ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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35話 オリン

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 新しい仲間ことダンジョン管理者のオリン。

 彼女はあの部屋から出ることはできず、守護者の一体に憑依することで外を歩く事が出来るのらしい。

 屈強なモンスターや、便利な金策モンスター。
 いろんな提案があげられる中、俺が選んだのはこいつだった。

『ほう、妾にも働けというのか?』

「そのほうが俺も助かるし、それに俺と一緒にいても目立たない」

「スライムかぁ、いいんじゃね? ポンちゃんもよく活用してるし」

「強いて言えば取り急ぎ覚えてほしい仕事があるんだ」

『その代わり、格別のエネルギーを期待しておるぞ?』

 俺たちの料理をエネルギーとして摂取する。それが彼女たち別時間軸の生命体。

 別に彼女の目的が明らかにされても、特別に俺たちの生活に変化はない。

 気分の赴くままに包丁を振るい、飯を食う。
 世界の平穏は他の誰かに放り投げて。

 よぅし、そうと決まれば料理開始だ。


「かんぱーい」

 ガシャンとビールジョッキが空中で打ち鳴らされる。
 それが合図となって配信が始まった。

「いえーい、今日はコラボを終えた後の飲み会です。なぜか集まった支部長と共にCランクダンジョンで食べ比べしてます。ボス誘拐の名手、屋良さんを招いての支部長コラボ、始めていきまーす」

「いえーー」

 ガチャガチャと食器を打ち鳴らし、お祭り騒ぎをお披露目する。

 <コメント>
 :ミサミサコラボでも普通に飲んでたメシオさんチィーーッス!
 :相変わらずの居酒屋形式だった
 :向こうのリスナー困惑してたな
 :半分くらいこっちのリスナーだったろ?
 :そういえばスライム自由にさせてていいんすか?
 :隠し包丁入れてないよな
 :でも普通に血抜きしてね?

「ああ、この子はうちの新しい相棒となったオリンだ。オリンちゃんと呼んでくれ」

「キュッキュー(よろしく頼む)」

 <コメント>
 :意思疎通が取れてる?
 :嘘やろ、モンスター餌付けしたんか
 :むしろポンちゃんはスライムにとっての天敵じゃね?
 :実際そう
 :捕まえられて食の好みを限定されて……俺がスライムだったら地獄
 :ある意味で特殊性壁なんやろ
 :それを認めるくらいに飯が美味かったかだな
 :それは分かる、ポンちゃんの飯が食えるなら多少は我慢できる!
 :ドMの巣窟かよ!
 :ここに居るだけで食えないもんはないって理解してっからな!

「キューキュッ(お主は慕われておるのう)」

 気のせいか心の声が聞こえる。
 ヨッちゃんには聞こえてないのか、卯保津さんと一緒に酒盛りの準備中だ。

 素材の調達は支部長たちが仕留めてくれる。

 俺たちは解体と血抜きをして先ほど買い付けた調味料を駆使して料理を作り上げた。

 基本的にコラボと違ってつまみ中心。
 アルコールを解放したので無礼講という奴だった。

「わざわざあたし向けに手入れしてくれて悪いね」

「こちらこそ、新しいメニューの考案にお付き合いいただきありがとうございます」

「そういう願いならいつでもしてくんな。あたしがこのバカを飲みすぎないように見張ってる時くらいは付き合うよ」

「イデェーー、耳を引っ張んなバカ。俺の耳がちぎれちまうよ!」

 この二人の距離感は恋人を通り越してもっと近しい夫婦のようだが、お互いに既婚者だというのだから不思議だ。

 元チームメイトだからとこんなに仲良くしていて旦那様や奥様は目くじら立てないのだろうか?

「ウホ、ウホホッ(アアミエテ テリトリー フカシン ヘイキ)」

 おや、屋良さんの声が頭の中に流れ込んでくる。

「キュッキュー(妾との契約時に、友好的な守護者の音声を頭の中に直接流れるようにパスを繋げてみた。ダメじゃったか?)」

 ああ、そんな仕掛けが?
 ジェスチャーだけだと厳しいから助かった。

「ウホ?(コエ キコエル?)」

「聞こえるようになりました。今度からご注文の品があれば遠慮なく申してください」

「ウホーーーーーー(ウホーーーーー)」

 どんどこどんどこドラミングをする屋良さん。

 あれって威嚇じゃなくて歓喜の産声だったんだ。
 やっぱりジェスチャーじゃ限界があるな。

 でも待って? オリンは守護者の声が聞こえると言った。
 けど屋良さんは守護者じゃなく人間で、ゴリラの人形を操ってるだけだと言っていた。

「ウホ(ワタシ モンスター ニンゲン チガウ)」

 え、そうだったの!?

