105 / 173
105話 海外への進出
しおりを挟む
数日間の休暇を経て、俺のDフォンにミィちゃんから依頼があった。
今まで立て込んでいた要件が全て終わったので、これから滞りなく呼べるようになったのだという。
「何か裏で手を回してくれてたんだって?」
『こちらで用意していたのは確かにありましたが、洋一さんは全て自分で解決してしまったので、サプライズし損ねました』
とのこと。
どうも俺たちがすんなりAからSになる手筈を整えてくれていたのだそうだ。
それは悪いことをした。
Sに上がるのにはそれなりの信用を得なければならないらしく、中には世界のSランクから腕前を認めてもらうなどのコネも必要だったらしい。
俺はそんな理屈も知らないでSになっちゃったからね。
「でも、おかげさまでSまでたどり着けたよ。当日が楽しみで仕方ない。その日までにたっぷり調味料を仕込んでおくね」
『食材の方は仕込んでおかなくて大丈夫なんですか? 結構日本ダンジョンのモンスター食を楽しみにされてるメンバーも多いので』
「それは注文すればお取り寄せできるからね。それともダンジョンの地域が変わればモンスターの種類も変わるのかい?」
『そう言うわけではありませんが、私の好物はどうも日本にしか生息してない希少なモンスターらしくて』
そうなんだ? じゃあ同じ適合食材を持つヨッちゃんも同様か。
なんでわざわざ日本にまで食べにきていたのか納得する。
モンスターそのものがレアだったのか。それは思いもよらなかった。
「なら事前に大量に仕入れておくよ」
『お手数をおかけしてごめんなさい』
「いいのいいの、ウチのヨッちゃんも適合食材それだし。ついでみたいなものさ」
『あたしのほうがついで……ですか?』
妙な言い回しをするなぁ。
「ヨッちゃんの好物を回収するついでに多く仕込んでおく、と言うのは理由にならないかな? それともミィちゃんのためにたくさん用意しようか?」
『─────!』
こうやって直接的に言うと固まっちゃうのは他ならぬ彼女の方なのにね。
「じゃあいろんなレパートリーをヨッちゃんを実験台にして増やしておくよ、楽しみにしててね」
『ふぁい……』
結局脳内で処理できずに普段の彼女らしさが消えちゃうんだよね。
一体俺のどこにそんな魅力があるのやら。
好かれてるのは、まぁ嬉しいんだけどさ。
Sランクに登って、少しは釣り合いが取れてたらいいんだけど。
ダンジョンセンターに寄ると、ジュリがすっかり窓口のアイドルとしてもてはやされていた。
『旦那様! どうです? 私の人気っぷりは。すっかり人々をたらしこめてますよ?』
褒めて欲しそうに俺の足元に擦り寄った。
拾い上げ、定位置に乗せる。
すっかり俺の頭の上がお気に入りだ。
重くはないが、周囲からの視線がやけに気になる。
「あ、猫ちゃん……」
新人なのだろう探索者は、俺の頭にさっきまで愛でていた猫が移動してしまったことを悲しそうに見送った。
さっきまで自分の手元にいたのに、俺が現れるなり手元から離れてしまった事実を認めたくないといった感じだ。
「ウチのジュリを可愛がってくれてありがとうな」
『ご主人様、私の入念なリサーチで、この地域の特殊加工スキル持ちに唾をつけておきました。これで彼ら彼女らがスキルを使う度に私たちにエネルギーが回ってくる仕組みを作り上げました。すごいでしょう?』
こいつ、余計なことを。
どうやら尻尾を振っていた相手は高確率で加工スキル持ちとのことだ。
縄張り的な感覚でダンジョンの都合を押し付けるんじゃありません!
