ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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21話 ウホッ やらないか

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 一度Cランクダンジョンを受けた後、やはりホームに戻ってくるとホッとした。

 結局ステータスが上がろうと、場慣れしない場所での調理は緊張したのだ。

 けど、この間の配信のせいか、飲み会のメンバーは豪華になりつつある。

「たいちょー、何でここに居るんすか?」

「道案内だよ。用が済んだら帰るからそう嫌そうな顔をするな」

 井伊世さんが連れてきた相手は、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラの最後の一人。
 屋良内火さんだった。

 何故かゴリラの着ぐるみを着ていて、ウホウホ言いながら周囲に威圧を放っている。

「ウホ」

「ああ、どうも。今日はやっぱり魔法回数回復の件ですか?」

「ウホホッ」

 ゴリラ特有のドラミングをし、口角泡を飛ばす。
 やだ、この人怖い。身内相手にもゴリラロールを徹底する変人だ。

「悪いな、ポンちゃん。オレのせいで」

「まぁいつかはバレることだしな。それよりも俺は入手した食材を始末しちまいたい」

「サイクロップスの肉だったか?」

 そう。強大すぎて討伐部位以外は必要ないと井伊世さんからマジックポーチをお借りしてるのだ。

 ミィちゃんから借りたミンチ肉まみれのとは違い、こっちには処理されてないブロック肉が山と積まれている。

 あの時は興奮していたから、捌くことに夢中だった。食うことを考えれば血抜き一択だったのに、本当に身に余る力を持つと危うい。
 そういう意味でも俺には過ぎた力だ。次振るう時は血抜きとセットで!
 そう心に決めている。

「唐揚げ、にするには油分が多いのがな」

「角煮は美味かったぜ?」

「もっと野菜も取りたいと思ってさ。というわけで中華にしてみる」

「余計に出る油で炒めるのか、いいじゃん!」

「ウホホッ」

「あ、屋良さん先に魔法使ってくるんすか? いってらっしゃい」

 ヨッちゃん、屋良さんが何言ってるかわかるのか?
 ゴリラ語にまで精通してるとは、やるな!

「ヨッちゃんは行かなくていいのか?」

「オレが言っても手を出す暇ねーよ。あの人はマジで詠唱しないからな。いや、常にウホウホ言ってるのが詠唱で、詠唱短縮のプロなんだ」

「あのロールプレイも理由があってのことだったんだな」

「当たり前だろ。ちなみに中の人は女性だぜ? 魔力操作であの着ぐるみを操ってるんだ」

「へぇ、なんていうか……Sランク探索者になる人って変わり者が多いんだな」

「いや、そんな事ないぞ? あの三人が特別に際物なだけだ」

 ウッホーーッ!
 遠くでゴリラの咆哮。
 続いてダンジョンの崩落でも起きたんじゃないかってくらい、地面が揺れた。

 以前AAランクモンスターが暴れた時を思い出す。
 その時、井伊世さんも言ってたっけな。

 屋良さんが居るといないでは攻略に差が出ると。
 だからってただ魔法を撃っただけでは聞こえて来る筈のない音が聞こえてくるのはヨッちゃんと比べるまでもないって事なのか?

「屋良さん、はしゃいでるな。ポンちゃん、失敗は許されねぇぜ?」

「せめて好きなものが何かだけ教えて欲しいよ」

「あの人何でも食うからなぁ。好き嫌いはないと言ってもいいが、何食っても無言だから」

 それ本当に食ってるのか? 少し心配だ。

「ウホ」

 少しして、屋良さんが戻ってくる。
 その肩に見たことのないモンスターを背負って。

「コボルドキング……このダンジョンのボスじゃないですか!」

 ボスまでソロで倒せてしまうのか。
 俺たちはまだ倒した事はない。そこは一つの到達点ではあるが、今はひとつづつ積み上げていきたいと思っているからだ。

 付け焼き刃の能力でミィちゃんの隣にたっても、それは俺の実力じゃないからな。

「あれ? でもボスって倒すと消えるんじゃ?」

「ウホホッ」

「この子、気絶だけさせて持ってきたわね。そしてあの崩落音。封鎖された出口を破壊して出てきたのか」

 あの、それって単独でダンジョン破壊してきたって言ってませんか?

