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一章『NAF運営編』
24話
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「え、最近注射器のレパートリーが増えてる?」
どうしてまたそんなおかしなことになっているのやら。
「多分明斗さんがとある職人に投資したのがきっかけだからじゃないですか?」
「え、僕が投資するとどうして注射器のレパートリーが増えることになるんだ?」
本日持ち込んでくれたおかずは舌鮃のムニエルだ。
こればかりは手作り……ではなく、例のクックシェフ産だと言う。
最初は素材をぶち込めばあとは勝手にやってくれる圧力釜の様なものと思っていたが、実は違うのか?
箸を落とせば皿までさっくりと入り、一口入れるだけで天国に導いてくれるほどの旨味が爆発した。
ご飯にも合うが、付け合わせの汁物は味噌汁よりもスープのほうが良かったかな?
舌鮃の油分が味噌汁で流しきれない気がする。
ご飯も進むので完食できたが、お皿の上は油分で艶々だ。
夕食を堪能したら、振ってくれた話題の続きをする。
「でも僕はたまたま投資をする機会があっただけで、誰でも彼でも投資はしないぞ?」
「別にそれでもいいんじゃないですか? 職人が何の武器を開拓するかはそこに需要があると見たからです。例のお茶漬け侍さんでしたっけ? 彼女もバリーさんの元で修行してそれなりに頑張っていると聞きますし、切磋琢磨し合うのはいいことだと思いますよ?」
「うーん、なまじ僕がらみだからか勝手にやっててくれとも言い難いな」
「明斗さんは気になるクチですか?」
「どんなものがあるか顔を出してみるくらいはするさ。所詮注射器は注射器だ。奇を衒わずにどんなものがあるかを見定めるのも需要を生み出した側の責任だ」
「それも性分、ですか?」
「よく分かってるじゃないか」
はなしを切り上げ、ご馳走様でしたと手を合わせる。
口の中をサッパリさせたいな。こんな時はアレに限る。
「千枝さん、まだお腹に入りそう?」
「あら、まだ何か出てくるんですか?」
「夕食のスイーツでも如何かな?」
取り出したのは杏仁豆腐。
よくある杏仁のシロップをゼリーで固めたものではなく、杏の種を砕いた本格派。
つるん、ぷるんと食感が楽しい一品だ。
アルバートさんの仕込みなので味に間違いはないのだが、ショーケースの中で異彩を放っていたのを今でも思い出す。
「和のものに洋物のオカズ。スイーツは中華ですか?」
「和洋折衷な僕らにはお似合いだろう?」
「確かに、どれも好きですから。あ、美味しい」
「うん、思った通り口の中の油分が抜けたね」
「あ、本当です。ほんのり甘味もあって美味しいですね。本日もご馳走様でした」
「いや、なんの。毎日どんなおかずを持ってきてくれるんだろうと楽しみにしているのさ」
「そう言って頂けて良かったです。今日はログインしますか?」
「勿論。君にアドバイスをもらった通り、たまには外の空気も吸おうと思ってね」
「では、このあと少しお買い物でもご一緒しませんか?」
「いいね。では準備しよう」
千枝さんを部屋に送ってからログインすれば、彼女は既にログインしていた。五分の遅刻ですよ、と笑っているが待ち合わせの時間は決めていない。
「買い物、と言っていたが。武器でも新調するのかい?」
「実は新マップで詰まっていまして」
「へえ、今どこまで進んでるんだっけ?」
PC時代のマップ到達率は60%だった。
正式オープンして5年かけてその進捗率である。
キノコの胞子はまだ序盤だったのだが、やめるには十分な要因すぎた。
「まだ40%ですね。PC時代と違って、天気も機動力に影響を与えてきまして」
「あぁ、汗で視界も悪くなるのか。それは厄介だ」
「熱射病もありますし、おトイレ問題は解決したんですが、目下汗を止めるスプレーの開発を急がせてます」
「除湿するにもエリア全体が湿ってれば焼け石に水か」
「御明察です、ただでさえ持ち込める荷物は限りがありますし、第二の街の開拓も同時に進めていますが……」
「モンスターがそれを邪魔してくると?」
「そこなんですよねぇ。ボスを滅しても、座る椅子が開くだけで生態系が様変わりするのが厄介なんですよ」
「候補は上がってるの?」
「ニャッキさんの要望で水場の近くが絶対だと」
まぁね。第一の街の充実ぶりを考えたらそれと同じ規模の施設を欲しがるか。
第二陣はともかく、第三陣は第一の街すら一から開拓してるとか知らないもんな。
本当に何にもない野原からスタートするから、NAF。
NPCだって街が発展してようやくどこかからやってくるんだもん。
「でもその辺りだと建築物に木材は厳しくない?」
「石工のハーバー道さんがやる気を見せてくれてますので、そこはなんとか」
久しぶりに聞くな、その名前。
クランに所属してたのに一切出会わなかった一人である。
ログインしてるのは情報閲覧記録で知ってるけど、未だにフレンド申請できずにいる。
ワンコさん曰く、神出鬼没は僕の方とか言ってるけど何を言ってるのかわからない。
僕は毎日ログインしてますが?
