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103話 東京観光(会員制レストラン・一期一会)
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それは初めての体験。
これがレストランモーゼの目指した究極のサービスなのだと実感する。
まず案内された席が個室。
無論、狭いと言うことはなく十分な広さが確保されており、目を引く調度品も備え付けられている。
まるで高級ホテルのラウンジに通されたような安心感。
全てのものがピカピカに輝いているが、それは黄金があしらえられているのではなく、丁寧に磨き上げられた掃除が行き届いてる結果だと知る。
「なんかすげーな、金のかけ方がモーゼと別次元だ」
「でも結局料理の方が美味くなきゃだよな」
見ていてワクワクするのは景色だけではない。
テーブルや椅子も質素ながら客の要望を全部取り揃えたようなサービスが充実していた。
テーブルの中央に大型モニターが設置されており、そこから追加注文が可能になっている。
また、トイレは各室内に二つ完備されており、トイレまで迷わず行ける気軽さ。
トイレの横にはシャワー室まで完備しており、もうここに住めんるんじゃないかと言うほどの充実ぶりを見せていた。
「早速気に入ってくれたみたいだな。だがうちが料理屋だってことを忘れてもらっちゃ困るぜ? 過去にモーゼでできなかったことを全て再現したのがこの店だ。そして強力な助っ人を加入させての再出発。今まで以上の食事の提供が可能になったんだ」
そう言いながら最初に持ってきたのが抹茶と大福だった。
今まで散々レストランのフルコースを食べてきたので、こう言ったお通しは初めてのこと。
「なんかシンプルなものが出てきたなぁ、いや、嫌いじゃないんだけど」
「和菓子かぁ」
「そういえば虎八の先代を引き入れたと言ってたよね。つまりここは和菓子も本格的ってことだ」
「じゃあ、こんな見た目で相当な高級品ってことか?」
「虎八は羊羹が最高にうめーんだよな。次にどら焼き。そういえば大福はまだ食ったことなかったよな」
「いただこうか」
まずは喉を潤す目的で抹茶に手をつける。
口に入ってくる強い苦味が。
あれ、この味どこかで?
どこかで口にしたあの濃厚な苦味が口の中で溢れかえる。
続いて大福を頬張り、口内で堪能する。
抹茶の苦さが餡子の甘味で中和され、そこに加わる求肥のもっちり感で一体化する。
「あ、これ。あの時虎八さんが置いてった羊羹のアレンジだ。ほら、新種の苔スライムのパウダーがあったろ? あれが抹茶に使われてるんだ」
抹茶と大福を往復するたびに口の中が幸せになっていく。
「あークララちゃんが加工した調味料の一つだったな? ポンちゃんが俺に食わせてくれた」
「くっそうめぇ! 和菓子って今までそこまで注視してなかったけど、なんだこのうまさは! 甘いものはそんなに得意じゃなかったけど、これならお土産にいいな!」
ヨッちゃんやダイちゃんも絶賛してる。
最初こそ見た目で騙されたのに今ではすっかりその味の虜になっていた。
「ただ美味しいだけじゃないぞ、これ。主原料のほとんどがモンスター素材になってる」
「甘味にスライムシュガーが使われてるって言いたいのか?」
「それにゴーストソルトだ。ここまで見事に調和されてるのは初めてだ」
自分で扱ってきた調味料だからこそ、わかる。
本当に少量、味を引き締めると言う目的のために使われてる。
小豆特有の甘さの中に光るゴーストソルトが引き締め役に一役買ってるんだ。
これを入れなくたって完成されてる味に、あえて盛り込むことで適合食材を求める若者にアピールしてるんだな。
そういえばここ最近甘味からの若者離れを憂いていたもんな。
ちょっとした工夫だけど、その効果は大きいようだ。
「モーゼ以外もどんどんモンスター食材を投入してったってことか。でもモーゼではモンスターの加工肉オンリーでなんの手間もかかってない?」
「調理はされてたけど、それは完成されたレシピの模倣で、オリジナリティは少ないと感じたね」
「ここは最初っから変化球でオリジナリティをぶん投げてくるってわけか」
「一つの料理だけで勝負するつもりはないって言い切られて次に何が出てくるのかワクワクするよな」
「確かにそれはあるな」
続いて持ち込まれたのはシンプルにスープだ。
ただし透き通る透明感に黄金の輝きを見せている。
皿の上には一才の具材が見当たらない。
カトラリーにはなぜかスプーンの他にフォークとナイフまで添えられている。
「大福は堪能してくれたようだな。じゃあ次はこいつだ」
ただのスープなんてここにきて持ち込むだろうか?
