ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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128話 迷宮入り

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 クララちゃんは契約した迷宮管理者のドールをセラヴィとして今後運用していき、その対価として新しい能力を授かった。

 それが半径15メートル四方への取り捨て選択。

 自身をダンジョンの中に置きつつ、日常を過ごせるようになる特権だ。

 これによってクララちゃんが加工で生み出したエネルギーは余すことなくセラヴィのダンジョンに供給されるらしい。

 その他にも敵意を持って接してくる相手に対しての認識阻害。

 それを看破して接してくる相手にはダンジョン内に強制転移。

 セラヴィの持つダンジョンはエジプトにあるピラミッドを模したゾンビパニックダンジョンと、オアシスを模した水中ダンジョンがあるそうだ。

 どっちに飛ばすかは任意で、どっちもダンジョンからの生還率はほどほど。

 問題があるとすれば帰国するのが大変な立地。
 砂漠のど真ん中に放り出されて、市街地からは遠く、昼夜での寒暖差が恐ろしく違う環境というだけ。

 上位探索者でもなければ帰国するのも難しいだろう。

 それこそ狙ってワープできなければ、いつまで経っても接触できないまま終わる。
 過剰防衛じゃないか? と思わなくもないが、これくらい予防しなければいつどこで命を落とすかもわからないのだ。

 相手が国なら、それくらいのことはしてくると踏んでの措置だった。

『いまはこれくらい。あとはエネルギーしだい』

「十分です」

 俺も欲しいくらいに優秀な能力だ。

「キュ(配信で目立つ都合上、必要ないじゃろ?)」

 羨んでいたら、オリンからツッコミが入る。
 それもそうだな。

 でも目立つのは本意じゃないんだよ。
 特に北海道から帰還してからどうでもいい質問責めばかりあるからそういう意味では欲しいなと思わなくもない。

「なぁ、それ。オレからも見えなくなるのやめてよ?」

「それは藤本さん次第です」

「ねぇーーーーー!」

 さっき仲良くなったばかりだっていうのに、すぐ喧嘩するんだからこの二人は。

 喧嘩するほど仲がいいっていうんなら問題ないが、犬猿の仲みたいだし、触らぬ神に祟りなしっていうのでその話題について触れるのはやめておこう。

 こっちにまで飛び火しそうだ。

「はいはい。クララちゃんが居るかどうかは俺が判断するから。クララちゃんもヨッちゃんをあまりイジメないであげて」

「洋一さんがそこまでおっしゃるなら」

 俺の言うことは聞くんだよね、不思議と。

 ヨッちゃんはまぁ、普段から胡散臭い言動をして回ったツケが溜まったということで。

 居た堪れないがそっとしておこう。


「と、まぁそういうわけでひとまずは問題解決かな?」

 手を叩き、注目を集める。
 最初は俺とオリンだけのつながりだったが、すっかり大所帯になったものだ。

 今やほとんどが迷宮管理者の契約者(ヨッちゃんを除く)。
 そのうちダイちゃんも抜擢されかねない勢いである。

「それよりも新たに判明したダンジョンを裏切った連中だよ。そいつらの狙いはどこにあると思う?」

 クララちゃんの件が終わったからハイ解散というわけにもならず、新しく浮上したテーマについて一同は話し合う。

「キュ(先導しているのはガリキュリエンディバズゥエ一番迷宮管理者殿か、シャリリオゥルクァイビァ三番迷宮管理者殿のどちらかじゃろうな)」

「一番はわかるとして、三番も?」

 名前が長いので番号だけで割愛。
 権限が高い順に、命令権を持つ。

 オリンが集合をかけた場合、その下は呼び出しに応じるが、その上には取り捨て選択が生じる。
 なんなら呼び捨てを無視してもなんら問題はないのが上位管理者である。

 しかしここに二番迷宮管理者のジュリが入る場合、様子が変わってくる。

 今回三番迷宮管理者が応じなかった理由は、一番の側についているからか、あるいは別の事情で参加できなかったかだ。

 それを判別する手段はあいにくと持ち合わせていない。
 何せ今まで連絡一つ取ってこなかったからだ。

 エネルギーの供給が滞りなく行われていれば、特に問題はないという放任主義がここにきて仇になった形だ。

「もし一番迷宮管理者が創生者に反旗を翻した場合、どうなる?」

「キュ?(ありえん、と言いたいところじゃが契約者に染められた場合はありうるか)」

 オリンはジュリをじっと見ながら嘆息した.

