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94話 ダンジョンブレイク【札幌】3
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熟成乾燥トマトソーセージの効果は、思いの外高かった。
ズワイさんと思しき人物がトマトから剥がれ落ち、すぐに意識を回復させていた。
「あれ、ここは? 俺は一体……だめだ、まるで最近のことが思い出せん」
「意識が戻られましたか?」
「お前たちは一体? 俺は図隈。ここにはトマトの化物を探しに来たんだ。お前たちは見てないか?」
まるでさっきまでの記憶を継承してるみたいなセリフだ。
「トマトの化物ならさっき倒しました。ほらそこに」
「何! 確かにこれは俺が追ってたトマトの化物だ。だがこんなに小さかったか?」
「おっさんがその中に入ってたんだぜ? んで、オレたちはおっさんに襲われたんだ。オレたちをトマトの化物だって決めつけてよ。おっさんの方がトマトのバケモノの癖してさ」
「なんだって!?」
ヨッちゃんの話を聞いて、ズワイさんは眉をひそめた。
「すると俺は、人間相手に武器を向けていたってことか?」
「俺たちを味方だと思ってくれてるのなら、そうですね」
「それはすまないことをした!」
自分が間違ってた、と平謝りするズワイさん。
頭を上げてくださいと促し、それよりも事態はまずいことになってることを話した。
「すると敵は俺達に寄生し、体を乗っ取った上で自分たちに都合のいいように認識を改竄、俺たちの自由意志でもって守るべき市民を攻撃させてたってぇのか?」
「おそらく」
ズワイさんは「うげぇ」と舌を出した。
モンスターなのにそんな悪知恵働くのかよ、と言う意味でだ。
「どおりで現場を配信する者がいないわけです」
「戦闘が激化して配信する余裕がなかっただけじゃねぇのか? 敵は大型種だ」
「ですがカメラを回す余裕くらいはあるでしょう。受け答えしなくたって垂れ流せますから。俺たちが行ってるように」
「そりゃそうだが……じゃあどうしてカメラすら回せなくなるんだ?」
「それがですね……」
どうしてズワイさんが俺たちの元に現れたのかを説明した。
「配信を見てる? 洗脳されてるやつもか?」
「自分がモンスターになってる認識はなく、守るべき道民が化物になるフィルターがかかった状態で、自分たちの技術を相手に提供、拡散されてました。中には特定班もいて、道外に出て行こうとする連中までいて……もう個人でどうこうできる規模ではありません」
完全に実力主義が仇になった形。
しかし本人はいつどこで寄生されたのか分かってないときたもんだ。
これは敵がやり手なのか、はたまた意識させないレベルでのやり取りがあるのか。
それがわからない限り、俺たちは後手に回り続けることになる。
「今まで洗脳されてた俺が言うのもなんだが、全く操られてた気はしなかった。まさか視覚情報が全て偽装され、ダンジョン側に都合のいいものにすり替えられてたなんてな」
「だからでしょうね、寄生されてた本人たちの連携が異様に高いのは。みんな、敵を倒すのに躍起になっていて、その実むけられた矛先は守るべき道民。やりきれませんよ」
「くそ、厄介な敵が現れたもんだぜ! しかしどうやって俺の洗脳を解いてくれたんだ?」
そりゃ気になるよな。
俺は隠したところでどうせバレるからと正直に話した。
今は味方がひとりでも多いほうがいい。
そして、別行動する上で頼りになる相手なら尚更だ。
「これです」
「なんだこりゃ」
「バケモノトマトを俺のスキルで熟成乾燥させてミンチ肉にした後、腸詰めにしたものです。これをトマトの化物に食べさせたら、ズワイさんが出てきました」
「これが、このトマトパニックを収めるキーになるアイテムか」
指でつまんで持ち上げ「本当かぁ? オレを揶揄ってるんじゃねぇだろうな?」と訝しげな視線を向ける。
「今は信じてもらう他ありません。事は急を要します」
「疑ってるわけじゃねぇよ。そんな重要なアイテムをポンと渡しちまって平気なのかって、そう思っただけだ」
「嘘をつく理由なんてありませんよ。そもそも、俺の行動は全て配信で記録されてます。その行動履歴にも記されていますが、当然敵もそれを知っています。洗脳状態を解除する俺は真っ先に狙われる事でしょう」
「まずいじゃねぇか!」
「ですが、このソーセージさえあれば解除は可能です。返り討ちにしてやりますよ」
「心強いな」
ひとまずはズワイさんを納得させるのに成功させる。
それよりも重要なのはこの広大すぎる北の大地から逃げおおせようとするトマト軍団。
それを阻止する任務を北海道で顔が利くSランク探索者のズワイさんに任せるという命を出す。
「確かに、この地のど素人の助っ人の言葉より俺の声の方が聞こえはいいか。この地域での活動を思い返せば当然だな。地域貢献度合いが段違いだ」
「引き受けてもらえますか?」
「その任務、承ったぜ」
「尽きたら都度連絡をください。これ、俺のアドレスです」
「心得た」
そのままDフォンでお互いの連絡先を交換、登録する。
土地勘のあるズワイさんが仲間になってくれて本当に助かる。
「それではこれが今ご用意できる30本。これで函館市民会館に向かったトマトたちを抑えてください」
「相手の規模は?」
30本で足りるのか?
