ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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63話 オーク肉の回鍋肉

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 質問に応えながら、調理を再開。

 オリンの返答によって得られたものとして、いつも通り
 転送可能な場所へのお取り寄せしかできないことを通達。

 すると思った通りの反応でコメント欄は賑わった。

 <コメント>
 :ウチの近所にも寄って、ポンちゃん
 :これを機に是非旭川にも
 :バッカそれを言ったら関西にも来てほしいわ!
 :四国いいとこ一度はおいで
 :九州もいいよー
 :沖縄!
 :ソウル!

 などなど、地域自慢まで始まる始末。
 なので対応は気が向いたら、いいお酒があったら紹介してと流れた。

 俺たちは呑兵衛なので、料理自慢より酒自慢の方が嬉しい。

 物珍しい酒なら富井さん経由で手に入るが、やはり既存の酒も味わってみたい。

 食事をついでとは言わないが、俺はその酒に合う料理を自作したくて料理人やってるところあるからな。そんなものさ。

 炒めた野菜を、別皿に寄せる。

 さて、先ほど休ませたお肉はいい感じに冷めている頃だろう。
 ヨッちゃんに冷やしてもらうのもありだけど、肉を冷ますのはまだ難しいらしく程度がわからないのでこうしてる。

 自分が飲む酒に関してなら問題なしな辺りヨッちゃんらしいというか。

 <コメント>
 :ローストポーク?
 :ぐあー美味そう!
 :ちょうだいちょうだい!
 :ぐびぐびぐびぐび
 :プハー!
 :この時間に見る飯テロは暴力的よな
 :飯食ったあとなのに腹減ってきた

 手元カメラが肉に移り変わり、カットし始めたあたりでまたコメント欄が騒がしくなる。

 切ってる側から溢れる肉汁。
 表面はテラテラと輝き、もう見てるだけでも美味そうだ。
 しかしまだ下拵え段階。

 こいつを最近発見されたオーク豆板醤で炒めて、野菜を絡めてさらに炒めて、上から炒りごまを振りかければ、完成だ。

 回鍋肉を少しアレンジしてみたのだが、どうだろうか?

 <コメント>
 :あーーー、ダメです、これはダメです!
 :絶対酒に合うやつ!
 :今入れたの赤いの何?

「オーク肉をクララちゃんの加工で仕上げた豆板醤です。活け〆加工だと甜麺醤になるみたいですよ?」

 <コメント>

 :まさかの中華である
 :ビールかなぁ?
 :紹興酒もいいぞ?
 :近場で手に入るかぁ?

「そこでみなさまに朗報。今回俺が手を組んだ富井ミートさんと八尾青果さんの先代が手を組んで新企業を始めるらしい」

 Dフォンのメール機能でそんな情報が流れてきた。
 曰く、全国展開した販路を持つ八尾青果全面バックアップによる、モンスター加工食品の一般販売だそうだ。

 流石に数量は限定されるらしく、当分は通信販売のみ受付可能。
 おひとり様ワンセット限りだそうだ。

 ラインナップに俺のミンチ肉加工、ソーセージ加工、クララちゃんの調味料加工、富井さんのアルコール加工、八尾さんの野菜加工などを挙げた。
 八尾さんに至っては、すでに全国展開してるので今更だが。

 <コメント>
 :え、ポンちゃんのモンスターソーセージが全国区に?
 :じゃあ今支部で買えるやつは?

「優先順位的には下がりますね。俺はすっかり富井さんのお酒に肝臓掴まれてしまってるので」

「空ウツボにめっちゃ合う酒教えてもらったんだよな!」

 <コメント>
 :やはりアルコール
 :この二人を動かすのはいつだってアルコールである

 そんなことないぞ?
 珍しい料理にだって惹かれることもあるんだからな?

