ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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73話 エネルギーの使い道

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 あれから翌日までダンジョン内で柏崎の漁業組合と飲み明かし、エネルギーを使わないままの料理三昧。

 今まで沈黙を決め込んでいたオリンも、いよいよ限界が近づいてきたのかこう切り出した。

「キュッ(契約者よ、そろそろエネルギーを使わんとまずい事になるぞ?)」

「どうした、オリン。そんな深刻そうな鳴き声で」

 普段とは違う俺の対応に、ヨッちゃんも明らかに心配したような声で駆けてくる。

「どしたー、ポンちゃん」

「オリンからエネルギーが溜まり過ぎてるって忠告が来た」

「あー、ワープポータル絞りすぎた影響か? JDSのおっさん達に出番奪われちゃったもんな。で、他に運用ルートでも提案あるのか?」

 そうなんだよな。今の所ワープポータルの提供か、新しく異次元ポケットの開拓ぐらいしかないわけで。
 しかも契約者の俺はもう持っていて、第三者への譲渡は不可ときている。

「キュー(あるにはある。だがこれは奥の手じゃ。契約者じゃからとあまり優遇するのは本当は規約違反なのじゃが、背に腹は変えられん。契約者よ、スキル成長に興味はないか? 一つエネルギー5000万から引き受けるぞ?)」

 えっ?
 とんでもない提案が出た。

 スキル成長?
 そんなのがあるのか?

 熟練度による使用回数の上昇以外でそんなものがあるとか聞いたことはない。

「キュッ(無論、そうポンポンするつもりはない。そうじゃのう、一年に一回ぐらいの頻度で引き受け立つもりじゃ。どうじゃ? 契約者殿)」

 そう頻繁に手はつけられないが、奥の手として提示してくれた案は非常に魅力的だった。

 今1番問題視してるのは解体した肉の加工問題。
 活け〆した状態で流通させるのは可能か否か。
 それの成否が知りたい。

「キュー?(神経麻痺の永続化か? 流石にそれはダンジョン側がまずい事になるから認められん。それを許可したら我々のエネルギー問題が全国的に供給されなくなる。不許可じゃ)」

 できない、とは言わない辺りがオリンらしい。

 他にいくつか提案して、獲得可能なスキルを一覧として並べてみる。

<特殊調理派生>
【三枚おろし】
 初めて見たモンスターでも即座に3枚に下ろす

【糸引き】
 切り込んだ空間が、糸を引くように切断できる

<ミンサー派生>
【部位指定】
 モンスターの部位を狙ってミンチ肉に変えることができる

【荒削り製法】
 ミンチの微調整が可能

<腸詰め派生>
【下味調整】
 事前に手持ちの調味料を使って下味をつけることができる

【オート腸詰】
 事前に設定した腸を指定範囲内で勝手に補充

<特殊派生>
【熟成発酵】
 特殊な菌を発生させ、旨みを凝縮させて発酵させる

【熟成乾燥】
 新鮮な肉の旨みを引き出す調理スキル

【冷凍乾燥】
 水分さえその場で急速に乾燥させて保存可能に


 実に俺向きなスキルが勢揃いしている。
 まるでその場で調理するのに向いてる、日持ちを特化させるようなものから、今までのスキルの微調整が行き渡ったものばかりだ。

「これは、悩む」

「たとえばどんなの?」

「ヨッちゃん風にいえば、魔法の使い勝手がすごく良くなるスキルと、今最も喉から手が出るスキル」

「熟練度だけじゃどうにもならない微調整か?」

「正直、あったら便利だろうなとは思うが、自分でやった方が早い系。問題はそれを自力でこなすか、勝手にやってもらうかの差だ」

「じゃあ自分でやればいいんじゃね? ポンちゃんは大量生産とか引き受けるつもりないんだろ?」

「ああ、俺は自由に作りたいな」

「なら細かい調整はポンちゃんがするべきだ。何でもかんでもスキル任せにするのはオレの知ってるポンちゃんじゃねぇな」

 長い付き合いのあるヨッちゃんにこうまで言われてハッとする。

 確かにそうだ。
 別に無理して取る必要のないものだ。

「他には何があるんだ?」

「あとは納豆やヨーグルトを思った通りに作れる発酵スキル、指定した肉を急速乾燥させてハムやベーコンを作るスキル、スープなんかを保存して後で元に戻せるフリーズドライかな?」