どれほどの道民が犠牲になったのか定かじゃない。
疑問に思うのも仕方ない。
「どこにどんな移動手段で現れようとしてるのか、まったくわからない形です。ただこちらの配信に入ってきた情報では、函館行きのバスがジャックされそうになっているとのこと。相手の移動手段が掴めない限り、後手に回り続けます」
「敵の出現パターンはわからないのか」
「急に襲われるので、こっちは備えるしかないんですよね」
「なら、俺たちは俺たちで考えて立ち回らないとな。ところでここはどこだ? 移動するにもどのルートを回るべきかがわからないとな」
「札幌市ですが、それがどうかなさいました?」
「札幌!? ここから函館まで車で何時間かかると思ってやがる!?」
それは確かにそうだ。
至急向かってくれと言われて行ける距離じゃない。
俺たちもここにくるまで先頭を抜きにしても丸二日かかってしまっている。ズルをしてもだ。
「なら安心してください。俺たちにはワープポータルがあります。この閉鎖された札幌市からいつでもどこでも安心お届け。なのでズワイさんは直接函館市民会館までジャンプできます。他にもジャンプできる地域は一度俺たちが立ち寄った場所になりますね」
とはいえ、函館の他には豊浦の一件しかないけど、ないよりはマシだろう。
しかし探索者は閉じ込めるくせに、トマトは自由に出入りできるのはずるくないか?
フェアじゃない。
「お前らは一体……」
「申し遅れました。俺たちはダンジョン美食倶楽部。一応Aランク序列一位をさせてもらってる者です。コンセプトは地産地消、ダンジョンに赴き、遭遇したモンスターはなんでも美味しくいただこうとする美食家です。あ、これ名刺です」
「そりゃご丁寧にどうもって、Aランク序列一位!? お前らが話題のルーキーか!」
「ただ、このワープポータル、災害非常時限定のものなので、落ち着いたら閉じます。それがスポンサーであるJDSさんとの約束なので」
「大手と提携してるからこその切り札ってことか。今はそれがすげー助かるぜ、じゃあ行ってくる」
「足りなかったら、いつでも言ってください。それとお腹が空いてるようでしたら、ここで調理しますので食べにきてください」
「じゃあ以降は通話で連絡する、じゃあ、行ってくるわ」
「ワープポータルは屋台の暖簾の向こうです。函館市民会館に行きたいと念じながら入ってください」
「分かった」
しばらくして『無事着いた』と報告があった。
謎の技術に驚いてばかりもいられないと、避難者たちへの呼びかけに準じてくれたそうだ。
函館市民会館は青森行きのバスの終着地点。
そこからJDSのバスが青森に向かう。
だから各地域のバスは必ずそこに集まってくるのだ。
ズワイさんの呼びかけなら、トマトの中から救助された探索者をその場で保護、戦力拡大に持っていきやすいだろう。
俺は結局道民からは戦闘もできる料理人くらいの認識だろうから、そこまで戦力は求められてないんだろうなぁ。
話題のほとんどが料理のおかわりに関することだ。
とはいえ、今はそれでいい。
この北海道エリアを攻略する上で味方の数は多すぎるに越したことはない。
敵の侵略地域はこの北海道全土。
その上で一般住民や探索者までも無駄なく使い切り、人類を攻略しようと悪知恵を働かせてくる。
これに一人で立ち向かうなんて、あんまりにも無謀だ。
地域のボスを撃破してもトマト軍団の侵攻は止まらない。
大元を叩かなければならない。
それが可能なのは迷宮管理者の契約者である俺にしかできないことだから。
『腐れトマト野郎! ここで出会ったが百年目ぇ!』
