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81話 緊急招集令
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ダイちゃんの実家で飲んで食べて、寝床まで借りて。
その翌日長岡を離れる。深緑ダンジョンを踏破すればもうここに用はない。
名残惜しくもあるが、菊池さんの店には屋台を通じていつでも来れる。
当初こそダイちゃんの帰還用だったが、今じゃすっかり俺たちが菊池さんの料理を堪能する側になっていた。
自己流料理では見えてこない、味の立体構造。
モーゼの味を熟知した先にある大衆料理がそこにあった。
賄いでは決して味わえない、料理の真髄。
食べてほっぺが落ちるという感覚。
特別な食材を使ってるわけじゃなく、それを調理技術のみで構成してる事実に我ながら恥ずかしくなるばかりだ。
当時より料理は上達した方だと思ったのに、上には上がいるのだと思い知らされた。
もし菊池さんが俺と同じ食材を使ったらと思うと、正直どんな料理を出してくるのか想像できない。
それくらい俺の料理は稚拙だと思い知らされる。
店に出すとはこれくらいしなければいけないのか。
ここまで手をかけて、あの単価か。
八尾さんや富井さんが持ち上げてくれるもんだから、すっかりそれが自分の実力だと思い込んでいた。
あれは味につけられた価格ではなく、俺の生み出した食材に対する評価だったのかもしれないと今更ながらに思う。
「いやぁ、美味かったな。酒の肴なのに、全然アルコールが進まなかった。気づいたら皿の上からつまみが消えてらぁ。まるでポンちゃんの飯を食ってる気分だったぜ」
「焼きの技術で俺はあの人に敵わないと実感したな。すごいんだ、あの人は。モーゼのオーナーが誘うだけある」
「ポンちゃんにとって、モーゼは最高の環境だったか。あの野郎が来るまでは」
「でもこうやって外に出るにはいい機会だったんだと思う。自分の実力や立ち位置が知れた。当初こそどうなるかと思ったが、今じゃ感謝の念お方が強いよ」
「終わりよければすべてよしってかぁ?」
呑気なもんだね、とヨッちゃんは笑う。
そっちは店の扱い品の空ウツボを勝手に食ってレベルアップした身だもんなぁ。
居辛くなって退職したのと比べれば雲泥の差だ。
菊池さんご夫婦に挨拶を済ませ、店を出る。
「次はどこだっけ?」
ダンジョンマップを見ている俺にヨッちゃんが聞いてくる。
「新潟市だって」
「新潟県の中心地か」
「いや、どっちかといえば北部にあるらしいぞ?」
「変わってんな、新潟」
「東京の人口密度がおかしいだけだよ」
「確かに東京はどこもかしこも人・人・人だけど」
一応自然もあるが、それは県境の端の端。
新潟みたいに中心地を超えた瞬間山が見えてくる場所にはいなかったので、長岡ですら田舎という感覚だ。
Dフォンの端末でダンジョンセンターの位置情報を確認しながら、軽口を叩き合う。
駅のホームでJDSの腕章を見せながら乗り込むと、
「待ってくれ!」
という背後からの声。
そこにはダイちゃんが身軽な格好で走ってきた。
ゼェハァと息を切らしつつ「新潟に行くんだろ? 案内するぜ」と格好をつけていた。
「確かに案内してもらえれば助かるが店はいいのか?」
「俺は修行中の身だぜ? 人に教えることで自分の実力を測るのも修行だ」
「よくわかんねぇけど、ダイちゃんが平気って言うんなら任せた」
「でも電車賃は払えよ? 俺たちはこの腕章で乗りたい放題だけど」
「あほ、新潟市は大学時代に通い詰めた第二の故郷だぜ? パスくらい持っとるわ」
そう言って差し出されたパスポートは、どこからどうみても探索者ライセンスだった。
「ダイちゃん、探索者だったのか?」
俺たちに影響されて探索者になった、とは考えにくい。
ならば最初から探索者だったが、途中で断念して表に出さなかったと言う方が現実味がある。
「実はな。実力はお察しだが、こいつを引っ張り出してきたくらいには俺も本気ってことよ」
「まだまだFじゃんか。それじゃあ割引使えないだろ」
「割引なんてするかよ。普通に払うぜ? 別に金には困ってないしな。こいつは俺の意思表示みたいなもんだ。それと、いろんな交通系ICカードが紐付けできる。複数持つと嵩張るからな、そういう意味で便利に使ってるんだ。車の免許みたいなもんさ」
「俺たち車は乗せてもらう方だからよくわかんねぇ」
ダイちゃんがいうには、新潟は自家用車を持ってないと移動に関して詰むと言われた。
確かに東京に比べてバスの走ってる本数が少ないと思っていた。
そういう場合はタクシーを頼むが、そうか皆は車で移動するからバスの本数が少ないのか。
「まぁ、そういうこった。自家用車は多い方がいいぜ? カーレンタルっていうのもあるが」
「ダイちゃんは免許あるのか?」
「持ってるぜ。店を継ぐってことは出前も引き受けるってことだ。親父の料理は万人から愛されてるからな。俺も早くその領域に至りたいもんだぜ」
「車は?」
「あるけど実家だ。新潟市の人口密度なら、交通機関を利用した方がスムーズに進めるからな」
ということらしい。
そのまま電車に揺られ二時間もすれば、目的地へと辿り着く。
本当に下から上まで無駄に広いな新潟は。
武蔵野から宇都宮に向かうくらいはあるんじゃないか?
