ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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59話 管理者権限

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 うんうんと富井さんが頷き、喋るまでの時間を待つ。

「これは、良いものだな。今の時代はこんなものが当たり前に食べられるのか」

「当たり前では無いな」

「そうなのか?」

「これはあくまでポンちゃんの技能があってこそのものだ」

「つまり?」

「ここでしか味わえないものだな」

 富井さんは納得したように頷きながら、味わって咀嚼する。

「それで、何の話じゃったかのう」

「ダンジャン管理者のナンバリングによる権限の優位性についてでしたか」

「そうじゃったそうじゃった」

 この下り、毎回やるんだろうか?
 無理もないか、話を聞く限り、今までずっと寝たきりという話だ。

「そうじゃのう、五郎にできることと、そこのスライムでできることには違いがある」

「キュッ(スライムではない! 妾はオリンという名を貰っておる、そう呼ばれて然るべきじゃ!)」

「何か抗議めいた視線を感じるのう?」

 オリンの敵意をビシビシと受け止め、富井さんは首をかしげた。
 さっき意思疎通をしたんじゃないのか?

 富井さんは聞こえているのにすっとぼけたか。
 それとも現在進行形でボケているのか。判断はつかない。

「スライムではなく、オリンと呼んでほしいそうです」

「そりゃ悪かった、そうじゃの、吾郎も犬と呼ばれたら居心地が悪くなる。すまなかったの、オリンや。すごく言いやすい気がするのは何故じゃろうな?」

「そりゃあれだろう、シゲちゃんの奥さんが凛さんだったからだろう? よく周囲からお凛さんと呼ばれておったからじゃろうな」

「ああ!」

 今まで忘れてたのか?
 仕方ないか、病み上がりだもんな。

 思い出すのだって、時間がかかる。
 食事によってモヤの掛かっていた記憶が鮮明に思い出されたのなら、あとは俺がそれの手ほどきをすれば良いもんな。

「奥様は富井さんにとってどのような方だったんですか?」

「めちゃくちゃ愛されておったよ? 近所では有名なおしどり夫婦として有名じゃったな!」

「嘘をつくな! シゲちゃんはろくに家に帰らないで迷惑ばかりかけてたろ?」

「おいおい、それはハッちゃんもだろ? ワシだけ悪くいうな。むしろそっちから誘って来てワシだけ貶めるつもりか?」

「バカめ、わしは隙を見て帰っておったわ! 嫁さんは怒らせたら怖いからの!」

 始まる、嫁さんバトル。
 独り身の俺たちには憧れの先にあるものだ。
 羨ましいと思う反面、苦労も多そうだと結婚に対する願望が薄れていく。

 俺たちはまだ独身でも良いかなって、そんな気さえするトークが展開された。

 それでもいつかはと思うのだが、あいにくと候補は居ない。
 悲しいことにね。


 そんなこんなで、お嫁さん自慢から、地獄の嫁姑論争に発展し、そして子育ての何たるかを聞かされた上で本題に入る。

 話は盛り上がったが、軽く降った話題が予想以上に盛り上がってしまって、質問内容すら吟味する必要があるのかと頭を掻いた。

 ヨッちゃんは我関せずでアルコールを進めている。
 くそぅ、俺もそっちに回ればよかった。

「それで、権限とはどこまで差が出るものなのですか?」

「正確にはわからんが、例えば五郎ならここから、場所を指定して物を送ることができるとしよう」

「オリンのワープポータルのようなものですか?」

「やはりすでに持っておったか。そうじゃな、それが運べる範囲に差が出る。例えば吾郎の権限だと、国内に限るじゃとかな」

「そこがオリンとの違いですか。確かにうちのオリンならば、エネルギーを借金する事で世界規模での瞬間転移が可能です。しかし吾郎くんにはそれができないと?」

「此奴はメスじゃぞ?」

 メスなのに五郎だなんて名付けたのか……いや、オリンと同様に名乗ったのかもしれないか。

 となると吾郎じゃなくて、ゴロウが正解。

 しかし昔はダンジョンに犬を連れて行っていたらしく、ダンジョン犬として扱う上で五郎と名付けた可能性もある。

 そう言えばオリンも女性型だったな。
 管理者は全員女性型なのかな?

