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1話 低ステータスの処遇
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俺、本宝治洋一は一人公園のベンチで途方に暮れていた。
それというのも住み込みで働いていた職場からあり得ない理由で追い出されてしまったというものである。
15年もの間、面倒を見てくれたこの業界でその名を知らぬものはいないレストラン『モーゼ』
世話してくれた親方はステータスが低いからと捨てられた俺を、見放すことなく世話してくれたできる人。
けど新しく現れた新オーナーと名乗る人物は俺を受け入れてはくれなかった。
「今からこの店は俺、葛野洪海が取り仕切る。俺に楯突けばどうなるかわかるだろう?」
そういって現れたのがオーナーの息子、葛野洪海。
俺は詳しく知らなかったが、スタッフ曰くオーナーのご子息らしい。
らしいと言うのも、店には今まで一切顔を出さずにいたし、なんなら悪い噂も絶えない人物。
本当に身内なのかと疑う声も多いのだ。
そんな悪い噂の渦中にいる人物で、さらには俺にとっては都合の悪いステータス至上主義者。
前オーナーと正反対の人物が、俺の進退を決めようとしていた。
見つかったら、それこそ追い出される。
「洋一、隠れろ」
「俺はここの一員です。俺も挨拶しないと」
「それでも今は隠れていてくれ」
スタッフの一人に、今は表に出るなと言われた理由はすぐに判明した。
「保守的な親父と違ってこれからは海外にもバンバン目を向ける。俺についてこれない奴は……ん? こんなところにネズミが紛れ込んでるぞ? どこから紛れ込んできやがった!」
すごい形相で俺の前までズカズカ歩いてくるなり胸ぐらを掴まれ、すごい力で持ち上げられた。
そうか、この人は……ステータス看破持ち!
目視できる範囲内のステータスを即座に見抜き、因縁をつけるのが大の得意。だから後ろに隠れろと言ってくれていたのに、ほんの少しのプライドが俺の退路を完全に無くしていた。
「どこから紛れ込んだ! 言え! お前みたいな雑魚が、なんでうちの敷居を跨いでやがる!」
「俺はこのレストランの一員だ! 今までも、これからだってこの店の下拵えは俺がやるんだ!」
その反論が気に食わなかったのか、男は俺をゴミクズのように投げ捨てた。背中を強打し、その場で蹲る。
「本当か、お前ら? だとしたらガッカリだぜ。こんな雑魚を雇って親父はついに耄碌でもしたか? 今の時代、少しでもステータスが低いだけで弱みとなる。こんなやつが働いてるって露呈しただけでうちの店はクレーム塗れだ!」
今の世の中、元探索者の総理大臣が高ステータス者を優遇する。
世論はさまざまあるが、これからダンジョンが活性化していくであろう世界で生き抜くには弱者は不要、そう考えるのもわかるが。
だからと言って切り捨てられる側に立たされた俺は納得できたわけではない。無能だから、ステータスが低いから。たったそれだけで俺が費やしてきた全てを奪う権利なんてありはしないのだと訴えるも……俺の訴えは相手に届かず、そのまま厨房の壁に叩きつけられた。
ゴミクズのようにボロボロになり、床に転がされる。
これがステータス格差社会の日常。
今まではそれを見過ごされてきたに過ぎない。
優しくしてくれた前オーナーやスタッフは新たな暴君の前になすすべもなく蹂躙された。
「全くこんな雑魚を雇っていたなんて信じられん。これからは俺の気に食わん奴は即刻クビを言い渡すからな。目障りだ、そこのゴミを裏に捨てとけ」
〝お前は大事なうちの一員だ〟
そう言って庇ってくれる前オーナーの姿は見えず、スタッフたちも戦々恐々。
「すまない、洋一。俺たちが不甲斐ないばかりに」
「仕方ありませんよ、本来ならこう扱われても仕方ない存在なんです、俺は」
「そんなこと言うなよ。お前がいてくれたからこその店だったよ。ステータスがなんだ! お前の凄さはそんな物差しで測れるようなもんじゃねぇだろ?」
ちょっと直談判してくる。そう言って飛び出した顔見知りのスタッフが俺と同じ状態で運ばれてくるのは時間の問題だった。
彼には帰る場所があり、養う家族もいる。
総合ステータスだって俺より高いのに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないな。