「早速おいでなすった」
「足止めお願い!」
考える暇もなく、現れるトマト軍団。
それを丁寧に料理して撃退。囚われてた人をズワイさんと同じ要領でソーセージを持たせて函館市民会館へと送った。
『おい、美食倶楽部。こっちにこんなに人は入らねぇぞ? 別のところに回せねぇか?』
「どのみち、保護すべき人たちです。それにトマトを撃退するのに人手も必要でしょう? 青森からのバスはまだきませんか?」
『あのバス、日に三本しかこねぇぞ』
それは知らなかった。
今のペースで送ってこられると溢れるのだそうだ。
ままならないな。
何よりも避難民の食事が足りないそうだ。
今の時期の北海道は昼と夜で寒暖差が激しく、会館の中に入れないと体調を崩す人も多いのだそうだ。
「なら東京の武蔵野、栃木の宇都宮、新潟の糸魚川、柏崎、長岡、新潟に行きたいと思いながらこちら行きのポータルに飛んでもらってください。向こうのダンジョンセンターで保護できるか案内を出しておきます」
『悪いな、しかしこれから数も多くなるが、すべての人たちを収容できるのか?』
「それは青森にだって無理でしょう。だからその前になんとかこの災害を終わらせますよ」
俺たちはそのために北海道に来たんです。
そう促せば、ズワイさんは押し黙った。
本来なら北海道の最高戦力として自分が立ち向かわなければならない案件だ。
そのためのSランク。
そのための戦力。
しかし力だけでも、想いだけでも、敵わぬ相手がいる。
実際に無力化されて肉体を乗っ取られたズワイさんには痛いほどわかるだろう。
相手は特殊調理の加工でしか無力化できない理不尽の権化。
ただ強いだけではなんの戦力にもならなかった。
何匹か遭遇したトマト型モンスターはやたらと交戦的で、脳内麻薬でも分泌されてるかのようにテンションが高い。
しかし救出すると疲れ切ったかのように気だるげなのが特徴か。
「しかしあれだな、加工すればするだけソーセージにできる量が多いのは発見だよな」
ダイちゃんの発言に俺は頷く。
そうなのだ。
俺のミンサーからの腸詰めだけでもソーセージ化は可能。
しかし調整は難しく、その前に部分的に熟成乾燥を噛ませる方が楽というのもある。
ミンサーからの腸詰めで取れるソーセージの量は15本。
これに熟成乾燥を合わせるとさらに+8本。
ダイちゃんの特殊調理:飾り包丁を合わせるとさらに+7本。
そこに俺の特殊調理:隠し包丁を入れてさらに+5本となる。
活け締めしてる状態ならさらに+5本。
加工を挟めば挟むほど本数が増える仕組みだ。
包丁系のスキルは、それだけでは完成しないことが挙げられるが、さらにそこへ加工を入れることで真価を発揮するのは思っても見ないことだった。
この状態で野菜、お酒、調味料に加工したらどうなるかワクワクが止まらない。
今回の最悪な事件で、そんなことを思う俺は根っからの料理バカなのだと思い知る。
今はそれどころじゃないというのに、その先を求めるように加工を振るった。
「キュ(あまり加工し過ぎるなよ? ここは第二管理者のお膝元。加工されたことによりエネルギーはあの方の元に入り込む。ダンジョンモンスターが強化されるぞ?)」
そういう後出し情報はやめてくれない?
でもオリンにだって加工時のエネルギーはいくらか行くんだろう?
「キュ(然り。もうすぐ5000万ほど貯まる。また使い先を考えておけよ)」
スキルのパワーアップをするならどれがいいか、促された。
前から気になっていたスキルはいくつかあるんだよね。
さて、このダンジョンを攻略する上で必要なスキルは何があるだろうか?
