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112話 ダンジョンアドバイザー
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『さすが旦那様でございます♪ 枯渇寸前のダンジョンをこうも華々しく復活させてしまうとは!』
ジュリが絶賛してくれているところ悪いが、こうも枯渇してる原因は君だぞ?
俺はほら、探究心の赴くままに料理してるだけだし。
「そりゃよかった。でもこのダンジョンは入り口を設けてないからまだ誰にも発見されてない状態なんだろ?」
『そうですねぇ。実は他にもエネルギー不足で運営困難に陥ってるダンジョンがあると言ったらなんとかしてくれます?』
まだあるのか。
……いや、あるだろうなとは予感はしてたが、あって数件だろうなとは思っていた。
だがここで判明した数は俺の斜め上。
管理者として扱える上限がおりんより圧倒的に多く、同時に作りかけのダンジョンも非常に多かった。
ダンジョン運営こそドールに任せられるが、ダンジョン創造、エネルギーの蓄積、転送は管理者の仕事。
その役割を放棄し続けてたジュリは今まさに泣きそうな声色で縋ってきてる。
絶対前の契約者が甘えさせすぎたんだろうな。
オリンが言うには俺も相当に甘いらしいが、さてこれをどのように受け止めるかだ。
未知という単語は言葉そのまま。
まだ表に出ていないことを指す。
しかし未育成ダンジョンの運営手伝いをさせられてるとは思いもしなかった。
オリンが無責任と言い放つのも頷ける。
どういうわけか、俺たちはダンジョン誕生の瞬間を目の当たりにしている。
人類の敵対者、同時に人類に資源をもたらしてくれるダンジョン。
それの運営の協力者としての選択権を迫られていた。
だが、俺がダンジョンに求めるのはいつだって新しい食材だ。
見たことがないモンスターなどはそれだけで興味の対象。
それをどうやってジュリに伝えるかで、俺の今後の接し方も変わってくる。
なるべくジュリにダンジョン運営を積極的に任せられるような、そんな問いかけを心がけた。
「俺に興味を持たせることができたら、ワンチャンあるぞ?」
「まさかオレたちがダンジョン創造のすけだちをする側に回るとはな。人生何が起こるか分かったもんじゃないぜ」
「キュ(本当にこのお方は……自分に与えられた責務を軽視しすぎる。一番殿に知られたら非難されるどころではないぞ? 我らの計画を人類側に漏らした責を追及されるはずじゃ。なんのために我々が人類と不干渉を貫いてきたのか、わからなくなってしまうではないか)」
『それは……オリンの意地悪!』
不干渉? そりゃ一体なんの為に?
問えば、人に肩入れしすぎれば情が湧く。
設定寿命に差がありすぎる故、別れが惜しくなるということだった。
実際に別れを惜しんで活動を60年ほど休止していたジュリ。
「もう手遅れなんじゃないか?」という感想は言葉に出さずに喉元で飲み込んだ。
相手には聴こえているだろうが、聞きたくない言葉は強制的にシャットダウンされる都合のいい耳を持っているので、この話はここでおしまいである。
ヨッちゃんは意外と乗り気。
俺は別に珍しい食材が入手できるならそれでも良しとした。
まずはダンジョン誕生の定義を決める。
これはダンジョンを世に出す前の前提としてのお願いだった。
1.モンスターで最初から殺しにかからないこと
※殺すのが目的では無いことを徹底してもらう為
2.入り口付近に安全地帯を作ること
※出現した立地によっては近くに何もない辺境の場合もあるため、内側に共有スペースがあれば、人の出入りも多くなるだろうと予測して
3.モンスターの種類はなるべく統一すること
※ボスはその限りではないので自由で
4.ダンジョンはあくまでもエネルギー採取施設であること
※それ以上を求めすぎてダンジョン運営のドールの負担をかけすぎないこと
5.ダンジョン運営は‘無理せず他のダンジョンと連携をとること
※自分の管理下のドール同士で意見交換会を開くなど
それを提示したら、ジュリは感極まっていた。
『そこまで私のことをお考えになって下さって……感謝の言葉もありません』
「キュ(普通は頼らなくても気づくもんじゃがの)」
『もう、オリンったら旦那様の優しさに気づかないなんてダメね!』
「キュッ?(なにを~?)」
「はいはい、ストップ。管理者同士でいがみ合いはやめなさい。俺が思うにだ、君たちダンジョン管理者は、自分以外の運営手腕を参考にすることなく来ているから成長しないんだと思う。いかに自分が優れていても、アイディアは共有していかないと視野が狭くなっていくぞ?」
俺は人類がどのようにして知識を広め、共有することで得意分野を伸ばしていくかの歴史を紐解いた。
人間誰にだって得手、不得手はあるものだ。
俺が料理が得意なように、ヨッちゃんが魔法を得意なように。
オリンやジュリにも得意なこと、苦手なことはあるだろう。
常に完璧な存在などはいない。
いい点も悪い点もあるからこそ、協力していこうじゃ無いかと提案した。
大体はジュリのやる気を引き起こすための方便だ。
そのためにオリンに手の内を晒してもらうことになるが、同時にジュリのダンジョンのいくつかをオリンに運営してもらえればお互いにwin-winな関係じゃ無いか?
