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52話 病院食試食会1
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「お前達も、もうBランクか」
「普通に居座ってしまいましたね」
Cランクダンジョンを踏破する事10日。
支部長からの推薦が確約してるのもあり、ダンジョンモンスターの検証してたらいつの間にかそんな日にちが過ぎていた。
それでも異例のスピード昇進である事を眉根を揉み込みながら世良さんは言った。
「同ランクの探索者からも要望書が届いてるぞ」
「えっ?」
何かあっただろうか?
普通にダンジョン内で飲み食いをしていただけである。
それそのものがマナー違反だと言われたらそれまでだが。
目の前に置かれた書類のどれもが『あまり高いランクに行かないでくれるとあるがたい』などの要望、つまりお願いだった。
それを見ながらほっこりする。
内心で嫌われてたらどうしようという思いはあったが、すっかりこの地で馴染めたようで何よりだ。
要望書の殆どが普段ダンジョンに潜らない人ばかりで、普通にダンジョン外で店を出して欲しい、みたいな要望だった。
それをやるのはまともに店を出してる人に悪いので、できないんだよなぁ。
ほら、俺たちって別に稼ぐために店開いてないし。
最終的に自分たちが楽しければそれでいいんだ。
「取り敢えず、ウチから優秀な探索者が出てきてくれたことは誇りに思う。できるだけ後続に誇れる成果を出してほしいところだが……」
「あまり未成年の教育によろしくないことばかりしてますが」
「まぁ、ウチもそれで利益を出してるので共犯か。そういえば病院の給食センターから連絡来てたぞ?」
「え? 直接Dフォンに連絡くれたらいいのに」
「掛けたそうだが、繋がらなかったそうだ。お前、配信と来客に夢中になりすぎて着信確認してないだろ?」
「えっ」
世良さんは俺にDフォンの扱い方を教えてくれた。
通話以外に、メッセージ機能という文章のやり取りができる機能を初めて知ったほどだ。
ミィちゃんは教えてくれなかった。
もしかしたら俺の声が聞きたかったからか?
なんてな。
案外本人も使い方を把握してない可能性もある。
俺はそう思うことにした。
給食センターからの報告は10件。
概ね内容は殆ど一緒。
試食会があるから来てください。
その期日が明日に迫ってるので向こう側も既読がつかないことに焦りを感じてダンジョンセンターに連絡をくれたのかもしれない。
「お前の卸した食材を病院食に混入するんだって?」
「その言い分だと異物が混ざってるように受け取れますね。せめて投入とかいってくれませんか?」
「実際異物だろ。適合食材だなんてのは現役で稼いでる探索者が求めるものだ。一般人の、しかも高齢者が口に入れるものではないからな」
世良さんは誰に対しても口調が厳しい。
これが年若い世代にだけというならまだしも、目上にも似た態度で接するから分からない。
支部長ともなると、他者に舐められない態度を取るものなのだろうか?
