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本編

役者は揃った

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「こんにちはー、お荷物お届けにあがりましたー」

 元気よく、扉を開く。
 とある酒場の裏口を開けると、そこには胃を結した商店街の人々が話し合いをしていた。
 おい、誰がこの場所を教えたと言葉が聞こえるが無視。
 そこに見知った顔があるので手を振った。

「セビオさん!」
「嬢ちゃんか! どうしてここに」
「それがかくかくしかじかでして……」
「要点を話せ、頼むから」

 セビオさんは串焼き屋さんの店主である。
 税制が敷かれるまではそれなりに暮らしていけたが、売り上げに比べて仕入れ額が50%を超える。
 殆ど自分の給料を取ってないサービス事業。
 そこから光熱費、肉の代金、串の代金、屋台の場所代。
 諸々の経費を引いたら手元に残るのは端金。
 
 しかし税金はセビオさんから仕入れ金すらむしり取った。
 これによって失業者が激増した。
 それでもこの街を出ていけないのは生まれ育った街だからだ。
 そのために決起しようと集まるも、武器を買う金すら無い。
 そこに届けた補給物資。
 出所は隣国リンツァー。
 セビオは背中を押された気がした。

「じゃあ嬢ちゃんが、俺たちの気持ちを汲んでこれを?」
「必要で無いのなら勝手に処分してもらっても良いですよ。私達はかつての城下町を取り戻したい、セビオさん達の気持ちを汲んでの行動です」
「金に変えても持ってかれる。ならば使うかどうかは俺たち次第って事か」
「セビオ、やるのか? 今、ここで!」
「俺たちに勝利の女神が微笑んでくれた。このチャンスを掴むかどうかは俺たち次第だ。やるぞ!」
「「「オオッ」」」

 酒場が男達の絶叫で震える。
 決起の日は近い。

「あなたが幸運の女神? 地獄へ誘う魔王の間違いじゃない?」
「そこ、余計なこと言わないの」

 酒場の裏口を出ると、リンツァー国からの遣いであるカーミラが声をかけてきた。

「あなたが直接手を下した方が良かったじゃないの」
「なんのことです? 私はか弱いコンシェルジュですよ?」
「召喚された勇者の間違いじゃないかしら?」
「なんのことやら……」
「それよりも、約束は守りなさいよ?」

 前を行く私の肩を引くカーミラ。
 その視線は蛇の様に絡みつく。

「誘致のお誘い? 随分と気が早いのね。まずはこの国の問題ごとを解決してからよ。それに誘致は一番貢献した国を優先すると言ったはずです。一番槍を貰っただけで靡くと思われるのは心外です」
「あら、そんなに強気で良いの? うちだったら特別に王家御用達で特別待遇できるのよ? 他国ではそこまで優遇してくれるかしら?」

 カーミラはどこまでも強気だ。
 まぁ物資一番乗るで出してるからね。
 気持ちはわからなくもない。
 でも誘致した後の行く末が透けて見えるからなー、正直行きたくないって気持ちの方が強い。
 だって、国が変わっても苦労するビジョンが見えるんだもん。
 はー世知辛いわー。
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