「キュ(確かにそれならば妾にも利点があるの)」
『意見交換会ですか、考えもしませんでした』
「俺はダンジョン運営においては素人もいいところ。実際には運営のなんたるかも分かっちゃいない。けどな、新人ドールに育成期間を設けさせることはいきなり命令させられて、ノルマを稼げと言うのはどうしても序盤で失敗を招く。失敗をするなという問題ではなく、ドールに自信を持たせてやりたい。試行錯誤させるのはそれからでもいいと思うんだが、どうだ?」
「キュ(必要ない、と言いたいところじゃが。痛いところをついてくるの)」
『本当にね。ダンジョン創造をする上での問題点。その一つがエネルギー不足による運営放棄。ドールの設定はこちらでできても、設定通りに動かないことなんてしょっちゅうなのですわ』
ダンジョン側も苦労の連続なんだろうなぁ。
なんか妙に親近感が湧いてきた。
「と言うことで、ここは新人ドールたちの教育施設として運営してみたらどうだ? 表に出す、出さないはジュリに任せるよ。もちろん俺はここのダンジョンに頻繁に顔を出すつもりだ。それでどうかな?」
『わたくしたちのことを思っての提案! 破り捨てることなんてできませんわ。ぜひそれでお願いします』
「キュ(妾も一枚噛ませてもらおうかの。ちぃとばかし、ジュリ殿の運営に疑問を抱いておったところじゃ)」
オリンは何か思惑がありそうな口調で述べた。
ジュリはまだ純粋な気持ちで受け止めてくれたのにこいつは……
まぁ、それだけ管理者にも個体差があるのだろう。
千差万別と言っていいものか。
利点と取るかどうかは本人たち次第だし、俺がこれ以上口出しするのもおかしいだろう。
あとはダンジョン管理者同士で話し合ってくれ。
その日は手当たり次第に加工を重ね、お土産を武蔵野支部に持ち帰った。
翌日。
「ポンちゃん、なにやら掲示板が騒がしいがまたなんかやったか?」
ダンジョンセンターで顔を合わせるなりそんな言葉をかけてくる卯保津さんに、俺はなんかしたっけと昨日の記憶を思い起こす。
当然、身に覚えはない。
なんせ配信もしてなければ飲み会もしてないのだ。
ジュリのダンジョン運営のやる気向上の提案をしたり、そのダンジョンで加工したのをオーク肉の加工品と誤魔化してみんなに配ったきりである。
見た目はうまいことソーセージに擬態させてたので大丈夫だろうと高を括ってたのだが……
「ほらみろ、動くソーセージとして話題急上昇だ。トピックにも載ってるぞ?」
ノートパソコンの画面を見せつけられ、俺はどこをみたらいいのか困惑しつつ、ヨッちゃんが画面の一部を指した。
「あとなんか知らないワードもあるな。なんだ? 適合食材貫通って」
「俺も詳しく知らんが、とある掲示板から拡散されて話題になってるらしいんだ」
「ちーっす! 三人してなんの話題?」
朝の仕込みを終えたので、うちに飛び込み修行をしにきたダイちゃんがノートパソコンを覗き込む。
「あちゃー、あれトピックにまで載っちゃったか」
「犯人はお前か!」
「わーちょっとたんま! 悪気はなかったんだ、許して!」
卯保津さんがダイちゃんの首根っこを捕まえて持ち上げる。
事情説明をしてもらい、その上でなにをやらかしたかを明かしてもらった。
内訳はこうだ。
昨日もらったお土産、どうみてもオーク肉じゃない。
ソーセージ化してるにも関わらず、動くのも妙だし、今更俺がオーク肉を絶賛するのも妙だ。
だからネットの有識者に聞いたのだそうだ。
そこまでは良かったが、途中で愉快犯と思われる人物があらゆる場所に拡散!