そう考えると卯保津さんて本当に変わり者なんだなぁと思うなどした。
「八尾さんは普通に食べてましたが?」
「仮にもSSランクが、年老いても一般人と同じわけないだろ?」
ごもっとも。
「じゃあ、大丈夫じゃねーの? 食わせるのは爺さんの知り合いで、元探索者だって話だし」
言われっぱなしの俺に、助け舟を出してくれたのはヨッちゃんだ。
「八尾さんと組んで他探索者で入院中とくればあの人か……」
「やっぱ有名な人?」
「本人よりも親族がな。良くも悪くも有名だよ」
八尾さんの言ってた通りか。
「あの爺さんですら手を焼くって聞いたぜ?」
「被害者意識が過剰なんだ。お、うまいなこれ」
世良さんは会話中暇を持て余して作った唐揚げを口に運びながらもぐもぐする。
ヨッちゃんはお天道様が高いのにも関わらずストロング缶のプルトップを開けた。
相変わらずのマイペース具合だ。
「ゴーストペッパーにゴールデンゴーレムスパイスを混ぜて味付けに使ってます」
「どれも聞かない名前だな」
「武蔵野のダンセン職員のクララちゃんとは別系統の材料入手での調味料ですから」
「というと八尾さんの?」
「ええ、本人はピーマンの肉詰めよりお刺身の方が気に入ってました。日本酒と合わせるのに良いそうです」
「私の体はアルコールを分解してしまうからな、酔えないんだ。探索中はそんな猶予もなかったが、ダンジョンから離れるようになって、ようやく酔えない体の不便さを感じさせられてるよ。ストレスは溜まる一方だ。酔える奴らが羨ましいね」
だからいつも不機嫌なのか。
「渋谷支部の井伊世さんも同じ理由で困っておられましたね」
「ほう? あの女傑が」
「お知り合いでしたか?」
「いや、彼女の噂だけは嫌でも入ってくるからな。同期で且つ女性。私の世代では憧れの対象だった……」
「言っちゃなんですけど、あの人意外と脳筋ですよ?」
それは知りたくなかった、という顔。
まぁ憧れなんていうのはよく知らない人に対して抱く感情だし。
知ってしまったがために引き返せないのは腐れ縁という。
卯保津さんから紹介されたからそう思うだけで、また別の場所から紹介されたら違ったんだろうか?
それはともかく。
すっかり居酒屋の雰囲気で話し込んでしまった。
「さて、すっかり長居してしまったな。執務があるので私はこれで失礼する」
「こちらこそ、為になるお話ありがとうございます」
中身はどうであれ、井伊世さんの別の顔を見れた。
身内に見せる顔と違い、意外と多くにファンがいるのだと知れた。
表向きの顔と身内に見せる顔。
果たして俺は人に合わせて上手く切り替えられているだろうか?
翌日、案内の通りに試食会に参加。
医療用の病院食という時点で、一般的なものではないと知れていたが、その場に居合わせた全員が驚嘆していた。
「どうされたんですか?」
「ああ、どうも本宝治さん。どうやら試食中に適合食材を見つけてしまった医療従事者が見つかったようでして」
「ああ……」
それで食材モンスターを知ってざわついてしまったと?
ざわつくモンスターを用意した記憶は……身に覚えがありすぎた。
ゴースト、ゾンビドッグ、リビングアーマー、ゴーレム等々。
ろくなモンスターが居ない。
ここにゴブリンやスライム、ラット、バットも混ぜようとしたら止められたのはいい思い出だ。
「これは、革命ですよ!」
若い医者の卵が興奮気味に訴える。
レベル上限が上がったら、誰だって興奮するだろう。
これが原因で人々は就職先を狭められる。
生まれながらのステータスの高低でも狭まるが、上がる見込みがあると分かるといてもたっても居られなくなるものだ。
「落ち着きたまえ。これらの食材はそう遠くないうちに我々一般人の口にも入るのだろう? 何をそう慌てているのかね?」
上司の方だろう。
初老の医師は新人を嗜めると、この場に見合わない俺たちを一瞥して声をかけてくる。
「君かね、この食材の提供者は」
「本日はお招きいただきありがとうございます。探索者兼料理人の本宝治と言います。本日はよろしくお願いします」
「噂は聞いているよ。なんでもモンスターをその場で調理してしまうそうじゃないか。息子が君のファンでね。何かにつけて耳にするんだ。今日はよろしく頼むよ」
不躾な視線を送ってきた割に、口を開けば賞賛の声。
ああ、これが社交辞令と言うやつか。
頭の中と口から出る言葉が真逆なので、受け取る側もびっくりしてしまうな。
「早速本題に入ろう、この食材はどれくらいの頻度で、どれくらいの量を搬入できる?」
探索者がせっかちであると理解してるのだろう、単刀直入に本題に入った。
「あまり大量には厳しいですね」
「コストの問題か?」
「それもありますが、ダンジョンのモンスターが人間に合わせてその量を増やしてくれないから、と言うのがあります」
「それに、君の体は一つしかない、か」
その通り。
なので需要が高まっても、供給量は一定しか増えないのだ。
食えたらラッキーくらいに思って欲しいよね。
「普通に居座ってしまいましたね」
Cランクダンジョンを踏破する事10日。
支部長からの推薦が確約してるのもあり、ダンジョンモンスターの検証してたらいつの間にかそんな日にちが過ぎていた。
それでも異例のスピード昇進である事を眉根を揉み込みながら世良さんは言った。
「同ランクの探索者からも要望書が届いてるぞ」
「えっ?」
何かあっただろうか?
