ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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107話 久しぶりの飲んだくれ配信

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「カンパーイ!」

 ガチャンと上空でジョッキを打ち鳴らし、拍手を添えて以前までの和やかな飲み会配信を始める。

 総合ステータスがSSSになろうと、探索者ランクがSになろうと、北海道で英雄になろうと関係ない。

 これこそが俺たちの本来のセカンドライフなのだ。

「皆さん、お久しぶりです。ようやく暇な時間が取れたので、配信始めていきますよ」

「いよー!」

「普段はこんなノリでやってんのか?」

 今日のメンバーは俺、ヨッちゃん、飛び込み修行中のダイちゃん。

 場所は武蔵野支部のEランクダンジョンだ。
 俺たちのホームであり、魂の故郷でもある。

 <コメント>
 :これがこのチャンネルの趣旨なんで
 :ここからスタートしたんだよなぁ
 :まだ半年も経ってないんだが、本人達が有名になりすぎなんよ
 :そりゃ、北海道の英雄だもんな
 :最近忙しかったって、何してたの?
 :おい、こうして配信やってくれるだけでもありがたく思わなきゃ
 :そうだぞ、全国の空腹リスナーの救世主なんだから
 :だって、気になるじゃん

「特に隠すことでもないので大丈夫ですよ。実は数日ほどミィちゃんにお呼ばれしてどこかの国のダンジョンでご飯を振舞ってました。いろんな母国語を喋る方が多かったので、どこかはわからなかったんですけど、エメラルドが採掘できたのと、ドラゴンタイプのモンスターが非常に多かったですね。その日は現地の方の味覚に合わせて調理したんですが、俺としてはこいつの肉をもっと日本風にしたいと今回の枠を取りました」

 <コメント>
 :おい、待て
 :轟美玲主催?
 :相変わらずのミィちゃん呼び
 :不敬ですよ?
 :実際、総合ステも似たようなところまで上がってんでしょ
 :そういえば今幾つなんだっけ?

「総合ステですか? SSSありますけど、功績が微妙なんでランクはSから上がってないですねぇ」

 コメントに受け答えしながら、カメラは俺の手元を写す。

 炭火で炙られてる、一口サイズの肉達。
 俺たちはグリーンドラゴンと、エメラドゴーレムのソーセージをダイスカットしたもので串焼きを作っていた。

 <コメント>
 :毎度のことながら会話が入ってこないカメラロールやめろ
 :その煙浴びさせて!
 :待って、エメラルドが採掘できるダンジョンってタイのバンコクにあるSSダンジョンじゃね
 :そこ行って何食わぬ顔で素材確保してくる時点でSの範疇超えてんでしょ
 :これってなんのお肉?

「今回はグリーンドラゴンとエメラルドゴーレムの料理を仕込んでいきたいと思います。俺たちはこいつをつまみに一杯やろうと言う企みです。いつもの通り市場価格で販売しますので、購入予約はJDSさんからどうぞ」

「俺たちは味見レビュー係だな」

「俺はよく知らんが、各地のダンジョンセンターにも卸したらしいぞ? 値段は言わずもがなだ」

 <コメント>
 :それ絶対高いやつ!
 :こうなってくるとダイちゃんが羨ましいな
 :俺の身内もモーゼでポンちゃんに親しくしてればな
 :そんな偶然あるか?
 :該当するのが葛野洪海の時点でお察し
 :あいつが改心するルートは公式アペンドディスクにも存在しなさそう
 :わからんぞ? 二次創作ならワンチャン!
 :それどこの層に需要あるんだ?
 :これ誰が再走できるんだろ
 :お金持ちか実力者だろ
 :まずグリーンドラゴン君はダマスカス以下の硬度の武器を弾く硬い鱗を持っておってな
 :全てのブレスを無効化し、魔法は軽減
 :大体のドラゴンが持ってる特徴やな
 :それを当たり前のように捌ける時点で人外認定なんよ
 :料理できる人で、解体スキル持ち、その上で上位ランカーじゃなきゃ真似出来ない
 :いつの間にやら遠い存在になっちまったな

「自覚は薄いけど、やっぱり解体って無理なの? 現地の人が用意してくれたグリーンドラゴンは結構穴ボコだらけだったけど?」

「ポンちゃんは見るだけで部位破壊可能、そこに包丁を這わしてスパスパ切ってたもんな。現地の人たちあんぐりしてたぜ。料理人としか聞いおてなかったから、ポンちゃんの実力に度肝抜かれたんだと思う。オレ以上にすごくなりやがって、このこの!」

 ヨッちゃんも大概すごいやつ認定されてたと思うけど自覚ないんだろうなぁ。

 俺の解体した肉を片っ端から灰汁抜きするために熱湯に漬け込んだり、同時に炭火焼きやら襲いくるモンスターに対応したり大魔法の応酬で現地のマジックキャスターから称賛を浴びてた癖に。

 <コメント>
 :理解が追いつかないのだけはわかった
 :二人とも凄くなったんですねー
 :これで轟美玲ファンクラブが黙ってくれればいいが
 :今度は日本政府が黙ってないだろ
 :まぁ、囲い込みはしてくるだろうな