だからこそ、Aランクを四つも抱えることができるんだろうが。
「初めまして本宝治です。今日はAランクダンジョンの案内をしてもらいたくて伺いました」
「噂はかねがね。各支部から高評価をいただいている本宝治様ですね。少々お待ちください。マスターを呼んで参ります」
いきなり支部長を?
糸魚川は知り合いだったけど、柏崎、長岡は普通に受付案内だった。
まさかここにきて支部長が直接出てくるとは思いもしない。
「待たせたな、って一人多いようだが?」
「あ、俺はここまでの案内人だから」
「じゃあそこの二人こっちに来い。うちの管轄の情報と他の場所の情報を教える」
ということでダイちゃんと別れて別室へ。
なんでも、率先的に踏破してもらいたい場所があるそうだ。
それが北海道のダンジョン。
年々難易度が増加傾向にあるそうだ。
何かのイレギュラーが起きてるのではないかと見込まれていて、各支部は腕利きを北海道に集結させているらしい。
そこで俺たちにも白羽の矢が立ったというわけだ。
どのみち高ランクのダンジョンに挑むので、優先順位があるならそれに従うまで。
「うまく功績を上げれば、異例の速さでの昇進が見込める。逆にまずい状態を引き起こせば、諸共巻き込まれる。これ以上強化が進めば、北海道は人が住めない土地になるかもしれん」
なるほど。あまり悠長に事を構えていられるわけではなさそうだ。
「つまり、俺たちはのんびりこの地のダンジョンを攻略なんかせず、今すぐにでも北海道へ向かった方が得策だと?」
「一応腕利きを向かわせているが、ダンジョン側の進化の方が早い。こればかりはAランクの気分次第なので、こちら側からは強くいえん。それなりに特例を通せる立場にあるからな、そのランク帯にもなると」
ということらしい。
「どうする、ヨッちゃん?」
「その特例って早いもん勝ちなの?」
「早く収束してくれれば、お互いに助かるという話だが、Sを呼ぶ前に収束させたいというのが本音だな」
Sは何かと費用がかかるそうだ。
ダンジョンセンター側で顎で使えるのはAまでなんだってさ。
それでもAの気分次第で拒否もできると。
リスナーからの反応次第では、旨みのあるダンジョンで生計を立ててる層が少なくないとも聞くし、案外向かってるAランクて少ないんじゃないかって思うんだ。
新潟にはワープポータルを設置しておけばいつでも来れるし、ここは北海道を優先しようと思う。
どうせ北海道にはそのうち行く予定だったんだし。
攻略順が変わるだけさ。
「行きます。ここから近い、空港が通じてる場所はありますか?」
「空路は凍結中だ。市街地にモンスターが溢れてきてるからな」
「ダンジョンブレイク!? 非常事態じゃないですか」
「だから招集案件なんだ。かろうじて海中トンネルは死守できてるから青森からの連絡バスでのみ乗り込める」
「まずは青森ですか」
「青森までのバスも回せるがどうする?」
「お願いします!」
こうして俺たちは新潟のダンジョンを後回しにして一路青森へと向かった。
ダイちゃんは新潟に置いてけぼりとなった。
そのバスにはAランク以上しか乗り込めない縛りがあったので、致し方ないと思う。
せっかく案内する気満々だったのに、悪いね。
その翌日長岡を離れる。深緑ダンジョンを踏破すればもうここに用はない。
名残惜しくもあるが、菊池さんの店には屋台を通じていつでも来れる。
当初こそダイちゃんの帰還用だったが、今じゃすっかり俺たちが菊池さんの料理を堪能する側になっていた。
自己流料理では見えてこない、味の立体構造。
モーゼの味を熟知した先にある大衆料理がそこにあった。
賄いでは決して味わえない、料理の真髄。
食べてほっぺが落ちるという感覚。
特別な食材を使ってるわけじゃなく、それを調理技術のみで構成してる事実に我ながら恥ずかしくなるばかりだ。
当時より料理は上達した方だと思ったのに、上には上がいるのだと思い知らされた。
もし菊池さんが俺と同じ食材を使ったらと思うと、正直どんな料理を出してくるのか想像できない。
それくらい俺の料理は稚拙だと思い知らされる。