普通にダンジョン内で飲み食いをしていただけである。
それそのものがマナー違反だと言われたらそれまでだが。
目の前に置かれた書類のどれもが『あまり高いランクに行かないでくれるとあるがたい』などの要望、つまりお願いだった。
それを見ながらほっこりする。
内心で嫌われてたらどうしようという思いはあったが、すっかりこの地で馴染めたようで何よりだ。
要望書の殆どが普段ダンジョンに潜らない人ばかりで、普通にダンジョン外で店を出して欲しい、みたいな要望だった。
それをやるのはまともに店を出してる人に悪いので、できないんだよなぁ。
ほら、俺たちって別に稼ぐために店開いてないし。
最終的に自分たちが楽しければそれでいいんだ。
「取り敢えず、ウチから優秀な探索者が出てきてくれたことは誇りに思う。できるだけ後続に誇れる成果を出してほしいところだが……」
「あまり未成年の教育によろしくないことばかりしてますが」
「まぁ、ウチもそれで利益を出してるので共犯か。そういえば病院の給食センターから連絡来てたぞ?」
「え? 直接Dフォンに連絡くれたらいいのに」
「掛けたそうだが、繋がらなかったそうだ。お前、配信と来客に夢中になりすぎて着信確認してないだろ?」
「えっ」
世良さんは俺にDフォンの扱い方を教えてくれた。
通話以外に、メッセージ機能という文章のやり取りができる機能を初めて知ったほどだ。
ミィちゃんは教えてくれなかった。
もしかしたら俺の声が聞きたかったからか?
なんてな。
案外本人も使い方を把握してない可能性もある。
俺はそう思うことにした。
給食センターからの報告は10件。
概ね内容は殆ど一緒。
試食会があるから来てください。
その期日が明日に迫ってるので向こう側も既読がつかないことに焦りを感じてダンジョンセンターに連絡をくれたのかもしれない。
「お前の卸した食材を病院食に混入するんだって?」
「その言い分だと異物が混ざってるように受け取れますね。せめて投入とかいってくれませんか?」
「実際異物だろ。適合食材だなんてのは現役で稼いでる探索者が求めるものだ。一般人の、しかも高齢者が口に入れるものではないからな」
世良さんは誰に対しても口調が厳しい。
これが年若い世代にだけというならまだしも、目上にも似た態度で接するから分からない。
支部長ともなると、他者に舐められない態度を取るものなのだろうか?