「あ、ここです。今日はここでお買い物予定です」
「あれ、ここのクランて?」
クラン『朝食は洋食派』
クラン名はアレだが、客層に合わせた質実剛健な武器を入手できると言われてる、最近頭角を表してきた鍛治師集団らしい。
「お茶漬け侍さんの所属クランですね、すごい偶然です」
どこまで仕込みだろうか?
胸の前で手を合わせて覗き込んでくる仕草は可愛らしいが、実際は計算ずくだと思うと少しだけショックだ。
いや、それが彼女の持ち味だと知っているのだけどね?
「あ、ムーンライトさん! アタシの武器使ってくれてるんですね!」
「やぁお茶漬け侍さん。噴霧の方を活用させてもらってるよ。それと弾丸スタイルは撤去してもらえないかな?」
「えっと、何か改善点がありましたか? 画期的だと思ったんですが」
「単純に僕の資質の問題だよ。君に落ち度はないさ。僕のノーコンにこの注射器が泣いている。そう思って、使わずにいるのは勿体無いと思っただけさ」
僕がお茶漬け侍さんとお話ししてると、うぐぐいすさんはクランマスターであるポーチドエッグさんと語らっている。
何やら背中に背負う系武器での使用感と、追加武装の追求をしているらしかった。
ワイヤーアクション系の装備の出典はここだったか。
ロマン武装は数あれど、移動に使ってよし、攻撃もできるし捕縛も可能と用途が多いロマン中のロマンがこのバックパック型のワイヤーアクション武装だ。
何やら高所で足を滑らせた時のパラシュートまで積んでるらしく、さらに小型化を追求してる話を聞いて、突き詰めてるなぁと感じた。
「ああ、マスター同士のお話気になりますか?」
「失礼。今は僕の武器を見てもらってたのに、よそ見してしまって悪いね」
「武器の開拓はアタシらの命題ですからね。どの武器を上手に作れるといっても需要に合わなければ宝の持ち腐れですから、これだ! って思ったら必死にもなりますって」
「なるほどねぇ。ところで最近注射器のレパートリーが増えてきたと聞くが、出所はここかい?」
「アタシは知らないですけど」
あれ? お茶漬け侍さんは困惑して僕を眺めている。
じゃあ何処から?
「あ、センパイ! 見てください! 新作の注射器ですよ」
やっぱりあるんじゃないか。
うぐぐいすさんの誘いに乗って、その場に行けば。
そこには注射器とは烏滸がましいゲテモノ武器が並べられていた。
どう見ても大剣の先端にシリンダーが嵌め込まれたタイプや、レイピアの先端から注入できるタイプのものがあった。
どうして……こんな事に。
もう注射器どころか武器のおまけ要素である。
「これ、何?」
「新作の武器ですけど?」
「最近見つかったモンスターの体表が硬いらしくてな。ムーンライトさん、あんたの発明品の毒で皮膚を弱体化できることが判明した。しかし毒を打ち込むも、注射器が最適とされてるが戦闘中に打ち込む暇もなければ、扱いに長けたものもいない。それでこれだ」
「得意武器に注射器の機能をつけたのか?」
「ご名答! いやか、さすが天地創造さんのマスターお墨付きなだけはある。話が早くて助かるよ。本来この手の武器はうちじゃ扱わなかったんだが、うちの下っ端があんたに世話になったと聞いた。その時に習った注射器のノウハウはうちらに新しい武器の可能性を広げてくれたのさ。あんたの慧眼は見事プレイヤーの要望に応えたってわけだ」
ポーチドエッグさんはベタ褒めしてくれるが、正直何が何やらわからなかった。
まるで悪夢を見ている気分だ。
でも、こんな武器が世に放たれる事に対して、原因を作ったのが僕だと知ってちょっとだけ悪いことをした気分になった。
どうしてまたそんなおかしなことになっているのやら。
「多分明斗さんがとある職人に投資したのがきっかけだからじゃないですか?」
「え、僕が投資するとどうして注射器のレパートリーが増えることになるんだ?」
本日持ち込んでくれたおかずは舌鮃のムニエルだ。
こればかりは手作り……ではなく、例のクックシェフ産だと言う。
最初は素材をぶち込めばあとは勝手にやってくれる圧力釜の様なものと思っていたが、実は違うのか?