 そこは特に重要じゃない気がするが、まぁいいか。

「エネルギーなんて初めて聞いたの、なぁハッちゃん?」

「そうじゃのう。初めて聞く。多分五郎は扱えない権限なのじゃろう」

 そうなのか?
 ではどうしてオリンは宇都宮ダンジョンの管理ができてないことを管理者に問い詰めたのだろう?

 他の管理者の話を持ち出した時点で、巡回しているかのような口ぶり。

「オリンはそういう意味では五郎より特別なんですかね?」

「ナンバリングによっては扱える権限に大きな隔たりがあるとは聞いたの」

「オリンはそこのところ詳しく教えてくれないんですよね」

「まぁ、吾郎も多くは語らんの。どうも教えたくても権限の都合上しゃべれねいみたいな制限があっての」

 じゃあオリンもそういう制限がある上で語らないのか?

「キュッ(別にそういうにではないが、あまり現地人に我々の技術を与えすぎると文明が崩壊する恐れがあるからしないだけじゃ)」

 オリンの言い分はよくわかる。正直個人が扱うにはすぎた力だ。

 個人の屋台の店主が扱って良い力じゃない。
 個人で楽しむ前提での能力だ。

 確かに表に出して良い能力じゃないな。
 多くを教えないのも理解できた。

 ただ一つ、わからない点もあった。

 オリンが契約したのは、俺が特殊スキル持ちだったからだ。

 けど契約者は八尾さんではなく、富井さんである点。
 特殊スキル持ちと利害の一致で契約するんじゃないのか?

 そんな疑問をぶつけたところ、二人は顔を見合わせてから笑い合う。

「そう言えばポンちゃんには教えてなかったの」

「ワシもハッちゃん同様に特殊スキル持ちなんじゃ」

 えっ、じゃあ俺と同様に肉に加工できる能力者だったのか?
 だから富井ミートの損失を補うべく、残された者がダンジョンを利用した?

「この顔、きっと肉加工スキルか何かと思ってる顔じゃな」

「そりゃ富井ミートなんじゃからそう思うじゃろ。全然違うんじゃがな」

「違うんですか?」

「ワシのはこういうもじゃな」

 そう言って、懐から取り出したマンドラゴラを手元で日本酒の小瓶に変えた。

 なんてこった、この人の加工スキルはアルコールへの変換だったのだ!

 驚いている俺に、八尾さんがサプライズ成功とばかりに満面の笑みを浮かべる。

「さっきの酒はこのマンドラゴラから作られたものでな。なんだかんだ重宝しておる」

「非常に美味しかったのを覚えてます。許可さえもらえたら、もう何品か作らせてもらって良いですか?」

「もちろん、ワシは5日これに合う食事をするのが楽しみで生きておったからな。ストックは何本もあるぞ。現役時代に大量にゲットしたからの」

「言っちゃあなんだが、坊主たち以上にシゲちゃんは呑兵衛だぞ?」

「お、いいねぇ、ちょいと飲み比べするか?」

「そういうのはここ以外でやってくれますか?」

 先程までずっと黙りこくっていた世良さんが話に入ってくる。

 そう言えばここ支部長室だったな。
 ここから特にダンジョン管理者の話で盛り上がることはないからと、ダンジョンの中に移動してから二次会を開く。


 そういえば出禁になっていた旨を語ると「そんなもんワシの顔パスじゃい」と豪語する富井さんに押し切られて中へ。

 オーク肉を楽しみながらの宴会が始まった。

 なんていうかね、八尾さんも富井さんもアルコール入ってからの方が調子が出るタイプらしく、戦闘の方で大変お世話になった。

 俺の目標はここかなって、なんとなしに思ったね。

 それと宇都宮ダンジョンの権利を一時的にオリンが統括することによって、ダンジョン崩壊の危機は去った。

 溜まったエネルギーは、無事変換されてことなきを得たようだ。
 そのおかげで、それで富を得ていた人たちは商売が立ちいかなくなってしまったそうだが、ダンジョンの搾取によって成り立つ商売なんて最初から無理があるって言う事だな。

 俺たちも一歩間違えたらそうなりかねないので注意しようと思うのだった。
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