全員かスープを凝視すると、何かがスープ内でパシャリと波打った。
「おい、これ何か入ってるぞ?」
「俺も確認した」
「スープなのにフォークとナイフが付いてる時点でわかるだろ。目に見えない肉料理だよ!」
「何はともあれ食ってみるか」
正体はあっさりと割れる。
これは空ウツボの活け作りだ。
神経を切らずに刺身にして、冷静スープの中に沈めたのだ。
スープの中からは酒に浸した肝の旨みと苦味が感じられ、ほのかに魚卵も混ざっている。
刺身の方はまだ神経が残っているのか、クニクニとした食感が心地よい。
実物が見えないからこそ、スープだけかよという肩透かしを回避させられる。
刺身の方はスープと合わせて口に運ぶことで完成するタイプだ。
俺含め、みんながスープ内を逃げ回る刺身を逃すまいと格闘した。
結局スープを飲み切るまで心の安らぐ時間は訪れなかった。
「うまいけど、変に焦らされたよな」
「もっと早く言えっての。スープを結構な量こぼしちまったよ、もったいねー」
ヨッちゃんは好物が意外な形で出てきたので、堪能しきれなかったことを嘆いている。
「これは見事だったな。さっきの大福の時の肩透かしをもう一度体験させられるとは思わなかった」
「そういえば、フルコースだとスープってあんまり魅力感じないもんな」
ダイちゃんが先ほど立ち寄った越智間さんの店での体験を語る。
そうかな? そうかも。
所詮はスープ。
肉のお供という感覚だ。
喉が渇いたから飲むというよりは、液状まで加工した食材の味を堪能するものだ。
本来はここまで夢中になるようなものではない。
でもメインはスープで刺身はスープの具だと思えば調和は完璧だった。
本当にここは次に何が出てくるかわからないびっくり箱のような体験をさせてもらってる。
「親父はきっと、こんな荒唐無稽さに惚れ込んだんだろうな」
「味も全部一流だった。ちょっと意地悪な仕掛けが後出しで提供されるだけで」
「本当に次は何が出るんだ?」
皆がワクワクとした。
ちょっと小腹を満たす気持ちでいたのに、いつしかガッツリ食う気で次の食事を待ち望んだ。
「スープで苦戦してるようじゃ先が思いやられるな」
「じゃあ先にメニューを言うなりしてくださいよ」
「うちはその時ある食材で最高の一品を作り上げる店だからな。メニューなんてねーよ。それと具材もそれぞれだ。コースプランによって代金が変わるんだ」
「それで店として成立するんですか?」
「名目上はな。だからフランス料理でもなく、イタリア料理でも、日本料理でも中華料理でもない。ダイニングレストラン通してる。要はキッチン、調理場だな。そこでコースに合わせてその時の最高傑作を出す。それがウチ流よ!」
それはまるで、俺に道を示してくれるような条件だった。
「本当に、何が出てくるのかわからないびっくり箱のようなお店ですね」
「洋一、本当はお前も誘いたかったんだけどな。いつの間にか雲の上の存在になっちまってよ」
「俺だって、ここで修行させてもらえたらどれだけレベルアップできるかわかりません。けれど、もう……」
「皆まで言わなくたってわかるよ。もう最高の仲間を見つけちまったんだろ? だから引き込めないとわかった上で言ったんだ。ずいぶん立派になったな。配信でお前のことをずっと見守ってた。お前はもう免許皆伝だ、何にも教えることがなくなった。教えてないこともまだまだいっぱいあるが、逆に足枷になっちまうからな。ここは涙を飲んで引き下がる等するよ。さ、うちのメインディッシュだ、よく味わって食っていきな」
元気な姿を見られただけで感無量だったが、まだ俺を必要だと思ってくれたことに涙が溢れそうになる。
俺はオーナーに捨てられたわけじゃなかったんだ。
でももう仲間ができた、あの時の俺とは違ってきている。
「オーナーの仕事、胸に刻んでいきます」
「そこまでしてくれるんなら、本望だ。あの世で婆さんに自慢できらぁ」
笑い飛ばし、オーナーは奥に引っ込む。
メインディッシュはでかい肉の塊だった。
先ほどまでのスープで食欲を湧き立てなかったら、これを攻略するのは無理だろうと思わせるレベルのサイズ感。
「こんなクラスの肉の塊はなかなかお目にかかれないぜ!?」
ダイちゃんが目を見張る。
モーゼもそうだが、越智間さんのところでも、ここまでのサイズはない。
