ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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47話 ゴーストピーマン食べ比べ

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「いやぁ、すっかり堪能したワイ」

「それはよかったです」

「いい飲みっぷりだったぜ、爺さん」

「お主こそ、程よいタイミングじゃったわ」

「褒めてもなんも出ねーぜ、爺さん」

「まったく……コイツを使うまでもなくレベル上限が上がるとはな」

 八尾さんの懐から出てきたのは、ピーマンだった。

「ワシはこれを青椒肉絲にしたり肉詰めにして食べてレベルを上げてたんじゃがな。ある日を境にとんと伸びんくなったんじゃ」

「いまいくつなんだ?」

「SSSじゃな」

「十分だろ。それ以上強くなってどーすんだよ」

「知らんのか? ステータスが上がれば上がるほど老化現象が遅くなる。不老……とまではいかんがの。同年代に比べてワシは長生きしとる方じゃよ」

「失礼でなければいくつかお伺いしてもいいですか?」

「幾つに見える?」

「見た感じからは70代後半くらいでしょうか?」

「ワシは92よ。孫どころか曾孫もおるわい」

「えっ」

「それでもまだまだくたばるのは怖い。そう思うんじゃ」

 十分長生きだよ、とヨッちゃんは言うが、八尾さんの気持ちもわかる気がする。

 もし俺が同じ立場だとしたら、あっさり包丁を捨てられるだろうか?

「その気持ち、わかる気がします」

「ちょ、ポンちゃんまで?」

「分かるか、若いの」

「もしも俺が同じ状態に至った時、きっと同じような気持ちを抱くでしょう。俺はきっと死ぬまでこの包丁を手放せない」

「あー、そう言う理由なら俺もポンちゃんを止められねーわ。俺も死ぬ前にポンちゃんの飯食ってから死にたいって思うもん」

「じゃあその為にも長生きしなくちゃな」

「ワハハハ、良い仲間を持ったのう、ワシの友は皆死んだ。ダンジョンに殺された」

 そうか、元探索者。

 俺たちの世代と違い、ダンジョンの侵食直後は大きな被害が出たと聞く。

 ステータスの高いものが生まれて、統制したことでようやく平穏を取り戻したのだ。

「ワシが探索者を辞めて八百屋を始めたのはな、最初こそ敵討ちだった」

「八百屋と敵討ちになんの関係があるんだよ?」

「ワシの固有スキルを忘れたか?」

「あ!」

 モンスターを野菜に置き換えるスキル。

「ダンジョン災害直後、食うもんにも困っていた時代があった。そんな時にワシのスキルは引っ張りだこじゃったよ。それにモンスターに殺された遺族たちに、そのモンスターを食べさせることで敵討ちとさせた。ワシのスキルは国内どころか世界中に求められた。店も大きくなったし可愛い孫やひ孫に囲まれて大往生が待っておる。しかしのう、まだワシは自分の全てを出しきれていないのではないか? それを気付かされた」

「活け〆でのスキル変化ですね?」

「そうじゃ、あれを見た時まだここでは死ねんと強く思ったのじゃ。その直感は正しかったようじゃ」

 八尾さんはレベル上限を180から200に上げたことを報告してくれた。

 もう十分な程に強いと思うが、ミィちゃんに比べたらまだ伸び代があるのだろうか?