「俺たちを囲い込むほど窮地に瀕してるんですか? 日本経済」

「俺もそこらへんよく知らねぇ。そもそも低ステータスを弱者として切り離して運営してる奴らに従う理由もないけどさ」

「俺はアルバイト的存在だから国に食わしてもらってんだろって言われて頷くしかねぇが、ポンちゃんやヨッちゃんを説得できる立場にねぇからな」

「俺だったら、遠慮しちゃうな」

「オレもパス」

 <コメント>
 :だろうね
 :この二人は無欲だから
 :欲がないって言うより、国の指示であちこち飛びたくないって言うのが本音だぞ
 :Aランクまでは国の意向が通じるが、S以上になるとお抱えじゃない限り出動しないもんな
 :Sを囲いたい理由がそこ
 :戦力を余らせておきたくないのと、諸外国に舐められないための自衛なんやろ

「でも政治家にも元探索者がいるって聞くぞ? その人達が動けばいい話じゃない?」

 ジュー……パチパチ。
 炭火の上でじっくり火が通され、串を回した時に落ちた油で大きく火柱を上げる。

 それによってさらに肉が焦がされていく描写がカメラいっぱいに写ってる。

 もうだいぶ食べごろだが、まだ脂身は多いのでこいつをタレに漬け込んで油をよく落とす。

 そして再度網の上で……ジュー。

 <コメント>
 :あっ あっ
 :もうこの画像だけで白飯掻き込める!
 :カシュッ
 :カシュッ
 :早い早い早い! まだ始まって十分も経ってないぞ?
 :みんな今頃開けたのか? 俺はもう三本目だぜ
 :できることならその煙を嗅ぎたい!
 :無理だとわかっててもそう願いたい気持ちもわかる
 :買えば破産確定だからな
 :グリーンドラゴンなんて珍味中の珍味やろ
 :まず捌ける奴がいないって前提条件がつくからな
 :これでSSなの本当に頭おかしい
 :まだ強さ的に上がいるってことだろ? 
 :解体できなくても、殺せるからなぁ
 :それを食おうってやつはそれ以上の実力持ってなきゃ不可能なわけで

 リスナー達がアルコールのプルタブを勢いよく開けるコールが響いたところで、カメラはもう一つの厨房に移り変わる。

 それは中華鍋に油が引かれた場面。
 これからグリーンドラゴンから抽出された油でチャーハンを炒めようと言う寸法だ。

 ここ数日高級メニューばかり口に入れてたのもあり、こういった大衆飯を腹が求めている。

 カンカンに熱が入った中華鍋にグリーンドラゴンの油を注ぎ、そこに大量の卵を入れる。

 次に炊いて十数分寝かした白飯を投入、お玉で卵と合わせながら中華鍋を振るう。

 米粒一つ一つをこぼさぬように細心の注意を払ってそこでいくつかの調味料を合わせた。
 今回は安全圏なのもあり、クララちゃんも移動可能だ。

 なのでこのチャーハンはクララちゃんの好物であるゴールデンゴーレムのカレースパイスを振りかける。

 カレー味にするのではない、わからないくらいに微量に、味付けの背骨としての役割を担ってもらう。

 ほのかに香るカレースパイスが、塩、胡椒、焦がした醤油と混ざり合い、独特の旨み成分を抽出。
 ここに刻んだエメラルドゴーレムの干し肉を合わせ、グリーンドラゴンの油でさらに米に焦がし面を作り上げて完成。

 時間にしてものの数分だが、中華はよそ見する暇がないくらいに一魂注入なので仕方ない。

 それをおたまに掬ってさらに盛り付けるだけで飲兵衛仲間から拍手が上がった。

「もう匂いだけでビールが進む」

「中華って油臭いイメージがあるけど、これは普通にうまそうなのが不思議だ」

「そりゃどうも。ってことで早速試食会と行こうか」

「ヒュー」

「そいつを待ってました!」

 上がる喝采。
 チャーハンと焼き鳥というアンバランスな組み合わせだったが、コメント欄ではシンプルなメニューだからこそ、素材のランクを落とした再送者が賑わった。

 <コメント>
 :途中で入れたスパイスってなんですか?

「ゴールデンゴーレムスパイスだね。カレースパイスで代用できるよ」

 <コメント>
 :躊躇なくお高いものをぶち込みやがってぇ
 :あれ、市場に出回らないんだよなぁ
 :大体の人が換金目当てであそこに潜るからな
 :最終目標=金の奴らが多いところで躊躇なく調味料に変える人はこの人達だけだ
 :だからこそ、その先にある味わいを俺たちは知ることができないっついー
 :もし加工する人が増えても、買えない奴らはどうしても出るが
 :一粒金貨一枚とかいつの時代だよ
 :実際それぐらいの価値があるんだろうな
 :うまいもの食い慣れてるやつがこぞって買い込むだけの調味料なんだろう
 :ポンちゃん達も料理より酒! って感じだけど
 :本当に美味いものを口にしたら酒そっちのけで食うから
 :で、これは?
 :掻き込む時点でお察し
 :ちょっと代用品で追走してくる
 :俺もちょっと中華鍋に火を入れるかな?
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