「ちょっと用事ができたからジュリも回収しようとおもったけど、そういえばジュリは探索に必要なかったことを思い出してな。愛でてくれるのを続行してくれて構わないよ」
「いいの!?」
『ちょっとご主人様!? ギニャー!』
唾をつけたであろう探索者にもミクチャにされながらジュリをその場に置き去った。
近くにいても、遠くにいても面倒なことをするやつだ。
これはオリンが信用をおかないのもよくわかる。
君はそこで反省してなさい。
それとなくクララちゃんに身体の様子に変化がないかをチェックしに行く。
将来有望な探索者のスキルも気にはなるが、今はお得意さんのクララちゃんの安全確保が第一だった。
「クララちゃん」
「あ、洋一さん。すっかり人気者ですね」
「人気なのは俺じゃなくてウチの新入りっぽいけどね」
「北海道で拾った白猫ですっけ? なぜか特定の人物に懐く傾向にあるようですが」
「あれはどうも加工スキル持ちにのみ反応するようだ。俺に懐いてるのもそれが原因。クララちゃんのところにも来なかった?」
「きました。たっぷりゴロニャンした後、一気に冷めたみたいに違う人の方にトトトと去ってしまったので」
「きっと匂いでも擦り付けにきたんだろうな。それ以降体調の変化とかない? スキル使用中に妙に疲れるとか」
「特にはないです。なんだったら妙に使用回数の回復が早くなってたりですかね?」
むしろいい事づくめだと彼女は述べた。
ただ、どうしてそんな白猫が存在するのかを咎められてしまい、俺は洗いざらい白状した。
ただしジュリがメタルゴーレムの系統であることだけは伏せて。
彼女はゴールデンゴーレムの一件以来、適合食材確保に躍起になっているのを知っているからね。
獲得しても俺達以外の全員が換金一択。
なんせ末端価格百万だ。
それを目的としてダンジョンに潜ってる人がほとんどである。
それをわざわざ調味料に変える物好きはクララちゃんか俺達くらいしかいない。
そんな状況で語れば、加工一択になってしまう。なのでその正体は明かさないことにした。
「では、オリンの同類だと?」
「うん、それも厄介なことに相当上位の存在で。その上放任主義らしいんだ」
「なんだかあちこちで問題を振り撒きそうな迷惑な存在みたいですね」
「北海道の件ですら、小規模のボヤで揉み消せる案件ぐらいに思ってるレベル」
「アレをですか?」
「俺が英雄だなんて担ぎ上げられる事件ですら、テレビの向こうのお話くらいの感覚だからね。問い詰めたところで私はやってない、部下の暴走だみたいな言い訳ばかりでさ」
「そんなの、仕事ができない人の典型じゃないですか!」
すっかりこっちの業界に染まったクララちゃんは業務中の卯保津さんを見ながら言った。
「おい、なんで俺を見るんだよ。なぁ?」
「なんでもないです支部長、仕事しててください」
「そりゃないだろう。ポンちゃんからも何か言ってやってくれよ。最近クララが冷たいんだ」
卯保津さんを片手で追い払って、話を続けるクララちゃん。
なんだかすっかり上下関係が変わってるように思う。
気のせいか?
「そう言うわけだからさ、ジュリを見張っておいてくれないか? あいつの悪戯の規模は世界クラスだ。何かあってからじゃ遅いと思ってる。それがこのダンジョンセンターを皮切りに巻き起こされたら、目も当てられない」
「そう言う事情でしたら、お任せください。私はそれなりにこの支部で顔が売れてますからね。最近受付も始めるようになりまして」
「なら、数人ジュリに気に入られてる探索者がいるようだから気にかけてあげて」
「わかりました。洋一さんの帰る場所を絶対に荒らさせたりはしません! 全てこのクララにお任せを!」
んん? なんだか妙な言い回し。
ミィちゃんに続いてクララちゃんまで一体どうしたんだ?
