ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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27話 おまえ(のスキル)が欲しい!

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「悪い、今日は一緒に着いていけねぇ!」

 いつもの集合場所、卯保津さんが頭を下げて俺たちに弁明した。

 支部長会議があるそうだ。

 井伊世さんや屋良さんからあれこれとツッコミどころがあるらしい。
 本当なら行きたくない。俺たちと一緒に酒でも飲んでお気楽に飯でも食らっていたいだろう。

「まぁその分俺たちで楽しんできます」

「せめて土産の一つくらい用意してくれよぉ」

「オレたちが美味いものを前にして残すと思います?」

「無理だなぁ……」

 ゴーレムソーセージは秒で消えた。
 口の中にアレほどの旨味の奔流を残すくせに、満腹感とは程遠いのだ。

「と、いう感じです」

「一応配信はするから酒のつまみぐらいにはして良いっすよ?」

「てめーらあとで覚えとけよな」

 飲みに誘わなかっただけでそんなに目くじら立てなくってもいいのにな。

 それくらいの気持ちで今日もDランクダンジョンに潜っている。

 Eランクダンジョンと違い、ここに来る探索者というのは若い層が多い。
 Eでは稼ぎが少ないと感じる、だからと言ってDの中では割と平均的な武蔵野市デパ地下に来る層は稼ぎを少しでも良くしたい、そういう顔をしていた。

 俺たちみたいに食目的でくる奴は全くいない。

 当たり前だ。ゴーレムやゴースト、リビングアーマーを好き好んで食う奴はいない。
 それすらも食おうとする物好きは、まぁ俺たちくらいなものか。

 ゴーレムの腸詰めは貴重な水分となった。

 ゴーストは刺身にして食うのが一般的になりつつある。
 なんともいえない食感で、天ぷらもいけるか? と思ったが熱を通すとあの食感は消えるみたいだ。

 喉越しも含めて酒の肴にいいので、生の料理も探求していきたい。

 リビングアーマーは安定のハンバーグ。
 どういう原理か、ゴーレムより可食部位が多く、ミンサーで肉にするとミンチが出来上がった。

 少し惜しいところがあるとすれば、合わせる調味料が物足りない。
 塩、胡椒、ハーブ。
 どれも付け合わせとして弱かった。

 肉の味が強いというのではなく、何故か定着しないのだ。

 ハンバーグが一番味にまとまりがあった。
 ソーセージはなんというか小籠包を彷彿させる。

 悪くはない、悪くはないんだが、もっと旨く出来るはずだと料理人の勘が訴えかけている。

 何が足りないかを、俺は掴み損ねていた。

「うわぁあああああ! イレギュラーだぁああ!!」

 そんな時、ズタボロで逃げ惑う少年達がいた。
 何故かずり落ちたズボンを必死に上げて走っている。
 あれじゃあしまいにはコケるぞ?

