ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
114 / 173

114話 複合食材探求

しおりを挟む
「つまり、これはキノコでありながらディアの食材としての可能性を秘めているってことか?」

 コメントではダイちゃんの早とちりで決着がつきそうだが、俺たちがキノコとして処理しようとしていた食材に新たな可能性が見出されたというのと同義である。

 料理人としては、非常に気になる特性だ。
 キノコの調理では見えてこない食べ方があるのかもしれない。

 <コメント>
 :《菊池大輝》可能性としてはあるな。でもディアの味はわかんねぇ、すげー美味かったって記憶しかない

「それこそが適合食材所以の味覚バグじゃないかな? 理屈じゃなく、本能が欲する味っていうの? 俺も覚えがあるよ。いまだになんの肉か判明してないけどさ」

「ごめんなさい、せめて何のお肉か分けておくべきだったわね」

 何かの肉、という表現にプレゼントしたミィちゃんが畏まる。

「ううん、そこは気にしてないよ。俺としてはそれを自ら見つけ出すのも命題だから。むしろチャンスをくれたって感謝しかない。あの時、荷物持ちしかできなかった俺にチャンスをくれてありがとうね」

「いいのよ。あたしも、洋一さんに助けてもらったもの。だから、それはお返しなの」

 <コメント>
 :俺たちは何を見せられてるんだ?
 :これがこの二人の成り立ちだぞ?
 :美怜様ファンはガチギレだろうな
 :当事者同士が許可してるのに、ファンは見守ってやらないの、そいつもうファンじゃないだろ
 :強さに憧れてるだけだからな
 :恋してるのは肩書きにだぞ?

「そういう人たちって、本当に迷惑。あたしがFだった時は寄り付きもしなかった癖に、名前が売れ始めるとたちまちに騒ぎ出すの。ねぇ、あなた達は一体あたしの何なの? お金を出した、とか言ってもあたしは別にお金を募った覚えはないのよ? それとあたしの公式を名乗る非公式ファンクラブが詐欺行為を働いて集金してる噂も知ってるわ。これ以上あたしの名前で身勝手な噂を立てないでちょうだい。これだから地元の奴は嫌いなのよ」

 今までの鬱憤を晴らすように早口で捲し立てるミィちゃん。
 これは相当溜まってるなぁ。

 それも無理からぬことか。
 なんせ望まぬ形で日本の将来を背負わされたのだ。

 他に類を見ない成長は、自身の為。
 他の誰でもない、自分の生活水準を上げるためだ。

 けど周囲はそれを利用した。
 有名人だからそれをされても当然というようについてまわる不利益な行為にうんざりしてるのだろう。

「ミィちゃん、抑えて」

「むぅ……」

 まだまだ言い足りなさそうな彼女を抑え、これ以上のイメージダウンを止める。

「まぁね。俺たちも実際似たようなもんだからね。ステータスによって迫害されてきたから、迫害されないためにステータスをあげた。それは誰だってそういうもんだろう。俺たちの場合は飯を食ってただけで上がったわけだけど、それに対して僻みコメントも増えた。それを鑑みて俺たちが出した結論は屋台でのサービスだ。これが迂闊だったことは今も反省してる。正直、周囲の声に惑わされすぎてたんだな。俺は料理するのは好きだけど、お店を出して利益を回すほど経理に明るくない人間だ。だから、配信でこそ料理はするが、公の場に出るのは少し抵抗がある。俺が店を出すことで、世話になったお店に影響が出ると聞いて、怖くなったんだ。今は以前ほど店を出したいという気持ちは薄いよ。周囲が俺の肩書きで騒ぐ限りは出さないだろうね。こういう経験をしたおかげでミィちゃんの言わんとすることがようやく理解できたよ。だからって北海道に赴いて、違う行動をするかって言われても無理なんだけどさ」

 <コメント>
 :…………
 :…………
 :あーあ、英雄英雄騒ぎすぎたな
 :これ、ポンちゃんも日本から離別する宣言だぞ?
 :飯テロだけで済ませてりゃよかったのにさぁ
 :いや、実際食いたいでしょ
 :正直店を持たないのに飯テロする方が悪い
 :それ全てのダンジョンチューバーに言えんの?
 :…………

「と、まぁ俺たちは今現在周囲が騒ぎすぎてることにほとほと疲れてる。確かに探索者としての本分は全うしたけどさ、その後の自由時間を奪われて当然とばかりに振る舞えないよ。だからさ、メイン配信は今後この謎ダンジョンを中心に行うと思う。これを言いたかったんだ。何ならここに住むしね?」

 <コメント>
 :まさかの引きこもり宣言!
 :あの脅威度のモンスターがウロウロしてる場所に住むとかさすがとしか言えないな
 :ダンジョンは住む場所じゃなくない?
 :ポンちゃん達の生活力があってこそだよな

「あたしもここに泊ま理に来てもいいですか?」

「どうぞどうぞ。間取りだけはやたら広いから好きな場所に寝床作っていいよ」

「やった!」

 <コメント>
 :周囲の対応に心底うんざりしてるんやろうなぁ
 :正直、ここのダンジョンに凸できるやつどれくらいいるの?
 :さぁ? SSSSが匙投げる場所だからな
 :そうじゃん! ポンちゃんが隠し包丁入れてようやく解体できるモンスターが一匹目じゃん!
 :それ、なんて理不尽なモンスターなんだ?

