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75話 ダイちゃん
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新しく仲間となった大輝君。
俺たちと同年代ということもあり、呼び名はダイちゃんで固定された。
うちの配信チャンネルは履修しており、あとは修行の内容というところだけど、料理関係はそれこそ数をこなすのが手っ取り早い。
その上俺たちなら素材に金がかからないので、修行にはもってこい。
そんなわけでダンジョンでご一緒しようということになったんだが……
「すいませんが、Aランク以外の同行者はご一緒できない規約なんですよ」
受付で忠告を受けた。
どうもダイちゃんはステータスこそAと高いが、探索者ライセンスを取らずに過ごしてきたらしい。
あの菊池さんが手を焼くわけである。
あの人も別に探索者というわけではなかったが、貫禄がすごくて堅気に見えないからね。雰囲気で一般人じゃないと見受けられたそうだ。
でもダイちゃんの場合はいいところのお坊ちゃんのような風貌。
一眼見てステータスだけ高い一般人だろうと見抜かれていた。
すると取れる方法は少ない。
どんな方法を用いるか?
それはこうするのだ。
「な、なぁポンちゃん。本当に大丈夫なのか?」
「平気だってダイちゃん。戦闘中は実家に戻って、戦闘終わったら呼ぶから」
答えは菊池さんのお店とうちの屋台にワープポータルを繋いだ、だ。
「いや、そういう心配じゃなくて、法に触れて怒られないかって話で」
「そこは目を瞑ってもらうとして」
「本当に大丈夫なのか? 今から胃がキリキリしてきたぜ」
メンタルが弱いなぁとは思いつつ、ちゃっかりその恩恵に預かる時点で流されやすいタイプのようだ。
菊池さんならそれくらいの危ない橋の一つや二つ、余裕で乗り越えてきたんだけど、そいういう教育はしてこなかったらしい。
これ、安請け合いしちゃったけど相当難儀な依頼じゃないかなぁ?
そんなわけで一旦家で待機してもらってから連絡。
そうしたら何故か菊池さんが現れて。
「悪いなぁ、洋一。わざわざ倅の世話を焼いてもらって。そっちの都合も考えずにさ」
「ああ、いえ。これは時間がかかりそうだなと思ったので、直接現場に放り込むのが一番だなって考えったのは俺ですし。それと俺らと同年代でも、事情までは一緒じゃないと思いますので」
「まぁ、確かに。あいつは最近結婚して嫁とそのお腹に第一子もいる。そして今、俺から後を継ぐべく修行中ってわけだ。俺はまだくたばる歳じゃないっていうのに、元気おなうちに教わりたいって必死でさ」
「結婚されてたんですか? そりゃ尚更俺たちと一緒に行動できないじゃないですか!」
菊池さん曰く、ダイちゃんに現実を見せて諦めてもらう、若しくは菊池さんの完全再現から見方を変えて自分の良さを伸ばしてもらう方向で整えてほしいとのことだ。
そこは親が教えればいいと思うのだが、普段甘やかしてきたツケが回って完全に舐められてるのだとか。
普段優しいお父さんを通してたんだろうなぁ。
今更厳しくできませんでしたというわけか。
「正直、俺たちなんかより、もっと都合のつくお店とかあったでしょうに」
「いや、20軒ツテを回して才能なしのレッテルを貼られて帰ってきて、藁にもすがる気持ちで洋一に頼んでる。どういうことか俺以上に諦めが悪くてさ」
と、いうことらしい。
菊池さんと長話を終えたら、入れ替わるようにダイちゃんが現れた。
どこか申し訳なさそうに、よそよそしく。
「親父、何か言ってた?」
「改めてよろしくってさ」
「そっか、若い才能に任せるって言ってたか」
言ってないよ? なんだろうか、この人は。
人の話を聞かないタイプ?
自分に都合の良いように物事を考えすぎでは?
なまじ店と繋げたばかりに、途中で来なくなりそう。
まぁ、その時はその時か。人生相談で菊池さんに相談すればいいし。
早くもままならない予感を想定しつつも、仕入れたばかりの素材で一品作ってもらう。
長岡のAランクダンジョンは植物系ダンジョン。
マンドラゴラとか見つけたので、これは活け〆して富井さんにお土産だ。
他にもキノコや果物の形をしたモンスターがいて面白い。
動物系と違って解体が容易で罪悪感もないだろうと思って任せたのだが……
「ワリィ、最初に見本見せてくれるか? 俺に任せるとオリジナリティを発揮する他なくてさ」
「そのオリジナリティを発揮してくれって言ってんだよ、ポンちゃんは。その腕次第で一品任せるつもりだぞ?」
「マジ!?」
修行という体で引き受けたのもあり、最初は下働き希望かと思ったがそうでもないのかな?