それからあれよあれよと俺の話題が一人歩きしてしまったのだそうだ。
一般探索者ならそこまで拡散されなかったが、北海道事変の英雄の一角ということで何かと世間を騒がせてるもんだから報道関係者の食いつきがすごかった、と。
そしてトピックに上がった『動くソーセージ』『適合食材貫通』『レベルアップ、ステータスが上昇するバグ食材の発見!』と繋がるらしい。
最悪なことに、ダイちゃん経由で芋蔓式に俺が疑われてるとかなんとか。
「これ、どうすんだ?」
「やっぱり秘密にしたい何かがあったのか?」
「実は、生まれたばかりのダンジョンを見つけまして。そこで採取した取得物を加工したものがこれなんですよね」
そう言って、乾燥させ切ったキノコを取り出す。
「これか!? え、この状態から動くのか?」
俺の説明にダイちゃんは興奮気味に寄ってくる。
「ダンジョンだぞ? そのキノコだってモンスターだ。野菜だって動く不思議な空間なんだからキノコだって動くに決まってんだろ」
「それもそうだな」
よし、ごまかせた!
「しかしダンジョンを発見したら報告するのが探索者の義務だ。それをあと回しにするのは失態を指摘されてもおかしくないぞ?」
「今日報告するつもりだったんですよ。昨日は疲れてて」
「まぁ、色々表に出すには爆弾な情報も含まれてるからな。英断だろうがこのバカのおかげで広まっちまってる。まぁ、あとは俺たちに任せな。場所を教えてもらえりゃ、お偉方に言い訳でもなんでもしてみせるさ」
俺はジュリのダンジョンがどこに出現するかをあらかじめ教えてもらっていたので、そこを教えた。
南緯47度9分、西経126度43分。
その位置に島などは存在せず、荒れ狂う海域のみが存在する。
その中央にこのダンジョンがあることを示せば、返ってくる言葉は決まって「どうやってそんな場所まで行ったのか?」である。
「実はオリンのワープに不具合が起きまして、たまたま出来立てのダンジョンと連結してしまったらしいんです。場所はDフォンのGPS機能で確認しました。救援を出してもらうのが難しい場所で、ならば俺たちに形に調査はできないかと加工を重ねて、お土産にしたのが昨日手渡したアレです。うまいのはうまいんですが、まさかそんなギミックがあったとはつゆ知らず……」
「そりゃ、明かしたところで誰も到達できんわな」
「いや、その場所へは武蔵野支部から経由して飛べるようにしましたので。危険度の調査も含めて武蔵野支部に任せてしまって大丈夫ですか?」
「また無知な報道陣の餌食になれっていうのか?」
「そこは卯保津さんの権限をフル活用してもらうとして」
「なら、そこでの成果物をノン加工で納品、あとはそのダンジョンの危険度調査をぽんちゃんに依頼、配信で流してもらおうか。そうすりゃ、バカは飛び込まないだろう」
あれ、それって結局俺たちへの負担がでかいやつでは?
「まぁ、そこに落ち着くのかね」
ヨッちゃんも仕方ないかって顔で頷いている。
「未知のダンジョンはそれだけで価値がありますからね! その上で管理ダンジョンに新しい場所が加わるのはここ、武蔵野市部の評価にもつながります! 私も調味料獲得に努めますので、洋一さんも一緒に頑張りましょう!」
えいえい、おー! と応援を送ってくれるクララちゃん。
これは断れない感じかな?
なんにせよ、これでジュリの抱えてた不良債権ダンジョンに活気が出てくるのなら、俺が手を貸さないわけもないか。
まぁ、あとは入れるダンジョンを全て武蔵野支部に押し付ければいいか。
クララちゃんも抱えるダンジョンが多いほど箔が作っていってたし。
まだ不良債権が120件以上あるけど、多分大丈夫だよな?
