ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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121話 スパイダーツリー実食

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 結局うまく食べる手段が見つからなかったツインヘッドベアフィッシュ、もといチョウチンアンコウ。

 こちらを一旦保留して、新たに獲得したスパイダーツリーを調理していく。

 こっちはほぼ生け捕りなので、食べる場所以外は納品でいいだろう。

「そういえば蜘蛛って蟹肉みたいな味がするって噂だけど、本当なんかな?」

 ヨッちゃんが思い出したようにぼやく。

「ああ、カニは蜘蛛の親戚らしいね」

 厳密には昆虫というより甲殻類という種類でのお仲間。

 親戚といってもずいぶん遠いって話だし、だから食べれるって結びつかないんじゃないか?
 いや、ここにきて食べないって選択肢はないけど。

「この足から蟹肉が……」

「出てくるのは昆虫の筋繊維だけだと思うぞ?」

「それでも夢があるじゃんかよぉ」

 わからなくもない。
 熟成乾燥以外での食べ方はそれこそ幅が広い。
 生で食べるのもそのうちの一つ。

 けど、訳のわからない生態系をしてるものなぁ。
 果たして普通に食べられるのか。

 節を斜めに切断してカニのようにボイルにしてみる。
 切断面から酒なんて垂らして、少々のゴーストソルトを振りかけて。

 実食。

 <コメント>
 :蜘蛛の足を食うのに、ここまでうまそうな匂いも初めて
 :これ本当に蜘蛛の足か?
 :生態系のわからんダンジョンだからな
 :ファンガスに続いて、マッドアングラーも食ったからな
 :なお、美味しい食い方は見つからなかった模様
 :一部地域ではこんにゃくのようにして食うのはどうかって持ち上がってるぞ
 :あれも食感ジャリジャリしてるからな
 :本当、なんでも食うよな、日本人
 :竹ですら食うから
 :たけのこ、うまいよなぁ
 :違うぞ? 育ち切った竹の方、しなちくとか主原料竹
 :あれそうなの?
 :竹なんててっきり炭の材料か割り箸の材料かと思ってたぜ
 :タコも食っちゃうんだから日本の食い物に向ける執念はすごいよ
 :ナマコも食うしな
 :サザエも
 :じゃあ蜘蛛を食うなんて今更か
 :ドブネズミ食うのに比べれば

「思ってたより瑞々しいし、甘い」

「メープル系の甘さっていうの? あぁ、木と繋がってるもんな。あれが楓の木かどうかの判別はつかないが」

「味も案外しっかりめだ。これに合わせるなら……」

 味噌を取り出す。

 足肉を取り出し、そいつをゴーストソルトでよく揉み込んでから、味噌だれに漬けて、熱々の鉄板の上に。

 ジュワァアア……

 <コメント>
 :あっあっ
 :あーだめですポンちゃん、これはだめです
 :ご飯の準備はできてるぜ!
 :白飯スタンバイ!
 :そして煙が画面の向こうから
 :スゥーーーーーーーーー
 :うめっうめっうめっ
 :すっかり匂いでご飯食うのが癖になってんだ
 :匂いだけでうまいのはもうずるいんよ
 :正直、毒もあるかもだから
 :匂いがうまそうでも食うのはちょっとな
 :そうなると匂いだけで食えるのは最良な気がしてくる
 :いや、味も知りたい
 :それは実際に食ってからのお楽しみで

 蜘蛛肉の味噌ダレは案外高評価だったようだ。

「あー。これは日本酒だな」

「ご飯もあるぞ?」

「それも貰う」

 先に酒で味わってから、ご飯のお供に食う。
 優先順位の最初に酒が来るあたり、ヨッちゃんはヨッちゃんだった。

 俺も日本酒で蜘蛛肉を味わう。
 元々の甘みに味噌の風味。

 ここに少し柚子の果汁を足しても美味しいかもしれない。

 菊池さんだったらあと何を仕込むだろうか?
 色々考えながら調味料を作り上げる。

 そいつを蜘蛛肉に垂らして一口。
 もう少し味を薄くして、イヤ……これに何を掛け合わせたら美味しくなるだろうか?