皿がテーブルギリギリのサイズで、さらに皿を埋め尽くすサイズの肉が高々と積まれているのだ。これをオーナーが一人で持ち上げて運んできた時点でトリックがあるだろうと踏むが、切っても切っても溢れる肉汁が本当にこれは肉の山ではないかと悲鳴を上げるほどである。
「でも不思議と、満腹感は遠いよな」
それなんだ。満足感はすごいのに、いつまで経っても満腹にならない。
「まるで溢れ出る肉汁が本体で、肉そのものはおまけみたいな料理だな」
「言い得て妙」
「これ、どこかで食べたことあるんだよな、なんだっけか?」
「ポンちゃんの加工肉か?」
「そうそう、水気が多くてソーセージ化しても水分量が多くて水分がわりにしてたやつ」
「それってリビングアーマーじゃね?」
「ああ! それだ! この肉の山はリビングアーマーソーセージの肉が内包されてるんだ。それをゴーストソルトで味付けして、盛り付けられてる!」
「ポンちゃん、俺それ食ったことないんだけどー」
ダイちゃんが羨ましそうに嘆いた。
今まさに口に入れてるのがそれだよと指摘すれば、それもそうかと溜飲を下げる。
山のサイドが普通の肉だったのもあって、すっかり騙された。
この肉のタワーのメインはリビングアーマーソーセージを大量に摂取するのが目的で構成だれている。
尽きない満足感に、遅れてくる満腹感で、食い切ったと言う征服感もセットで満喫できるのだ。
最後は全員で攻略したと言うのもあり、結束感が増しに増した。
多分そこまで含めてのコース料理だったんだろう。
お値段は結構な金額(100万円)を取られたが、それでもまた来たいと思わせる不思議な魅力があった。
「これがかつてモーゼを切り盛りしてた男の手腕かー」
帰り際、熱意に燃えるダイちゃんがうわごとのように呟いた。
「最初から最後まで驚かされっぱなしだったよな」
「値段まで含めてびっくり箱だったな」
越智間さんのところですら30万も行かなかったのに。
だが逆にそこまでしても客は確保できるのだと背中を押してもらった心地になる。
最後に土産も持参して、ダイちゃんは一度新潟に帰った。
今日は尽きない話題で眠れないだろう。
帰る間際まで興奮を隠しきれない感じだったし、それは俺たちもなんだけどな。
これがレストランモーゼの目指した究極のサービスなのだと実感する。
まず案内された席が個室。
無論、狭いと言うことはなく十分な広さが確保されており、目を引く調度品も備え付けられている。
まるで高級ホテルのラウンジに通されたような安心感。
全てのものがピカピカに輝いているが、それは黄金があしらえられているのではなく、丁寧に磨き上げられた掃除が行き届いてる結果だと知る。
「なんかすげーな、金のかけ方がモーゼと別次元だ」
「でも結局料理の方が美味くなきゃだよな」
見ていてワクワクするのは景色だけではない。
テーブルや椅子も質素ながら客の要望を全部取り揃えたようなサービスが充実していた。
テーブルの中央に大型モニターが設置されており、そこから追加注文が可能になっている。
また、トイレは各室内に二つ完備されており、トイレまで迷わず行ける気軽さ。
トイレの横にはシャワー室まで完備しており、もうここに住めんるんじゃないかと言うほどの充実ぶりを見せていた。
「早速気に入ってくれたみたいだな。だがうちが料理屋だってことを忘れてもらっちゃ困るぜ? 過去にモーゼでできなかったことを全て再現したのがこの店だ。そして強力な助っ人を加入させての再出発。今まで以上の食事の提供が可能になったんだ」
そう言いながら最初に持ってきたのが抹茶と大福だった。
今まで散々レストランのフルコースを食べてきたので、こう言ったお通しは初めてのこと。
「なんかシンプルなものが出てきたなぁ、いや、嫌いじゃないんだけど」
「和菓子かぁ」
「そういえば虎八の先代を引き入れたと言ってたよね。つまりここは和菓子も本格的ってことだ」
「じゃあ、こんな見た目で相当な高級品ってことか?」
「虎八は羊羹が最高にうめーんだよな。次にどら焼き。そういえば大福はまだ食ったことなかったよな」
「いただこうか」
まずは喉を潤す目的で抹茶に手をつける。
口に入ってくる強い苦味が。
あれ、この味どこかで?