20軒のお店がどのようにして見込みなしのレッテルを貼ったのかを知るべく、一品作らせた結果。
「ジャジャーン、見てくれ! 世紀の大発見レベルでしょ、これ!」
それは見事な飾り包丁だった。
りんごが丸々鶴に化ければそりゃ自慢したくもなるが、食べずらさの極地でもある。
これをメインに置くセンスは少し俺たちとは違うかもしれない。
「綺麗だけど、食欲をそそるのとは程遠いかな」
「いいから騙されたと思って食ってみろって、飛ぶぞ?」
ヨッちゃんの忠告をまるっと無視して、食ってみろアピール。
一口齧ると、中から果汁がジェット噴射で溢れて鶴の首が飛んだ。
びびって腰を抜かすヨッちゃん。
それを見ながら腹を抱えて笑うダイちゃん。
まるで子供がいたずら大成功と喜んでるようにも見える。
これを各店舗でやったのか。そりゃ追い出されるわ。
食べ物で遊ぶなってのは飲食店の鉄則なのに。
「とりあえず腕前の程はわかった。ダイちゃんは人が驚く仕掛けをするのが得意なんだね?」
「流石にわかっちゃうか。俺の料理に込めるサプライズを。親父が一品一品に込めるメニューとの巡り合わせを俺でもできないかって考えてここに辿り着いたんだ」
まさか、菊池さんのメニューとお酒の融合をそう受け取っちゃうか。
これが料理に今まで触ってこないで育まれた若い感性なのか?
同年代とは思えないくらいに後先考えてなくて、ちょっと引く。
俺たちだからいいけど、店だったら素材を台無しにされたって怒られそうだ。
「そうそう、俺は特殊調理系のスキル持ってるからさ、大船に乗った気持ちでいてくれよな。あいにくと、適合食材はまだ見つかんないんだけどさ」
それを聞いて、ようやく理解した。
どうして菊池さんがダイちゃんを俺たちに任せたのか。
しかし生まれながらにA判定の特殊スキル持ち?
クララちゃんでさえC-だったのに、いきなりAとは?
「俺も詳しくわかんないんだけどさー、実は俺生まれた時に総合ステが低すぎて死にかけだったっぽい。だから両親は未だに過保護でさ。その時に食べた野菜で一命を取り留めたんだけど。高級野菜、知ってる? 八尾青果の野菜。あれのどれかが俺の適合食材だとは思うんだよ。俺を救ってくれた恩人に感謝の言葉を伝えたいんだ」
なるほど、そういう事か。確かに八尾さんとは知り合いだ。
けど、八尾さんはダイちゃんをあまり好きにはならなそうだな。
「なるほど。体が弱いのはステータスが低くて耐性が低かったからだと?」
「親父が言うにはな」
「それでAまで育ててもらって今があると?」
「そんな感じ」
菊池さんが子煩悩になるのもわかるエピソードじゃないか。
まず最初にご両親に感謝すべきだろうに、ダイちゃんからは親なんだから子供を構って当然みたいに考えてる節がある。
両親がいない孤児の俺たちに喧嘩売ってるのか?
口から漏れ出しそうになる恨み節を抑え込みながら、口で言っもて伝わらないなら、料理で黙らせるしかないと俺も一品振る舞った。
「この食材はりんご。だが俺ならこいつがこうなる」
俺の加工スキルによって、目の前のリンゴがソーセージに変身する。
そいつを湯の中に入れてボイルした後、網の上で焦げ目をつけてから提供した。
Sランクの腸だからAランクでも余裕で包まれてくれる。
「これが、ポンちゃんの特殊調理!」
ダイちゃんは一口食べてから涙を流した。
美味しくて、じゃない。
自分と同じ特殊調理系で、どうしてこうも最終系が変わるのか、と言う疑問。
そして導かれた結論による悔し涙か。
「俺のと決定的に違うな。こんなに不格好なのに、物を言わせぬ旨さが凝縮してやがる」
「ポンちゃんは見た目には拘らないからな。だが、一目見てこれは旨そうだと思わせる技術がある。華々しさとか最初から求めちゃいないんだ。食ってもらうお客さんの笑顔が見たいんだよ。ダイちゃんの場合は見た目の一点特化だろ?」
「確かにそうだ。驚いてもらいたい一心で、味はそっちのけにしちまう。俺の【特殊調理:飾り包丁】はその手の派手なスキルだからな」
「で、オレは思ったわけよ。これ、ポンちゃんの料理の最後の仕上げをダイちゃんが任せればバカウケするんじゃないかって」
「あ!」
あ、じゃないよ。
俺の料理を見た目特化で余計に食いづらくしてどうするんだ。
この時ばかりは、ヨッちゃんは余計なこと言ったなと思った。
俺たちと同年代ということもあり、呼び名はダイちゃんで固定された。
うちの配信チャンネルは履修しており、あとは修行の内容というところだけど、料理関係はそれこそ数をこなすのが手っ取り早い。
その上俺たちなら素材に金がかからないので、修行にはもってこい。
そんなわけでダンジョンでご一緒しようということになったんだが……
「すいませんが、Aランク以外の同行者はご一緒できない規約なんですよ」
受付で忠告を受けた。
どうもダイちゃんはステータスこそAと高いが、探索者ライセンスを取らずに過ごしてきたらしい。
あの菊池さんが手を焼くわけである。
あの人も別に探索者というわけではなかったが、貫禄がすごくて堅気に見えないからね。雰囲気で一般人じゃないと見受けられたそうだ。
でもダイちゃんの場合はいいところのお坊ちゃんのような風貌。
一眼見てステータスだけ高い一般人だろうと見抜かれていた。
すると取れる方法は少ない。
どんな方法を用いるか?
