ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
1 / 173

1話 低ステータスの処遇

しおりを挟む
 俺、本宝治洋一は一人公園のベンチで途方に暮れていた。

 それというのも住み込みで働いていた職場からあり得ない理由で追い出されてしまったというものである。

 15年もの間、面倒を見てくれたこの業界でその名を知らぬものはいないレストラン『モーゼ』
 世話してくれた親方はステータスが低いからと捨てられた俺を、見放すことなく世話してくれたできる人。

 けど新しく現れた新オーナーと名乗る人物は俺を受け入れてはくれなかった。

「今からこの店は俺、葛野洪海が取り仕切る。俺に楯突けばどうなるかわかるだろう?」

 そういって現れたのがオーナーの息子、葛野洪海くずのほんかい
 俺は詳しく知らなかったが、スタッフ曰くオーナーのご子息らしい。
 らしいと言うのも、店には今まで一切顔を出さずにいたし、なんなら悪い噂も絶えない人物。

 本当に身内なのかと疑う声も多いのだ。

 そんな悪い噂の渦中にいる人物で、さらには俺にとっては都合の悪いステータス至上主義者。
 前オーナーと正反対の人物が、俺の進退を決めようとしていた。
 見つかったら、それこそ追い出される。
 
「洋一、隠れろ」

「俺はここの一員です。俺も挨拶しないと」

「それでも今は隠れていてくれ」

 スタッフの一人に、今は表に出るなと言われた理由はすぐに判明した。

「保守的な親父と違ってこれからは海外にもバンバン目を向ける。俺についてこれない奴は……ん? こんなところにネズミが紛れ込んでるぞ? どこから紛れ込んできやがった!」

 すごい形相で俺の前までズカズカ歩いてくるなり胸ぐらを掴まれ、すごい力で持ち上げられた。

 そうか、この人は……ステータス看破持ち!

 目視できる範囲内のステータスを即座に見抜き、因縁をつけるのが大の得意。だから後ろに隠れろと言ってくれていたのに、ほんの少しのプライドが俺の退路を完全に無くしていた。

「どこから紛れ込んだ! 言え! お前みたいな雑魚が、なんでうちの敷居を跨いでやがる!」

「俺はこのレストランの一員だ! 今までも、これからだってこの店の下拵えは俺がやるんだ!」

 その反論が気に食わなかったのか、男は俺をゴミクズのように投げ捨てた。背中を強打し、その場で蹲る。

「本当か、お前ら? だとしたらガッカリだぜ。こんな雑魚を雇って親父はついに耄碌でもしたか? 今の時代、少しでもステータスが低いだけで弱みとなる。こんなやつが働いてるって露呈しただけでうちの店はクレーム塗れだ!」

 今の世の中、元探索者の総理大臣が高ステータス者を優遇する。
 世論はさまざまあるが、これからダンジョンが活性化していくであろう世界で生き抜くには弱者は不要、そう考えるのもわかるが。

 だからと言って切り捨てられる側に立たされた俺は納得できたわけではない。無能だから、ステータスが低いから。たったそれだけで俺が費やしてきた全てを奪う権利なんてありはしないのだと訴えるも……俺の訴えは相手に届かず、そのまま厨房の壁に叩きつけられた。

 ゴミクズのようにボロボロになり、床に転がされる。
 これがステータス格差社会の日常。

 今まではそれを見過ごされてきたに過ぎない。
 優しくしてくれた前オーナーやスタッフは新たな暴君の前になすすべもなく蹂躙された。

「全くこんな雑魚を雇っていたなんて信じられん。これからは俺の気に食わん奴は即刻クビを言い渡すからな。目障りだ、そこのゴミを裏に捨てとけ」

〝お前は大事なうちの一員だ〟
 そう言って庇ってくれる前オーナーの姿は見えず、スタッフたちも戦々恐々。

「すまない、洋一。俺たちが不甲斐ないばかりに」

「仕方ありませんよ、本来ならこう扱われても仕方ない存在なんです、俺は」

「そんなこと言うなよ。お前がいてくれたからこその店だったよ。ステータスがなんだ! お前の凄さはそんな物差しで測れるようなもんじゃねぇだろ?」

 ちょっと直談判してくる。そう言って飛び出した顔見知りのスタッフが俺と同じ状態で運ばれてくるのは時間の問題だった。
 彼には帰る場所があり、養う家族もいる。

 総合ステータスだって俺より高いのに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないな。

「ごめんなさい、やっぱり俺はここを離れた方が良さそうです」

「俺たちにもっと力があったら、あんな奴、追い返してやれるんだが」

「それを言ったら、俺のステータスが低いばかりにご迷惑をおかけしたことを謝りたいくらいですよ」

「いくあてはあるのか?」

「ありません。けど……」

 包丁を取り出す。これは俺のスキルが唯一具現化させたものだ。
 俺の体の一部であり、これでさまざまな素材を捌き、切り込んだ俺自身と言ってもいい。

「こいつがありますから。しばらくはそこら辺のもので上を凌いでいきますよ」

「食うものに困ったらうちのゴミ置き場にこいよ、食えそうなもの用意しておくから」

「ありがとうございます」

 それだけ伝えて、俺は店を後にする。
 数日はそれで生き延びれるだろうが、いつまでも甘えてられないな。

 手に職をつけないと。
 でも今は何でもかんでもステータスがものを言う。

 どこも低ステータス者は門前払いされる。
 再就職先は、30を超えた身の上では絶望的もいいところだった。

 ──────────────────────
 名称:本宝治洋一ぽんほうちよういち
 年齢:30
 職業:無職
 ──────────────────────
 レベル1/1
 筋力:F★
 耐久:F★
 魔力:E★
 精神:F★
 器用:E★
 敏捷:F★
 幸運:F★
 総合ステータス:E-
 ──────────────────────
 <固有スキル:特殊調理>
 包丁捌き+
 目利き+
 ──────────────────────

 新しいスキルでも生えてくれたらとステータスを覗くが、そこには皆レタス英数字の羅列があるばかり。

 レベル上限1/1。
 これが俺の今の環境を表すにふさわしい。

 この世界においてのステータスはレベルの上昇によって行われる。
 しかしここで成長限界を迎えている俺は、何をどうやってもこれ以上レベルが上がらないのだ。

 けれどここ十数年の研究でモンスターを食肉として口に入れた時、適合者には上限レベルを底上げする効果があることが発表された。

 それによりモンスター肉を専門に料理する店が急増。
 世話になってたモーゼもまた、モンスター肉専門店。
 その中でもトップクラスのレストランとして名を馳せていた。

 しかし、賄いで出された食事では俺のレベル上限は上がらず、15年の月日が経過する。
 この時点でだいぶお先真っ暗だが、オーナーやスタッフが根気よく面倒を見てくれたこともあって俺は今日まで生きて来れた。

 店の表には一切顔を出さず、裏方として生きてきた俺。
 当然、任せてもらう仕事内容も下処理ばかりだが、俺のスキルは自分の理想の形の包丁をその場に具現化すると言うもの。

 手先の器用さを生かして緻密な隠し包丁や筋きり、骨切りには自信がある。

 けど、今後は自分で食材を集めなきゃならない。
 そのための信用も何もかも、今の俺は持ち合わせていないのが唯一のネックだった。
しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...