どこかで口にしたあの濃厚な苦味が口の中で溢れかえる。
続いて大福を頬張り、口内で堪能する。
抹茶の苦さが餡子の甘味で中和され、そこに加わる求肥のもっちり感で一体化する。
「あ、これ。あの時虎八さんが置いてった羊羹のアレンジだ。ほら、新種の苔スライムのパウダーがあったろ? あれが抹茶に使われてるんだ」
抹茶と大福を往復するたびに口の中が幸せになっていく。
「あークララちゃんが加工した調味料の一つだったな? ポンちゃんが俺に食わせてくれた」
「くっそうめぇ! 和菓子って今までそこまで注視してなかったけど、なんだこのうまさは! 甘いものはそんなに得意じゃなかったけど、これならお土産にいいな!」
ヨッちゃんやダイちゃんも絶賛してる。
最初こそ見た目で騙されたのに今ではすっかりその味の虜になっていた。
「ただ美味しいだけじゃないぞ、これ。主原料のほとんどがモンスター素材になってる」
「甘味にスライムシュガーが使われてるって言いたいのか?」
「それにゴーストソルトだ。ここまで見事に調和されてるのは初めてだ」
自分で扱ってきた調味料だからこそ、わかる。
本当に少量、味を引き締めると言う目的のために使われてる。
小豆特有の甘さの中に光るゴーストソルトが引き締め役に一役買ってるんだ。
これを入れなくたって完成されてる味に、あえて盛り込むことで適合食材を求める若者にアピールしてるんだな。
そういえばここ最近甘味からの若者離れを憂いていたもんな。
ちょっとした工夫だけど、その効果は大きいようだ。
「モーゼ以外もどんどんモンスター食材を投入してったってことか。でもモーゼではモンスターの加工肉オンリーでなんの手間もかかってない?」
「調理はされてたけど、それは完成されたレシピの模倣で、オリジナリティは少ないと感じたね」
「ここは最初っから変化球でオリジナリティをぶん投げてくるってわけか」
「一つの料理だけで勝負するつもりはないって言い切られて次に何が出てくるのかワクワクするよな」
「確かにそれはあるな」
続いて持ち込まれたのはシンプルにスープだ。
ただし透き通る透明感に黄金の輝きを見せている。
皿の上には一才の具材が見当たらない。
カトラリーにはなぜかスプーンの他にフォークとナイフまで添えられている。
「大福は堪能してくれたようだな。じゃあ次はこいつだ」
ただのスープなんてここにきて持ち込むだろうか?
全員かスープを凝視すると、何かがスープ内でパシャリと波打った。
「おい、これ何か入ってるぞ?」
「俺も確認した」
「スープなのにフォークとナイフが付いてる時点でわかるだろ。目に見えない肉料理だよ!」
「何はともあれ食ってみるか」
正体はあっさりと割れる。
これは空ウツボの活け作りだ。
神経を切らずに刺身にして、冷静スープの中に沈めたのだ。
スープの中からは酒に浸した肝の旨みと苦味が感じられ、ほのかに魚卵も混ざっている。
刺身の方はまだ神経が残っているのか、クニクニとした食感が心地よい。
実物が見えないからこそ、スープだけかよという肩透かしを回避させられる。
刺身の方はスープと合わせて口に運ぶことで完成するタイプだ。
俺含め、みんながスープ内を逃げ回る刺身を逃すまいと格闘した。
結局スープを飲み切るまで心の安らぐ時間は訪れなかった。
「うまいけど、変に焦らされたよな」
「もっと早く言えっての。スープを結構な量こぼしちまったよ、もったいねー」
ヨッちゃんは好物が意外な形で出てきたので、堪能しきれなかったことを嘆いている。
「これは見事だったな。さっきの大福の時の肩透かしをもう一度体験させられるとは思わなかった」
「そういえば、フルコースだとスープってあんまり魅力感じないもんな」
ダイちゃんが先ほど立ち寄った越智間さんの店での体験を語る。
そうかな? そうかも。
所詮はスープ。
肉のお供という感覚だ。
喉が渇いたから飲むというよりは、液状まで加工した食材の味を堪能するものだ。
本来はここまで夢中になるようなものではない。
でもメインはスープで刺身はスープの具だと思えば調和は完璧だった。
本当にここは次に何が出てくるかわからないびっくり箱のような体験をさせてもらってる。
「親父はきっと、こんな荒唐無稽さに惚れ込んだんだろうな」
「味も全部一流だった。ちょっと意地悪な仕掛けが後出しで提供されるだけで」
「本当に次は何が出るんだ?」
皆がワクワクとした。
ちょっと小腹を満たす気持ちでいたのに、いつしかガッツリ食う気で次の食事を待ち望んだ。