箸を落とせば皿までさっくりと入り、一口入れるだけで天国に導いてくれるほどの旨味が爆発した。
ご飯にも合うが、付け合わせの汁物は味噌汁よりもスープのほうが良かったかな?
舌鮃の油分が味噌汁で流しきれない気がする。
ご飯も進むので完食できたが、お皿の上は油分で艶々だ。
夕食を堪能したら、振ってくれた話題の続きをする。
「でも僕はたまたま投資をする機会があっただけで、誰でも彼でも投資はしないぞ?」
「別にそれでもいいんじゃないですか? 職人が何の武器を開拓するかはそこに需要があると見たからです。例のお茶漬け侍さんでしたっけ? 彼女もバリーさんの元で修行してそれなりに頑張っていると聞きますし、切磋琢磨し合うのはいいことだと思いますよ?」
「うーん、なまじ僕がらみだからか勝手にやっててくれとも言い難いな」
「明斗さんは気になるクチですか?」
「どんなものがあるか顔を出してみるくらいはするさ。所詮注射器は注射器だ。奇を衒わずにどんなものがあるかを見定めるのも需要を生み出した側の責任だ」
「それも性分、ですか?」
「よく分かってるじゃないか」
はなしを切り上げ、ご馳走様でしたと手を合わせる。
口の中をサッパリさせたいな。こんな時はアレに限る。
「千枝さん、まだお腹に入りそう?」
「あら、まだ何か出てくるんですか?」
「夕食のスイーツでも如何かな?」
取り出したのは杏仁豆腐。
よくある杏仁のシロップをゼリーで固めたものではなく、杏の種を砕いた本格派。
つるん、ぷるんと食感が楽しい一品だ。
アルバートさんの仕込みなので味に間違いはないのだが、ショーケースの中で異彩を放っていたのを今でも思い出す。
「和のものに洋物のオカズ。スイーツは中華ですか?」
「和洋折衷な僕らにはお似合いだろう?」
「確かに、どれも好きですから。あ、美味しい」
「うん、思った通り口の中の油分が抜けたね」
「あ、本当です。ほんのり甘味もあって美味しいですね。本日もご馳走様でした」
「いや、なんの。毎日どんなおかずを持ってきてくれるんだろうと楽しみにしているのさ」
「そう言って頂けて良かったです。今日はログインしますか?」
「勿論。君にアドバイスをもらった通り、たまには外の空気も吸おうと思ってね」
「では、このあと少しお買い物でもご一緒しませんか?」
「いいね。では準備しよう」
千枝さんを部屋に送ってからログインすれば、彼女は既にログインしていた。五分の遅刻ですよ、と笑っているが待ち合わせの時間は決めていない。
「買い物、と言っていたが。武器でも新調するのかい?」
「実は新マップで詰まっていまして」
「へえ、今どこまで進んでるんだっけ?」
PC時代のマップ到達率は60%だった。
正式オープンして5年かけてその進捗率である。
キノコの胞子はまだ序盤だったのだが、やめるには十分な要因すぎた。
「まだ40%ですね。PC時代と違って、天気も機動力に影響を与えてきまして」
「あぁ、汗で視界も悪くなるのか。それは厄介だ」
「熱射病もありますし、おトイレ問題は解決したんですが、目下汗を止めるスプレーの開発を急がせてます」
「除湿するにもエリア全体が湿ってれば焼け石に水か」
「御明察です、ただでさえ持ち込める荷物は限りがありますし、第二の街の開拓も同時に進めていますが……」
「モンスターがそれを邪魔してくると?」
「そこなんですよねぇ。ボスを滅しても、座る椅子が開くだけで生態系が様変わりするのが厄介なんですよ」
「候補は上がってるの?」
「ニャッキさんの要望で水場の近くが絶対だと」
まぁね。第一の街の充実ぶりを考えたらそれと同じ規模の施設を欲しがるか。
第二陣はともかく、第三陣は第一の街すら一から開拓してるとか知らないもんな。
本当に何にもない野原からスタートするから、NAF。
NPCだって街が発展してようやくどこかからやってくるんだもん。
「でもその辺りだと建築物に木材は厳しくない?」
「石工のハーバー道さんがやる気を見せてくれてますので、そこはなんとか」
久しぶりに聞くな、その名前。
クランに所属してたのに一切出会わなかった一人である。
ログインしてるのは情報閲覧記録で知ってるけど、未だにフレンド申請できずにいる。
ワンコさん曰く、神出鬼没は僕の方とか言ってるけど何を言ってるのかわからない。
僕は毎日ログインしてますが?
