ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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82話 救命活動最前線

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 バスに乗り込むと、そこには地方から乗り込んでいる凄腕のAランク達が品定めするように俺たちを迎え入れた。

「おい、随分ヒョロイのがきたな、平気なのか?」

「遊びじゃないんだぞ?」

など聞こえるが、一つだけ知り合いっぽい人の声も混ざった。

「ポンちゃん、来てくれたか! これでメシの心配は無くなった。いやぁ良かった、長期戦が見込めるからな。みんな、彼は美食倶楽部のポンちゃん、本宝治洋一だ。あの轟美玲すら認めた凄腕だぞ?」

 そんな声に、急にその場がざわめいた。
 コワモテの男達がホッとするような、信じられないみたいな顔をさせた。

「あの、お知り合いの方でしたか?」

「一方的に知ってるだけだよ、初めましてだな。俺は群馬所属『赤城ブラックサンズ』の高橋涼介。一応Aランクの序列20位を張らせてもらってる。あんたのところのチャンネルでは一応古株になるのかな?」

「いつもご視聴ありがとうございます」

 固く握手しながら、なんとかバスの中に出迎えてもらった。

 それより序列って何?

 ヨッちゃんにそれとなく聞いたが、知らないって顔された。

 まぁダンジョンセンター職員だからと下っ端が知らなくていいことなんていっぱいある。
 知らなくて当然か。

 空いてる席に通してもらい、バスは動き出した。

 バスの中では北海道で暴れるモンスターを映す映像と、行方不明者・死亡者の数、封鎖ルートの情報が逐一入っている。

 排出モンスターはまだ弱いが、これが強くなると近隣住民でさえ手がつけられなくなると悲観してるらしい。

 ステータス至上主義者による支配は、代を重ねるごとに効果を失っていくともっぱらの噂。

 しかしこういうアクシデントではそれなりに友好的に捉えられていた。

 探索者にならなくたって生きていける人が多い現状、違う道でも与えられた能力を活かしてきた人たちが家族を守るように我先にと前へ出る。

 かつての英雄達を思わせるような働きをしようとするが老いには勝てず戦線離脱する姿も見られていた。

 そう考えると、富井・八尾さんはあの歳でモンスターの前で一歩も怯まないあたり生粋の化け物だなと思う。

 瀬良さん世代の人たちが怯えるわけだ。

「青森ではもう北海道行きのバスが何本か行ってるんですか?」

「三本入ったが、序列が低く、正確な情報が入ってこないんだ。そういえばポンちゃんは序列いくつだ?」

「新入りなんで下から数えたほうが早いんじゃないですか?」

「ライセンスを見せてくれ。そこに記載されている、ほらここ。Aランクからは序列がものを言うんだ。次のバスでも序列が高いほうが優先的に乗り入れられるんだぜ?」

 高橋さんが自分のライセンスを見せながら、その場所を教えてくれた。

本当だ【00020】って書いてある。これは1万チーム以上いる中の20位を指すそうだ。

 すごい!上位二十位なんて!

 俺たちは自分のライセンスを見ながら、数字を数えた【00001】
 なるほど、何度も見返したが、数字が変わることはなかった。

「00001って書いてありますね」

「そんなわけないだろう。よく見ろ」

 気さくに話しかけてくれたのに、開口一番否定された。
 解せぬ。

「ほらここ」

「本当かよ。何倒したら序列爆上がりできるんだ?」

「さぁ? 柏崎でイソギンチャクと大きなイルカを始末して、長岡で大量の野菜のミイラを地方発送対応にしたくらいで、特に大したことはしてないんですが」

「あのキリングドルフィンを討伐しただと?」

「もしかして最近出回ってる栄養素を凝結させた乾燥野菜の出所はあんた達か!」

「あれすげー美味いスープできるって聞いたぜ?」

 Aランク界隈でも有名だったらしい。

 どうもその乾燥野菜で出汁をとったスープは病人食としても優秀らしく、疲弊した戦士の傷も癒えるだろうことを予想させる。期待は鰻登りである。

 ただ道中の雑魚討伐が面倒だから根こそぎ仮死状態にさせただけなのにな。

「それほどの戦果残してたら、確かに上位入りしてなきゃおかしいな。疑って悪かったよ」

「幸運に恵まれただけですよ」

「知らないのか? 運も実力なんだぜ。特にこの界隈に足を長く浸らせてると、そいつが欲しくてタマンねぇ時が何度もくる。だからそれはあんたの実力だ、ポンちゃん」

「照れますね」

 バスは揺れ、そしてしばらくして新潟を抜ける。

 JDSに連盟してるのか、交通もスムーズで渋滞に巻き込まれることもなく、山形、秋田、青森まで通った。

 途中空でも飛んでるんじゃないかってくらい山が風景の下にある時もあるが、気のせいだろうか?