「ごめんなさい、やっぱり俺はここを離れた方が良さそうです」
「俺たちにもっと力があったら、あんな奴、追い返してやれるんだが」
「それを言ったら、俺のステータスが低いばかりにご迷惑をおかけしたことを謝りたいくらいですよ」
「いくあてはあるのか?」
「ありません。けど……」
包丁を取り出す。これは俺のスキルが唯一具現化させたものだ。
俺の体の一部であり、これでさまざまな素材を捌き、切り込んだ俺自身と言ってもいい。
「こいつがありますから。しばらくはそこら辺のもので上を凌いでいきますよ」
「食うものに困ったらうちのゴミ置き場にこいよ、食えそうなもの用意しておくから」
「ありがとうございます」
それだけ伝えて、俺は店を後にする。
数日はそれで生き延びれるだろうが、いつまでも甘えてられないな。
手に職をつけないと。
でも今は何でもかんでもステータスがものを言う。
どこも低ステータス者は門前払いされる。
再就職先は、30を超えた身の上では絶望的もいいところだった。
──────────────────────
名称:本宝治洋一
年齢:30
職業:無職
──────────────────────
レベル1/1
筋力:F★
耐久:F★
魔力:E★
精神:F★
器用:E★
敏捷:F★
幸運:F★
総合ステータス:E-
──────────────────────
<固有スキル:特殊調理>
包丁捌き+
目利き+
──────────────────────
新しいスキルでも生えてくれたらとステータスを覗くが、そこには皆レタス英数字の羅列があるばかり。
レベル上限1/1。
これが俺の今の環境を表すにふさわしい。
この世界においてのステータスはレベルの上昇によって行われる。
しかしここで成長限界を迎えている俺は、何をどうやってもこれ以上レベルが上がらないのだ。
けれどここ十数年の研究でモンスターを食肉として口に入れた時、適合者には上限レベルを底上げする効果があることが発表された。
それによりモンスター肉を専門に料理する店が急増。
世話になってたモーゼもまた、モンスター肉専門店。
その中でもトップクラスのレストランとして名を馳せていた。
しかし、賄いで出された食事では俺のレベル上限は上がらず、15年の月日が経過する。
この時点でだいぶお先真っ暗だが、オーナーやスタッフが根気よく面倒を見てくれたこともあって俺は今日まで生きて来れた。
店の表には一切顔を出さず、裏方として生きてきた俺。
当然、任せてもらう仕事内容も下処理ばかりだが、俺のスキルは自分の理想の形の包丁をその場に具現化すると言うもの。
手先の器用さを生かして緻密な隠し包丁や筋きり、骨切りには自信がある。
けど、今後は自分で食材を集めなきゃならない。
そのための信用も何もかも、今の俺は持ち合わせていないのが唯一のネックだった。
それというのも住み込みで働いていた職場からあり得ない理由で追い出されてしまったというものである。
15年もの間、面倒を見てくれたこの業界でその名を知らぬものはいないレストラン『モーゼ』
世話してくれた親方はステータスが低いからと捨てられた俺を、見放すことなく世話してくれたできる人。
けど新しく現れた新オーナーと名乗る人物は俺を受け入れてはくれなかった。
「今からこの店は俺、葛野洪海が取り仕切る。俺に楯突けばどうなるかわかるだろう?」
そういって現れたのがオーナーの息子、葛野洪海。
俺は詳しく知らなかったが、スタッフ曰くオーナーのご子息らしい。
らしいと言うのも、店には今まで一切顔を出さずにいたし、なんなら悪い噂も絶えない人物。
本当に身内なのかと疑う声も多いのだ。
そんな悪い噂の渦中にいる人物で、さらには俺にとっては都合の悪いステータス至上主義者。
前オーナーと正反対の人物が、俺の進退を決めようとしていた。
見つかったら、それこそ追い出される。
「洋一、隠れろ」
「俺はここの一員です。俺も挨拶しないと」
「それでも今は隠れていてくれ」
スタッフの一人に、今は表に出るなと言われた理由はすぐに判明した。
「保守的な親父と違ってこれからは海外にもバンバン目を向ける。俺についてこれない奴は……ん? こんなところにネズミが紛れ込んでるぞ? どこから紛れ込んできやがった!」
すごい形相で俺の前までズカズカ歩いてくるなり胸ぐらを掴まれ、すごい力で持ち上げられた。
そうか、この人は……ステータス看破持ち!