ズワイさんと思しき人物がトマトから剥がれ落ち、すぐに意識を回復させていた。
「あれ、ここは? 俺は一体……だめだ、まるで最近のことが思い出せん」
「意識が戻られましたか?」
「お前たちは一体? 俺は図隈。ここにはトマトの化物を探しに来たんだ。お前たちは見てないか?」
まるでさっきまでの記憶を継承してるみたいなセリフだ。
「トマトの化物ならさっき倒しました。ほらそこに」
「何! 確かにこれは俺が追ってたトマトの化物だ。だがこんなに小さかったか?」
「おっさんがその中に入ってたんだぜ? んで、オレたちはおっさんに襲われたんだ。オレたちをトマトの化物だって決めつけてよ。おっさんの方がトマトのバケモノの癖してさ」
「なんだって!?」
ヨッちゃんの話を聞いて、ズワイさんは眉をひそめた。
「すると俺は、人間相手に武器を向けていたってことか?」
「俺たちを味方だと思ってくれてるのなら、そうですね」
「それはすまないことをした!」
自分が間違ってた、と平謝りするズワイさん。
頭を上げてくださいと促し、それよりも事態はまずいことになってることを話した。
「すると敵は俺達に寄生し、体を乗っ取った上で自分たちに都合のいいように認識を改竄、俺たちの自由意志でもって守るべき市民を攻撃させてたってぇのか?」
「おそらく」
ズワイさんは「うげぇ」と舌を出した。
モンスターなのにそんな悪知恵働くのかよ、と言う意味でだ。
「どおりで現場を配信する者がいないわけです」
「戦闘が激化して配信する余裕がなかっただけじゃねぇのか? 敵は大型種だ」
「ですがカメラを回す余裕くらいはあるでしょう。受け答えしなくたって垂れ流せますから。俺たちが行ってるように」
「そりゃそうだが……じゃあどうしてカメラすら回せなくなるんだ?」
「それがですね……」
どうしてズワイさんが俺たちの元に現れたのかを説明した。
「配信を見てる? 洗脳されてるやつもか?」
「自分がモンスターになってる認識はなく、守るべき道民が化物になるフィルターがかかった状態で、自分たちの技術を相手に提供、拡散されてました。中には特定班もいて、道外に出て行こうとする連中までいて……もう個人でどうこうできる規模ではありません」
完全に実力主義が仇になった形。
しかし本人はいつどこで寄生されたのか分かってないときたもんだ。
これは敵がやり手なのか、はたまた意識させないレベルでのやり取りがあるのか。
それがわからない限り、俺たちは後手に回り続けることになる。
「今まで洗脳されてた俺が言うのもなんだが、全く操られてた気はしなかった。まさか視覚情報が全て偽装され、ダンジョン側に都合のいいものにすり替えられてたなんてな」
「だからでしょうね、寄生されてた本人たちの連携が異様に高いのは。みんな、敵を倒すのに躍起になっていて、その実むけられた矛先は守るべき道民。やりきれませんよ」
「くそ、厄介な敵が現れたもんだぜ! しかしどうやって俺の洗脳を解いてくれたんだ?」
そりゃ気になるよな。
俺は隠したところでどうせバレるからと正直に話した。
今は味方がひとりでも多いほうがいい。
そして、別行動する上で頼りになる相手なら尚更だ。
「これです」
「なんだこりゃ」
「バケモノトマトを俺のスキルで熟成乾燥させてミンチ肉にした後、腸詰めにしたものです。これをトマトの化物に食べさせたら、ズワイさんが出てきました」
「これが、このトマトパニックを収めるキーになるアイテムか」
指でつまんで持ち上げ「本当かぁ? オレを揶揄ってるんじゃねぇだろうな?」と訝しげな視線を向ける。
「今は信じてもらう他ありません。事は急を要します」
「疑ってるわけじゃねぇよ。そんな重要なアイテムをポンと渡しちまって平気なのかって、そう思っただけだ」
「嘘をつく理由なんてありませんよ。そもそも、俺の行動は全て配信で記録されてます。その行動履歴にも記されていますが、当然敵もそれを知っています。洗脳状態を解除する俺は真っ先に狙われる事でしょう」
「まずいじゃねぇか!」
「ですが、このソーセージさえあれば解除は可能です。返り討ちにしてやりますよ」
「心強いな」
ひとまずはズワイさんを納得させるのに成功させる。
それよりも重要なのはこの広大すぎる北の大地から逃げおおせようとするトマト軍団。
それを阻止する任務を北海道で顔が利くSランク探索者のズワイさんに任せるという命を出す。
「確かに、この地のど素人の助っ人の言葉より俺の声の方が聞こえはいいか。この地域での活動を思い返せば当然だな。地域貢献度合いが段違いだ」
「引き受けてもらえますか?」
「その任務、承ったぜ」
「尽きたら都度連絡をください。これ、俺のアドレスです」
「心得た」
そのままDフォンでお互いの連絡先を交換、登録する。
土地勘のあるズワイさんが仲間になってくれて本当に助かる。
「それではこれが今ご用意できる30本。これで函館市民会館に向かったトマトたちを抑えてください」
「相手の規模は?」
30本で足りるのか?