「空飛ぶぞ? JDSのバスは。知らなかったのか?」

「俺たち、電車とバスしか乗ってきませんでしたが、初めての経験ですね」

 被災地に直接乗り込むためには地続きの通路では断線してしまうとのことで、新たに開通したのがこの空路ということらしい。

 この超低飛行空路を運用することで世界中のどの運送会社よりも早く荷物と人々を安心安全に届けるのがJDSのサービス理念だとかなんとか。

 実際それでシェアナンバーワンを取るあたり信頼が厚いのも事実か。
 そりゃオリンのワープポータルを敵視するわけだ。

 ちなみに海路にもモンスターが出るとのことで、撃墜されることを予測して海中トンネルを採用。

 そっちのトンネルは一度破壊されたが、ダンジョンで出土された鉱石を媒体に再度作り直して今がある。

 生半可なモンスターには打ち破れない強度があるとかなんとか。
 それでも上位個体が現れたら時間の問題。

 早い段階で召集しないと詰むのが目に見えていた。

 北海道はただでさえダンジョン出現数が最多の試される大地。

 その規模のデカさと難易度の高さもあり、その地方住民は一般人でもAランク内と生き残れないとされている生粋の戦闘民族でもあったが、そんな彼らが押し負けている相手が出てきている。

 何よりモンスター出現頻度が日に日に増加する一方で、住民は疲弊していた。

 これはモンスターを押し返すよりも、怪我人や病人を確保して地方に送り出すほうが最優先事項だろう。

「城戸さん、北海道のニュース知ってます?」

 早速知り合いの医者に相談。

『本宝治君、いくら君でもその件に首を突っ込むのはやめなさい。まだCランクだろう?』

「いや、もうAになったので」

『早くないか?』

「人に恵まれました。それで先生、病人の受け入れ先として何件か手配していただけませんか?」

『これを放っておけば本土にも攻め入ってくる、か。だがベッドの数は有限だ。全員は引き受けられんぞ?』

「暖を取れる場所と雨風を凌げる場所さえあればいいです。市民体育館とかどでしょう?」

『病人をそんな場所に押し込めと?』

「回復した人から順に押し込んでもらう形で」

『あれを使うつもりか?』

 あれ……富井さんを復活させたリビングメイルスープの再入荷だ。

 病院や給食センターで保管してるが、ついにそのお披露目の機会が現れたというわけだ。

「惜しんでる場合でもないでしょう?」

 城戸先生は考える時間をくれ、と電話を切り、メッセージモードへと切り替えた。

 向こう側で動いてくれるが、あまり期待はするなという感じだった。

 どちらにせよ、動いてくれるなら俺たちは怪我人をオリンのワープポータルで回すだけでいい。

 あとは現場の判断に任せるさ。

「どこに電話してたんだ?」

 高橋さんが声をかけてくる。

「知り合いのお医者さんに協力してもらえないか連絡してました」

「医者とも縁があるのかよ」

「依頼で何度かお話ししたくらいですよ」

「それでそんな親密な関係築けるかー?」

「それも運が良かったんです」

 運よく、その息子さんを助けて。

 運よく依頼で富井さん用の病院食をつくった。

 そして運よく他の業界に明かせない秘密を握った。

 そう、全ては運だ。

「ポンちゃんさぁ、それでなんでも片付くと思ったらお門違いだぜ?」

「別にそういう伝をめぐらせてるのは俺に限った話じゃないでしょう?」

 何せ成功報酬は昇格。
 それが序列を示すのか、上のランクへの片道切符かはわからないが、それを得るためにここへきている。

 腕っぷしのみで解決できる問題ではないとなれば、こういう時に頼るコネぐらいみんな築いてるものだろう。

「まぁな。地元の病院に掛け合ってベッド開けて欲しいぐらいの連絡入れてるが、問題は運送だ。JDSのバスだって定員が決まってる。載せきれないんだよ」

「それはオリンのポータルを使って」

「あの能力を表沙汰にする気か?」

 それだけはやめとけと、高橋さんの目が訴えかけていた。

 配信であらわにしてるのに今更? とも思うが身内で内々に使っているのと、表立って使うのでは確かに違うが……じゃあどうやって全員助ける気だろうか?

「あんたは全員助けるつもりでいるんだろうが、その考えは甘いぜ、ポンちゃん。中には手遅れな奴もいる。けどそれを諦めきれない奴もいる。そういう奴らってな、決まって死に急ぐんだ。そういう連中を何度も見てきた。自分だけ助かったって意味がない。救ってほしくなかった、一緒に死なせてくれっていう奴も一定数いるんだ」

 だから助かりたいやつだけを選定して運ぶ。高橋さんは厳しい目でそう言ってのけた。

 それは何でもかんでも助けたいと願う俺の意見に真っ向から反するものだった。
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