 まだレベル100にも至ってない俺にはわからぬ事だった。

「先に活け〆に向かいますか? それともピーマンレシピを?」

「活け〆を先でもいいか? 食事の後で体の方が昂っておる」

「分かる! ポンちゃんの飯は元気が出るよな!」

「そうじゃ! こんなことは初めてじゃ」

 という事で、ゴーストの調査開始。

 ノーマル:ピーマン
 活け〆 :唐辛子

「面白い結果が出ましたね」

「一応野菜の部類じゃが、香辛料では無いのか?」

「出来てしまったものは仕方ありませんよ」

「これは他のモンスターも俄然楽しみになってきおったな!」

「早速一品作ってしまいますね」

「もうか? 腹は減っておらんが?」

「俺は味が気になるんで。ヨッちゃん、火の準備頼む」

「あいよー」

「ならワシは散歩がてら歩いてこようかの」

 そう言って出ていった。

 先ほどご一緒した感じ、目で追えないスピードで徒手空拳による打撃でモンスターをあっという間に無力化してたので心配はしてない。

 ただし任せるとあっという間に死ぬので、活け〆するなら全て任せるのはナシだった。

「オーソドックスに肉詰めか?」

「ゴーストミンチをゴーストソルトで引き締めて、ゴーストピーマンでさらにゴースト唐辛子で味付け?」

「ゴーストミンチから出た油で唐辛子を包むことによって辛味を感じさせないように出来る。で、コイツで串揚げも作る」

「揚げるのは?」

「もちろん、ゴーストソーセージだ」

「ウヒョー」

 コイツはコッペパンに挟んで旨辛ソースでいただいてもいいと思っていたんだ。

「よぉ、いい匂いにつられて帰ってきたぞい」

「ちょうどいいタイミングだぜ、爺さん」

「新しいレシピを考案してみました。味見をお願いします」

「ゴーストづくしだぜ! 俺は適合食材じゃないからそこまででもないが、ポンちゃんの料理にハズレはないからな!」

「ゴーストの刺身もご用意してます。日本酒のお供にどうぞ」

「おうおう、刺身っていうのは初めてだね!」

 早速食いついた。
 日本酒は辛口を選び、温燗で召し上がる。

「カーーッ、これはまたいい塩梅だな!」

「コイツにはバンパイア醤油でどうぞ」

「醤油までモンスターかい!」

「クララちゃんが頑張ってくれました」

「ポンちゃんが無力化させられたのが大きいだろ」

「バンパイアを無力化ねぇ、それはまた難しい仕事だろ。若いの、見た目以上にあんたやるな?」

「ポンちゃんはこれでも総合ステSあるからな」

「ヨッちゃんだってA5あるだろう? 誇れよ」

「俺はポンちゃんの永遠のライバルなんだよ。負けっぱなしは嫌だね! 絶対追いつくからな!」

 そう言ってビールを煽る。
ダンジョン探索はまだまだこれからだと知っているからだ。

「ゴーストを刺身で食える時代が来たか! 60年前は考えもつかなかったが……この醤油がなんとも味わい深いの。茂雄のやつにも食べさせてやりたかったワイ」

「その方は既に?」

「いやぁ、生きておるよ? ただし食事のできん体になってしまってのぉ。ベッドに縛り付けられて延命させられておる。生きていてくれるだけでもありがたいのはわかっとるが、レベル上限さえ上がれば、あいつも立ち上がれるくらいまで回復するはずなんじゃ……」

「八尾さんはかつてのお仲間の回復を願ってこの道に入られたのですね」

「勝手にやっておる事よ。愚痴を言い合う関係じゃ、しかし年老いてくるとのぅ……そんな言葉すら懐かしくなってくるんじゃ」

「病院食ですか……」

「難しいのはわかっとる」

「いえ、実際ゴーストなんかはカロリーもありませんし、実質喉越しくらいです。提案は可能ですよ?」

「本当か?」

「だがあいにくと俺には病院への伝手がありませんし」

「それならばワシに任せておけ! コネだけなら世界一と言っていいぞ!」

 八尾さんは嬉しそうに平らげ、続いてピーマンの肉詰めへと箸を進める。

「ふむ、これは随分とピリ辛じゃな」

「早速ゴースト唐辛子を使わせていただきました。全てゴーストづくしです、ご賞味ください」

「それは楽しみじゃの。ほう! 先ほどのフライとは違い、なんとも味わい深い。全ての味が口の中で調和しておる!」

「本当かよ? まぁうまいとは思うけど」

 俺もヨッちゃんもゴーストが適合食材ではないのでそこまで味に深みを感じないが、八尾さんは違うようだ。

 先ほどと一緒で味わってる間に皿の上から消えた→盗んだのか!? の疑いコンボ。

 この人学習しないなぁ。
 まぁ卯保津さんとも似たようなことしたし、通過儀礼みたいなもんか。
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