 理解できる範疇に限るけど。
 越智間さんのはちょっと小難しすぎた。

 俺にはまだ早い領域というか、芸術性というの? そういうのは求めてないんだよなぁ。

 <コメント>
 :三本目開けた
 :ピリ辛炒めの映像でご飯が進むんよ
 :ビールも進んだ
 :腹の虫が良くなりよる

「オレも食っていいか? もう空腹が限界!」

「いいよ、食おうか」

 さて、実食。
 いつだってこれを楽しみに生きている。

 まずは肉にお旨みを吸った野菜を一口。
 ピリ辛な味付けが、肉汁と程よく絡まって、白米が恋しくなる。

 ご飯が進むというコメントがあるが、これは本当だな。
 白飯の上にこれを乗っけて、生卵を乗っけてかぶりつきたい、そんな衝動に駆られる。

「なぁポンちゃん?」

「そんな顔で見るな。こいつだろ?」

「ウヒョー、そいつを待ってた!」

 俺は事前に炊いていた白米を電子ジャーからよそった。
 肉料理は物によってはご飯と食いたくなる。

 日本人なら本能的にそれを結びつける。

 丼に盛り付けて、さらに先ほどのピリ辛野菜炒めを盛り付ける。
 卵を乗せるかは自由とした。

 目の前に卵の殻入れを別に置く。
 そして俺は生卵を落とし、混ぜてかき込んだ。

 <コメント>
 :あーー、それ!
 :それ、正解!
 :絶対うまいやつだ
 :ポンちゃんが酒に走らず飯に負けた瞬間である
 :めっちゃいい笑顔
 :注文した
 :早い、近所の支部が配達可能地域だと羨ましいな
 :配達はしてくれないぞ? 自分で引き取りに行く。車で十分
 :車で10分かぁ、それはもう隣の自治区では?
 :それでも取りに行きたいんだ
 :先行アルコール摂取の敗北である
 :そんな、ポンちゃん達だけ飲んでて俺は飲めないとか辛い
 :じゃけん、バスに乗りましょうねぇ
 :田舎は車必須だから

 いやぁ、美味い!
 我ながら上出来というか。酒を飲むのすら忘れてしまう美味しさだった。思わず書き込んでしまったほどだ。

 多分好物に出会った時の反応は皆こうなるだろう。

 俗に言う、目の前から消えた!とはこのような現象を指すのだろう。

 ヨッちゃんはそんな俺を目の当たりにしながら、卵をかけて我を忘れるか、ちびちび紹興酒を嗜むか迷った挙句に卵を取った。

 そして黄身でマイルドになった辛味と香味野菜の風味、オーク肉のくどい感じの油が程よく混ざり、ガツガツと掻き込んでしまう。まさに胃袋を掴まれた!
 そんな感じだ。

「やばいな、これ。酒飲むの忘れるなんてオレらしくねぇ」

「ヨッちゃんはこれに付け加えて空ウツボでもおかしくなるよな?」

「あれは適合食材だししゃーないだろ?」

「ならそいつをピリ辛炒めにしたらどうなる?」

「やめろ、それはポンちゃんでも許さないぞ! 空ウツボの淡白な味わいが消えちまう!」

「モノは試しっていうだろう? 一回だけ挑戦させてくれ。不味かったら不味いって食べなくていいから」

「食べ物で遊ぶのはマジでやめろよ?」

 俺だって嫌だよ。だがこの調味料はモンスター由来。

 モンスター由来同士の化学反応信仰者の俺は、試さずにはいられない気持ちになっていた。

 <コメント>
 :興味あるけど、失敗に一票
 :食えなくはないけど、台無しに一票
 :今まで淡白さを引き立てる調理しかされてない時点でお察し
 :味噌炒め、ピリ辛炒めでどう化けるか見もの
 :味噌炒めは郷土料理でもあるぞ?
 :↑味は?
 :三枚おろしを失敗してもまぁまあ食える味
 :失敗前提なのかよ
 :郷土料理のほとんどが失敗から学んだ結果だから
 :何としても食おうという国民性の現れ
 :海鼠とかよく食おうと思ったよな
 :ポンちゃん達だってゴブリンや野鼠だって食うだろ!
 :そういやそうじゃん
 :最近高級食材しか扱ってないから忘れてた
 :違うぞ?探索者ランクが上がって素材が高級になってるだけ
 :今までランク低くて見向きもされない食材扱ってただけだし
 :それなぁ

 そうだったかなぁ?
 そんな時もある気がする。だが俺の技は何も三枚おろしするだけじゃないんだぜ?

 初手ミンサー、からのゴーストソルトで揉み込んで。

 そこに刻んだ玉ねぎ、ゴーレムペッパー、油に辛みを移したゴースト唐辛子。

 揉み込んだ肉は当然肉団子にし、野菜と一緒にぐつぐつ煮込む。
 そこに味付けに豆板醤、甜麺醤を少々。

 ヨッちゃんはその調理過程を見て涎を垂らしていた。
 どうやら胃袋を掴むことは成功したようだ。
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