ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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78話 【長岡】深緑ダンジョン3

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 階層ボスのエレメントツリーとの激闘を乗り越え、階段を降りるとそこは薄暗い空間が広がっていた。

 Dランクダンジョンと同じ様式、アリの巣構造と言うやつだ。

 迷路のように入り組んでいて、まっすぐ一本道という訳じゃない。
 これは骨が折れるぞ。

「上の階層と打って変わって味気ない階だねぇ」

「こっからが本番って訳か」

 <コメント>
 :見た感じ、手入れが行き届いてないって感じだけど
 :内容は深緑ダンジョンと銘打たれてるものと統一なんだろうか?
 :過去の探索のアーカイブを見る限りでは、野菜型モンスターが地中から現れるらしいぞ
 :地中じゃなく、壁、天井からも出る
 :うげえ
 :道が狭くなって本格的に殺意高くなってきてるじゃねぇか

「キュ?(難易度的には優しくなっておるはずじゃぞ? 湧いて出る、ということはそれなりのロスタイムがあるはずじゃからな)」

 コメントを拾った時は厳しい戦いになると感じたが、オリンからの指摘で確かに、と思ってしまった。
 
 肝心なのはその初動の見極め。
 ボコボコォッとか音が鳴ればいいけど、無音だとちょっと困る。

「生えてきてる、生えてきてる」

 ヨッちゃんが敵の出現を笑いを堪えるように指摘する。

 言われて状況を見れば確かにシュールな光景だ。

「が、地続きが命取りだったな! そこはオレの領域でもあるんだぜ、アースクェイク!」

 ヨッちゃんが地面に両手をつき、詠唱する。

 魔法とは呪文の詠唱の他に頭の中で魔法を構築し、そこに魔力を注入する儀式の段取りを組み入れる。

 近接で来られると困る理由は、概ね魔力注入に時間をかける場合が多いのだそうだ。

 高威力の魔法ほど、込める魔力が多いらしい。

 それに伴って使用回数も少なく、隙が多いのだそうだが……威力を見れば納得の破壊力だった。

 生えかけの野菜型モンスターがニュルンと排出される。

 この生えかけ、というのがポイントで。

 発生時に地面からエネルギーを吸収することで能力が強化されるらしく、栄養不足な個体……発育不足な野菜がちらほら。

「ポンちゃん!」

「はいよ!」

 後始末は頼む、と頼られて駆け抜ける。

 生まれたてで、発育不足。
 軽く包丁を振り抜くだけで簡単に切り刻むことができた。

 切るより差し込んで『熟成乾燥』させたほうが早いような気がする。

 した。

 このスキルのいいところは、ミンサーと同様に勝手にストレージに入ることだ。

『ミンサー』のストレージは取り出す際にミンチ肉単体か腸詰された状態で選択肢が分かれる。

 しかし『熟成乾燥』の方はそれぞれが真空パックに詰め込まれ、名称分けされていた。

 取り出す際にどのモンスターを熟成乾燥させたか一眼でわかる利便性である。

 これが地味に便利なんだよな。さすが5000万エネルギー。そこいらで手に入るモノと格が違う。

 <コメント>
 :このメンツにかかれば下層モンスターもイチコロよな
 :ニュルンてでてるの気持ち悪かった
 :それなー
 :ヨッちゃん、おヒゲの手入れも魔法で?

「んあ? オレは髭があんまり生えたことないな」

 そりゃ女性だし。
 今まで普通に冒険してきたが、やっぱりリスナーさんはヨッちゃんを良い年下おじさんだと思ってるらしい。

 色気より食い気だから仕方ないけどさ。

 「俺は剃ってるが無精髭がみっともないのをなんとかしたいんだよねぇ」

「ポンちゃんは逆に綺麗さっぱりにしたら見分けつかなくなるからそれで良いんだよ」

「別にヨッちゃんのために伸ばしてるわけじゃないぞ?」

「良いじゃん、良いじゃん。逆にオレは髭、羨ましいと思うぜ? ワイルドさが出るもん」

 いつも女性にモテたいって言ってるもんね。
 まさかそのために髭まで生やそうとするとは思いもしない。

 <コメント>
 :コスメ関係に興味ない? 若しくは魔法構築のご教授だけでもええんやけど
 :女性はすぐそっち方面に興味示すよな
 :毛穴に興味持ちすぎなんよ
 :ニキビや紫外線に敏感な生き物だし
 :女は顔が命だからな
 :だからって化粧濃い人はちょっと
 :好きで濃い訳じゃないんやで
 :色白の方が好きって言われてムキになった結果
 :または塗り込み方の調整をものにしてないかだな
 :ちょっとでええんよ、部分的にさ
 :学校じゃ教えてくれないからな、化粧は
 :不公平だよなー

