ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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93話 ダンジョンブレイク【札幌】2

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 ダンジョン化した北海道の中にある別空間。そこに札幌地区は存在した。

「キュ(随分とダンジョン化が進んでおる。早く守護者を倒さねば、この地域の復興は諦めねばならぬぞ? 宇都宮のゴーストタウンを思い出すが良い。あれがいい例じゃ)」

 それを言われてハッとした。過去に起きたダンジョン災害、それがダンジョンブレイク。

 多くの死傷者が出た。そこで活躍したのが八尾さんと富井さんだと聞く。

 それでも一部の地域はダンジョン化を免れず、そのままダンジョン内に飲み込まれていた。

 それが今の札幌地区の現状だという。
 今回と60年前では規模があまりにも違いすぎる。その差はなんだ?

「キュー(ナンバリングの差よ。これが第二ダンジョンの支配力。伊達に妾より先に作られておらん。ゴロウでさえ地域一つ飲み込むのだぞ?)」

 じゃあ、もしオリンが俺と契約せずにダンジョンブレイクを起こしたら?

「キュ(聞きたいか?)」

 あえて教えてはくれない。
 ただ、ゴロウより規模が大きくなることは確実だ。

 北海道ほど大きくはならないが、他の地域には第一、第三ダンジョンが控えている。
 ここ以上なダンジョン化が起きたら事だ。

「キュッ(安心せよ。第一は海の中じゃ。あまりに理不尽な難易度なので海の底に封印されたのじゃ。そのせいで海路が封印されておる。この世界で安全圏は空路のみと言われてる理由がそこじゃな)」

 オリンは重要な情報は全く押してくれないんだよな。

 エネルギーの捻出という利害の一致で一緒にいてくれてるけど、ダンジョン事情を明るみにする気はないらしい。

「なんとも薄気味悪い感じですねー」

 車で走行中、そんなセリフを吐きながら収録を進める。

 不思議なことに、こんな環境でもカメラは現実世界に繋がっており、コメントも普通に拾えた。

 <コメント>
 :札幌の映像初公開じゃね?
 :こちら札幌支部、こんなのは知らない
 :あれ? じゃぁここどこ?
 :あれ? 札幌支部はハンドルネームつけてなかったっけ?
 :こちら札幌支部、こんなのは知らない
 :緊張してるのか? 二重送信してるぞ?
 :こち、こちこちこちこちこち
 :落ち着け
 :なんだ、バグった?
 :ブツッ
 :おい、これ
 :書き込みしてるやつ誰だ?
 :なんか回線異様に重くね?
 :書き込み送信がよく失敗する

「どうかしましたかー?」

「見ろポンちゃん同接がおそろしい数値になってる」

 60万人? どうしてそんなことに。
 普段は多くても2~300人なのに。

 函館は一つのスクリーンで見てるから実質一人分だし?

 <コメント>
 :こちら札幌支部、てき、テキ、敵発見。至急向かわれたし
 :でかした
 :今行く
 :首を洗って待っていろ
 :今行く
 :今行く
 :なんかやばい感じじゃね?
 :もしかしてこれ、通信ジャックされてる?

 そんなことがあり得るのか?
 そして数分もしないうちに押しかけてくるモンスター。

 その顔には人が取り込まれていた。
 体はずんぐりむっくりとしている。
 トマトを上下で二つに重ねたようで、手足はトマトの葉っぱだ。

 お腹にある口から声を発している。
 それは囚われた人間の口調なのか、モンスターが発するには随分と流暢な日本語だった。

『敵、敵、敵! モンスターを倒すのはこの俺様だ!』

 これはどう対処したものか。一般市民がモンスターに取り込まれてる状況なんて初めてである。

 <コメント>
 :要救助者が操られてるのはキッツイな
 :ミイラ取りがミイラになったか
 :これ、行方不明者すら取り込んでモンスター化してたらキッツイな
 :無理やり取ったらどうなっちまうんだ?
 :わかんねぇよ

『オラァ! フレイムランサー! 焼きトマトになりやがれ!』

 相手には俺たちがモンスターに見えてるようだ。精神操作系とでもいうのか?