「あたしならハリケーンミキサーでミンチ肉に変えられるわよ?」

「ミィちゃんのスキルは俺のミンサーをよりミンチに特化させた能力かもしれないね。きっとユッケとかに向くと思うんだ」

「そうなのね、お料理に詳しくないから考えもしなかったわ」

「少しづつ教えていくよ」

「ありがとう!」

 <コメント>
 :美玲様、いい笑顔や
 :俺たちの応援ではいつもムスッとしてんのに
 :望んでないんやろなぁ
 :ポンちゃんの前でだけ見せる笑顔が、ずっと見たかった笑顔なの、ほんと……

「Mr.は俺たちが認める公認彼氏だからな」

「そうそう、邪魔すると恐ーいお姉さんが容赦しないわよ?」

「ちょ、マイク! リンダまで」

 <コメント>
 :この二人から許可もらってんのか
 :公認お母さんとお父さんですもんね
 :まぁ、実際に手に負えないモンスター解体して見せてるからな
 :つまり、美玲様の見立ては正しかった?
 :E-の時、誰もポンちゃんがここまで成長するって信じてなかったもんな
 :それ
 :美玲様だけだよな
 :その違いか

 コメントでは嫉妬コメントみたいなのも流れたが、それを駆逐する勢いで公認カップルおめでとうのお祝いコメントが流れる。

 改めて祝福されるのはむず痒いものもあったが、話がうまくまとまったのでヨシとする。

「さて、問題はこのキノコ、ファンガスですよ。皆さんならこの食材をどうします? キノコでありながらディアとしての栄養素もで秘めている。料理人としては非常に惹かれる食材ですね」

「キノコとしての定義にとらわれないってことかしら?」

「うん、煮出せば灰汁が出るし、出汁を取ると肉汁のようなコクが出る。今まで扱ってきたキノコのどれとも異なる。非常に面白い食材だよ」

「洋一さんでも最適解はわからないんですか?」

「俺も修行中の身だからね。いつも最適解なんかわかっちゃいないよ」

「意外です」

 ミィちゃんは俺を認めてくれてるけど、俺からしてみれば今できることの最善を尽くしてるだけだ。

 それが偶然彼女の味覚にあっただけ、というのは些か横暴かな?

 <コメント>
 :《鮮焼》洋一、いろいろ料理してみろ、こっちで判断してやる
 :《一期一会》馬鹿野郎、食材をこっちに回すのが先だ
 :《菊池大輝》親父、それと元モーゼのオーナーさぁ
 :自分の欲を出しすぎ
 :草www 鮮焼は大輝の実家なのはわかるとして……
 :もう一方はモーゼの元オーナーかよ。退院してたのか?
 :今のモーゼに対して何か思うところは?
 :《一期一会》店の看板奪ってイキってるクソガキに言うことなんざねぇ
 :この口ぶりである
 :《高橋涼介》お久しぶりです、オーナー。先日ぶりですね
 :《一期一会》おう、ワイバーンの坊主。適合調理更新はできてたか?
 :《高橋涼介》おかげさまで
 :ワイバーンの人! ワイバーンの人じゃないか!
 :あれ、この人最近Sに昇格してなかったっけ?
 :意外とすごい人が美食倶楽部の古参にいたもんだ

「やっぱり気になりますよね。じゃあいろいろ作ってみますのでコメントでリクエストを送ってください。自分だけの知識では限界がありますんで」

 まずは簡単なものから作り出す。

 キノコの茎を傘と分離して塩を振って鉄板焼きにする。
 普通であるなら水分を消して旨みが凝縮されるだけだが……?

 ジュワァ……

 案の定、何かの肉汁が溢れ出す。

 <コメント>
 :ぐわぁ! この鉄板焼きの破壊力よ!
 :実際に匂い嗅げるとなると破壊力ばつ牛ン!
 :一体何の肉汁なんですかねぇ?
 :カシュッ
 :カシュッ
 :ワイビール開けたで
 :《一期一会》これは白ワインの方が合うんじゃねぇか?
 :《鮮焼》日和ったか、ジジイ。鹿肉なら白じゃなく赤だろ
 :《ラ・ベットラ越智間》実際に食べてみないと本質は見抜けませんよ。ただ、この香りなら私も白を合わせますね
 :《鮮焼》本職までそっちに合わせるのか、鈍ってたのは俺の鼻ってことかよ
 :どんどん出てくる店の看板を掲げる人たち
 :実際ポンちゃんの横のつながりだから
 :本人が店出さなくても、食材提供で俺らも味わえるってわけか
 :これ、捌くとなったらいくらになるんだ?
 :貧乏人には払えない定期
 :《鮮焼》アホ! これを安い値段で食おうって考えのやつが口挟むんじゃねぇ! そこからどう安くするかは店側の問題だっつーの!
 :《ラ・ベットラ越智間》ええ、いくら出しても惜しくないレベルの料理ができますよ、これは
 :《一期一会》本当だぜ、洋一をいつまでも身近に考えてると痛い目見るぜ?
 :なんだ、この無駄に暑い空気
 :ただ一つわかるのは、画像と匂いで料理人達の魂に火がついてるってことだな
 :つまり?
 :匂いの提供はリスナー向けではなく料理人向け
 :自分たちならどう扱うかを常に考えさせてもらえるまたとない機会ってことか
 :実際に香りは重要な要素だしな
 :味も感じられたら最高
 :流石にそれは買えよ
 :当たり前
 :(´・ω・`)そんなぁ
しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...