 調味料、もしくは食材。

 そうだ、まだ食べてない食材があった。
 味が薄すぎて調理を一時中止にした熊肉がある。

 少し臭みはあるが、あれで出汁をとってこれと合わせてみたらどうか?

 早速行動に移し、小鍋で煮出す。
 丹念に灰汁を取る。

 出来上がったスープに先ほどの蜘蛛肉の味噌ダレを浸してから食べると。

「おう、これはこれは」

 何の役にも立たないと思われたクマ肉から出た出汁は、蜘蛛肉の強すぎる甘みをさっぱりと洗い流してくれた。

 それだけではなく、まとまりきらなかった味噌や柚子果汁、そして塩気を一つにまとめあげたような気さえする。

「なんてうまそうに食うんだ。それは何の汁だ?」

「さっき特に何の成果も得られなかったクマ肉があっただろ?」

「ああ、やたら薄味で可もなく不可もないあれか」

「実はあれ、味を一つにまとめる要素が組み込まれてたっぽい。ほれ」

 まるで茶漬けのように食いかけの茶碗にドボドボと注ぐ。

「あ、何すんだ!」

「ついでにこれもふりかけて……」

「勝手に! そういうのはオレにやらせてくれなきゃさー」

「悪い悪い、うまいのは優先的に食べさせてやりたくて」

「まぁ、ポンちゃんの舌は信じてるけどさ。そこは自由意志に任せてほし……何だこりゃ、さっきまでの比じゃないぞ!」

「だろー?」

「こりゃ合わせる酒が変わるぜ?」

 うまさの宣伝より、何の酒を合わせるかを優先させるのはヨッちゃんらしいが。

 強い旨みに対しての辛味のある日本酒。

 しかしこうやって味がまとまることによって、ビールでも余裕で合うくらいの旨みへと変化した。

 何と合わせるかを楽しむヨッちゃんは、それで頭がいっぱいになる。

「だがあえて俺は敢えてこれを出す!」

「こ、これは!」

 <コメント>
 :そんな仰々しいやり取りする場面か?
 :くそ、匂いだけでいいとか言ってたさっきまでの自分を殴りたいぜ!
 :食いたい食いたい食いたい!
 :匂いだけは本当に生殺しなんですよ
 :しかし、マッドアングラーの使い道はそっちか
 :主食にはならないが、隠し味にはなると?
 :今まで主食にこだわりすぎてたんよ
 :雑魚には前菜がお似合い
 :その雑魚、フレイヤのマイク様が手も足も出なかったんですよ
 :草
 :雑魚とは?

 差し出したのは白ワインである。
 クマなら赤肉だろうに、なぜと思われるかもしれないが、メインは蜘蛛肉。

 どの味が主張するかを考えれば、甘い肉に合わせた甘い香りの白が合うと思った。

 赤の渋さは、この料理の良さを殺しかねない。
 コクや深みは帰って邪魔になる気がしたのであえてこちらを進めるが……

「どっちみち、出されたら飲むのがオレだ」

 ワイングラスから一口含み、そして茶漬けを食う。

「ん? おう、おう、おう……ハハァ、そうくるか」

「どうだ?」

「悪くはない。だが、最適解はこっちじゃないか?」

 差し出してくるのは空ウツボの酒。
 保管庫にしまっておいたのに、いつの間に持ってきたんだ?