「スープで苦戦してるようじゃ先が思いやられるな」
「じゃあ先にメニューを言うなりしてくださいよ」
「うちはその時ある食材で最高の一品を作り上げる店だからな。メニューなんてねーよ。それと具材もそれぞれだ。コースプランによって代金が変わるんだ」
「それで店として成立するんですか?」
「名目上はな。だからフランス料理でもなく、イタリア料理でも、日本料理でも中華料理でもない。ダイニングレストラン通してる。要はキッチン、調理場だな。そこでコースに合わせてその時の最高傑作を出す。それがウチ流よ!」
それはまるで、俺に道を示してくれるような条件だった。
「本当に、何が出てくるのかわからないびっくり箱のようなお店ですね」
「洋一、本当はお前も誘いたかったんだけどな。いつの間にか雲の上の存在になっちまってよ」
「俺だって、ここで修行させてもらえたらどれだけレベルアップできるかわかりません。けれど、もう……」
「皆まで言わなくたってわかるよ。もう最高の仲間を見つけちまったんだろ? だから引き込めないとわかった上で言ったんだ。ずいぶん立派になったな。配信でお前のことをずっと見守ってた。お前はもう免許皆伝だ、何にも教えることがなくなった。教えてないこともまだまだいっぱいあるが、逆に足枷になっちまうからな。ここは涙を飲んで引き下がる等するよ。さ、うちのメインディッシュだ、よく味わって食っていきな」
元気な姿を見られただけで感無量だったが、まだ俺を必要だと思ってくれたことに涙が溢れそうになる。
俺はオーナーに捨てられたわけじゃなかったんだ。
でももう仲間ができた、あの時の俺とは違ってきている。
「オーナーの仕事、胸に刻んでいきます」
「そこまでしてくれるんなら、本望だ。あの世で婆さんに自慢できらぁ」
笑い飛ばし、オーナーは奥に引っ込む。
メインディッシュはでかい肉の塊だった。
先ほどまでのスープで食欲を湧き立てなかったら、これを攻略するのは無理だろうと思わせるレベルのサイズ感。
「こんなクラスの肉の塊はなかなかお目にかかれないぜ!?」
ダイちゃんが目を見張る。
モーゼもそうだが、越智間さんのところでも、ここまでのサイズはない。
皿がテーブルギリギリのサイズで、さらに皿を埋め尽くすサイズの肉が高々と積まれているのだ。これをオーナーが一人で持ち上げて運んできた時点でトリックがあるだろうと踏むが、切っても切っても溢れる肉汁が本当にこれは肉の山ではないかと悲鳴を上げるほどである。
「でも不思議と、満腹感は遠いよな」
それなんだ。満足感はすごいのに、いつまで経っても満腹にならない。
「まるで溢れ出る肉汁が本体で、肉そのものはおまけみたいな料理だな」
「言い得て妙」
「これ、どこかで食べたことあるんだよな、なんだっけか?」
「ポンちゃんの加工肉か?」
「そうそう、水気が多くてソーセージ化しても水分量が多くて水分がわりにしてたやつ」
「それってリビングアーマーじゃね?」
「ああ! それだ! この肉の山はリビングアーマーソーセージの肉が内包されてるんだ。それをゴーストソルトで味付けして、盛り付けられてる!」
「ポンちゃん、俺それ食ったことないんだけどー」
ダイちゃんが羨ましそうに嘆いた。
今まさに口に入れてるのがそれだよと指摘すれば、それもそうかと溜飲を下げる。
山のサイドが普通の肉だったのもあって、すっかり騙された。
この肉のタワーのメインはリビングアーマーソーセージを大量に摂取するのが目的で構成だれている。
尽きない満足感に、遅れてくる満腹感で、食い切ったと言う征服感もセットで満喫できるのだ。
最後は全員で攻略したと言うのもあり、結束感が増しに増した。
多分そこまで含めてのコース料理だったんだろう。
お値段は結構な金額(100万円)を取られたが、それでもまた来たいと思わせる不思議な魅力があった。
「これがかつてモーゼを切り盛りしてた男の手腕かー」
帰り際、熱意に燃えるダイちゃんがうわごとのように呟いた。
「最初から最後まで驚かされっぱなしだったよな」
「値段まで含めてびっくり箱だったな」
越智間さんのところですら30万も行かなかったのに。
だが逆にそこまでしても客は確保できるのだと背中を押してもらった心地になる。
最後に土産も持参して、ダイちゃんは一度新潟に帰った。
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