「もう一個しかないじゃん」

「それなんだよ。悩む必要なかったな」


 今俺が最も望むもの。それこそが……

 ──────────────────────
 名称:本宝治洋一ぽんほうちよういち
 年齢:30
 職業:ダンジョンシェフ
   配信者
   ジャイアントキラー
   ダンジョン契約者
 ──────────────────────
 レベル100/100
 筋力:A★
 耐久:A★
 魔力:A★
 精神:S★
 器用:S★
 敏捷:A★
 幸運:S★
 総合ステータス:S
 ──────────────────────
 <固有スキル:特殊調理>
 ★包丁捌き+
 ★目利き+
 ★料理バフ
 ☆ミンサー【モンスターを選択してください】
 ☆腸詰め【選択:大喰らい/S】
 ☆熟成乾燥【指定部位を選択してください】
 ──────────────────────

 やっぱ、酒のつまみだよなぁ。
 ヨッちゃんも当然それを選択すると思ってた、と言わんばかりの顔。
 そして熟成乾燥は干物作りにも適していた。

「あ、これ、ミンチ肉にも適用されるな」

「オリン、一度加工したやつに加工して、エネルギーは産まれんのか?」

「キュッ(無論、生まれん)」

「ダメだってさ」

「じゃあ、生きてる状態で加工しなきゃダメか」

「キュー(その通り。一度誰かの手が入ればエネルギーは生まれん)」

 なかなかに難しい問題らしい。
 が、料理人の俺にとってはありがたい措置だな。

 だって、これは応用しまくるつもりだからだ。
 いちいちエネルギーを発生させてたら手間だし、あんまり溜め込みすぎるのも良くないし。

 しかし熟成感想は部位選択式。

 これってトドメ刺す前に手足を熟成乾燥させて、ミンチにしたら旨みも増加するんだろうか?

「キュー(無論、するぞ。エネルギーの変換には影響ない。好きに調理するが良い)」

 エネルギー効率的には変わらないが、味には影響すると。
 こりゃあとった甲斐があったってもんだ。

 試したいレシピが無限に湧いてくるぞ。

 しかしその前に、やっておくことがある。
 味見って大切だもんな。

 まず用意するものは宇都宮で仕入れたオークのバラ肉。こいつを熟成乾燥で加工。

 ヨッちゃんに買いにいかせたメロンを切り分け、薄くスライスしたハムをそれの上に乗せて一口。

「ハムの塩気がメロンに移って、甘いだけじゃない高級な味に変わってるな」

「本来は生ハムでやるもんだが、俺のスキルで作ったハムも悪くない」

「ハムに加工する前に、多少味付けはできるんだろ?」

 言いながら、今度は分厚く切り分けるヨッちゃん。

 もうメロンは食い尽くした。改めて買ってくるつもりもないとばかりにハムとして食べるつもりである。

 俺もフライパンを取り出し、軽く焦げ目をつけて肩頬張る。
 ああ、これこれ。

 カシュッ。
 朝からビールが止まらない。

 今日は長岡で探索する予定があるというのに、もう明日でもいいかなって気分になってくるからアルコールってダメだなとは思う。

 明日のことは明日の自分に任せながら、俺たちはホテルで酒盛りを始めた。

 よく考えなくても、ホテルで酒盛りはダメだ。

 翌日うんと怒られて、出入り禁止にされたのは言わずもがな。
 今回ばかりは剛に従えなかった俺たちが全面的に悪い。

 ダンジョンと世界は地続きではないのだなと痛感させられた出来事だった。
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