 いつしかコメント欄は女性の悩みで埋め尽くされていた。

 コメントを見るに男性層が多いように思うのだが、女性の書き込みも多いようだ。

 コメントからは性差の判別ができない。
 こう言う時、匿名って厄介だよな。

 別にリスナーの性別を知ってどうこうするつもりもないけど。

 ヨッちゃんは自身の魔法をコスメに使えるんじゃないかって知見を得て、ちょっと得意げ。

 普段飲み食いのことしか考えてないのに、意外と女性らしいことも気にするのかと思った。
 
 特に今まで金もなければ住む家もない。

 生活水準最底辺の低ステータス。
 明日食ってくのもやっとの状況。

 自分のことで手一杯だった。
 今でこそ、少し余裕はあるが。誰かとお付き合いするのには慣れてないし、想像もできない。

 そんな俺たちが今更モテてもなーというのがお互いの総意。
 でも夢は見てる、見続けてる。

 それすら忘れちゃったら楽しみの一つが消えてしまう。それをもったいないと思うぐらいの感情だってあるのだ。

 それはさておき、コスメトークが白熱したコメント欄は、少しづつ現状を取り戻していく。

 モンスターは相変わらず頭を出してはヨッちゃんの魔法に叩かれ、収穫される。

 その野菜がなんとも味気ないのだ。
 これが最後まで成長した姿を見てみたいものである。

「おっと隠し通路発見」

 そんなことを考えているうちに、ダンジョンの綻びを発見した。

「キュ(そこはストレージじゃの。生まれてくる前の最強の野菜が格納されとるぞ。いくか?)」

 強襲されず、封印された状況で格納されてるらしい。
 それより野菜確定なんだ?

 これらの特殊個体は、特定条件を満たした探索者の前に姿を現すのだという。

「キュ(一匹出動状態になっておるの。乱獲がトリガーか?)」

 どうやら入るまでもなく現れるらしい。
 乱獲というか、見つけるたびにヨッちゃんが強制排出してるだけなんだよな。

 それこそ埋没した毛根の如く、根こそぎ排出するもんだから量が多いのなんの。

「くるぞ!」

「なんだ、地震か?」

 揺れる地面。
 今までヨッちゃんが強制的に排出していた野菜の恨みを晴らすべく、現れたのは大地に連なって現れる蓮根のモンスターだった。

「ジュララララララララァッ!!」

 それは蛇のように鎌首をもたげ、突撃してくる。
 野菜、なんだよな?

 顔がついてるのは、まぁ容認するとして。
 蓮根って水辺で育つもんじゃないっけ?

 ダンジョンの地面を泥水のようにかき分けて現れるそれ、ギャグ漫画のように俺たちに襲いかかってくる。

 しかし奴が通った後は耕されることもなく、固い地面に戻っているという不思議。

「キュ(これは面倒な奴が現れたの。やつの素体はエレメンタルボディ。あんな形してゴーストタイプじゃ)」

 それがバカみたいな図体して、前後左右から現れるのはちょっと殺意高すぎないか?

「キュ(無論、お主が負ける要素などないがな。知っておるか? 『熟成乾燥』はゴーストにも効くと)」

 なるほど、ならば確かにやりようはある。

 俺の包丁が次元の穴を突くように、ダンジョンやゴーストを切り裂くように。

 ミンサーがゴーストや肉体のないゴーレムからも肉を摘出するように。

 どこかで俺は『熟成乾燥』の能力を限定的に見ていてしまったのかもしれない。

 そうだよ、俺は自分のスキルをもっと信じてやればよかった。

 相手は野菜だ。
 そこから肉をつくって、穴に埋め込んで焼いてやる。

 俺は料理人で、相手は野菜。それができない道理はない。

 包丁を握り締め、そして振るった。
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