それはこうするのだ。
「な、なぁポンちゃん。本当に大丈夫なのか?」
「平気だってダイちゃん。戦闘中は実家に戻って、戦闘終わったら呼ぶから」
答えは菊池さんのお店とうちの屋台にワープポータルを繋いだ、だ。
「いや、そういう心配じゃなくて、法に触れて怒られないかって話で」
「そこは目を瞑ってもらうとして」
「本当に大丈夫なのか? 今から胃がキリキリしてきたぜ」
メンタルが弱いなぁとは思いつつ、ちゃっかりその恩恵に預かる時点で流されやすいタイプのようだ。
菊池さんならそれくらいの危ない橋の一つや二つ、余裕で乗り越えてきたんだけど、そいういう教育はしてこなかったらしい。
これ、安請け合いしちゃったけど相当難儀な依頼じゃないかなぁ?
そんなわけで一旦家で待機してもらってから連絡。
そうしたら何故か菊池さんが現れて。
「悪いなぁ、洋一。わざわざ倅の世話を焼いてもらって。そっちの都合も考えずにさ」
「ああ、いえ。これは時間がかかりそうだなと思ったので、直接現場に放り込むのが一番だなって考えったのは俺ですし。それと俺らと同年代でも、事情までは一緒じゃないと思いますので」
「まぁ、確かに。あいつは最近結婚して嫁とそのお腹に第一子もいる。そして今、俺から後を継ぐべく修行中ってわけだ。俺はまだくたばる歳じゃないっていうのに、元気おなうちに教わりたいって必死でさ」
「結婚されてたんですか? そりゃ尚更俺たちと一緒に行動できないじゃないですか!」
菊池さん曰く、ダイちゃんに現実を見せて諦めてもらう、若しくは菊池さんの完全再現から見方を変えて自分の良さを伸ばしてもらう方向で整えてほしいとのことだ。
そこは親が教えればいいと思うのだが、普段甘やかしてきたツケが回って完全に舐められてるのだとか。
普段優しいお父さんを通してたんだろうなぁ。
今更厳しくできませんでしたというわけか。
「正直、俺たちなんかより、もっと都合のつくお店とかあったでしょうに」
「いや、20軒ツテを回して才能なしのレッテルを貼られて帰ってきて、藁にもすがる気持ちで洋一に頼んでる。どういうことか俺以上に諦めが悪くてさ」
と、いうことらしい。
菊池さんと長話を終えたら、入れ替わるようにダイちゃんが現れた。
どこか申し訳なさそうに、よそよそしく。
「親父、何か言ってた?」
「改めてよろしくってさ」
「そっか、若い才能に任せるって言ってたか」
言ってないよ? なんだろうか、この人は。
人の話を聞かないタイプ?
自分に都合の良いように物事を考えすぎでは?
なまじ店と繋げたばかりに、途中で来なくなりそう。
まぁ、その時はその時か。人生相談で菊池さんに相談すればいいし。
早くもままならない予感を想定しつつも、仕入れたばかりの素材で一品作ってもらう。
長岡のAランクダンジョンは植物系ダンジョン。
マンドラゴラとか見つけたので、これは活け〆して富井さんにお土産だ。
他にもキノコや果物の形をしたモンスターがいて面白い。
動物系と違って解体が容易で罪悪感もないだろうと思って任せたのだが……
「ワリィ、最初に見本見せてくれるか? 俺に任せるとオリジナリティを発揮する他なくてさ」
「そのオリジナリティを発揮してくれって言ってんだよ、ポンちゃんは。その腕次第で一品任せるつもりだぞ?」
「マジ!?」
修行という体で引き受けたのもあり、最初は下働き希望かと思ったがそうでもないのかな?
