ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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43話 屋台デリバリーサービスの提案

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 散々謎肉で料理をした後、ミィちゃん達は顔を見合わせてからこう告げた。

「ねぇ、洋一さん」

「なんだい?」

「先ほどの転送スキル、距離は関係ないのかしら?」

「俺もよくわからないんだよね」

「キュッ(この惑星の中ならどこでも飛ぶぞ! 特別手当で少し割高になるがの)」

 心の中でどれくらいになるか聞いてみると、30万ENだと教えてくれた。

 まぁそれくらいなら五日もあれば回収できるか。

 どこに行くかだが、ミィちゃん達のお誘いならCやDって事もなさそうだし。

「オリンが言うには、ちょっと頑張れば地球上のどこにでも行けるけど、ご飯がいっぱい食べたいだそうだ」

 俺の中でオリンは食いしん坊の美食仲間という位置付けで、ダンジョン関係者やENの事は伏せている。

 当時のメンバーですら突拍子もない話だし、こっちの方がまだ理解できるからだ。

 EN=すごくよく食べる。
 これでいい。

 後は『人がよく食べるのも好き』と言う解釈もあるが、どっちでもいいか。

「それはまたすごいスキルだわ。オリンをお貸ししてもらうことは……」

「キュキュ?(それは契約者を変えると言うことか? 無理じゃな。妾はEN最高率のこの者と契約を結ぶことで力を貸しておる)」

「俺の料理に胃袋掴まれちゃったみたいでさ。行くのを嫌がってるみたいで、ゴメン」

「ならいっそあんたもセットで来てもらうことは可能か?」

「まぁ俺が一緒なら」

「おいおい、オレを忘れてもらっちゃあ困るぜ?」

 ヨッちゃん!

「貴方は……以前もお会いしましたが、洋一さんとは一体どう言うご関係なんですか?」

 心の中で歓喜の声をあげる俺に対し、ミィちゃんは不服そうに眉を顰める。

「オレはポンちゃんの料理サポーターだよ、ダンジョン内で即座にパスタを茹でるのにちょうどいい湯加減、肉を焼くときの煙の換気、湯掻き、火入れ、全てを俺の魔法でカバーしてる。一応魔道コンロやらなんやらあるが、これは素人用でポンちゃん向きじゃねぇ。後は生ぬるい酒をキンッキンに冷やしたり、熱燗ぬる燗なんでもござれだ!」

「貴方、総合ステータスは?」

「A5だけど?」

「そう、今の洋一さんの総合ステはおいくつなんです?」

「え、俺? S–だよ」

「A5とS–……能力的にはついて来てもらって大丈夫だけど」

「は!?」

「ちょっと、この間までEやDだった人間がこの短期間でA5やS-まで上がった!? そりゃ一体なんの冗談だ!」

 俺たちの急成長を的確に判断し、連れていけるかの要素を決めるミィちゃんの横ではマイクさんとリンダさんが二人して衝撃を受けていた。

 そりゃビビる。俺もビビってる。

 遠いところまで来てしまったな、と思いつつ中身は全く変わってないんだが。
 今でも気持ちはE-なんだよ。

 何を間違えればS-なんて恐れ多いステータスになるのか? これがわからない。

「何を言ってるの? 元々洋一さんはすごい方よ? ステータスはそれこそ低かったかもしれない。けど、自らの道でレベル上限を引き上げる手段を持っているのなら、すぐに駆け上がるに決まってるじゃない」

「そりゃ、気分次第で毎日適合調理食べ放題だもんな。そう思えば納得だ」

「それにポンちゃんの飯は美味いだけじゃなくスキルの使用回数の回復まであるんだぜ?」

 あ、バカ!
 身内ネタを世界トップの耳に入れるんじゃない!

 あれは卯保津さんが話のわかる人だから噂を堰き止めてくれてたんだ。

 これがミィちゃん達に知れ渡ったら……どこに飛び火するか分かったもんじゃないだろ?