「ただ、自分が飲みたいだけじゃなく?」

「それもある」

 あるんかい。

 <コメント>
 :自分に正直なのはいいぞ
 :欲望の権化で草
 :ポンちゃんの飯を当たり前のように食える立場だと勘違いしちゃうよな

「まぁ、ヨッちゃんの味覚は今更疑っちゃいないが、量は出せんぞ?」

「それでもいいから!」

 取り出してお猪口に注ぐ。
 これらはジョッキで飲むタイプではない。

 ゆっくり味わうものだとお互いの認識があるので文句は言われなかった。

「あ、やっぱりだよ」

「うん、いいなぁこういうのも」

 ガッチリと合う、というほどではないがこういうパターンもあったかという味わい。

「悪くはないだろ?」

「これはこれで、俺ならこうするなぁ」

 苦味と雑味。
 そういう意味では熊肉といい勝負だ。

 案外これは酒にすると化けるのではないか?
 そんな予感がある。

 それはそれとして、空ウツボ酒に梅を浸して煮詰め、煎り酒を作る。
 それを刷毛で蜘蛛肉の味噌焼きに塗ってみる。

「どうぞ」

「む、酒に梅の香りをつけたか」

「苦手だったか?」

「好き!」

 <コメント>
 :このやりとりがいいんだよな
 :そうそう、昔はこういう感じだった
 :あの頃が懐かしいなぁ
 :それはそれとしてご飯がすすむ
 :微妙に真似できる範囲だからカニ足で模倣した!
 :追走ニキ、お味の方は?
 :最高♡
 :よーし、いっちょ俺もキッチンに立つか
 :今の時間だからこそスーパーで買いに行けるしな
 :相いう意味では早朝配信は正義?
 :朝から飯テロ肯定派多すぎんよ
 :朝から配信にしがみついてるやつもおすぎる件
 :それ言ったら朝から飲んでるやつもいるぞ?
 :平日とは何だったのか
 :探索者はほら、フリーランスだから
 :平日とか朝だとか社会人的感覚はもうないよな
 :ちなみにこの中で探索者って何人いんの?
 :………
 :………
 :………
 :………
 :これは悪い大人たちの溜まり場ですわ
 :お酒は二十歳になってからですよ?
 :これはほら、薬だから
 :そう、薬!

 お酒を飲むくらいで、一般人は制約がとても多いようだ。
 実際、俺もそうだった。

 底辺ステータスの時は生きるのに精一杯で……
 だからヨッちゃんが誘ってくれた時にそこから抜け出て良かったと思ってる。

 そう思えば、別にケチケチしなくてもいいかと思えた。

「お代わり居るか?」

「いいのかよ? 際限なく飲むぞ?」

「お代わりは有限だ」

「ちぇー」

 そこではゆっくりとした時間が流れた。

 相変わらず飯くれコールは騒がしいが、新しい料理を出せばその匂いで落ち着いた。

 同説人数は増えたり減ったり。

 目を皿のようにして素材の価値を見出そうとするものもいるが、俺は料理人だから料理をする価値しか出せず、俺たちが食う分には特に変化はない。

 そういえば、さっきから大量に蜘蛛足をもいでは炙って食ってるんだが、気がつくと生え替わってるのが食事をやめられない理由の一つ。

 まるでわんこそばだ。
 俺たちが満腹になるまで持久戦をするつもりだろうか?

 ちょうどいいので大量に作ってはダンジョンセンターに配って歩いた。

 クララちゃんでも普通に食べれてたので、毒はないのだろう。
 一応試しで活け〆を加工してもらうも、不発。

 クララちゃんは熟練度不足を嘆いていたが、本当にそれだけだろうか?

「ダイちゃん、これ加工できる?」

 ダンジョンセンターに戻ったタイミングで遊びに来たダイちゃんに話を振るう。
 総合ステがAの彼はあっさりと加工してみせた。

「ほいよ。これがどうかしたのか?」

「嘘……どうして?」

「これは多分可能性の話なんだけど」

 俺はクララちゃんへと可能性を示す。

「総合ステの、問題ですか?」

「うん。探索者ランクでもない、熟練度でもない。だとしたら何だろう、そう考えると消去法で最後に残るのは……」

「総合ステータスの問題ですか」

「うん。ダイちゃんは俺と一緒に冒険したおかげで、総合ステが上昇している。生活は何もかわっちゃいないが、内側で何かが変化してたら?」

「それがスキルにも反映されていると」

「というわけで、これからはクララちゃんも頑張って総合ステ上げていこうか?」

 ポンと肩に手を置くと、彼女は困惑したように声を上げていた。
 どんまい!
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