「ウホ」

「これを、俺に調理して欲しいんですか?」

「ウホ」

 コボルドキングの死体を差し出して、頷く。
 身振り手振りのジェスチャーだけでも案外言いたい事は伝わるもんだな。

「わかりました。この肉、大切に使わせていただきます」

 まずは活け〆だ。
 赤い点を貫いて、血をスライムに吸ってもらうところで屋良さんから待ったがかかる。

「ウホホッ」

「血は抜かない方が良いんですか?」

「ウホ!」

「コボルドの血に臭みはないんですか?」

「普通はゴブリン同様、口にしないからね」

「まぁそうですよね」

 可食部位は少なそうだ。筋肉質で、筋も多い。

 やはりここは肝焼きか。でも腹肉は意外と身がしっかりしてるな。
 腕肉は骨付きで炙って、フルコースとするか。

 献立を考えてるうちに、サイクロップスのブロック肉が蒸しあがった。
 この溢れた油で野菜を炒める。回鍋肉の完成だ。
 まずは一品。

「ウホウホ」

「これはサイクロップスのお肉です。メインはまだですよ」

「ウホー」

 悲しげな鳴き声。
 空腹を誘う香りなら良かった。

「ヨッちゃん、つまみ食いはほどほどにスープの準備!」

 つついた箸で全部食べそうなヨッちゃんに釘を刺しつつ仕事を与える。

「ベースは?」

「中華ならスープも中華に合わせるべきだ」

「鳥はないから、バジリスクの骨髄煮出すか?」

「それで行こう」

 灼熱の炎が鍋の中の湯を沸騰させる。
 野菜を詰め込んだ湯に、バジリスクの骨を沈めた。
 蓋を締めて一煮立ち。

 野菜が焦げないように引き上げ、旨味の煮出したスープをさらに煮立たせる。
 ヨッちゃんに湯を足してもらいながら空焚きしないように注意してもらいつつ……出汁を取る。

「味見頼む」

「あっちー! でも最高!」

 氷魔法で冷やすなり何なりすれば良いのに、出来立てを求めるヨッちゃんらしい反応で返してくれる。

「ポンちゃん、バジリスクの卵使おうぜ! こいつで溶き卵だ!」

「贅沢なスープになりそうだな!」

「オレたちらしくて逆に良いじゃん」

 別に店で出すわけじゃないから良いだろ?
 採算をとるわけじゃないし。そう言われたらその通り。

 その時の食材で、美味いものを酒をお供に飲み食いする。
 それが俺たちのセカンドライフ!

「良い匂いだな。モンスターが寄ってきたぜ!」

 今まで黙っていたカメラマンの卯保津さんが居ても立っても居られないようにその場を立った。少し暴れてくるらしい。
 空腹は最高のスパイスだというもんな。

「コボルドキングは炙りにしたい! ヨッちゃん火を頼む」

「あいよー」

 俺の求める火力を、ヨッちゃんは即座に出してくれる。
 目の前で肉の焼ける良い匂いを一番に嗅げる。
 しかし血抜きしてないせいか、煙が咽せるようだ。

 すぐに今までのように顔で浴びないで、風魔法を駆使して天井に叩きつけるように流した。人口換気扇だ。
 頼んでないのにすこぶる頼りになる。

 骨付き肉は、しっかりと火入れをする。

 肝のような柔らかな食材は炭火で炙るが、こういうのは生だと逆にくっつきすぎて食いづらい。
 しっかり火入れして肉を骨から離すのがポイントだ。
 塩胡椒で下味をつけたが、果たして気に入ってくれるだろうか?

 そして腹肉は贅沢にステーキにした。
 血が滴り落ちるステーキだ。屋良さんは生肉でも大丈夫らしいので、こちらはレアで焼き上げた。

 コボルドキングのフルコースは、屋良さんに。
 俺たちはサイクロップスの回鍋肉と中華スープを頂いた。

「ウホ! オイシイ! ウホホッ! ビミ!」

「そんな……ウチビが初めて人間の言葉を……!」

「こんな奇跡があるのか! 長生きするもんだな!」

 待って! もしかしてチームを組んだ時からずっとウホウホ言ってたの?
 よくチーム組めたね! それで参謀を務められるほど脳筋チームだってこと?

 そんな俺の内心のツッコミをかき消すほどに、ヨッちゃんの回鍋肉の絶賛が響いた。

「うめぇ! 酒が進むな! ビール、いや紹興酒だ! 紹興酒を持ってこーい!」

「ビールかワインしかないぞ。ビールで我慢しろ」

「じゃあビールで我慢するー」

 まさか酒まで中華に合わせようだなんて想定してない。
 でも、ヨッちゃんが絶賛する程だ。
 どんな味なのか気になるな。

 調味料として後で物色しとくか。
 こう考えると、俺はまだ世界の料理に精通してないのだなと、思い知らされた。
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