そう考えると卯保津さんて本当に変わり者なんだなぁと思うなどした。
「八尾さんは普通に食べてましたが?」
「仮にもSSランクが、年老いても一般人と同じわけないだろ?」
ごもっとも。
「じゃあ、大丈夫じゃねーの? 食わせるのは爺さんの知り合いで、元探索者だって話だし」
言われっぱなしの俺に、助け舟を出してくれたのはヨッちゃんだ。
「八尾さんと組んで他探索者で入院中とくればあの人か……」
「やっぱ有名な人?」
「本人よりも親族がな。良くも悪くも有名だよ」
八尾さんの言ってた通りか。
「あの爺さんですら手を焼くって聞いたぜ?」
「被害者意識が過剰なんだ。お、うまいなこれ」
世良さんは会話中暇を持て余して作った唐揚げを口に運びながらもぐもぐする。
ヨッちゃんはお天道様が高いのにも関わらずストロング缶のプルトップを開けた。
相変わらずのマイペース具合だ。
「ゴーストペッパーにゴールデンゴーレムスパイスを混ぜて味付けに使ってます」
「どれも聞かない名前だな」
「武蔵野のダンセン職員のクララちゃんとは別系統の材料入手での調味料ですから」
「というと八尾さんの?」
「ええ、本人はピーマンの肉詰めよりお刺身の方が気に入ってました。日本酒と合わせるのに良いそうです」
「私の体はアルコールを分解してしまうからな、酔えないんだ。探索中はそんな猶予もなかったが、ダンジョンから離れるようになって、ようやく酔えない体の不便さを感じさせられてるよ。ストレスは溜まる一方だ。酔える奴らが羨ましいね」
だからいつも不機嫌なのか。
「渋谷支部の井伊世さんも同じ理由で困っておられましたね」
「ほう? あの女傑が」
「お知り合いでしたか?」
「いや、彼女の噂だけは嫌でも入ってくるからな。同期で且つ女性。私の世代では憧れの対象だった……」
「言っちゃなんですけど、あの人意外と脳筋ですよ?」
それは知りたくなかった、という顔。
まぁ憧れなんていうのはよく知らない人に対して抱く感情だし。
知ってしまったがために引き返せないのは腐れ縁という。
卯保津さんから紹介されたからそう思うだけで、また別の場所から紹介されたら違ったんだろうか?
それはともかく。
すっかり居酒屋の雰囲気で話し込んでしまった。
「さて、すっかり長居してしまったな。執務があるので私はこれで失礼する」
「こちらこそ、為になるお話ありがとうございます」
中身はどうであれ、井伊世さんの別の顔を見れた。
身内に見せる顔と違い、意外と多くにファンがいるのだと知れた。
表向きの顔と身内に見せる顔。
果たして俺は人に合わせて上手く切り替えられているだろうか?
翌日、案内の通りに試食会に参加。
医療用の病院食という時点で、一般的なものではないと知れていたが、その場に居合わせた全員が驚嘆していた。
「どうされたんですか?」
「ああ、どうも本宝治さん。どうやら試食中に適合食材を見つけてしまった医療従事者が見つかったようでして」
「ああ……」
それで食材モンスターを知ってざわついてしまったと?
ざわつくモンスターを用意した記憶は……身に覚えがありすぎた。
ゴースト、ゾンビドッグ、リビングアーマー、ゴーレム等々。
ろくなモンスターが居ない。
ここにゴブリンやスライム、ラット、バットも混ぜようとしたら止められたのはいい思い出だ。
「これは、革命ですよ!」
若い医者の卵が興奮気味に訴える。
レベル上限が上がったら、誰だって興奮するだろう。
これが原因で人々は就職先を狭められる。
生まれながらのステータスの高低でも狭まるが、上がる見込みがあると分かるといてもたっても居られなくなるものだ。
「落ち着きたまえ。これらの食材はそう遠くないうちに我々一般人の口にも入るのだろう? 何をそう慌てているのかね?」
上司の方だろう。
初老の医師は新人を嗜めると、この場に見合わない俺たちを一瞥して声をかけてくる。
「君かね、この食材の提供者は」
「本日はお招きいただきありがとうございます。探索者兼料理人の本宝治と言います。本日はよろしくお願いします」
「噂は聞いているよ。なんでもモンスターをその場で調理してしまうそうじゃないか。息子が君のファンでね。何かにつけて耳にするんだ。今日はよろしく頼むよ」
不躾な視線を送ってきた割に、口を開けば賞賛の声。
ああ、これが社交辞令と言うやつか。
頭の中と口から出る言葉が真逆なので、受け取る側もびっくりしてしまうな。
「早速本題に入ろう、この食材はどれくらいの頻度で、どれくらいの量を搬入できる?」
探索者がせっかちであると理解してるのだろう、単刀直入に本題に入った。
「あまり大量には厳しいですね」
「コストの問題か?」
「それもありますが、ダンジョンのモンスターが人間に合わせてその量を増やしてくれないから、と言うのがあります」
「それに、君の体は一つしかない、か」
その通り。
なので需要が高まっても、供給量は一定しか増えないのだ。
食えたらラッキーくらいに思って欲しいよね。
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