ジュリが絶賛してくれているところ悪いが、こうも枯渇してる原因は君だぞ?
俺はほら、探究心の赴くままに料理してるだけだし。
「そりゃよかった。でもこのダンジョンは入り口を設けてないからまだ誰にも発見されてない状態なんだろ?」
『そうですねぇ。実は他にもエネルギー不足で運営困難に陥ってるダンジョンがあると言ったらなんとかしてくれます?』
まだあるのか。
……いや、あるだろうなとは予感はしてたが、あって数件だろうなとは思っていた。
だがここで判明した数は俺の斜め上。
管理者として扱える上限がおりんより圧倒的に多く、同時に作りかけのダンジョンも非常に多かった。
ダンジョン運営こそドールに任せられるが、ダンジョン創造、エネルギーの蓄積、転送は管理者の仕事。
その役割を放棄し続けてたジュリは今まさに泣きそうな声色で縋ってきてる。
絶対前の契約者が甘えさせすぎたんだろうな。
オリンが言うには俺も相当に甘いらしいが、さてこれをどのように受け止めるかだ。
未知という単語は言葉そのまま。
まだ表に出ていないことを指す。
しかし未育成ダンジョンの運営手伝いをさせられてるとは思いもしなかった。
オリンが無責任と言い放つのも頷ける。
どういうわけか、俺たちはダンジョン誕生の瞬間を目の当たりにしている。
人類の敵対者、同時に人類に資源をもたらしてくれるダンジョン。
それの運営の協力者としての選択権を迫られていた。
だが、俺がダンジョンに求めるのはいつだって新しい食材だ。
見たことがないモンスターなどはそれだけで興味の対象。
それをどうやってジュリに伝えるかで、俺の今後の接し方も変わってくる。
なるべくジュリにダンジョン運営を積極的に任せられるような、そんな問いかけを心がけた。
「俺に興味を持たせることができたら、ワンチャンあるぞ?」
「まさかオレたちがダンジョン創造のすけだちをする側に回るとはな。人生何が起こるか分かったもんじゃないぜ」
「キュ(本当にこのお方は……自分に与えられた責務を軽視しすぎる。一番殿に知られたら非難されるどころではないぞ? 我らの計画を人類側に漏らした責を追及されるはずじゃ。なんのために我々が人類と不干渉を貫いてきたのか、わからなくなってしまうではないか)」
『それは……オリンの意地悪!』
不干渉? そりゃ一体なんの為に?
問えば、人に肩入れしすぎれば情が湧く。
設定寿命に差がありすぎる故、別れが惜しくなるということだった。
実際に別れを惜しんで活動を60年ほど休止していたジュリ。
「もう手遅れなんじゃないか?」という感想は言葉に出さずに喉元で飲み込んだ。
相手には聴こえているだろうが、聞きたくない言葉は強制的にシャットダウンされる都合のいい耳を持っているので、この話はここでおしまいである。
ヨッちゃんは意外と乗り気。
俺は別に珍しい食材が入手できるならそれでも良しとした。
まずはダンジョン誕生の定義を決める。
これはダンジョンを世に出す前の前提としてのお願いだった。
1.モンスターで最初から殺しにかからないこと
※殺すのが目的では無いことを徹底してもらう為
2.入り口付近に安全地帯を作ること
※出現した立地によっては近くに何もない辺境の場合もあるため、内側に共有スペースがあれば、人の出入りも多くなるだろうと予測して
3.モンスターの種類はなるべく統一すること
※ボスはその限りではないので自由で
4.ダンジョンはあくまでもエネルギー採取施設であること
※それ以上を求めすぎてダンジョン運営のドールの負担をかけすぎないこと
5.ダンジョン運営は‘無理せず他のダンジョンと連携をとること
※自分の管理下のドール同士で意見交換会を開くなど
それを提示したら、ジュリは感極まっていた。
『そこまで私のことをお考えになって下さって……感謝の言葉もありません』
「キュ(普通は頼らなくても気づくもんじゃがの)」
『もう、オリンったら旦那様の優しさに気づかないなんてダメね!』
「キュッ?(なにを~?)」
「はいはい、ストップ。管理者同士でいがみ合いはやめなさい。俺が思うにだ、君たちダンジョン管理者は、自分以外の運営手腕を参考にすることなく来ているから成長しないんだと思う。いかに自分が優れていても、アイディアは共有していかないと視野が狭くなっていくぞ?」
俺は人類がどのようにして知識を広め、共有することで得意分野を伸ばしていくかの歴史を紐解いた。
人間誰にだって得手、不得手はあるものだ。
俺が料理が得意なように、ヨッちゃんが魔法を得意なように。
オリンやジュリにも得意なこと、苦手なことはあるだろう。
常に完璧な存在などはいない。
いい点も悪い点もあるからこそ、協力していこうじゃ無いかと提案した。
大体はジュリのやる気を引き起こすための方便だ。
そのためにオリンに手の内を晒してもらうことになるが、同時にジュリのダンジョンのいくつかをオリンに運営してもらえればお互いにwin-winな関係じゃ無いか?