どれほどの道民が犠牲になったのか定かじゃない。
疑問に思うのも仕方ない。
「どこにどんな移動手段で現れようとしてるのか、まったくわからない形です。ただこちらの配信に入ってきた情報では、函館行きのバスがジャックされそうになっているとのこと。相手の移動手段が掴めない限り、後手に回り続けます」
「敵の出現パターンはわからないのか」
「急に襲われるので、こっちは備えるしかないんですよね」
「なら、俺たちは俺たちで考えて立ち回らないとな。ところでここはどこだ? 移動するにもどのルートを回るべきかがわからないとな」
「札幌市ですが、それがどうかなさいました?」
「札幌!? ここから函館まで車で何時間かかると思ってやがる!?」
それは確かにそうだ。
至急向かってくれと言われて行ける距離じゃない。
俺たちもここにくるまで先頭を抜きにしても丸二日かかってしまっている。ズルをしてもだ。
「なら安心してください。俺たちにはワープポータルがあります。この閉鎖された札幌市からいつでもどこでも安心お届け。なのでズワイさんは直接函館市民会館までジャンプできます。他にもジャンプできる地域は一度俺たちが立ち寄った場所になりますね」
とはいえ、函館の他には豊浦の一件しかないけど、ないよりはマシだろう。
しかし探索者は閉じ込めるくせに、トマトは自由に出入りできるのはずるくないか?
フェアじゃない。
「お前らは一体……」
「申し遅れました。俺たちはダンジョン美食倶楽部。一応Aランク序列一位をさせてもらってる者です。コンセプトは地産地消、ダンジョンに赴き、遭遇したモンスターはなんでも美味しくいただこうとする美食家です。あ、これ名刺です」
「そりゃご丁寧にどうもって、Aランク序列一位!? お前らが話題のルーキーか!」
「ただ、このワープポータル、災害非常時限定のものなので、落ち着いたら閉じます。それがスポンサーであるJDSさんとの約束なので」
「大手と提携してるからこその切り札ってことか。今はそれがすげー助かるぜ、じゃあ行ってくる」
「足りなかったら、いつでも言ってください。それとお腹が空いてるようでしたら、ここで調理しますので食べにきてください」
「じゃあ以降は通話で連絡する、じゃあ、行ってくるわ」
「ワープポータルは屋台の暖簾の向こうです。函館市民会館に行きたいと念じながら入ってください」
「分かった」
しばらくして『無事着いた』と報告があった。
謎の技術に驚いてばかりもいられないと、避難者たちへの呼びかけに準じてくれたそうだ。
函館市民会館は青森行きのバスの終着地点。
そこからJDSのバスが青森に向かう。
だから各地域のバスは必ずそこに集まってくるのだ。
ズワイさんの呼びかけなら、トマトの中から救助された探索者をその場で保護、戦力拡大に持っていきやすいだろう。
俺は結局道民からは戦闘もできる料理人くらいの認識だろうから、そこまで戦力は求められてないんだろうなぁ。
話題のほとんどが料理のおかわりに関することだ。
とはいえ、今はそれでいい。
この北海道エリアを攻略する上で味方の数は多すぎるに越したことはない。
敵の侵略地域はこの北海道全土。
その上で一般住民や探索者までも無駄なく使い切り、人類を攻略しようと悪知恵を働かせてくる。
これに一人で立ち向かうなんて、あんまりにも無謀だ。
地域のボスを撃破してもトマト軍団の侵攻は止まらない。
大元を叩かなければならない。
それが可能なのは迷宮管理者の契約者である俺にしかできないことだから。
『腐れトマト野郎! ここで出会ったが百年目ぇ!』
「早速おいでなすった」