「キュ(すまぬのぉ、ジュリ殿の暴挙を止められぬで)」
肩に乗ってたオリンが囁く。
今まで不動だったのに、ダンジョンに入るなり急にだ。
理由を聞けば、唖然とする。
なんとジュリは日本列島を一時的にダンジョンとして占有、その上でどこかで加工スキルが使われたら察知して世界中を飛び回ってるようだ。
最終的には俺が補うエネルギーを他所から引っ張ってこようと言う企み。
その上で各地に広がる隠れ加工スキル持ちをサーチ、拾い上げるなりしてエネルギー取得難易度を下げようと企んでいた。
オリン曰く、巡り巡って全て俺のためらしい。
なら、事前に相談でもなんでもしてくれりゃいいのに。
「キュー(あのお方は一番殿しか上におらんでな。人の命令を基本的に聞かん。なんなら指示を出す側特有の傲慢さまで持ち合わせておる。生まれるのが早すぎたんじゃな)」
自分だったらもっとうまくやれるといわんばかりの態度である。
まぁ、反面教師にしたって限度があるもんな。
そりゃ信頼できないか。
「なんだかそうやって聞くとダンジョン側も大変なんだなぁ。これ以上暴走を始める前に、少しだけエネルギーを稼いでおくか」
「キュ(それで止まってくれたらいいんじゃがのぅ)」
オリンは一抹の不安を抱えるようにキュッと鳴いた。
そして迎えた全世界出張屋台サービスの日。
俺たちは見知らぬ土地の見知らぬダンジョン内へと呼び込まれていた。
そこには傷だらけのモンスターが転がっており、サイズは見上げる程。
『早速こいつの料理を頼むぜ』
『あんたの腕前はミレイから聞いてる。今日はうまい飯を食わせてくれるって聞いて張り切りすぎちまってな』
その結果が目の前のこれらしい。
お互いに言語が異なるので、全ての会話を拾うことはできないと思っていたが杞憂だった。
それというのも事前にミィちゃんから手渡されていたヘッドセットマイク。
これらを装着してる同士は言語系統に違いがあっても、即座にコミュニケーションが交わせるのだそうだ。
教育を怠った成り上がりの探索者は世界的に多く、まさに俺にうってつけのアイテムだった。
数ヶ国語をマスターしてる探索者もいるようだが、スラングも含めると聞き取るのが難しく、結局これに頼ってる人がほとんどだという。
「キュ(あれはグリーンドラゴンじゃのう。SSランクといったところか)」
「早速調理に移りたいと思います。その前に好きな料理をおっしゃってください、できるだけ近いものを仕上げるようにしますので」
包丁は添えるだけ、目視による斬撃がドラゴンを解体する。
刃物を使わないからこそできる、理想の解体作業。
使いすぎると眼精疲労が蓄積する一方だが、合間に食事を挟むだけで回復するのでつまみ食い推奨。
味を見るのにどうしてもつまみ食いはするので、俺にとっては都合のいい能力だ。
『ホワッツ!? 目の前でこうも解体されていくと、俺たちの苦労が水の泡だな、こりゃ』
『おいおい、ミレイ。あんたの切り札はとんでもない実力なんじゃないか? Sになったばかりとは思えない実力だぜ!』
『こんなのが在野に転がってるだなんてちょっと俄かには信じられないわ』
マイクの向こうではざわめきが聞こえる。
なぜかミィちゃんは得意げだ。
なら失望させないために俺の方も頑張りましょうかね。
「ヨッちゃんは輪切りにしたそいつを湯にぶち込んで臭み消し。オリンは尻尾肉を血抜きしておいてくれ。俺は骨を煮詰めて出汁を取りながら片手間に加工してくから」
「オッケー」
「キュ(任せておれ)」
見上げるほどに積み上げられたモンスターの死体は瞬く間にその場から消え去った。
こういう風景こそ、カメラに収めるべきなのだが、流石にカメラをNGにしてる探索者も多いので、こういうところでは回さないようにした。
探索者は自分の手の内を明かさない。カメラを嫌う探索者の多くは、手の内を暴かれるのを恐れているのだそうだ。
俺は別に気にならないんだけど、だからって押し付けは良くないもんな。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
結局俺の解体技術に驚くばかりで料理の候補が上がらなかったので、好き勝手に調理した。