20軒のお店がどのようにして見込みなしのレッテルを貼ったのかを知るべく、一品作らせた結果。
「ジャジャーン、見てくれ! 世紀の大発見レベルでしょ、これ!」
それは見事な飾り包丁だった。
りんごが丸々鶴に化ければそりゃ自慢したくもなるが、食べずらさの極地でもある。
これをメインに置くセンスは少し俺たちとは違うかもしれない。
「綺麗だけど、食欲をそそるのとは程遠いかな」
「いいから騙されたと思って食ってみろって、飛ぶぞ?」
ヨッちゃんの忠告をまるっと無視して、食ってみろアピール。
一口齧ると、中から果汁がジェット噴射で溢れて鶴の首が飛んだ。
びびって腰を抜かすヨッちゃん。
それを見ながら腹を抱えて笑うダイちゃん。
まるで子供がいたずら大成功と喜んでるようにも見える。
これを各店舗でやったのか。そりゃ追い出されるわ。
食べ物で遊ぶなってのは飲食店の鉄則なのに。
「とりあえず腕前の程はわかった。ダイちゃんは人が驚く仕掛けをするのが得意なんだね?」
「流石にわかっちゃうか。俺の料理に込めるサプライズを。親父が一品一品に込めるメニューとの巡り合わせを俺でもできないかって考えてここに辿り着いたんだ」
まさか、菊池さんのメニューとお酒の融合をそう受け取っちゃうか。
これが料理に今まで触ってこないで育まれた若い感性なのか?
同年代とは思えないくらいに後先考えてなくて、ちょっと引く。
俺たちだからいいけど、店だったら素材を台無しにされたって怒られそうだ。
「そうそう、俺は特殊調理系のスキル持ってるからさ、大船に乗った気持ちでいてくれよな。あいにくと、適合食材はまだ見つかんないんだけどさ」
それを聞いて、ようやく理解した。
どうして菊池さんがダイちゃんを俺たちに任せたのか。
しかし生まれながらにA判定の特殊スキル持ち?
クララちゃんでさえC-だったのに、いきなりAとは?
「俺も詳しくわかんないんだけどさー、実は俺生まれた時に総合ステが低すぎて死にかけだったっぽい。だから両親は未だに過保護でさ。その時に食べた野菜で一命を取り留めたんだけど。高級野菜、知ってる? 八尾青果の野菜。あれのどれかが俺の適合食材だとは思うんだよ。俺を救ってくれた恩人に感謝の言葉を伝えたいんだ」
なるほど、そういう事か。確かに八尾さんとは知り合いだ。
けど、八尾さんはダイちゃんをあまり好きにはならなそうだな。
「なるほど。体が弱いのはステータスが低くて耐性が低かったからだと?」
「親父が言うにはな」
「それでAまで育ててもらって今があると?」
「そんな感じ」
菊池さんが子煩悩になるのもわかるエピソードじゃないか。
まず最初にご両親に感謝すべきだろうに、ダイちゃんからは親なんだから子供を構って当然みたいに考えてる節がある。
両親がいない孤児の俺たちに喧嘩売ってるのか?
口から漏れ出しそうになる恨み節を抑え込みながら、口で言っもて伝わらないなら、料理で黙らせるしかないと俺も一品振る舞った。
「この食材はりんご。だが俺ならこいつがこうなる」
俺の加工スキルによって、目の前のリンゴがソーセージに変身する。
そいつを湯の中に入れてボイルした後、網の上で焦げ目をつけてから提供した。
Sランクの腸だからAランクでも余裕で包まれてくれる。
「これが、ポンちゃんの特殊調理!」
ダイちゃんは一口食べてから涙を流した。
美味しくて、じゃない。
自分と同じ特殊調理系で、どうしてこうも最終系が変わるのか、と言う疑問。
そして導かれた結論による悔し涙か。
「俺のと決定的に違うな。こんなに不格好なのに、物を言わせぬ旨さが凝縮してやがる」
「ポンちゃんは見た目には拘らないからな。だが、一目見てこれは旨そうだと思わせる技術がある。華々しさとか最初から求めちゃいないんだ。食ってもらうお客さんの笑顔が見たいんだよ。ダイちゃんの場合は見た目の一点特化だろ?」
「確かにそうだ。驚いてもらいたい一心で、味はそっちのけにしちまう。俺の【特殊調理:飾り包丁】はその手の派手なスキルだからな」
「で、オレは思ったわけよ。これ、ポンちゃんの料理の最後の仕上げをダイちゃんが任せればバカウケするんじゃないかって」
「あ!」
あ、じゃないよ。
俺の料理を見た目特化で余計に食いづらくしてどうするんだ。
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