「足止めお願い!」
考える暇もなく、現れるトマト軍団。
それを丁寧に料理して撃退。囚われてた人をズワイさんと同じ要領でソーセージを持たせて函館市民会館へと送った。
『おい、美食倶楽部。こっちにこんなに人は入らねぇぞ? 別のところに回せねぇか?』
「どのみち、保護すべき人たちです。それにトマトを撃退するのに人手も必要でしょう? 青森からのバスはまだきませんか?」
『あのバス、日に三本しかこねぇぞ』
それは知らなかった。
今のペースで送ってこられると溢れるのだそうだ。
ままならないな。
何よりも避難民の食事が足りないそうだ。
今の時期の北海道は昼と夜で寒暖差が激しく、会館の中に入れないと体調を崩す人も多いのだそうだ。
「なら東京の武蔵野、栃木の宇都宮、新潟の糸魚川、柏崎、長岡、新潟に行きたいと思いながらこちら行きのポータルに飛んでもらってください。向こうのダンジョンセンターで保護できるか案内を出しておきます」
『悪いな、しかしこれから数も多くなるが、すべての人たちを収容できるのか?』
「それは青森にだって無理でしょう。だからその前になんとかこの災害を終わらせますよ」
俺たちはそのために北海道に来たんです。
そう促せば、ズワイさんは押し黙った。
本来なら北海道の最高戦力として自分が立ち向かわなければならない案件だ。
そのためのSランク。
そのための戦力。
しかし力だけでも、想いだけでも、敵わぬ相手がいる。
実際に無力化されて肉体を乗っ取られたズワイさんには痛いほどわかるだろう。
相手は特殊調理の加工でしか無力化できない理不尽の権化。
ただ強いだけではなんの戦力にもならなかった。
何匹か遭遇したトマト型モンスターはやたらと交戦的で、脳内麻薬でも分泌されてるかのようにテンションが高い。
しかし救出すると疲れ切ったかのように気だるげなのが特徴か。
「しかしあれだな、加工すればするだけソーセージにできる量が多いのは発見だよな」
ダイちゃんの発言に俺は頷く。
そうなのだ。
俺のミンサーからの腸詰めだけでもソーセージ化は可能。
しかし調整は難しく、その前に部分的に熟成乾燥を噛ませる方が楽というのもある。
ミンサーからの腸詰めで取れるソーセージの量は15本。
これに熟成乾燥を合わせるとさらに+8本。
ダイちゃんの特殊調理:飾り包丁を合わせるとさらに+7本。
そこに俺の特殊調理:隠し包丁を入れてさらに+5本となる。
活け締めしてる状態ならさらに+5本。
加工を挟めば挟むほど本数が増える仕組みだ。
包丁系のスキルは、それだけでは完成しないことが挙げられるが、さらにそこへ加工を入れることで真価を発揮するのは思っても見ないことだった。
この状態で野菜、お酒、調味料に加工したらどうなるかワクワクが止まらない。
今回の最悪な事件で、そんなことを思う俺は根っからの料理バカなのだと思い知る。
今はそれどころじゃないというのに、その先を求めるように加工を振るった。
「キュ(あまり加工し過ぎるなよ? ここは第二管理者のお膝元。加工されたことによりエネルギーはあの方の元に入り込む。ダンジョンモンスターが強化されるぞ?)」
そういう後出し情報はやめてくれない?
でもオリンにだって加工時のエネルギーはいくらか行くんだろう?
「キュ(然り。もうすぐ5000万ほど貯まる。また使い先を考えておけよ)」
スキルのパワーアップをするならどれがいいか、促された。
前から気になっていたスキルはいくつかあるんだよね。
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