「イレギュラーだってよ」

 新しい缶の蓋をカシュっと開け、どうする? と聞いてくるヨッちゃん。
 どうするとは、ワンチャン食えそうなら食うか? という話で……

「俺たちはそのチャンスを掴むためにいるんだぜ? 逃げられる前に行くぞ!」

「ヒャッホーゥ! 乗り込めー!」

 と言った先で食われかけた女の子を拾った。
 何を言ってるかわからないと思うが、俺も頭がおかしくなりそうだった。

 そして一名の死亡を確認。

「こいつぁ、空ウツボじゃねーか!」

「いや、だいぶサイズがやばい。ネームドじゃないか?」

 一般の牛とミノタウロスくらいの差がある。
 一般的な空ウツボが丸呑みできるのは人間の指くらいだろう。

 しかし人間を生きたまま丸呑みできるとなると、全高が見上げるほど。
 その上で空を飛ぶのだから厄介さが段違いだ。

「ヨッちゃん! 無理はしなくてもいい。俺はこの子を安全圏まで避難させる!」

「ヒャア! 適合素材を前に我慢できる奴ぁいねーー!」

 ダメだ、アルコールも入ってテンションがおかしくなってる。
 女の子は丸呑みされてるのか、直視するのも憚られる格好。

 そして頭を食いちぎられた子は、残念ながらお陀仏だろう。
 探索者のライセンスを手に取り、あとでダンジョンセンターに提出しよう。
 探索者にはその義務がある。

 安全圏に避難させたら、ヨッちゃんと合流して討伐。
 すでに切断していた尻尾は蒲焼に。残りはミンサーでミンチにしてソーセージにした。

 そのあと調理中に女の子が目を覚まして自己紹介。
 彼女は倉持クララちゃん。

 近くの高校に通う女の子で、このダンジョンにはクラスの子に誘われてきたそうだ。そこで婦女暴行をされたと告白し、先ほど逃げていた相手と、その場で喰われた相手が対象だと涙ながらに語った。

 そうまでしてダンジョンに潜る理由は、探索者だった両親の失踪。
 残された妹を食べさせていくためのお金稼ぎと聞いた。

 俺とヨッちゃんは顔を見合わせ、他人事だと思う事はできなくなっていた。

 彼女の固有スキルは『特殊変化』という見たことも聞いたことのないものだった。

「なんかさ、ポンちゃんの特殊調理と似てね?」

「特殊調理ですか?」

「そういえば、特殊とつくあたりは似てるね。俺のはモンスター肉を調理する時に特殊効果が乗るんだ。君のは?」

 俺の質問に、クララちゃんは述べる。

「私のは、モンスターの死体を調味料に変えるというだけのもので……」

「え、凄くない!?」

 神スキルだよ! そう続ける俺に、クララちゃんは……

「そんなふうに言われたのは初めてです。一日の使用回数だってあるし、死んでるモンスターが前提なので、倒してもらう必要があって……」

 どこか自信なさげの口調。俺たちもなんだかんだその手の苦労はしてるので身に沁みている。

 運良く適合素材が見つかって、ヨッちゃんがレベルアップでもしなければ俺がこうしてダンジョンに潜ることもなかったわけで。

 ついでに言えばミィちゃんと再会することもなかった。

 そう思えばこれも巡り合わせな気がする。
 俺はたくさんの人から恵まれた。

 だからその恩返しを今度は俺たちが周囲にしていく番だ。

「君さえ良ければ俺たちと契約しないか?」

「契約、ですか?」

「そう、君のスキル使用回数を買い取る契約だ。一回の使用につき、これだけ払う」

「え、こんなに!?」

 総合C–だというのに驚かれてしまった。
 確かに俺たちがFだった時、その額は目玉が飛び出ていたかもしれない。

 一回¥5,000。
 それは調味料に出す額にしては相当だ。

 だが俺の特殊調理然り、彼女もまだ目覚めてない力があると思う。
 それを思えばこの先行投資は安い物だ。
 なんだったらこの世にない調味料さえ生み出せるかも知れないのだから。

「もちろん無理にとは言わないよ。俺たちは料理人で、特別な調味料ができると知って興味を持っただけだ。他の人と契約済みなら、潔く手を引くし」

「あの、もし粗末な調味料を引いても、契約を破棄しませんか?」

「俺は料理に対して嘘をつかない男だ。それに、これくらいのお金は毎日酒代に消える。君のスキルを10回分、買わせてくれないか?」

「それでお願いします。これだけあれば、妹となんとか暮らせそうです。ありがとうございます」

 何度も頭を下げて律儀な子だなぁ。
 側においてやることもできるが、彼女は学生で俺はおじさんだ。
 リスナーに何を噂されるかもわからないし、こういう線引きは必要だろう。
 それにスキルに値段を払うのは真っ当な考えだと思う。
 本当だったら俺も、ヨッちゃんに相当な額払わなければいけない気がしてきたぞ?

 それを言ったら俺に倍は出さないといけないと言われた。

 お互いにそう思ってるうちは大丈夫か、と話を締めた。
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