 あれ、オレ何かやっちゃいました? とばかりに舌を出して謝罪するヨッちゃん。

 そう言うところだぞ?
 迂闊というか、なんというか。

「洋一さん、そのお話、詳しく聞かせてもらっても良いですか?」

「まぁ、いずれ話す機会があるとは思ってたけどね」

 とは言えトークだけだと手持ち無沙汰になるので、飲み会を再開して、つまみを出しながらの事情聴取となった。

「つまり、この人は洋一さんの料理を食べてから魔法を無限に使えるようになったと?」

「今のところマジックキャスターは例外なく回復してるよ。ヨッちゃん以外のマジックキャスターも、回数が尽きた人は回復したって驚いてた」

「それはますます攻略する上で重要ね」

「その他にも最重要な案件があるぜ?」

「それは何?」

「あのしみったれた空間であったかくて美味い飯が食えるってことだ」

「ワォ、それは素敵な案件ね!」

「と、いうことでそのオリンさんと契約していただけないでしょうか?」

「キュッ?(条件次第じゃな)」

「契約内容次第で受けてもいいって言ってるよ。多分俺と別行動は無理とかだと思う」

「勿論セットで。もしこれが可能になれば、食料の持ち込みが要らなくなるもの。荷物も減らせて一石二鳥よ」

 ミィちゃんは嬉しそうにはにかむ。
 美人が笑顔になるだけでちょっと得した気持ちになるよね。

 契約内容は、以下のように決まった。

 まずはDフォンの支給。これは海外モデルでダンジョン内外でも問題なく世界中につながる特別仕様。

 買うと目玉が飛び出るほどの金額がするのだとか。

 いくらか怖くて聞けないが、SSSSランクからすれば端金らしい。
 まるで想像もつかない。

 くれるというから貰うけど、恐れ多くて普段使いはできそうもない。
 そもそも今まで他人の番号とか気にせず生きて来たから、上手く扱える気がしない。

 ミィちゃんの他に関係各位の連絡を入れるくらいでいいか。
 後は卯保津さんと連絡取れたらいいかな?

 そして出張サービスとしてミィちゃん経由で屋台を丸ごと運ぶ形となる。

 普段は動き回る屋台を主体にダンジョンセンター武蔵野支部と繋がってるが、今回は逆。

 動き回るミィちゃん達を主軸に、動き回る俺たちの屋台を直接召喚、送還できる仕様になった。
 元の場所への転移は複雑な為、無駄に費用がかかるらしい。

 おかげで借金が30万ENから60万ENになったが、みんなが黙々と食べるあの料理が今後食べられるようになれば、すぐに回収可能だろう。

 それとは別に椅子やテーブル、屋台はオリンに収納できるので、用途に応じて買い足せばいいとのこと。

 屋台そのものは武蔵野ダンジョン支部と連結してるので、いつでもクララちゃんの加工品が調達できるから安心だ。

 なんだったらクララちゃんを呼んで調味料に加工してもらってもいいし。
 そう思うと夢が広がるな!

「それではまたお電話しますね。現地でお会いしましょう」

「うん、でも俺日本語しかできないけど?」

「キュッ(妾が翻訳してあげるので大丈夫じゃ)」

 それは心強い。
 オリンが味方になってくれて俺はラッキーだ。

 全てはENのためじゃ、とぽよんと跳ねる。
 すっかりそのボディを気に入ってしまったようだな。

 話はまとまり、出張サービスのための準備に取り掛かる。

 基本椅子とかは適当でいいと言われた。
 普段からダンジョンに直接座ってるそうで、今更行儀よく食べるのにこだわってる人は居ないそうだ。

 結構酔っ払ってたはずなのに、帰る頃にはケロッとしてたな。

 やっぱりみんなアルコールは分解しちゃう体質なんだろうか?
 でも普通に酔ってたんだよなぁ。
 逆に泥酔を回復するスキルとか持ってそうだよね。
 体質とかとは別に。

 ミィちゃん達は朗報を持って拠点に帰った。

 噂の有名人を見物しに、多くの野次馬達が押し寄せたけどそういう気配を察知するスキルでも持ってるのか、すれ違うように帰ったよね。

 やっぱり有名人は大変だ。
 ヨッちゃんはオレたちには関係ない話だと思ってたって笑ってたっけ。

 本当に、まさか世界を駆け回るトップ探索者から直接オファーがかかるとは、思わなかったよな。

「キュッ(お主の能力なら、むしろ声がかかるのは遅い方じゃ)」

 オリンは俺の能力を過大評価しすぎるところがあるよな。
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