ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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114話 複合食材探求

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「つまり、これはキノコでありながらディアの食材としての可能性を秘めているってことか?」

 コメントではダイちゃんの早とちりで決着がつきそうだが、俺たちがキノコとして処理しようとしていた食材に新たな可能性が見出されたというのと同義である。

 料理人としては、非常に気になる特性だ。
 キノコの調理では見えてこない食べ方があるのかもしれない。

 <コメント>
 :《菊池大輝》可能性としてはあるな。でもディアの味はわかんねぇ、すげー美味かったって記憶しかない

「それこそが適合食材所以の味覚バグじゃないかな? 理屈じゃなく、本能が欲する味っていうの? 俺も覚えがあるよ。いまだになんの肉か判明してないけどさ」

「ごめんなさい、せめて何のお肉か分けておくべきだったわね」

 何かの肉、という表現にプレゼントしたミィちゃんが畏まる。

「ううん、そこは気にしてないよ。俺としてはそれを自ら見つけ出すのも命題だから。むしろチャンスをくれたって感謝しかない。あの時、荷物持ちしかできなかった俺にチャンスをくれてありがとうね」

「いいのよ。あたしも、洋一さんに助けてもらったもの。だから、それはお返しなの」

 <コメント>
 :俺たちは何を見せられてるんだ?
 :これがこの二人の成り立ちだぞ?
 :美怜様ファンはガチギレだろうな
 :当事者同士が許可してるのに、ファンは見守ってやらないの、そいつもうファンじゃないだろ
 :強さに憧れてるだけだからな
 :恋してるのは肩書きにだぞ?

「そういう人たちって、本当に迷惑。あたしがFだった時は寄り付きもしなかった癖に、名前が売れ始めるとたちまちに騒ぎ出すの。ねぇ、あなた達は一体あたしの何なの? お金を出した、とか言ってもあたしは別にお金を募った覚えはないのよ? それとあたしの公式を名乗る非公式ファンクラブが詐欺行為を働いて集金してる噂も知ってるわ。これ以上あたしの名前で身勝手な噂を立てないでちょうだい。これだから地元の奴は嫌いなのよ」

 今までの鬱憤を晴らすように早口で捲し立てるミィちゃん。
 これは相当溜まってるなぁ。

 それも無理からぬことか。
 なんせ望まぬ形で日本の将来を背負わされたのだ。

 他に類を見ない成長は、自身の為。
 他の誰でもない、自分の生活水準を上げるためだ。

 けど周囲はそれを利用した。
 有名人だからそれをされても当然というようについてまわる不利益な行為にうんざりしてるのだろう。

「ミィちゃん、抑えて」

「むぅ……」

 まだまだ言い足りなさそうな彼女を抑え、これ以上のイメージダウンを止める。

「まぁね。俺たちも実際似たようなもんだからね。ステータスによって迫害されてきたから、迫害されないためにステータスをあげた。それは誰だってそういうもんだろう。俺たちの場合は飯を食ってただけで上がったわけだけど、それに対して僻みコメントも増えた。それを鑑みて俺たちが出した結論は屋台でのサービスだ。これが迂闊だったことは今も反省してる。正直、周囲の声に惑わされすぎてたんだな。俺は料理するのは好きだけど、お店を出して利益を回すほど経理に明るくない人間だ。だから、配信でこそ料理はするが、公の場に出るのは少し抵抗がある。俺が店を出すことで、世話になったお店に影響が出ると聞いて、怖くなったんだ。今は以前ほど店を出したいという気持ちは薄いよ。周囲が俺の肩書きで騒ぐ限りは出さないだろうね。こういう経験をしたおかげでミィちゃんの言わんとすることがようやく理解できたよ。だからって北海道に赴いて、違う行動をするかって言われても無理なんだけどさ」

 <コメント>
 :…………
 :…………
 :あーあ、英雄英雄騒ぎすぎたな
 :これ、ポンちゃんも日本から離別する宣言だぞ?
 :飯テロだけで済ませてりゃよかったのにさぁ
 :いや、実際食いたいでしょ
 :正直店を持たないのに飯テロする方が悪い
 :それ全てのダンジョンチューバーに言えんの?
 :…………

「と、まぁ俺たちは今現在周囲が騒ぎすぎてることにほとほと疲れてる。確かに探索者としての本分は全うしたけどさ、その後の自由時間を奪われて当然とばかりに振る舞えないよ。だからさ、メイン配信は今後この謎ダンジョンを中心に行うと思う。これを言いたかったんだ。何ならここに住むしね?」

 <コメント>
 :まさかの引きこもり宣言!
 :あの脅威度のモンスターがウロウロしてる場所に住むとかさすがとしか言えないな
 :ダンジョンは住む場所じゃなくない?
 :ポンちゃん達の生活力があってこそだよな

「あたしもここに泊ま理に来てもいいですか?」

「どうぞどうぞ。間取りだけはやたら広いから好きな場所に寝床作っていいよ」

「やった!」

 <コメント>
 :周囲の対応に心底うんざりしてるんやろうなぁ
 :正直、ここのダンジョンに凸できるやつどれくらいいるの?
 :さぁ? SSSSが匙投げる場所だからな
 :そうじゃん! ポンちゃんが隠し包丁入れてようやく解体できるモンスターが一匹目じゃん!
 :それ、なんて理不尽なモンスターなんだ?

