ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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122話 クララちゃん強化計画 1

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「えー、というわけでして。今回からは助手として倉持クララさんを同行させることになりました」

「不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 ぺこりと挨拶と同時にお辞儀をするクララちゃん。

「何か含みのある挨拶だね。もっと気楽にいこーぜ?」

「要さんほどお気楽に生きてませんので。さぁ、いきましょうか洋一さん」

 塩対応である。
 俺以外には基本ツンツンしてるんだよな、何故か。

「彼女のレベルアップを優先するのは、俺たちにとっても有意義。というわけで以前までの未開の地は一旦後回しにして、可能性を広げるための探索となりました」

「よろしくお願いします!」

 <コメント>
 :可愛い
 :可愛い
 :Dランクダンジョンで救助された子だよね?
 :戦闘は大丈夫?

「彼女の修行相手は、どっちかと言ったら食材の方かな?」

「モンスターはオレとポンちゃんが始末するからな!」

「そう聞いてます」

 内訳は特殊変化による洗い出し。
 彼女は特定回数、ランダムで変化させられるものとさせられないものが出てくる時がある。

 それを確定で引き出すための武者修行が今回の議題だ。

 そのため来ているダンジョンがDランクダンジョン。

 通称ゴーレムダンジョンである。
 ここには彼女の適合食材、メタルゴーレム種のゴールデンゴーレムがいるので乱獲も兼ねていた。

 <コメント>
 :もうこのランクじゃ敵いねーな
 :魔眼系列は眼精疲労きついけどポンちゃんはそこら辺平気なの?

 俺と似たような魔眼持ちは、普段眼帯などで片目を隠して温存してるそうだ。

 しかし俺の魔眼は両眼なので、眼帯をすると前が見えなくなってしまう。

「ON/OFFができるから大丈夫だよ。遠くにいる敵を叩き落とすのに便利なぐらいだね」

「ダンジョン内ならオレだけで十分だぜ!」

「運用するのは新しいダンジョンみたいに空が高い時とか、ダンジョンブレイクで街全体が飲み込まれた時が使いどきだよね。普段は手を使ったほうが早いし」

 <コメント>
 :実際どっちもスイッチできるの強すぎるんよ
 :普通に英雄だからな、ポンちゃん
 :気さくだから割と身近に感じるだけで
 :だから調子に乗るリスナーが多いんだよ

「別に俺は気にしてませんけどね。舐められてるのは慣れてます。そういう境遇でしたし」

「まぁね。でもファンになってくれた人たちが悲しむから舐められないようにはしたいと思ってる」

「個人のファンというより洋一さんの料理のファンが圧倒的に多いと思いますけどね」

「なぁ、そうやってオレにだけ敵意向けてくるのやめてくれない?」

 <コメント>
 :草
 :ヨッちゃん、嫌われてるな
 :クララちゃんそっちのけで空ウツボ狩ってたのいまだに根に持たれてるじゃん
 :むしろヨッちゃんが相手してくれたからポンちゃんがフリーだったまである
 :どっちかでも欠けてたら救助できてなかったんやで
 :救助より食い気優先されてたら、そりゃ坊主も袈裟まで憎くなりますよ
 :別にそれだけでもなさそうだけどな
 :クララちゃん的にはヨッちゃんみたいな適当なやつとレギュラー交代したいとか?
 :ああ、なるほど
 :これはヤキモチですね
 :ちなみにポンちゃん的にはメンバー変更可能なの?

「ヨッちゃんならどこに行ってもやっていけそうではありますが、俺が困るので無しですね」

 <コメント>
 :この信頼度である
 :果たしてクララちゃんはポンちゃんからここまで信頼される日が来るのか?

「応援、よろしくお願いします!」

 律儀に対応するクララちゃん。
 あんまり全方位に喧嘩を売るのはやめといたほうがいいぞ?

 特にうちのリスナーは色恋沙汰を面白おかしく吹聴する輩も多く存在する。

 ミィちゃんの件でも参ってるのに、ここにクララちゃんが参戦したらなんて答えていいものか。

 ダンジョンセンター職員なんだから、社交辞令は得意だろうに。

 どうして俺が絡むだけでそう意固地になるのかね。
 そこがわからない。

 ダンジョン内をのしのし歩いてモンスターをサクサク狩る。

 ヨッちゃんの魔法のレパートリーお披露目の回となりつつある今回。

 しかしその先に待ち受けているのはクララちゃんの地獄の修行パートである。

 今でこそDランクモンスターになど遅れを取らないが、今回検証するのは加工を挟んだのち、どのような変化が見られるのか?

 これをそれぞれ洗い出すから回数勝負となるのだ。

 以前一緒に歩いた時ですら50回以上。
 今はどこまで増えてるか。

「回数でしたら200回は可能です」

「ダンセン、無茶させすぎ問題発覚」

「自分で望んでしたことだろう? それがお給料に繋がるのなら、俺だって無茶するさ」

「あー、お給料につながるならオレでもするかも。当時はそんな能力は持ち合わせちゃいなかったが」

「俺も別にお給金は上がんなかったが、飯のタネになるから覚えてたな。今では役に立ってるし、無駄ではなかったな」

 <コメント>
 :ちょくちょく低ステの闇を見せるのやめろ
 :クララちゃんがいかに恵まれてるのか肌で感じるんだろうな
 :今はもうSランクでしょ!
 :Fランク時代が長すぎた弊害や。
 :Fの頃からポンちゃんはすごかったで
 :低ステだからって腐ってるやつと比べちゃダメでしょ