店に出すとはこれくらいしなければいけないのか。
ここまで手をかけて、あの単価か。
八尾さんや富井さんが持ち上げてくれるもんだから、すっかりそれが自分の実力だと思い込んでいた。
あれは味につけられた価格ではなく、俺の生み出した食材に対する評価だったのかもしれないと今更ながらに思う。
「いやぁ、美味かったな。酒の肴なのに、全然アルコールが進まなかった。気づいたら皿の上からつまみが消えてらぁ。まるでポンちゃんの飯を食ってる気分だったぜ」
「焼きの技術で俺はあの人に敵わないと実感したな。すごいんだ、あの人は。モーゼのオーナーが誘うだけある」
「ポンちゃんにとって、モーゼは最高の環境だったか。あの野郎が来るまでは」
「でもこうやって外に出るにはいい機会だったんだと思う。自分の実力や立ち位置が知れた。当初こそどうなるかと思ったが、今じゃ感謝の念お方が強いよ」
「終わりよければすべてよしってかぁ?」
呑気なもんだね、とヨッちゃんは笑う。
そっちは店の扱い品の空ウツボを勝手に食ってレベルアップした身だもんなぁ。
居辛くなって退職したのと比べれば雲泥の差だ。
菊池さんご夫婦に挨拶を済ませ、店を出る。
「次はどこだっけ?」
ダンジョンマップを見ている俺にヨッちゃんが聞いてくる。
「新潟市だって」
「新潟県の中心地か」
「いや、どっちかといえば北部にあるらしいぞ?」
「変わってんな、新潟」
「東京の人口密度がおかしいだけだよ」
「確かに東京はどこもかしこも人・人・人だけど」
一応自然もあるが、それは県境の端の端。
新潟みたいに中心地を超えた瞬間山が見えてくる場所にはいなかったので、長岡ですら田舎という感覚だ。
Dフォンの端末でダンジョンセンターの位置情報を確認しながら、軽口を叩き合う。
駅のホームでJDSの腕章を見せながら乗り込むと、
「待ってくれ!」
という背後からの声。
そこにはダイちゃんが身軽な格好で走ってきた。
ゼェハァと息を切らしつつ「新潟に行くんだろ? 案内するぜ」と格好をつけていた。
「確かに案内してもらえれば助かるが店はいいのか?」
「俺は修行中の身だぜ? 人に教えることで自分の実力を測るのも修行だ」
「よくわかんねぇけど、ダイちゃんが平気って言うんなら任せた」
「でも電車賃は払えよ? 俺たちはこの腕章で乗りたい放題だけど」
「あほ、新潟市は大学時代に通い詰めた第二の故郷だぜ? パスくらい持っとるわ」
そう言って差し出されたパスポートは、どこからどうみても探索者ライセンスだった。
「ダイちゃん、探索者だったのか?」
俺たちに影響されて探索者になった、とは考えにくい。
ならば最初から探索者だったが、途中で断念して表に出さなかったと言う方が現実味がある。
「実はな。実力はお察しだが、こいつを引っ張り出してきたくらいには俺も本気ってことよ」
「まだまだFじゃんか。それじゃあ割引使えないだろ」
「割引なんてするかよ。普通に払うぜ? 別に金には困ってないしな。こいつは俺の意思表示みたいなもんだ。それと、いろんな交通系ICカードが紐付けできる。複数持つと嵩張るからな、そういう意味で便利に使ってるんだ。車の免許みたいなもんさ」
「俺たち車は乗せてもらう方だからよくわかんねぇ」
ダイちゃんがいうには、新潟は自家用車を持ってないと移動に関して詰むと言われた。
確かに東京に比べてバスの走ってる本数が少ないと思っていた。
そういう場合はタクシーを頼むが、そうか皆は車で移動するからバスの本数が少ないのか。
「まぁ、そういうこった。自家用車は多い方がいいぜ? カーレンタルっていうのもあるが」
「ダイちゃんは免許あるのか?」
「持ってるぜ。店を継ぐってことは出前も引き受けるってことだ。親父の料理は万人から愛されてるからな。俺も早くその領域に至りたいもんだぜ」
「車は?」
「あるけど実家だ。新潟市の人口密度なら、交通機関を利用した方がスムーズに進めるからな」
ということらしい。
そのまま電車に揺られ二時間もすれば、目的地へと辿り着く。
本当に下から上まで無駄に広いな新潟は。
武蔵野から宇都宮に向かうくらいはあるんじゃないか?
