルエット。
 女性の形を取り、それは朧げな輪郭を変化させながらもその場にとどまる。

 やはり三番迷宮管理者は手の内に囚われていたか。その首に嵌められている首輪にも見覚えがある。

 ゴロウと同じもの。
 呪いの首輪だった。

「何、これは何? このモンスターはなんなの?」

 ミィちゃんは理解が追いつかず、臨戦体制を取ろうとする。
 しかしここはコアルーム。
 迷宮管理者の本体が内包され、存在することができる空間。

 そうか、コアルームだから通常空間からロストされるのだ。

 ここは隔絶された世界。
 オリンのワープポータルの適応外。

「あなたの契約者は誰なんですか?」

『それに応える口をもちません。オンセヴァーナリンノス.ヘケラ.ルギオスの契約者よ』

「それではあなたのお名前をお教えいただけますか?」

『それを聞いてなんとする。脆弱なる土着人よ』

「キュ(ダメじゃ契約者殿、この状態の三番殿は!)」

 何かを慌てているオリン。
 黒幕が三番契約者なら、ジュリを相手にさせれば平気じゃないか。

 それでゴロウのように解決すれば良い。
 そう考えてる俺の横に、全く想像だにしていない存在が現れる。

「お役目ご苦労、シャルル。今日は大量だ。なんせ私の意思を引き継ぐ子供たちがこんなにも勢揃いしてくれたんだからな」

 現れたのは老紳士。

 そしてミンクの毛皮を首に巻き付けている。
 その毛皮が起き上がって鳴いた。

「ミュー(久しぶりね、オンセヴァーナリンノス.ヘケラ.ルギオス。相変わらず創生者の思惑通りに動いてるのね、あなたは)」

「キュ(一番、殿。どうしてあなたがそちら側に?)」

 まるで因縁の対決。
 オリンが焦っていた理由はそこか。

 三番に呪いを付与させ、その上で二番とも連絡をつかなくし、完璧にオリンを潰した。

 そんなことができる相手は一番迷宮管理者しかいない。

 そして相手は……なんの悪気もなく自己紹介を始める。

「初めまして、子供達よ。私が君たちのお父さんだよ」

 その言葉を聞いて、俺もミイちゃんもきっとプッツンと神経が切れたと思う。

 今更出てきて父親だぁ?

 散々育児放棄してきて、望んだ形に成長した相手だけを取り捨て選択する親がいてたまるか!

 獅子は先人の谷に我が子を突き落とすという例えがある。

 あえて苦行を味合わせることで、その先に待ち受ける試練を勝ち抜くためだ。

 けど突き落とすだけ突き落として興味を失った男がどの面下げて今更父親面すると言うのか?

 そりゃ、過去を振り返って良い出会いがあったとは言ったさ。
 配信上だ、多少の美化は加えてる。

 でもな、それは俺だけじゃない、ヨッちゃんやミィちゃんも同じ苦労をしたからこそ出てくる言葉で。
 本音では「どうして俺ばっかりがこんな目に!」だったのを内包してたに決まってる。

「おかしいわ、洋一さん。あたし、胸の内から殺意が湧いて湧いて仕方がないの」

「奇遇だね、ミィちゃん。俺もだよ」

「なんとも野蛮に育ったものだ。しかしそれでこそだ。この逆境に立ち向かうにはそれぐらいの反骨精神を磨いてもらわねばな。これではなぜステータス格差社会を作ったかわからなくなる」

 ……今、なんて?
 この地獄を作り出したのは他ならぬ自称クソ親父と聞いたが気のせいだろうか?

「キュ(やばいぞ一番殿が敵では妾ではどうすることもできん)」

 そしてオリンもまた無力化されてしまった。
 俺は、どうすればいい?

 低ステを地獄に落とした張本人を感情のままに殴れば良いのか、またはろくでなしの父親に制裁を加えれば良いのか、どちらを実行しようか決めかねていた。
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