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87話 ダイちゃん再び
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歩いても歩いても、バス停はおろかタクシーも拾えないまま二時間が過ぎた。
そして電車まで止まってる。商店街に人気はなく、民家に差し掛かるがそちらも人通りは皆無だった。
「誰もいないねぇ」
「これ、移動できないと詰むんじゃねぇか?」
「みんなどうやって移動してるんだろう?」
<コメント>
:第一村人はおろか、モンスターすら見当たらなくなったな
:のどかな風景がひろがっております
:たまに見かけるJDSのバスは、函館行きの被災者運行バスだしな
:それに頼んで札幌歩に行きたいですは通用せんよ、そりゃ
:移動手段持ってこなかったんか、ポンちゃん
:今どこ?
:今んとこ山しか見えねーからな
:道路も一本道だし
:GPS機能は?
ここに来てDフォンを使いこなせないことが仇になるとは……
普段から移動に事欠かない場所にいたからなぁ。
よもやここで公共交通機関が使えないとは思いもしない。
「そういやダイちゃん車持ってるって言ってなかったっけ?」
「言ってたねぇ」
「運転しに来てもらえないかな?」
それだ! とは言い切れない。
なんのために置いてきたかわからなくなる。
菊池さんから頼まれてる手前、危険に巻き込むのは控えたかった。
しかし同時に背に腹も変えられない。
俺たちが間に合わないと、この暴走は止まらないのだ。
外のモンスターを倒せば終わるわけではないだろう。
ここは危険を冒してでもダイちゃんに頼んでみるか?
どっちみち、ここで運転もできる相手などいないのだ。
頼る他ないのは明白だった。
<コメント>
:《大輝》そうなると思って家に戻ってたぜ! 俺の準備はできてる! いつでも行けるぜ。
「助かるよ。俺たち、運転したことないからさ」
「そんかわし、モンスターが来たら俺たちに任せてくれよな?」
<コメント>
:大輝、無茶すんなよ?
:自ら死地に飛び込むか
:《大輝》ここで我が身可愛さでケツまくる真似できるかよ!
:勇気と蛮勇は違うんだぞ?
:《大輝》別に無理はしねぇよ。運転するだけだろ? それに、北海道には旅行しに行くつもりだ。下見も兼ねてちょうどいい!
どこまで信じていいかはわからないが、俺たちにとってとても頼りになる返事だった。
とにかく移動手段が得られるのは大きい。
「それで構わない。オリン、繋いでくれ」
「キュ(心得た)」
オリンから屋台を引き出し、新潟に帰還。
出迎えてくれたダイちゃんが車庫に案内してくれて、そこでワゴン車を紹介された。
家族用の車だからスピードは出ないが、人を乗せるのに適した形状をしているそうだ。
オリンに許可をもらい、ダイちゃんを連れて再び北海道へと戻った。
「ということで、俺、参上!」
「バカやってないで車出して、車」
「ちょ、カッコくらいつけさせてくれよ」
頼りになるかと思ったけど、ダイちゃんはダイちゃんだった。
車に乗り込み、移動しながら雑談へ。
「道路が凍りついてるけど平気か? 俺達車のことなんもわかんねーけど」
「新潟だって北海道と程度は違うが雪は降るんだぜ? それに俺はスノースポーツも嗜んでる。タイヤの替えも用意した。パンクしても替えりゃいい。ただし想定外のアクシデントには答えかねる。あくまでも移動以外のアクションは出来ねぇ」
JDSのように空を飛ぶことはできないと言われて納得した。
商売道具を一般人に公開してるわけないだろ、と言われて頷く他ない。
「良かった。かろうじてナビは生きてるな。天候が荒れてると電装系はイカれることが多いんだ」
「ナビってなんだ?」
「そんなことも知らないのか?」
すまんな、生きてくのに必死でそれ以外の知識は特別仕入れてこなかったんだ。
知識のほとんどが料理と酒の俺たちで本当にすまない。
「ここに写ってる画面があるだろ? こいつが光って行き先を案内してくれるんだよ。ドライバーはその案内に従って目的地まで安全に辿り着くんだ。マップ制作なんかは宇宙に衛星飛ばして、それで地理を把握したらしいぜ? 俺もよくわかんねーけど、便利だから使ってる。しっかしあれだな、いつかは旅行で行きたいと思ってた場所に、こういう機会で行くことになるとは思わなんだ」
「ここはどこなんだ?」
「まだ函館市だぞ?」
「えっ」
「え?」
東京だったらバスに乗って十数分もすれば隣町に着くのに、まだ函館市なのか?