だからこそ、Aランクを四つも抱えることができるんだろうが。
「初めまして本宝治です。今日はAランクダンジョンの案内をしてもらいたくて伺いました」
「噂はかねがね。各支部から高評価をいただいている本宝治様ですね。少々お待ちください。マスターを呼んで参ります」
いきなり支部長を?
糸魚川は知り合いだったけど、柏崎、長岡は普通に受付案内だった。
まさかここにきて支部長が直接出てくるとは思いもしない。
「待たせたな、って一人多いようだが?」
「あ、俺はここまでの案内人だから」
「じゃあそこの二人こっちに来い。うちの管轄の情報と他の場所の情報を教える」
ということでダイちゃんと別れて別室へ。
なんでも、率先的に踏破してもらいたい場所があるそうだ。
それが北海道のダンジョン。
年々難易度が増加傾向にあるそうだ。
何かのイレギュラーが起きてるのではないかと見込まれていて、各支部は腕利きを北海道に集結させているらしい。
そこで俺たちにも白羽の矢が立ったというわけだ。
どのみち高ランクのダンジョンに挑むので、優先順位があるならそれに従うまで。
「うまく功績を上げれば、異例の速さでの昇進が見込める。逆にまずい状態を引き起こせば、諸共巻き込まれる。これ以上強化が進めば、北海道は人が住めない土地になるかもしれん」
なるほど。あまり悠長に事を構えていられるわけではなさそうだ。
「つまり、俺たちはのんびりこの地のダンジョンを攻略なんかせず、今すぐにでも北海道へ向かった方が得策だと?」
「一応腕利きを向かわせているが、ダンジョン側の進化の方が早い。こればかりはAランクの気分次第なので、こちら側からは強くいえん。それなりに特例を通せる立場にあるからな、そのランク帯にもなると」
ということらしい。
「どうする、ヨッちゃん?」
「その特例って早いもん勝ちなの?」
「早く収束してくれれば、お互いに助かるという話だが、Sを呼ぶ前に収束させたいというのが本音だな」
Sは何かと費用がかかるそうだ。
ダンジョンセンター側で顎で使えるのはAまでなんだってさ。
それでもAの気分次第で拒否もできると。
リスナーからの反応次第では、旨みのあるダンジョンで生計を立ててる層が少なくないとも聞くし、案外向かってるAランクて少ないんじゃないかって思うんだ。
新潟にはワープポータルを設置しておけばいつでも来れるし、ここは北海道を優先しようと思う。
どうせ北海道にはそのうち行く予定だったんだし。
攻略順が変わるだけさ。
「行きます。ここから近い、空港が通じてる場所はありますか?」
「空路は凍結中だ。市街地にモンスターが溢れてきてるからな」
「ダンジョンブレイク!? 非常事態じゃないですか」
「だから招集案件なんだ。かろうじて海中トンネルは死守できてるから青森からの連絡バスでのみ乗り込める」
「まずは青森ですか」
「青森までのバスも回せるがどうする?」
「お願いします!」
こうして俺たちは新潟のダンジョンを後回しにして一路青森へと向かった。
ダイちゃんは新潟に置いてけぼりとなった。
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