 その上スキルまで使ってくる。

『くそ、すばしっこいトマトだぜ!』

「うるせえ! トマト野郎!」

 ヨッちゃんがトマトに対してトマトと叫んだら、相手のトマトは機嫌悪そうにし始める。

『誰がトマトだ! 俺様は北海道が誇るSランク探索者、キャンサーのズワイだぞ!?』

 <コメント>
 :ゲェ、相手Sランクなのかよ!
 :いや、待て逆に考えろ、Sですら取り込んで操るやつが黒幕だぞ
 :そうじゃん
 :これ勝ち目なくね?
 :ズワイガニで草
 :炙ったら真っ赤になりそうでちゅねー
 :今現在煽って顔真っ赤にしてるもんな
 :トマトは最初から赤いんだよなー

「これ普通に首と胴体カットしたら助けらんねぇ?」

「それ以前にこのトマトはどこから栄養を引っ張ってるんだろうな? トマトって切り離した瞬間から鮮度が落ちていくんだよ。それがこうやって動けて話せる。びっくり人間が出来上がっている」

「おい、それってもしかして?」

「取り込んだ人間を電池として動かしてたら、嫌だなってなんとなく思った」

「それだったら最悪、助けても助からないんじゃないか?」

「相手がもう死んでる可能性もある」

「死人に取り憑いて操ってるって?」

 <コメント>
 :札幌の人、誰かコメントして
 :無理だろ、こんな状況じゃあ
 :さっきまで連絡くれてた人はどうなった?
 :わからん、連絡できない状況になったならいいが
 :配信電波をジャックしてくるようなやつだぞ?
 :ミツケタ
 :? なんだ今の書き込み
 :でかした
 :今行く
 :今行く
 :場所は?
 :東京
 :遠い
 :近場でよろしく
 :なんの話をしてるんだお前ら?
 :おい、これもしかして
 :俺たちの自宅に凸しようとしてる?
 :モンスターの自宅凸はご遠慮願います
 :黙れモンスター
 :トマト野郎!
 :お前ら、こざかしく人間様の叡智を使いやがって
 :一匹残らず駆逐してやるからな
 :覚悟しろ
 :JDSの定期便、見つけた
 :トマトたくさん乗ってる
 :救援求む
 :でかした
 :でかした
 :今行く
 :今行く
 :青森に行ける
 :函館にもいっぱいトマトいるがどうする?
 :仲間のためにとっておく
 :かしこい
 :かしこい
 :俺たちの真似をするな!
 :黙れトマト
 :情報抜いた、拡散ヨシッ
 :でかした
 :でかした

「やばいぞこれ。自分たちを人間だと思い込んだモンスターが地方に出て行こうとしてる。おまけに自分たち以外をモンスターだと思い込んでる最悪の展開だ」

『さっきからぶつぶつと何言ってやがる。大人しく焼きトマトになる相談でもしてたか?』

 トマト怪人が俺たちに向けて槍先を向ける。

「トマトは新鮮フレッシュな方がうまいのに、焼き一択なお前の頭が残念だ、ってそういう相談だよ。なぁ、ポンちゃん?」

「俺は焼いたトマトも好きだよ?」

「ここでハシゴ外すの狡くない?」

「何はともあれ、あんたを倒して美味しくいただくのが俺たちの流儀だ!」

『なんて交戦的なトマトなんだ。倒された仲間の恨み、今日ここで晴らしてやる! チェストーーーー!』

 戦闘技術も探索者時代に培われたそれなのだろう。

 しかし人の体で繰り出されれば必殺のそれは、ずんぐりむっくりとした体から繰り出されることで、必殺にはなり得ないチグハグさがあった。

「見てから回避超余裕でした」

「ヨッちゃん、煽んな」

「オラァ! 俺の飾り包丁で鳳凰に進化させてやんよぉ!」

 鳳凰好きだね、ダイちゃん。

 相手の動きが鈍いからとくりだされる特殊調理。
 見事な活け作りがそこに完成する。

「この美しさの制限時間てどれくらい?」

「は? お客様のもとに提供されるまでだから2分がいいところだろ」

「そりゃ残念」

 俺は取り込まれたトマト以外に『熟成乾燥』を施した。

 こうすることでトマトに栄養を送れないようにするためだ。

『ぐぉおおおおおお』

 トマトは胴体を無力化されてひどく苦しんでいる。
 やはりそこがウィークポイントか。

 しかし、苦しんでるだけで致命傷ではないみたいだ。ちょっと切り傷をつけられた程度なのか?

 はたまた再生すら持ち合わせているとでもいうのか、そこら辺を転げ回っている。

 更にミンサーでドライトマトにした鳳凰をミンチにし、ソーセージを作った。

 それを転げ回ってるトマトに投入する。
 トマトにトマトを食わせたのだ。

 これでどうなるかはわからない。
 パワーアップするか、それとも元に戻るか。

 それは目の前のトマト、ズワイさんが教えてくれるだろう。
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