「ウホ(フタリ クチウラアワセ シテモラッタ)」

「キュッ(珍しい組み合わせじゃと思っておった。だから妾も混ざれるとおもっとったんじゃ)」

 そんな経緯があったのか。それにしても鳴き声とそれに込められた意味合いの長さがだいぶ違うな。ウホだけでも結構な感情が込められてる。
 そもそもウホは言語なのだろうか?

 それを言ったらオリンもそうだ。
 さっきからキュッしか言ってない。
 反応があるだけいいが、圧縮された言語を解明するのはそれこそ年単位を要しそうだ。

 なんて考えていると、オリンが屋良さんへと話しかけている。

「キュッ(それよりもお主、人のボディが欲しくないか?)」

「ウホ?(ソンナコト デキルノ?)」

「キュッ(可能じゃ。しかしせっかく溜めたエネルギーを放出させる。妾にとっては痛手じゃが……お主達ならすぐに回収可能じゃろう。じゃから相談に乗ってやる。他の誰かには絶対に相談に乗らんのだぞ? それに妾の気分で次はない)」

「ウホホッ(ヤル!)」

「キュッ(ようし、ならばそこへ座るが良い。少しチクッとするぞ)」


 オリンの前に屋良さんが座り込み、伸びた触腕が頭から背中になぞられた。
 それなりに痛みを要するのか、我慢するゴリ……屋良さん。

 まるで背中にチャックが通されたかのように、ゴリラの内側がモゾモゾとして……

「ぷは!」

 20代の女性が現れた。
 紫色の髪に金色の瞳。人間で言えば美女が、ゴリラを脱いで現れたインパクトは後にも先にもない。

「おわ! あんたどこから現れた!」

「屋良さんだよ。ゴリラの中から出るのは初めてだって。ちょっと人見知りなところあるから気をつけて」

「なにぃ!?」

「内火、あんたウチビなのかい? そんなボディ隠してたなんて聞いてないよ?」

「オリン様に融通して貰ったの」

「オリンに?」

「キュッ(代わりに美味なるものを優先的に食わせてもらい約束じゃ)」

「この子は美味い食事をご所望です。素材の調達をお願いしても?」

「その前に着るものだね。ウチビ、あんたその格好で出歩くのはやめな」

「どうして? 裸、慣れてる。いつも裸」

「あんたが良くても男どもの気が気じゃないんだよ、あんた美人だからね」

「美人……よくわからない。リゼも美人」

「ありがとよ。でもあんたに言われるのはちょっと嫌味だね」

 結局人になっても、性格までは変わらず、ゴリラはゴリラだった(失礼)

 ちなみに一度人になったら、あとはチャックを下ろすだけでいつでも人とゴリラを行き来できるらしい。

 ただし今回の人化でオリンにした借金は1万EN。

 1EN=通常モンスター100匹相当。
 レアモンスターは一匹で1ENなので、率先的にレアモンスターを狙うのがEN獲得の常識。

 けど俺たちは討伐を生業としてるわけじゃない。
 オリンが言うには調理して食うだけで通常討伐するよりEN獲得効率が上なのだそうだ。

 通常モンスターのミンチ、調味料化=1EN。
 それを組み合わせて料理すると10EN。

 ここにレア食材を持ち込めばミンチ、調味料への加工で10。
 それを組み合わせて料理すると100EN。

 レアであるかどうかの見極めは、特殊変化で調味料に変化しないモンスターを出すのだそうだ。最近出会ったのなら空ウツボがそれに該当される。

 今回オリンが俺たちにこんな条件を突きつけたのは借金をしてもすぐに返してもらえると言うアテがあったからだそうだ。

 つい最近、空ウツボを乱獲、爆食いしたばかりだ。
 上の計算式で言えば、たった一日で6000ENは獲得している。

 だからこそこれは向こうにとっても美味い話だった。
 先に教える事で、やる気になってくれたらEN問題も解決しやすくなるのだとか。

「キュッ(と、こんな感じで妾は守護者の性能をパワーアップする事ができるんじゃ)」

「お疲れ様。しっかし進化とはねぇ」

 一仕事終えたオリンに空ウツボのソーセージを与えながら話を聞く。

「キュッキュー(おぉ、これは美味じゃ。ENも満たされておくぞ)」

「そりゃよかった。おかわり居るか?」

「キュー(貰おう)」

 モンスターのパワーアップはENを消費するんだそうだ。

 じゃあオリンそのものの能力も上げられるのか?
 そんな質問にオリンは「キュッ(EN次第じゃがな)」と答えた。
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