どこか街の一つにでも辿り着いてるのかと思ったが。本当に市内だそうだ。
俺たちの想像よりだいぶ規模が大きいんだな、北海道って。
海に面していて、海産物が多く取れるという前知識しかなかったので、ダイちゃんの説明で、どんな場所で仕事を引き受けたのかを思い知らされる。
「そもそも、北海道自体がでかいんだ。最南端から最北まで、名古屋から新潟までの距離があるんだぞ?」
「うへぇ」
そんな距離があるとは思わなかった。名古屋がどこにあるのかも知らないのは黙っておく。
仰々しくダイちゃんが言うので、頷いて分かってる振りをした。
そんな場所を徒歩で行くなんて無理がありすぎる。
ここで暮らしてる人はバスとか止まったらどうやって移動してるんだろうか?
「ちなみに雪が積もりすぎると、公共交通機関はよくストップする。だから豪雪地帯に住んでる人は、車を所持するんだ。他にも除雪車を所有する個人もいるぜ?」
「個人で? 想像できないな」
「それでも、そんな土地で生きていくんだ。そこで生きるための知恵がある。だからこっちの住民は雪くらいは屁でもないと思うぞ?」
<コメント>
:それまじなん?
:マジだよ
:雪国は電柱が埋まるのがデフォだし
:新潟市は海に近いから雪は積もらないよ
:潮風で屋根は錆びるから瓦屋根多いよな
:同じ県なのに雪の積もり具合が海側と山側で天と地ほど違うんよ
:北海道とは寒さも雪のつもり具合も違うけどな
:冷蔵庫を解凍させるための家具として扱うのが道民だしな
:バナナで釘が打てる地域
嘘か本当かわからない蘊蓄を流し見しながら、車は進んでいく。
「どこもかしこも氷づけだな。かろうじて溶けてきてはいるが、ドライブインは絶望的か」
「腹減ったんなら、作り置きあるぜ?」
「ああ、いや。北海道の店を堪能するのは無理かなって」
「そういうやつか」
「このまま5号線を通って八雲町まで行くぞ。本当ならいくつか食べたいグルメもあったが、そういうのは復興の目処が立ってからだな。全てを救ってから、グルメを楽しもうぜ?」
<コメント>
:北海道は美味いもん多いからな
:北海道はダンジョンブレイクそのものはしょっちゅう起きてるイメージあるけどな
:江差のアワビとかな
:生で美味いのがもうずるい
:海鮮はそういうの多いからね
:江差は反対方面
:松前寿司もいいぞ
:だから反対方面なんだよなぁ
どうやら今向かってる方とは違う場所に美味しいグルメがあるらしい。
ダイちゃんじゃないけど、全てを救ったら食べに行きたいな。
<コメント>
:ちょっと吹雪いてきた?
:まだ粉雪だな
:霧が出てきてる時のドライブ怖いよね
:今めちゃくちゃ速度出てるし
:スリップ気を付けて!
「ヨッちゃん、頼む」
「視界から雪を消せばいい感じか?」
後部座席の窓を開け、片手を出して風魔法。
車全体を風が覆い、渦を巻いて雪と霧をもろとも吹き飛ばした。
「視界良好! こりゃ楽ちんだ。飛ばすぜ!」
「寒い、寒い、ヨッちゃん窓しめて!」
<コメント>
:そりゃ暖房全開の車内で窓開けたらそうよ
:暖をとるか、視界をとるかだな
:距離を稼ぐなら視界一択
:ここはポンちゃんに我慢してもろて
:意外と寒がりだよな
こんなに寒暖差の激しい場所は低ステータス時代でも体験したことないんだ、しょうがないだろ!
