ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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95話 ダンジョンブレイク【札幌】4

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 ワラワラと現れるトマトたちを手持ちのソーセージで分解、救助してるうちに規定の数値が貯まったという。

 俺は避難民を一度函館の会館におくりながら、隙を見て新しいスキルの獲得を考えた。

 あの時は食事の運用一択だったが、ここから先はダンジョン攻略をするのに便利なスキルを取得する方がいいだろう。

 そう考えて、オリンの提示するスキル群を眺めていく。


<特殊調理派生>
 【三枚おろし】
   初めて見たモンスターでも即座に3枚に下ろすことができる

 【糸引き】
   切り込んだ空間が、糸を引くように切断できる

<ミンサー派生>
 【部位指定】
   モンスターの部位を狙ってミンチ肉に変えることができる

 【荒削り製法】
   ミンチの微調整が可能

<腸詰め派生>
 【下味調整】
   事前に手持ちの調味料を使って下味をつけることができる

 【オート腸詰】
   事前に設定した腸を指定範囲内で勝手に補充

<熟成乾燥派生>
 【加工の魔眼】
   手を触れずに、視界に入れただけで加工する
   ※全スキル適用
 【熟成微調整】
   熟成具合の加減をつけられる
   乾燥具合も任意に変化させられる

<特殊派生>
 【熟成発酵】
   特殊な菌を発生させ、旨みを凝縮させて発酵させる
 【冷凍乾燥】
   水分さえその場で急速に乾燥させて保存可能に


 ダンジョン攻略にふさわしいものは……ってなんか増えてる?

 前回熟成乾燥をとったから、その分が増えてるんだと知った。

 俺は糸引きを覚えるつもり満々だったのに、全加工適用の文字が頭から離れない。

 最終的に料理にも使えるんならこっちがいい。
 調整はその内する。
 今はこれだ、これがいい。

 包丁がそこまで届かずとも、俺の視界が届くんなら問題ない。
 視界を塞ごうとするならば、空間ごと切り裂いてやればいい。

 そうして俺に新たなスキルが宿った。


 ──────────────────────
 名称:本宝治洋一ぽんほうちよういち
 年齢:30
 職業:ダンジョンシェフ
   配信者
   ジャイアントキラー
   ダンジョン契約者
 ──────────────────────
 レベル100/100
 筋力:S★
 耐久:S★
 魔力:A★
 精神:S★
 器用:S★
 敏捷:A★
 幸運:S★
 総合ステータス:S S S
 ──────────────────────
 <固有スキル:特殊調理>
 ★包丁捌き+
  ┗☆【加工】エレメンタル隠し包丁
   ┗☆【加工】活け〆
 ★目利き+
  ┗☆【加工】食材解体知識
   ┗☆【加工】ダンジョン解体知識
 ★料理バフ+
 ☆【加工】ミンサー【モンスターを選択してください】
 ☆【加工】腸詰め【選択:大喰らい/S】
 ☆【加工】熟成乾燥【指定部位を選択してください】
 ◎加工の魔眼【全加工系スキルを目視内で加工可能】
 ──────────────────────


 なんかステータスやスキルがやたら増えてないか?
 今まで見えなかったものが見えるようになったというか……

「キュ(魔眼の効果じゃな。どれが加工スキルかを知らせるために目視できるようになっておる。それ以外は適用できんというわけじゃ)」

 今まで俺が何気なく使ってたのも加工スキルだったわけか。
 スライムやゴーストの刺身はエレメンタルボディに隠し包丁を入れる必要がある。

 それはてっきり隠し包丁の延長線だとばかり思い込んでいた。
 しかし俺の目には新しい力として迎えられている。

 なるほど、今までの当たり前はこうやって目にして当たり前のものじゃないとようやく理解できる。

「キュ?(努力のみでスキルにまで昇華させたのはさほど珍しいことではないぞ。ただし常識的かと言われると難しい。過去に多くの例が挙げられるが、拾い上げたところで100件にも満たん。過去100年まで遡ってもじゃ)」

 一年に一人出すとなれば少なくもないんじゃないか?

 だが今よりも人口が多い時代、それこそ多くの人たちが修練を重ねて、それができたのはたった一人と言われたら実際にはすごいことなのかもしれないな。

 でも待ってくれ。オリンは今ここに来て、100年というフレーズを使った。

 しかしダンジョンブレイクが起きて、人々がダンジョンに駆り出されたのは60年前。

 実はもっと前からダンジョンは現れていたのか?

 オリンは肝心な質問には答えてくれないんだよなぁ。

 しまった! という顔をしながら、トマトモンスターの到来を教えてくれた。

 魔眼の発動は目を凝らしてようやく発動可能といったところか。
 ただし無作為に発動できるわけじゃない。

 包丁で狙いを定めて、その場所を部分的に加工できるスキルのようだ。
 目視で捉えた先、トマトたちは空輸で送り込まれてくる。

 函館で見た空を飛ぶ玉ねぎ。
 あれはトマトの運送ポッドだったらしい。

 さっさと倒しておいてよかった。
 あれを放っておけば、函館までトマトたちが来ていたかもしれない。

 だから函館行きのバスを襲ったのだろうな。
 直接向かえなくなったから。

 それを、玉ねぎごと熟成乾燥、エレメンタル隠し包丁や活け〆をして身動きさせなくしてから函館に送り込んだ。

「キュ(ここで処置していかぬのか)」

「これ以上ダンジョンを成長させるわけにはいかねぇからな」

「キュ(そうじゃのう)」

 どこか名残惜しいものを見送るように、函館に活け〆されたトマトの背を追う。

『いきなり処理してないやつを送ってきてびっくりしたぞ』

「すいません、こちらで加工スキルを使うと、ダンジョンモンスターがパワーアップするという情報を掴みまして、全てを加工してたんじゃ間に合わないと踏んで何匹かおくります。その際ソーセージの補填もしますのでご勘弁を」

『そういう理由ならしょうがねぇな。じゃああのソーセージは非常食にしない方がいい感じか?』

 非常食?
 まさか、トマトに乗っ取られてる人々がまだ解放されてない内から非常食として考えているのか?