煮つけ、天ぷら、フライ、ラーメン、うどん、そば、ステーキ。
凝った料理もいくつかだしたが、食いつきは悪かった。
「どれもこれも本当に美味しいわ。でも、残念なことに彼らはジャンクフードの方が得意みたい」
ミィちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ジャンクフードにあまり覚えはないが、フライやハンバーガー、ステーキなどと言われたのでそれを提供する。
そして酒の肴だ。
これは種類問わずに飛びつく人が多かった。
日本酒は飲みつけないが、ビールやウィスキーは飛ぶように売れた。
中でもマンドラゴラ酒は大変珍しがられた。
正体を明かした後の盛り上がりようは今でも忘れられない。
霊薬の材料を酒にかえる富井さんは彼らの中で新たな伝説を作っていた。
今まで立て込んでいた要件が全て終わったので、これから滞りなく呼べるようになったのだという。
「何か裏で手を回してくれてたんだって?」
『こちらで用意していたのは確かにありましたが、洋一さんは全て自分で解決してしまったので、サプライズし損ねました』
とのこと。
どうも俺たちがすんなりAからSになる手筈を整えてくれていたのだそうだ。
それは悪いことをした。
Sに上がるのにはそれなりの信用を得なければならないらしく、中には世界のSランクから腕前を認めてもらうなどのコネも必要だったらしい。
俺はそんな理屈も知らないでSになっちゃったからね。
「でも、おかげさまでSまでたどり着けたよ。当日が楽しみで仕方ない。その日までにたっぷり調味料を仕込んでおくね」
『食材の方は仕込んでおかなくて大丈夫なんですか? 結構日本ダンジョンのモンスター食を楽しみにされてるメンバーも多いので』
「それは注文すればお取り寄せできるからね。それともダンジョンの地域が変わればモンスターの種類も変わるのかい?」
『そう言うわけではありませんが、私の好物はどうも日本にしか生息してない希少なモンスターらしくて』
そうなんだ? じゃあ同じ適合食材を持つヨッちゃんも同様か。
なんでわざわざ日本にまで食べにきていたのか納得する。
モンスターそのものがレアだったのか。それは思いもよらなかった。
「なら事前に大量に仕入れておくよ」
『お手数をおかけしてごめんなさい』
「いいのいいの、ウチのヨッちゃんも適合食材それだし。ついでみたいなものさ」
『あたしのほうがついで……ですか?』
妙な言い回しをするなぁ。
「ヨッちゃんの好物を回収するついでに多く仕込んでおく、と言うのは理由にならないかな? それともミィちゃんのためにたくさん用意しようか?」
『─────!』
こうやって直接的に言うと固まっちゃうのは他ならぬ彼女の方なのにね。
「じゃあいろんなレパートリーをヨッちゃんを実験台にして増やしておくよ、楽しみにしててね」
『ふぁい……』
結局脳内で処理できずに普段の彼女らしさが消えちゃうんだよね。
一体俺のどこにそんな魅力があるのやら。
好かれてるのは、まぁ嬉しいんだけどさ。
Sランクに登って、少しは釣り合いが取れてたらいいんだけど。
ダンジョンセンターに寄ると、ジュリがすっかり窓口のアイドルとしてもてはやされていた。
『旦那様! どうです? 私の人気っぷりは。すっかり人々をたらしこめてますよ?』
褒めて欲しそうに俺の足元に擦り寄った。
拾い上げ、定位置に乗せる。
すっかり俺の頭の上がお気に入りだ。
重くはないが、周囲からの視線がやけに気になる。
「あ、猫ちゃん……」
新人なのだろう探索者は、俺の頭にさっきまで愛でていた猫が移動してしまったことを悲しそうに見送った。
さっきまで自分の手元にいたのに、俺が現れるなり手元から離れてしまった事実を認めたくないといった感じだ。
「ウチのジュリを可愛がってくれてありがとうな」
『ご主人様、私の入念なリサーチで、この地域の特殊加工スキル持ちに唾をつけておきました。これで彼ら彼女らがスキルを使う度に私たちにエネルギーが回ってくる仕組みを作り上げました。すごいでしょう?』
こいつ、余計なことを。
どうやら尻尾を振っていた相手は高確率で加工スキル持ちとのことだ。
縄張り的な感覚でダンジョンの都合を押し付けるんじゃありません!