『ちょっと、どうしてここで私を見るのー?』

「キュ(このように、ジュリ殿は権限を持つのに対し、あまりにも責任感がなさすぎる。なぜこうなったかは妾にはわからんが、力を与えすぎた反動でこうなった場合を鑑みて、後に創造された妾には思慮深い思想が植え付けられたんじゃろうな)」

『ねぇ、さっきからひどくない?』

 オリンに言われっぱなしで、ジュリは涙ぐんだ声を上げる。

 急に関係のない話をされて、俺を含めた人類は困惑するしかない。

 しかしオリンが関係ない話をふること自体が珍しい。

 これは何か意図があるなと考え込めば、クララちゃんがその意図に気づいたように考察を始める。

「それってもしかして、権限が高いほど傲慢かつ異性に惚れっぽいってことですか?」

「どういうことだよ?」

 異性に対してなんの興味も持たないヨッちゃんがクララちゃんの指摘に興味をそそられたように促す。

「これは憶測なのですが」と付け加えてクララちゃんが持論を述べた。

 それは女の子なら自分の仕事を認めてくれた上で、さらに仕事ができる相手を恋愛対象に選ぶようなラブロマンスを描いた誇大妄想がクララちゃんの中で展開される。

 仕事一筋の女性ほど、優しくされただけでコロっといくのだそうだ。
 全員が全員そうと言うわけじゃないが、そう言う傾向にあると付け加えた。

「ジュリさんもそうなんじゃないかなって思ったんです」

『わかるー? あなた見る目あるわね』

「お褒めいただき光栄です、ジュリさん」

 ここにきて仲良くなる二人。
 ヨッちゃんと恋バナしてもつまらないからジュリに切り替えたとかそんなところか?

 はたまたこの中で一番権力を持つのがジュリだから仲良くしておいて損はないと歩み寄った結果か?

 俺にはその行動の判別つかないが、クララちゃんからは強かな女性特有のオーラを感じ取った。
 
 その中でヨッちゃんだけが話についていけずに「オレがおかしいのか?」って一人自問自答してる。

 ヨッちゃんはそのままでいて。
 

 議題は大いに脱線したが、クララちゃんの憶測通りだとしたら、すでに一番迷宮管理者は契約者の手に落ちてると見ていいだろう。

 しかしそれに異議を唱える相手が一人。
 オリンである。

「キュ(一番殿に限ってそれはないと思いたいが)」

『わかってないわね、賄うエネルギー量が多いだけで相当にテンパってしまうものよ?』

「キュ(それはジュリ殿に限る話であろう? 妾の知る一番殿は、もっと高潔なお方だった。ジュリ殿と違ってな)」

『旦那様ー! さっきからオリンが難しい話をしていじめてくるんです! 助けてください!』

 別に難しい話なんてしちゃいないが、それだけ余罪があるってことだな? 
 図星を突かれてテンパっているというのが正しいだろう。

「ほらほら、いちいち喧嘩するなっての。オリンからしたら有能な上司が無能な部下に散々に言われて向っ腹が立つのもわかるよ。でもさ、こうやって不正が露呈されたのなら話は別だ。そこに有能さはあまり関係ないよ。むしろ有能なほど敵に回った場合が厄介だろ? 今はまだ情報があまりにも足りなすぎる」

「キュ(それもそうじゃのう。問題はなぜ不正をするに至ったかじゃ。犯人追及は後でもできる)」

『どちらにせよ、不足しているエネルギーの問題もあります。今は一丸となってエネルギーの採取法を検証しませんと』

 そのためのオリエンテーションじゃないのか?

 兎にも角にもこの事件は一朝一夕で終わるような案件ではなかった。
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