目視できる範囲内のステータスを即座に見抜き、因縁をつけるのが大の得意。だから後ろに隠れろと言ってくれていたのに、ほんの少しのプライドが俺の退路を完全に無くしていた。
「どこから紛れ込んだ! 言え! お前みたいな雑魚が、なんでうちの敷居を跨いでやがる!」
「俺はこのレストランの一員だ! 今までも、これからだってこの店の下拵えは俺がやるんだ!」
その反論が気に食わなかったのか、男は俺をゴミクズのように投げ捨てた。背中を強打し、その場で蹲る。
「本当か、お前ら? だとしたらガッカリだぜ。こんな雑魚を雇って親父はついに耄碌でもしたか? 今の時代、少しでもステータスが低いだけで弱みとなる。こんなやつが働いてるって露呈しただけでうちの店はクレーム塗れだ!」
今の世の中、元探索者の総理大臣が高ステータス者を優遇する。
世論はさまざまあるが、これからダンジョンが活性化していくであろう世界で生き抜くには弱者は不要、そう考えるのもわかるが。
だからと言って切り捨てられる側に立たされた俺は納得できたわけではない。無能だから、ステータスが低いから。たったそれだけで俺が費やしてきた全てを奪う権利なんてありはしないのだと訴えるも……俺の訴えは相手に届かず、そのまま厨房の壁に叩きつけられた。
ゴミクズのようにボロボロになり、床に転がされる。
これがステータス格差社会の日常。
今まではそれを見過ごされてきたに過ぎない。
優しくしてくれた前オーナーやスタッフは新たな暴君の前になすすべもなく蹂躙された。
「全くこんな雑魚を雇っていたなんて信じられん。これからは俺の気に食わん奴は即刻クビを言い渡すからな。目障りだ、そこのゴミを裏に捨てとけ」
〝お前は大事なうちの一員だ〟
そう言って庇ってくれる前オーナーの姿は見えず、スタッフたちも戦々恐々。
「すまない、洋一。俺たちが不甲斐ないばかりに」
「仕方ありませんよ、本来ならこう扱われても仕方ない存在なんです、俺は」
「そんなこと言うなよ。お前がいてくれたからこその店だったよ。ステータスがなんだ! お前の凄さはそんな物差しで測れるようなもんじゃねぇだろ?」
ちょっと直談判してくる。そう言って飛び出した顔見知りのスタッフが俺と同じ状態で運ばれてくるのは時間の問題だった。
彼には帰る場所があり、養う家族もいる。
総合ステータスだって俺より高いのに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないな。
「ごめんなさい、やっぱり俺はここを離れた方が良さそうです」
「俺たちにもっと力があったら、あんな奴、追い返してやれるんだが」
「それを言ったら、俺のステータスが低いばかりにご迷惑をおかけしたことを謝りたいくらいですよ」
「いくあてはあるのか?」
「ありません。けど……」
包丁を取り出す。これは俺のスキルが唯一具現化させたものだ。
俺の体の一部であり、これでさまざまな素材を捌き、切り込んだ俺自身と言ってもいい。
「こいつがありますから。しばらくはそこら辺のもので上を凌いでいきますよ」
「食うものに困ったらうちのゴミ置き場にこいよ、食えそうなもの用意しておくから」
「ありがとうございます」
それだけ伝えて、俺は店を後にする。
数日はそれで生き延びれるだろうが、いつまでも甘えてられないな。
手に職をつけないと。
でも今は何でもかんでもステータスがものを言う。
どこも低ステータス者は門前払いされる。
再就職先は、30を超えた身の上では絶望的もいいところだった。
──────────────────────
名称:本宝治洋一
年齢:30
職業:無職
──────────────────────
レベル1/1
筋力:F★
耐久:F★
魔力:E★
精神:F★
器用:E★
敏捷:F★
幸運:F★
総合ステータス:E-
──────────────────────
<固有スキル:特殊調理>
包丁捌き+
目利き+
──────────────────────
新しいスキルでも生えてくれたらとステータスを覗くが、そこには皆レタス英数字の羅列があるばかり。
レベル上限1/1。
これが俺の今の環境を表すにふさわしい。
この世界においてのステータスはレベルの上昇によって行われる。
しかしここで成長限界を迎えている俺は、何をどうやってもこれ以上レベルが上がらないのだ。
けれどここ十数年の研究でモンスターを食肉として口に入れた時、適合者には上限レベルを底上げする効果があることが発表された。
それによりモンスター肉を専門に料理する店が急増。
世話になってたモーゼもまた、モンスター肉専門店。
その中でもトップクラスのレストランとして名を馳せていた。
しかし、賄いで出された食事では俺のレベル上限は上がらず、15年の月日が経過する。
この時点でだいぶお先真っ暗だが、オーナーやスタッフが根気よく面倒を見てくれたこともあって俺は今日まで生きて来れた。
店の表には一切顔を出さず、裏方として生きてきた俺。
当然、任せてもらう仕事内容も下処理ばかりだが、俺のスキルは自分の理想の形の包丁をその場に具現化すると言うもの。
手先の器用さを生かして緻密な隠し包丁や筋きり、骨切りには自信がある。
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