「キュ(確かにそれならば妾にも利点があるの)」
『意見交換会ですか、考えもしませんでした』
「俺はダンジョン運営においては素人もいいところ。実際には運営のなんたるかも分かっちゃいない。けどな、新人ドールに育成期間を設けさせることはいきなり命令させられて、ノルマを稼げと言うのはどうしても序盤で失敗を招く。失敗をするなという問題ではなく、ドールに自信を持たせてやりたい。試行錯誤させるのはそれからでもいいと思うんだが、どうだ?」
「キュ(必要ない、と言いたいところじゃが。痛いところをついてくるの)」
『本当にね。ダンジョン創造をする上での問題点。その一つがエネルギー不足による運営放棄。ドールの設定はこちらでできても、設定通りに動かないことなんてしょっちゅうなのですわ』
ダンジョン側も苦労の連続なんだろうなぁ。
なんか妙に親近感が湧いてきた。
「と言うことで、ここは新人ドールたちの教育施設として運営してみたらどうだ? 表に出す、出さないはジュリに任せるよ。もちろん俺はここのダンジョンに頻繁に顔を出すつもりだ。それでどうかな?」
『わたくしたちのことを思っての提案! 破り捨てることなんてできませんわ。ぜひそれでお願いします』
「キュ(妾も一枚噛ませてもらおうかの。ちぃとばかし、ジュリ殿の運営に疑問を抱いておったところじゃ)」
オリンは何か思惑がありそうな口調で述べた。
ジュリはまだ純粋な気持ちで受け止めてくれたのにこいつは……
まぁ、それだけ管理者にも個体差があるのだろう。
千差万別と言っていいものか。
利点と取るかどうかは本人たち次第だし、俺がこれ以上口出しするのもおかしいだろう。
あとはダンジョン管理者同士で話し合ってくれ。
その日は手当たり次第に加工を重ね、お土産を武蔵野支部に持ち帰った。
翌日。
「ポンちゃん、なにやら掲示板が騒がしいがまたなんかやったか?」
ダンジョンセンターで顔を合わせるなりそんな言葉をかけてくる卯保津さんに、俺はなんかしたっけと昨日の記憶を思い起こす。
当然、身に覚えはない。
なんせ配信もしてなければ飲み会もしてないのだ。
ジュリのダンジョン運営のやる気向上の提案をしたり、そのダンジョンで加工したのをオーク肉の加工品と誤魔化してみんなに配ったきりである。
見た目はうまいことソーセージに擬態させてたので大丈夫だろうと高を括ってたのだが……
「ほらみろ、動くソーセージとして話題急上昇だ。トピックにも載ってるぞ?」
ノートパソコンの画面を見せつけられ、俺はどこをみたらいいのか困惑しつつ、ヨッちゃんが画面の一部を指した。
「あとなんか知らないワードもあるな。なんだ? 適合食材貫通って」
「俺も詳しく知らんが、とある掲示板から拡散されて話題になってるらしいんだ」
「ちーっす! 三人してなんの話題?」
朝の仕込みを終えたので、うちに飛び込み修行をしにきたダイちゃんがノートパソコンを覗き込む。
「あちゃー、あれトピックにまで載っちゃったか」
「犯人はお前か!」
「わーちょっとたんま! 悪気はなかったんだ、許して!」
卯保津さんがダイちゃんの首根っこを捕まえて持ち上げる。
事情説明をしてもらい、その上でなにをやらかしたかを明かしてもらった。
内訳はこうだ。
昨日もらったお土産、どうみてもオーク肉じゃない。
ソーセージ化してるにも関わらず、動くのも妙だし、今更俺がオーク肉を絶賛するのも妙だ。
だからネットの有識者に聞いたのだそうだ。
そこまでは良かったが、途中で愉快犯と思われる人物があらゆる場所に拡散!
