ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

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17話 炎上目的(side円城ハイジ)

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 ダンチューバーにはいろんな人種が居る。

 真っ当にダンジョンを取材する者、ダンジョンの変わったモンスターを調査を目的とする者。素材の相場価値を調べる者も居る。

 しかし世の中の不満を直接口にできない者も居る。

 生まれつきステータスが低いと言うだけで迫害を受ける者も居る。

 だから代弁者を求めた。

 そこで一人の男が立ち上がる。

 円城ハイジ。
 炎上配信者として高ステータスのスキャンダルをすっぱ抜いては明るみにする炎上系配信者。

 マナーの悪さこそ目立つが、必要悪としてそれなりに擁護されていた。
 そんな円城の次のターゲットは……

「このネタ、良いね」

 匿名の質問箱には今日も円城に突撃してほしい相手が現れる。
 今最も世界に影響を与える存在、轟美玲。

 日本人でその名を知らぬ者は居ない。
 その存在に不躾にも近づいた男が居る。

 底ステータスであるにもかかわらず、気安い態度で接していた。
 この書き込みをしたのは熱狂的美玲ファン。

 本当ならば底ステ凸等見向きもしないのだが、対象が大物だ。

「それにゲテモノ喰い、ねぇ。そこを煽れば良い感じに視聴率取れるかな? よし、調査開始」


 最初こそ、簡単な依頼だと思った。軽く小突いて、ちょっと沸かせてほどよく燃やす。いつも通りの配信になるつもりだった。しかし……

「え? 今日はCランクダンジョンに遠征に行った?」

「はい」

 どういうことだ? ホームのダンジョンセンターで適合食材を調理してもらいたいとオファーを出せば、不在であると門前払いされた。
 Fランクじゃなかったのか?

 流石にCランクダンジョンとなると、俺一人じゃ危うい。
 総合ステこそBある俺だが、戦闘経験は浅い。

 世界にゃそういう奴がウヨウヨ居る。
 俺だけが特別に弱いってわけじゃない。
 生まれた時のステータスでカーストが出来ちまってる世界。
 無理に戦う必要はないのだ。

「Fって聞いてたから安く済むと思ってたんだけどな。仕方ねぇ、自腹切るか」

 ダンジョンセンターにて、護衛を求める。
 Cランクダンジョンなら同等のCか、すこし値が張るが同等のBを頼む必要がある。別に倒すのが目的じゃないので、目的の人物が見つかるまでとした。

「総合ステBの『オラクルピラー』の榊だ。哨戒役は任せろ」

「同じくオラクルピラーの狩野だ。俺はマジックキャスターをしている」

「配信者の円城だ。今日はちょいと噂の料理人に、適合食材を調理してもらいに来たんだけどさ、どうもいつものホームからこっちに遠征しに来てるって聞いて」

「おい、円城って炎上配信者の円城か?」

「あ、俺のこと知ってた?」

 オラクルピラーの二人は、俺の目的に気がついて嫌な顔をした。

「総合ステCの佐々井裕司です。タンクやってます。今日はよろしくお願いします」

「おう、モンスターと接敵したら頼むぜ?」

「はい!」

 オラクルピラーとは違い、こっちは俺のことなんてよく知らずに仕事を全うしてくれそうな気配。

 依頼人にはこういう態度でなきゃよ。

「で、目的はあくまでも人探しで良いんだな?」

「そうめくじら立てるなよ。俺だってレベル上限を上げる目的があってたまには真っ当な事くらいするさ」

「うさんくせぇ」

 とりつく島もないとはこの事か。

 総合ステが同じくらいだから遠慮のかけらもない。
 だから同ステは嫌なんだ。

 だがダンジョン内は身近に死の危険がある。
 少しの我慢だ。

 俺は外向きの笑顔を貼り付けてダンジョン内をオラクルピラーの案内に従った。

「こっちだ。足元滑るから気をつけろよ」

「助かる」

「ここからはあかりを消す。光に寄ってくるモンスターが居るからな」

 先行してた榊が俺たちの方を向きながら注意した。
 本当か?
 だがここは大人しく従っていよう。

「ゾンビドッグだ。数が多いな。佐々井君、数匹ヘイトを取ってくれるか? 狩野は魔法で一匹ずつ仕留めてくれ」

「了解です! タウント!」

「あいよ! ファイアボルト!」

 流石上級探索者。モンスターの生態系など知り尽くしてるかのように見事な手際だ。

 あっという間にモンスターは蹴散らされ、死体から魔核を取っていた。金になるらしい。

「肉はもってかないのか?」

「いや、こいつ腐ってるぞ? 流石に食おうってバカは……」

「いや、あの二人なら食いそうだな……」

「一応持ってくか。あの二人が逆に何なら無理っていうのか見てみたい」

 オラクルピラーが俺の目的に否定的なのは、どうも俺の標的のファンであるかららしい。総合Bにまでファンが居るとは厄介な奴だぜ。

 だが逆に燃えた時が楽しみだな。

「じゃあ僕荷物持ちますね」

「大丈夫か?」

「これも修行の一環ですから!」

 向上心のあるやつはすごいねー。俺だったら頼まれても絶対無理。

 どれだけダンジョンを歩いたか。
 目標の二人組は全く見つからなかった。

「配信そのものはしてるが、ここはどこだ?」

「こんな場所知らないぞ。隠し部屋か?」

 どうやら引き受けてくれたのは良いものの、このダンジョンの地理に詳しい案内人はまるで役に立たないのが分かった。

「おいおいベテランじゃ無かったのかよ」

「ダンジョンだってレベルがある。急に成長して階層が変わる事だって……」

「待て、階層変更のアナウンスなんて聞いてないぞ?」

「なら予兆があるはずだ」

「予兆ってなんだよ?」

 嫌な予感がする。

「どこか遠くから足音が近づいてくる。遠いが、どうもここに向かってるようだ」

「おいおい、俺をビビらせようったってそうは……」

 ズシャ、ズシャ、ズシャ。

 それはまるで俺の知りうる生物よりも巨大で、踏みしめた地面が陥没するくらいの重さで……

「なんだ? 急に音が……」

 ヒュゥウウオオオオオ!!!

 それは風を切るような音だった。

「上だ!」

「散開しろ! デカいぞ!」

「佐々井君、無理に受けようとするな!」

「すいません!」

 おいおいおいおい!
 なんだよそれは、こんなのが出るなんて聞いてないぞ!?

 簡単なミッションじゃ無かったのかよ。

「おい! こいつは倒せる相手なのか!?」

「撤退一択だ。殿は足の速い俺が務める。佐々井君は依頼者を連れて安全圏へ! 狩野は退路を確保して後方へ! ダンジョンイレギュラーだ!」

 なんだよそれは!
 なんで俺が居る時にそんなことが起きやがる。

「バジリスクか……厄介なやつを引いたな。奴の目を見るな、石にされるぞ!」

「円城さん、榊さんの意思を無駄にしないでください!」

 その場でへたっていた俺に、佐々井君の叱責が浴びせられた。
 ヨタヨタながらも立ち上がり、みっともなく逃げおおせた。
 これだからダンジョンは嫌いなんだ。

 早く安全圏に逃げ出して、もっと安全な奴を狙って……ふひひ。
 俺はまだ輝ける。だから大丈夫だ。

 そう思って逃げた先で……

「クソが! こっちにも出やがった!」

 退路を塞ぐようにして、バジリスクがもう一体現れた。
 あ、死んだ。

 俺だけじゃない、他の三人も諦めの表情を浮かべていた。
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