「キュ(だらしのない契約様じゃの)」
オリンに憐れまれたが、お前は温度を感じないからそう思うんだ。
移動手段は得たものの、俺たちらしい肝心なところが締まらない旅はまだまだスタートしたばかりだった。
そして電車まで止まってる。商店街に人気はなく、民家に差し掛かるがそちらも人通りは皆無だった。
「誰もいないねぇ」
「これ、移動できないと詰むんじゃねぇか?」
「みんなどうやって移動してるんだろう?」
<コメント>
:第一村人はおろか、モンスターすら見当たらなくなったな
:のどかな風景がひろがっております
:たまに見かけるJDSのバスは、函館行きの被災者運行バスだしな
:それに頼んで札幌歩に行きたいですは通用せんよ、そりゃ
:移動手段持ってこなかったんか、ポンちゃん
:今どこ?
:今んとこ山しか見えねーからな
:道路も一本道だし
:GPS機能は?
ここに来てDフォンを使いこなせないことが仇になるとは……
普段から移動に事欠かない場所にいたからなぁ。
よもやここで公共交通機関が使えないとは思いもしない。
「そういやダイちゃん車持ってるって言ってなかったっけ?」
「言ってたねぇ」
「運転しに来てもらえないかな?」
それだ! とは言い切れない。
なんのために置いてきたかわからなくなる。
菊池さんから頼まれてる手前、危険に巻き込むのは控えたかった。
しかし同時に背に腹も変えられない。
俺たちが間に合わないと、この暴走は止まらないのだ。
外のモンスターを倒せば終わるわけではないだろう。
ここは危険を冒してでもダイちゃんに頼んでみるか?
どっちみち、ここで運転もできる相手などいないのだ。
頼る他ないのは明白だった。
<コメント>
:《大輝》そうなると思って家に戻ってたぜ! 俺の準備はできてる! いつでも行けるぜ。
「助かるよ。俺たち、運転したことないからさ」
「そんかわし、モンスターが来たら俺たちに任せてくれよな?」
<コメント>
:大輝、無茶すんなよ?
:自ら死地に飛び込むか
:《大輝》ここで我が身可愛さでケツまくる真似できるかよ!
:勇気と蛮勇は違うんだぞ?
:《大輝》別に無理はしねぇよ。運転するだけだろ? それに、北海道には旅行しに行くつもりだ。下見も兼ねてちょうどいい!
どこまで信じていいかはわからないが、俺たちにとってとても頼りになる返事だった。
とにかく移動手段が得られるのは大きい。
「それで構わない。オリン、繋いでくれ」
「キュ(心得た)」
オリンから屋台を引き出し、新潟に帰還。
出迎えてくれたダイちゃんが車庫に案内してくれて、そこでワゴン車を紹介された。
家族用の車だからスピードは出ないが、人を乗せるのに適した形状をしているそうだ。
オリンに許可をもらい、ダイちゃんを連れて再び北海道へと戻った。
「ということで、俺、参上!」
「バカやってないで車出して、車」
「ちょ、カッコくらいつけさせてくれよ」
頼りになるかと思ったけど、ダイちゃんはダイちゃんだった。
車に乗り込み、移動しながら雑談へ。
「道路が凍りついてるけど平気か? 俺達車のことなんもわかんねーけど」
「新潟だって北海道と程度は違うが雪は降るんだぜ? それに俺はスノースポーツも嗜んでる。タイヤの替えも用意した。パンクしても替えりゃいい。ただし想定外のアクシデントには答えかねる。あくまでも移動以外のアクションは出来ねぇ」
JDSのように空を飛ぶことはできないと言われて納得した。
商売道具を一般人に公開してるわけないだろ、と言われて頷く他ない。
「良かった。かろうじてナビは生きてるな。天候が荒れてると電装系はイカれることが多いんだ」
「ナビってなんだ?」
「そんなことも知らないのか?」
すまんな、生きてくのに必死でそれ以外の知識は特別仕入れてこなかったんだ。
知識のほとんどが料理と酒の俺たちで本当にすまない。
「ここに写ってる画面があるだろ? こいつが光って行き先を案内してくれるんだよ。ドライバーはその案内に従って目的地まで安全に辿り着くんだ。マップ制作なんかは宇宙に衛星飛ばして、それで地理を把握したらしいぜ? 俺もよくわかんねーけど、便利だから使ってる。しっかしあれだな、いつかは旅行で行きたいと思ってた場所に、こういう機会で行くことになるとは思わなんだ」
「ここはどこなんだ?」
「まだ函館市だぞ?」
「えっ」
「え?」
東京だったらバスに乗って十数分もすれば隣町に着くのに、まだ函館市なのか?