それからあれよあれよと俺の話題が一人歩きしてしまったのだそうだ。
一般探索者ならそこまで拡散されなかったが、北海道事変の英雄の一角ということで何かと世間を騒がせてるもんだから報道関係者の食いつきがすごかった、と。
そしてトピックに上がった『動くソーセージ』『適合食材貫通』『レベルアップ、ステータスが上昇するバグ食材の発見!』と繋がるらしい。
最悪なことに、ダイちゃん経由で芋蔓式に俺が疑われてるとかなんとか。
「これ、どうすんだ?」
「やっぱり秘密にしたい何かがあったのか?」
「実は、生まれたばかりのダンジョンを見つけまして。そこで採取した取得物を加工したものがこれなんですよね」
そう言って、乾燥させ切ったキノコを取り出す。
「これか!? え、この状態から動くのか?」
俺の説明にダイちゃんは興奮気味に寄ってくる。
「ダンジョンだぞ? そのキノコだってモンスターだ。野菜だって動く不思議な空間なんだからキノコだって動くに決まってんだろ」
「それもそうだな」
よし、ごまかせた!
「しかしダンジョンを発見したら報告するのが探索者の義務だ。それをあと回しにするのは失態を指摘されてもおかしくないぞ?」
「今日報告するつもりだったんですよ。昨日は疲れてて」
「まぁ、色々表に出すには爆弾な情報も含まれてるからな。英断だろうがこのバカのおかげで広まっちまってる。まぁ、あとは俺たちに任せな。場所を教えてもらえりゃ、お偉方に言い訳でもなんでもしてみせるさ」
俺はジュリのダンジョンがどこに出現するかをあらかじめ教えてもらっていたので、そこを教えた。
南緯47度9分、西経126度43分。
その位置に島などは存在せず、荒れ狂う海域のみが存在する。
その中央にこのダンジョンがあることを示せば、返ってくる言葉は決まって「どうやってそんな場所まで行ったのか?」である。
「実はオリンのワープに不具合が起きまして、たまたま出来立てのダンジョンと連結してしまったらしいんです。場所はDフォンのGPS機能で確認しました。救援を出してもらうのが難しい場所で、ならば俺たちに形に調査はできないかと加工を重ねて、お土産にしたのが昨日手渡したアレです。うまいのはうまいんですが、まさかそんなギミックがあったとはつゆ知らず……」
「そりゃ、明かしたところで誰も到達できんわな」
「いや、その場所へは武蔵野支部から経由して飛べるようにしましたので。危険度の調査も含めて武蔵野支部に任せてしまって大丈夫ですか?」
「また無知な報道陣の餌食になれっていうのか?」
「そこは卯保津さんの権限をフル活用してもらうとして」
「なら、そこでの成果物をノン加工で納品、あとはそのダンジョンの危険度調査をぽんちゃんに依頼、配信で流してもらおうか。そうすりゃ、バカは飛び込まないだろう」
あれ、それって結局俺たちへの負担がでかいやつでは?
「まぁ、そこに落ち着くのかね」
ヨッちゃんも仕方ないかって顔で頷いている。
「未知のダンジョンはそれだけで価値がありますからね! その上で管理ダンジョンに新しい場所が加わるのはここ、武蔵野市部の評価にもつながります! 私も調味料獲得に努めますので、洋一さんも一緒に頑張りましょう!」
えいえい、おー! と応援を送ってくれるクララちゃん。
これは断れない感じかな?
なんにせよ、これでジュリの抱えてた不良債権ダンジョンに活気が出てくるのなら、俺が手を貸さないわけもないか。
まぁ、あとは入れるダンジョンを全て武蔵野支部に押し付ければいいか。
クララちゃんも抱えるダンジョンが多いほど箔が作っていってたし。
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それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
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回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
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