「あたしならハリケーンミキサーでミンチ肉に変えられるわよ?」

「ミィちゃんのスキルは俺のミンサーをよりミンチに特化させた能力かもしれないね。きっとユッケとかに向くと思うんだ」

「そうなのね、お料理に詳しくないから考えもしなかったわ」

「少しづつ教えていくよ」

「ありがとう!」

 <コメント>
 :美玲様、いい笑顔や
 :俺たちの応援ではいつもムスッとしてんのに
 :望んでないんやろなぁ
 :ポンちゃんの前でだけ見せる笑顔が、ずっと見たかった笑顔なの、ほんと……

「Mr.は俺たちが認める公認彼氏だからな」

「そうそう、邪魔すると恐ーいお姉さんが容赦しないわよ?」

「ちょ、マイク! リンダまで」

 <コメント>
 :この二人から許可もらってんのか
 :公認お母さんとお父さんですもんね
 :まぁ、実際に手に負えないモンスター解体して見せてるからな
 :つまり、美玲様の見立ては正しかった?
 :E-の時、誰もポンちゃんがここまで成長するって信じてなかったもんな
 :それ
 :美玲様だけだよな
 :その違いか

 コメントでは嫉妬コメントみたいなのも流れたが、それを駆逐する勢いで公認カップルおめでとうのお祝いコメントが流れる。

 改めて祝福されるのはむず痒いものもあったが、話がうまくまとまったのでヨシとする。

「さて、問題はこのキノコ、ファンガスですよ。皆さんならこの食材をどうします? キノコでありながらディアとしての栄養素もで秘めている。料理人としては非常に惹かれる食材ですね」

「キノコとしての定義にとらわれないってことかしら?」

「うん、煮出せば灰汁が出るし、出汁を取ると肉汁のようなコクが出る。今まで扱ってきたキノコのどれとも異なる。非常に面白い食材だよ」

「洋一さんでも最適解はわからないんですか?」

「俺も修行中の身だからね。いつも最適解なんかわかっちゃいないよ」

「意外です」

 ミィちゃんは俺を認めてくれてるけど、俺からしてみれば今できることの最善を尽くしてるだけだ。

 それが偶然彼女の味覚にあっただけ、というのは些か横暴かな?

 <コメント>
 :《鮮焼》洋一、いろいろ料理してみろ、こっちで判断してやる
 :《一期一会》馬鹿野郎、食材をこっちに回すのが先だ
 :《菊池大輝》親父、それと元モーゼのオーナーさぁ
 :自分の欲を出しすぎ
 :草www 鮮焼は大輝の実家なのはわかるとして……
 :もう一方はモーゼの元オーナーかよ。退院してたのか?
 :今のモーゼに対して何か思うところは?
 :《一期一会》店の看板奪ってイキってるクソガキに言うことなんざねぇ
 :この口ぶりである
 :《高橋涼介》お久しぶりです、オーナー。先日ぶりですね
 :《一期一会》おう、ワイバーンの坊主。適合調理更新はできてたか?
 :《高橋涼介》おかげさまで
 :ワイバーンの人! ワイバーンの人じゃないか!
 :あれ、この人最近Sに昇格してなかったっけ?
 :意外とすごい人が美食倶楽部の古参にいたもんだ

「やっぱり気になりますよね。じゃあいろいろ作ってみますのでコメントでリクエストを送ってください。自分だけの知識では限界がありますんで」

 まずは簡単なものから作り出す。

 キノコの茎を傘と分離して塩を振って鉄板焼きにする。
 普通であるなら水分を消して旨みが凝縮されるだけだが……?

 ジュワァ……

 案の定、何かの肉汁が溢れ出す。

 <コメント>
 :ぐわぁ! この鉄板焼きの破壊力よ!
 :実際に匂い嗅げるとなると破壊力ばつ牛ン!
 :一体何の肉汁なんですかねぇ?
 :カシュッ
 :カシュッ
 :ワイビール開けたで
 :《一期一会》これは白ワインの方が合うんじゃねぇか?
 :《鮮焼》日和ったか、ジジイ。鹿肉なら白じゃなく赤だろ
 :《ラ・ベットラ越智間》実際に食べてみないと本質は見抜けませんよ。ただ、この香りなら私も白を合わせますね
 :《鮮焼》本職までそっちに合わせるのか、鈍ってたのは俺の鼻ってことかよ
 :どんどん出てくる店の看板を掲げる人たち
 :実際ポンちゃんの横のつながりだから
 :本人が店出さなくても、食材提供で俺らも味わえるってわけか
 :これ、捌くとなったらいくらになるんだ?
 :貧乏人には払えない定期
 :《鮮焼》アホ! これを安い値段で食おうって考えのやつが口挟むんじゃねぇ! そこからどう安くするかは店側の問題だっつーの!
 :《ラ・ベットラ越智間》ええ、いくら出しても惜しくないレベルの料理ができますよ、これは
 :《一期一会》本当だぜ、洋一をいつまでも身近に考えてると痛い目見るぜ?
 :なんだ、この無駄に暑い空気
 :ただ一つわかるのは、画像と匂いで料理人達の魂に火がついてるってことだな
 :つまり?
 :匂いの提供はリスナー向けではなく料理人向け
 :自分たちならどう扱うかを常に考えさせてもらえるまたとない機会ってことか
 :実際に香りは重要な要素だしな
 :味も感じられたら最高
 :流石にそれは買えよ
 :当たり前
 :(´・ω・`)そんなぁ
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