「流石にそれは俺たちの予測してないことです。北海道を取り戻すためのキーだとおっしゃったのはズワイさんではないですか。それを食べようとはちょっと考え付かなかったです」

『中には空腹の避難者もいるんだ。撃退用なのは分かってる、しかし空腹には逆らえん。お前の渡すソーセージがあんまりにもうまそうなのが悪い。こればかりはどうしようもないんだ。必要だから取り上げるってのも士気を下げちまう。難しいところだよ』

 食肉加工者としてはありがたい言葉ではあるが、今の状況でソーセージを無駄に消費してほしくはなかったな。
 
 避難してる人の気持ちもわかるが、こっちで与える食事を待っててほしい限りだ。

「函館の人たちはなんとか処理してくれそうだって?」

 電話を切ると、トマトを送り出したヨッちゃんが心配そうに声をかけてきた。

「処理は可能だが、空腹な人たちがトマト撃退用のソーセージを食べてしまっているらしい」

「そりゃダメだろ。こっちでも作ってるが、まだ全員分までは仕込んでないだろ?」

「数百や数千なんだったら数十万、数百万人が人質になってる可能性もあるから、本当にそれだけはやめて欲しかったが、飲まず食わずでようやく救出されて、一息ついたんだろうな。そうしたら腹が空くのは仕方ない。一度飯を仕込みにいくか?」

 しかしそんな俺の提案にダイちゃんやヨッちゃんは否定的だった。

「今は攻略を最優先した方がいいと思う」

「俺もダイちゃんに賛成」

「どうしてだ? 腹が減ってるからソーセージを食べちゃうんだろ? なら違う食事を提供すれば……」

「普段ならそれでもいい。けど今は緊急時。そして俺たちはこの場所に何をしに来てる? ポンちゃんは日常動作で料理を振る舞うのが癖みたいなもんだ。そこはどうしようもない。だが、避難民が願うことはその場しのぎの食糧を集ることじゃない。事態の収束を何よりも望んでる筈だ、違うか?」

「違わない」

「だったら俺たちは俺たちの仕事をするべきだぜ、大将。いや、Aランク探索者序列一位、本宝治洋一」

「ああ、そうだな」

 なまじ料理ができて、素材もたくさんある。
 即座に配送が可能だから忘れてしまいがちだが、そうだよ。

 俺たちはここにダンジョンの攻略に来ているんじゃないか!

 忘れていた訳じゃないが、軽く見ていた。

 その現実を胸元に深く突き刺された気がした。
 強いスキルを手に入れて、自惚れていたのかもしれない。

 もうこれで攻略は比較的簡単になった。
 そんな気持ちでいた。

 まだ事態は何も解決してないのに。
 避難民の気持ちを軽く見てたのは他ならぬ俺の方だったと。

 それをダイちゃんに直接言われてハッとする。

「オリン、敵の本拠地を教えてくれ」

「キュ(先ほども言ったが、もうここが第二ダンジョンの本拠地じゃぞ? 都市を丸々飲み込んでもなお、その全貌を見せない。ダンジョンの一角に過ぎないが、離れぐらいの認識じゃろう。階層で言うとこの最上階、入り口。どちらとも言えないが、我々を歓迎してくれてるのだろうな。あれらの兵隊はパフォーマンスの一つじゃろう)」

 趣味の悪い。

「キュッ(ダンジョンとは、そう言うものじゃよ。もとより精神構造が人と異なる。目的はいつだって一つ)」

 エネルギーの採集。
 人々の魔法(スキル)と守護者(モンスター)の衝突によって生み出される素材。

「キュ(妾は感心しておった。全く新しいエネルギーの採取方法に。確かにこれならば理論上、今までよりも効率よくエネルギーが採取できる。出来るが、契約者殿は認めぬだろうがな」

 協力してくれてるから。
 一緒にいるから。

 すっかり仲間の気持ちでいたが、オリンはやはりダンジョン側の存在だと言うことを嫌でも痛感した。

 あの悪趣味なオブジェを『エネルギー採取効率が高い』と言う理由だけで誉めている感性から、俺たちとはまるで別の存在である説が浮き彫りになる。

「キュッ(安心せい。妾のダンジョンでそんなことはせんわ。そもそも、エネルギーは腐るほど溜まっておるからの。するまでもない)」

 冗談でも言葉にしてほしくないと思うが、特殊調理者を確保してないダンジョンからすれば切実なのだろうな、エネルギー問題は。

「拠点までの案内を頼む」

「キュ(こっちじゃ)」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、オリンは先を歩いた。
 俺たちは何を信じればいいのかわからなくなりながら、その後に続いた。
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