「ちょっと用事ができたからジュリも回収しようとおもったけど、そういえばジュリは探索に必要なかったことを思い出してな。愛でてくれるのを続行してくれて構わないよ」
「いいの!?」
『ちょっとご主人様!? ギニャー!』
唾をつけたであろう探索者にもミクチャにされながらジュリをその場に置き去った。
近くにいても、遠くにいても面倒なことをするやつだ。
これはオリンが信用をおかないのもよくわかる。
君はそこで反省してなさい。
それとなくクララちゃんに身体の様子に変化がないかをチェックしに行く。
将来有望な探索者のスキルも気にはなるが、今はお得意さんのクララちゃんの安全確保が第一だった。
「クララちゃん」
「あ、洋一さん。すっかり人気者ですね」
「人気なのは俺じゃなくてウチの新入りっぽいけどね」
「北海道で拾った白猫ですっけ? なぜか特定の人物に懐く傾向にあるようですが」
「あれはどうも加工スキル持ちにのみ反応するようだ。俺に懐いてるのもそれが原因。クララちゃんのところにも来なかった?」
「きました。たっぷりゴロニャンした後、一気に冷めたみたいに違う人の方にトトトと去ってしまったので」
「きっと匂いでも擦り付けにきたんだろうな。それ以降体調の変化とかない? スキル使用中に妙に疲れるとか」
「特にはないです。なんだったら妙に使用回数の回復が早くなってたりですかね?」
むしろいい事づくめだと彼女は述べた。
ただ、どうしてそんな白猫が存在するのかを咎められてしまい、俺は洗いざらい白状した。
ただしジュリがメタルゴーレムの系統であることだけは伏せて。
彼女はゴールデンゴーレムの一件以来、適合食材確保に躍起になっているのを知っているからね。
獲得しても俺達以外の全員が換金一択。
なんせ末端価格百万だ。
それを目的としてダンジョンに潜ってる人がほとんどである。
それをわざわざ調味料に変える物好きはクララちゃんか俺達くらいしかいない。
そんな状況で語れば、加工一択になってしまう。なのでその正体は明かさないことにした。
「では、オリンの同類だと?」
「うん、それも厄介なことに相当上位の存在で。その上放任主義らしいんだ」
「なんだかあちこちで問題を振り撒きそうな迷惑な存在みたいですね」
「北海道の件ですら、小規模のボヤで揉み消せる案件ぐらいに思ってるレベル」
「アレをですか?」
「俺が英雄だなんて担ぎ上げられる事件ですら、テレビの向こうのお話くらいの感覚だからね。問い詰めたところで私はやってない、部下の暴走だみたいな言い訳ばかりでさ」
「そんなの、仕事ができない人の典型じゃないですか!」
すっかりこっちの業界に染まったクララちゃんは業務中の卯保津さんを見ながら言った。
「おい、なんで俺を見るんだよ。なぁ?」
「なんでもないです支部長、仕事しててください」
「そりゃないだろう。ポンちゃんからも何か言ってやってくれよ。最近クララが冷たいんだ」
卯保津さんを片手で追い払って、話を続けるクララちゃん。
なんだかすっかり上下関係が変わってるように思う。
気のせいか?
「そう言うわけだからさ、ジュリを見張っておいてくれないか? あいつの悪戯の規模は世界クラスだ。何かあってからじゃ遅いと思ってる。それがこのダンジョンセンターを皮切りに巻き起こされたら、目も当てられない」
「そう言う事情でしたら、お任せください。私はそれなりにこの支部で顔が売れてますからね。最近受付も始めるようになりまして」
「なら、数人ジュリに気に入られてる探索者がいるようだから気にかけてあげて」
「わかりました。洋一さんの帰る場所を絶対に荒らさせたりはしません! 全てこのクララにお任せを!」
んん? なんだか妙な言い回し。
ミィちゃんに続いてクララちゃんまで一体どうしたんだ?