どこか街の一つにでも辿り着いてるのかと思ったが。本当に市内だそうだ。
俺たちの想像よりだいぶ規模が大きいんだな、北海道って。
海に面していて、海産物が多く取れるという前知識しかなかったので、ダイちゃんの説明で、どんな場所で仕事を引き受けたのかを思い知らされる。
「そもそも、北海道自体がでかいんだ。最南端から最北まで、名古屋から新潟までの距離があるんだぞ?」
「うへぇ」
そんな距離があるとは思わなかった。名古屋がどこにあるのかも知らないのは黙っておく。
仰々しくダイちゃんが言うので、頷いて分かってる振りをした。
そんな場所を徒歩で行くなんて無理がありすぎる。
ここで暮らしてる人はバスとか止まったらどうやって移動してるんだろうか?
「ちなみに雪が積もりすぎると、公共交通機関はよくストップする。だから豪雪地帯に住んでる人は、車を所持するんだ。他にも除雪車を所有する個人もいるぜ?」
「個人で? 想像できないな」
「それでも、そんな土地で生きていくんだ。そこで生きるための知恵がある。だからこっちの住民は雪くらいは屁でもないと思うぞ?」
<コメント>
:それまじなん?
:マジだよ
:雪国は電柱が埋まるのがデフォだし
:新潟市は海に近いから雪は積もらないよ
:潮風で屋根は錆びるから瓦屋根多いよな
:同じ県なのに雪の積もり具合が海側と山側で天と地ほど違うんよ
:北海道とは寒さも雪のつもり具合も違うけどな
:冷蔵庫を解凍させるための家具として扱うのが道民だしな
:バナナで釘が打てる地域
嘘か本当かわからない蘊蓄を流し見しながら、車は進んでいく。
「どこもかしこも氷づけだな。かろうじて溶けてきてはいるが、ドライブインは絶望的か」
「腹減ったんなら、作り置きあるぜ?」
「ああ、いや。北海道の店を堪能するのは無理かなって」
「そういうやつか」
「このまま5号線を通って八雲町まで行くぞ。本当ならいくつか食べたいグルメもあったが、そういうのは復興の目処が立ってからだな。全てを救ってから、グルメを楽しもうぜ?」
<コメント>
:北海道は美味いもん多いからな
:北海道はダンジョンブレイクそのものはしょっちゅう起きてるイメージあるけどな
:江差のアワビとかな
:生で美味いのがもうずるい
:海鮮はそういうの多いからね
:江差は反対方面
:松前寿司もいいぞ
:だから反対方面なんだよなぁ
どうやら今向かってる方とは違う場所に美味しいグルメがあるらしい。
ダイちゃんじゃないけど、全てを救ったら食べに行きたいな。
<コメント>
:ちょっと吹雪いてきた?
:まだ粉雪だな
:霧が出てきてる時のドライブ怖いよね
:今めちゃくちゃ速度出てるし
:スリップ気を付けて!
「ヨッちゃん、頼む」
「視界から雪を消せばいい感じか?」
後部座席の窓を開け、片手を出して風魔法。
車全体を風が覆い、渦を巻いて雪と霧をもろとも吹き飛ばした。
「視界良好! こりゃ楽ちんだ。飛ばすぜ!」
「寒い、寒い、ヨッちゃん窓しめて!」
<コメント>
:そりゃ暖房全開の車内で窓開けたらそうよ
:暖をとるか、視界をとるかだな
:距離を稼ぐなら視界一択
:ここはポンちゃんに我慢してもろて
:意外と寒がりだよな
こんなに寒暖差の激しい場所は低ステータス時代でも体験したことないんだ、しょうがないだろ!
「キュ(だらしのない契約様じゃの)」
オリンに憐れまれたが、お前は温度を感じないからそう思うんだ。
移動手段は得たものの、俺たちらしい肝心なところが締まらない旅はまだまだスタートしたばかりだった。
応援ありがとうございます!
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