「良くも悪くも、あの時ヨッちゃんから誘ってもらわなきゃ、今の俺はないわけですからね。ヨッちゃん意外と組むのは、考えもつかないです」

「おっす! 修行に来たぞ」

 場所が出入り可能なDランクと知るなり現れたのはダイちゃんだ。

 今回は彼にも協力を仰ぎ、クララちゃんの修行に一役買ってもらうこととする。

 今まではクララちゃんのノーマルの特殊変化と俺の活け〆までだったが、今回はレパートリーを増やすために更にミンサー、熟成乾燥、腸詰め状態からも加工してもらう。

 無理なら無理で構わないが、せっかく縁があるんだからここらでレパートリーを増やしてみてはどうかと持ちかけたのである。

「よう、やってるな」

「ワシらにもうまい話があるって聞いてやってきたぜ」

 ダイちゃんの次に現れたのはクララちゃん以外の特殊変化のスペシャリストだ。

 調味料にならなかった場合でも、野菜や果実、アルコールへの変化が可能ならそれはそれで今後役に立つという算段である。

「遠路はるばるご苦労様です。今回は色々モンスターを俺たちのスキルで加工して、それを皆さんのスキルで最終的にどう変化するのかを見る企画となります。それぞれの秘密を暴露する形になってしまうかと思いますが、新しい発見もあるかと思いますので、どうかよろしくお願いします」

 富井さんと八尾さんはいつになく乗り気。
 クララちゃんは負けないぞと意気込んだ。

 今回はゴールデンゴーレムをメインに加工していく。

 <クララちゃん>
 ノーマル:カレーパウダー
 活け〆 :ゴールデンカレーパウダー
 ミンサー:変化なし
 腸詰め :変化なし
 熟成乾燥:レインボーカレーパウダー
 飾り包丁:変化なし

 <八尾さん>
 ノーマル:にんにく
 活け〆 :姫にんにく
 ミンサー:葉にんにく
 腸詰め :行者ニンニク
 熟成乾燥:黒ニンニク
 飾り包丁:変化なし


 <富井さん>
 ノーマル:赤ワイン
 活け〆 :赤ワイン(ロゼ)
 ミンサー:スパークリングワイン(赤)
 腸詰め :白ワイン
 熟成乾燥:オレンジワイン
 飾り包丁:スパークリングワイン(白)

 面白い変化が出た。ミンサーや腸詰め、なんだったら飾り包丁なんかの変化も見られるものも存在することが判明する。

「俺の一手間で、ワインがスパークリングワインになるの、ものすごく納得いかないんだが……」

「どっちも美味しいじゃん」

 俺は好きだぞ、どっちも。
 合わせる料理は変わってくるけど、どっちが上かしたかなんて考えたこともない

 <コメント>
 :明らかにグレードダウンしてるからな
 :グレードダウンの基準とは?
 :でも全くの無駄じゃないってわかってよかったじゃん
 :そうだよ、飾り包丁は無駄じゃない!
 :スパークリングで白ってしこたま手間がかかる定期
 :シャンパーニュ地方の基準じゃ白は最高峰なんだっけ
 :ロゼも高い
 :赤もあるが、赤いのはシャンパンって呼ばないから

 有識者達による援護射撃も虚しく、特殊変化組は厳しい態度を取る。

「私には特に必要ないですね」

「ワシも必要ないか」

「なぜワインになるものをわざわざスパークリングさせる必要がある? ワシもいらん」

 変化しなかったクララちゃんや八尾さんはともかく、変化した上で用無しと判断する富井さん。

「みんなしてひでーや!」

 その判定結果に納得できず、ダイちゃんは泣きながら実家に走った。

 せっかく呼んだのにこんな仕打ちに会えばわからんでもない。

 確かに加工では役に立たなかったが、これから料理を振る舞うのにお手伝いして欲しかったんだけどなー。
 何になるかなんてそれこそ千差万別だろうに。

 むしろどんなものになっても、俺たちはそれをおいしくするのが仕事じゃないかと思う。

 と、考えてるうちにダイちゃんの代わりにこっちでは顔を合わせることのない顔が現れる。

「久しぶりだな、洋一! 息子が不貞腐れちまったから、俺が来た。仕込みが終わったから店開けるまでの時間でよければな!」

 <コメント>
 :鮮焼さんきたー
 :この間のファンガス料理めっちゃうまそうでしたー
 :結果一番まともだったよな
 :他の二店舗が遊びすぎてるんよ
 :きっと不味くはないんだが
 :見た目が酷かったな

「菊池さん! お手伝いしてもらっていいんですか?」

「たまにはお前と一緒に料理を作るのもいいと思ってな」

「懐かしいですね」

「あんときは下処理しか任せてなかったからな」

「あの頃よりは腕は上げてるつもりです」

「そりゃ見てればわかるよ。で、素材は目の前のものだけか?」

「ええ、難しいですか?」

 カレースパイス、にんにく、赤ワイン。
 これで出来上がるのは想像しやすい。

「誰に向かってものを言ってんだ? レストランメニュー以外の真髄を見せてやんよ」

「これ、普通にカレー以外のものが出てくるって期待してもいいんです?」

「どこからどうみてもカレー一択だよな」

「ワシもカレーしか思いつかん」

「まぁ、加工されなかった俺の腸詰めや、ミンチ肉もありますし」

「そっちもあったか」

「クララちゃんが未成年ですので、アルコールに合わせるのはなしで」

「まぁ、そういう工夫は大事だな」

 菊池さんは作っていた手を止めて、制作途中の料理をどこかに置いた。

 この人、クララちゃん向けじゃない料理を作り始めてたな?
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