「キュ(すまぬのぉ、ジュリ殿の暴挙を止められぬで)」
肩に乗ってたオリンが囁く。
今まで不動だったのに、ダンジョンに入るなり急にだ。
理由を聞けば、唖然とする。
なんとジュリは日本列島を一時的にダンジョンとして占有、その上でどこかで加工スキルが使われたら察知して世界中を飛び回ってるようだ。
最終的には俺が補うエネルギーを他所から引っ張ってこようと言う企み。
その上で各地に広がる隠れ加工スキル持ちをサーチ、拾い上げるなりしてエネルギー取得難易度を下げようと企んでいた。
オリン曰く、巡り巡って全て俺のためらしい。
なら、事前に相談でもなんでもしてくれりゃいいのに。
「キュー(あのお方は一番殿しか上におらんでな。人の命令を基本的に聞かん。なんなら指示を出す側特有の傲慢さまで持ち合わせておる。生まれるのが早すぎたんじゃな)」
自分だったらもっとうまくやれるといわんばかりの態度である。
まぁ、反面教師にしたって限度があるもんな。
そりゃ信頼できないか。
「なんだかそうやって聞くとダンジョン側も大変なんだなぁ。これ以上暴走を始める前に、少しだけエネルギーを稼いでおくか」
「キュ(それで止まってくれたらいいんじゃがのぅ)」
オリンは一抹の不安を抱えるようにキュッと鳴いた。
そして迎えた全世界出張屋台サービスの日。
俺たちは見知らぬ土地の見知らぬダンジョン内へと呼び込まれていた。
そこには傷だらけのモンスターが転がっており、サイズは見上げる程。
『早速こいつの料理を頼むぜ』
『あんたの腕前はミレイから聞いてる。今日はうまい飯を食わせてくれるって聞いて張り切りすぎちまってな』
その結果が目の前のこれらしい。
お互いに言語が異なるので、全ての会話を拾うことはできないと思っていたが杞憂だった。
それというのも事前にミィちゃんから手渡されていたヘッドセットマイク。
これらを装着してる同士は言語系統に違いがあっても、即座にコミュニケーションが交わせるのだそうだ。
教育を怠った成り上がりの探索者は世界的に多く、まさに俺にうってつけのアイテムだった。
数ヶ国語をマスターしてる探索者もいるようだが、スラングも含めると聞き取るのが難しく、結局これに頼ってる人がほとんどだという。
「キュ(あれはグリーンドラゴンじゃのう。SSランクといったところか)」
「早速調理に移りたいと思います。その前に好きな料理をおっしゃってください、できるだけ近いものを仕上げるようにしますので」
包丁は添えるだけ、目視による斬撃がドラゴンを解体する。
刃物を使わないからこそできる、理想の解体作業。
使いすぎると眼精疲労が蓄積する一方だが、合間に食事を挟むだけで回復するのでつまみ食い推奨。
味を見るのにどうしてもつまみ食いはするので、俺にとっては都合のいい能力だ。
『ホワッツ!? 目の前でこうも解体されていくと、俺たちの苦労が水の泡だな、こりゃ』
『おいおい、ミレイ。あんたの切り札はとんでもない実力なんじゃないか? Sになったばかりとは思えない実力だぜ!』
『こんなのが在野に転がってるだなんてちょっと俄かには信じられないわ』
マイクの向こうではざわめきが聞こえる。
なぜかミィちゃんは得意げだ。
なら失望させないために俺の方も頑張りましょうかね。
「ヨッちゃんは輪切りにしたそいつを湯にぶち込んで臭み消し。オリンは尻尾肉を血抜きしておいてくれ。俺は骨を煮詰めて出汁を取りながら片手間に加工してくから」
「オッケー」
「キュ(任せておれ)」
見上げるほどに積み上げられたモンスターの死体は瞬く間にその場から消え去った。
こういう風景こそ、カメラに収めるべきなのだが、流石にカメラをNGにしてる探索者も多いので、こういうところでは回さないようにした。
探索者は自分の手の内を明かさない。カメラを嫌う探索者の多くは、手の内を暴かれるのを恐れているのだそうだ。
俺は別に気にならないんだけど、だからって押し付けは良くないもんな。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
結局俺の解体技術に驚くばかりで料理の候補が上がらなかったので、好き勝手に調理した。
煮つけ、天ぷら、フライ、ラーメン、うどん、そば、ステーキ。
凝った料理もいくつかだしたが、食いつきは悪かった。
「どれもこれも本当に美味しいわ。でも、残念なことに彼らはジャンクフードの方が得意みたい」
ミィちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ジャンクフードにあまり覚えはないが、フライやハンバーガー、ステーキなどと言われたのでそれを提供する。
そして酒の肴だ。
これは種類問わずに飛びつく人が多かった。
日本酒は飲みつけないが、ビールやウィスキーは飛ぶように売れた。
中でもマンドラゴラ酒は大変珍しがられた。
正体を明かした後の盛り上がりようは今でも忘れられない。
霊薬の材料を酒にかえる富井さんは彼らの中で新たな伝説を作っていた。
12
お気に入りに追加
533
あなたにおすすめの小説
追放されたら無能スキルで無双する
ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。
見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。
僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。
咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。
僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる