ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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80話 【長岡】深緑ダンジョン4

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「いやー、大変だったな」

「疲れた体に染み渡るなぁ」

「ちょうど野菜も調達できるし、良いなここのダンジョン。鍋を突くのに」

 <コメント>
 :すっかりくつろいでるな
 :最適解を得ちまったもんな

 リスナーの言う通り、俺たちはこの深緑ダンジョン下層の最適解を得ていた。

 それと言うのも、いつどこで生えてくるかわからない野菜タイプのモンスター。
 地面が柔らかくなっているのなら、事前に閉じてやれば良いと言う誰でもわかる状況。

 つまりは氷漬けにして、現在に至る。

 その寒さを吹き飛ばすように、俺たちは今鍋を囲んでいた。

 倒さなければお仕置きモンスターも出ない。
 と言うことでのんびり料理ができている。

 強いてデメリットがあるとすれば、体感気温がマイナスを超えてることくらいか。

 Fの時の暮らしがなかったら、きっと耐えられない気温だ。
 あの時培った我慢強さが、ここに来て生かされている。

 世の中、何が役に立つかわからんよなぁ。

「そういやさ、さっき仕入れたマンドラゴラあったろ? あれ富井の爺さんにうまく交渉して酒に変えてもらえねえかな?」

「あー、ここに呼ぶのか?」

 この寒さの中に? 
 今沖縄行ってるって話じゃ無いっけ。

 温度差で風邪ひかないか?
 ヨッちゃんに押し切られ、呼んだら呼んだで普通に寒さに耐えていた。
 凄いな、この年代でこの若々しさと言うのは。

 病み上がりなんて微塵も感じさせない力強さ、粘り強さがある。

「どうした、どうした。こんな場所に。しかし随分と寒いがここはどこだ?」

「あ、実はモンスターが湧いてくるのを封じる意味で凍らせてまして。で、体をあっためるなら鍋かなって。野菜はそこら辺で現地調達してます」

「それを聞いたらハッちゃんが泣くぜ?」

「八尾さんが作り出すお野菜ほどの旨みはありませんよ。それでも鍋に溶かし込めば暖も取れる」

「まずは交渉の前に一杯貰おうかね。こう寒くちゃブルっちまうよ」

 そう言われたらどうしようもないので鍋をよそって仲間に引き入れる。

「お、こいつは良い出汁が出てるな? ハッちゃんの野菜より深みがある。下味に秘訣でもあるのかねぇ?」

「実は新しいスキルを獲得しまして」

「へぇ」

 富井さんは内訳は聞かず、興味深そうに頷くだけだった。

 こっちは語るつもりでいたのに、身構えていたのがバカらしくなるほどあっさりした返事だ。

「旨みを凝縮させるタイプのスキルなんて聞いたことねぇな。ハッちゃんが聞いたら飛び上がるんじゃないか?」

「実はこいつ、更に加工も可能でして」

 そう言って、鍋の中でひときわ異彩を放っていたソーセージを掬い上げる。
 それを箸で摘んで頬張る富井さんは、目を閉じて味わいながら咀嚼した。

「なるほどな。こいつぁ良い商材になる。取引は本当に酒だけで良いのか?」

「取り敢えずは俺のスキルを施した加工に興味を持ちました。実はこう言うものを手に入れまして」

「マンドラゴラか。すっかりこいつに味をしめちまいやがったな。どれ、ワシも興味がある。味見も兼ねて少し借りるぞ」

 手渡したのは干からびたマンドラゴラ。
 それを愛おしそうに一撫ですると、それは手元で酒瓶へと変わる。

 以前受け取った瓶より少しだけ趣が変わっている気がした。
 熟成乾燥による変化か?

 手元で揺らし、ヨッちゃんに温燗にしてくれと要求。

 それに伴って俺はお猪口を配った。

 それぞれに継ぎ足し、無言で乾杯。

 これがどう変わるかみんなが楽しみにしている。

 一斉に口に入れ、同時に唸った。

「くぅ~~」

「あぁ~~、これは凄いな」

「旨みだけじゃねぇ、コクまで増しやがった。これは他のと同様に扱うわけにゃいかねぇな。坊主、一ついくらでウチに卸せる?」

「値段は俺じゃ決められないので、富井さんが決めてください。ただ、数はあまり確保できませんので」

「これから商売しようって奴がそれじゃ先が思いやられるぞ? まぁ、そうそう表にゃお披露目できねぇ一品よ。うん千万クラスだろうよ」

「そんなにします?」

「飲兵衛なら払うぜ? ワシにはそのツテがある。どうだい? まずは10本」

「30本つけます。その代わり、10本無償でいただけませんか?」

「大損だぞ?」

「俺たちに腹の探りあいはできませんよ。だったら手っ取り早く信用を勝ち取って勝ち馬に乗るだけです。これで取引成立でいいですか?」

「は、このワシが若造相手に言い負かされるなんてな。小僧、お前大物になるぜ?」

「取り敢えず、Sには成っておきたいですね」

「ハッ、Sですら足掛けかい」

 別に誇大妄想を語ってるつもりはない。
 事実、今もSに向けてダンジョンアタック中だしね。

 他にもいくつかお酒にしてもらう。
 さっきのレンコンモンスターはいい感じの発泡酒になった。

 それを飲んだら普通にこんな環境でも体がポカポカだ。

 アルコールを入れすぎるのはよろしくないが、これは必要な投資だと言い聞かせて飲み続ける。

 しかし体が程よく温まり、気分が良くなってくると今までの頑張りが急にどうでも良くなってくる時がある。

「いやぁ、もう十分満足したし帰ろうか」

「だな。今日はよく眠れそうだ」

 <コメント>
 :まだボス倒してないのに帰りたくなってるの草
 :酒入るとこうなるからな
 :モンスターからしてみたら早く帰って欲しそう
 :クッソ害悪だもんな、ヨッちゃん

 害悪なのはこのダンジョンの構造で俺たちではない筈だ。

「と、冗談はさておき。攻略を再開しよう」

「えー」

 その場で眠りそうなくらい出来上がってしまったヨッちゃんを起こしつつ、調理器具をオリンに片付けて前に進む。

 温める要素をなくせば、再び極寒の地に逆戻りだ。

 さっきまでどうでも良かった感情が、急に引き締められてやっぱりダンジョン踏破して行こうと言う気持ちになった。

 その日は食材確保は程々に、さっさとボスを討伐する方針に変えた。

 マンドラゴラ酒以上の材料は見つからなかったし、今更野菜型モンスターが出てきても、八尾さんの野菜で間に合ってるしな。

 ささっと討伐を終えて、再び地上へ。

 極寒の地からの帰還は、まるで天国へ導かれたかのような心地に包まれた。

 ちょっと無茶しすぎた気がしないでもない。

「お疲れ様です、査定お願いします」

「お疲れ様です本宝治様。もう踏破されてきたのですか?」

「はい、寒くて敵わないので」

「はて? 深緑ダンジョンは暖かい気候で寒暖差がある場所ではないのですが」

「ああ、地面からぼこぼこ出られると困るので凍結させて道中を進みました」

「あらぁ、そんな方法で切り抜けた方は初めてです。確かに、ボスドロップも確認いたしました。深緑ダンジョンの踏破おめでとう御座います」

「ありがとうございます。それと、これダンジョンセンター用の新メニュー表です。いつも通り、直接送るので受け取り次第販売よろしくお願いします」

「例のワープポータルですね、存じております。いつもありがとうございます」

「いえ、これも仕事ですので」

 社交辞令も程々に、すっかり飲む気分になってる体をダンジョンの外へ。屋台から直接菊池さんの店へとやって来た。

 今日は飲み明かす所存である。

「おう、お疲れ洋一。見てたぜ、随分と立派になったじゃねぇか、オメェ。今日は食う方か? 飲む方か?」

「飲む方で」

「奥の座敷に上がってくんな。倅もお前らに感化されて、急にやる気出したぜ? やっぱ同年代で頑張ってるやつの中に混ぜると負けらんねぇ! ってなるのかね」

「そう思ってくれたんならいいですけど。でもまだ何も教えてませんよ?」

「ああ、まだ一丁前にはなっちゃいねぇ。引き続き頼むぜ?」

「任せてください。俺もダイちゃんに頼る場面もありますし、そこはお互い様ですかね」

 実際、ダイちゃんは俺たち向きのスキル運用法を持っていた。

 今回は多勢に無勢だったが、1対1ならわからない。
 活躍とかそう言うのとは縁遠いけど、背中を任せられる素質はあった。

 何より舌が肥えていて、飲み食いでの話が合う。
 同年代で知識も豊富。

 世間知らずの俺たちからしたら普通に頼もしい存在なのだ。
 何より勝ち組で、既婚者。あれこれ話を振り易い。

 同年代の、上位ステータスのみんながどのような生活を送ってるのか。それを聞きやすくもある。

 卯保津さんやら富井さんは年が離れすぎててな。
 気安い関係とはいかないから。

 料理を頼むと、入れ替わるようにダイちゃんがやってくる。

 話題は今日のダンジョンのこと。
 その日は将来ああしたい、こうしたいなんて夢を語りながら過ごした。
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