「あ、ここです。今日はここでお買い物予定です」
「あれ、ここのクランて?」
クラン『朝食は洋食派』
クラン名はアレだが、客層に合わせた質実剛健な武器を入手できると言われてる、最近頭角を表してきた鍛治師集団らしい。
「お茶漬け侍さんの所属クランですね、すごい偶然です」
どこまで仕込みだろうか?
胸の前で手を合わせて覗き込んでくる仕草は可愛らしいが、実際は計算ずくだと思うと少しだけショックだ。
いや、それが彼女の持ち味だと知っているのだけどね?
「あ、ムーンライトさん! アタシの武器使ってくれてるんですね!」
「やぁお茶漬け侍さん。噴霧の方を活用させてもらってるよ。それと弾丸スタイルは撤去してもらえないかな?」
「えっと、何か改善点がありましたか? 画期的だと思ったんですが」
「単純に僕の資質の問題だよ。君に落ち度はないさ。僕のノーコンにこの注射器が泣いている。そう思って、使わずにいるのは勿体無いと思っただけさ」
僕がお茶漬け侍さんとお話ししてると、うぐぐいすさんはクランマスターであるポーチドエッグさんと語らっている。
何やら背中に背負う系武器での使用感と、追加武装の追求をしているらしかった。
ワイヤーアクション系の装備の出典はここだったか。
ロマン武装は数あれど、移動に使ってよし、攻撃もできるし捕縛も可能と用途が多いロマン中のロマンがこのバックパック型のワイヤーアクション武装だ。
何やら高所で足を滑らせた時のパラシュートまで積んでるらしく、さらに小型化を追求してる話を聞いて、突き詰めてるなぁと感じた。
「ああ、マスター同士のお話気になりますか?」
「失礼。今は僕の武器を見てもらってたのに、よそ見してしまって悪いね」
「武器の開拓はアタシらの命題ですからね。どの武器を上手に作れるといっても需要に合わなければ宝の持ち腐れですから、これだ! って思ったら必死にもなりますって」
「なるほどねぇ。ところで最近注射器のレパートリーが増えてきたと聞くが、出所はここかい?」
「アタシは知らないですけど」
あれ? お茶漬け侍さんは困惑して僕を眺めている。
じゃあ何処から?
「あ、センパイ! 見てください! 新作の注射器ですよ」
やっぱりあるんじゃないか。
うぐぐいすさんの誘いに乗って、その場に行けば。
そこには注射器とは烏滸がましいゲテモノ武器が並べられていた。
どう見ても大剣の先端にシリンダーが嵌め込まれたタイプや、レイピアの先端から注入できるタイプのものがあった。
どうして……こんな事に。
もう注射器どころか武器のおまけ要素である。
「これ、何?」
「新作の武器ですけど?」
「最近見つかったモンスターの体表が硬いらしくてな。ムーンライトさん、あんたの発明品の毒で皮膚を弱体化できることが判明した。しかし毒を打ち込むも、注射器が最適とされてるが戦闘中に打ち込む暇もなければ、扱いに長けたものもいない。それでこれだ」
「得意武器に注射器の機能をつけたのか?」
「ご名答! いやか、さすが天地創造さんのマスターお墨付きなだけはある。話が早くて助かるよ。本来この手の武器はうちじゃ扱わなかったんだが、うちの下っ端があんたに世話になったと聞いた。その時に習った注射器のノウハウはうちらに新しい武器の可能性を広げてくれたのさ。あんたの慧眼は見事プレイヤーの要望に応えたってわけだ」
ポーチドエッグさんはベタ褒めしてくれるが、正直何が何やらわからなかった。
まるで悪夢を見ている気分だ。
でも、こんな武器が世に放たれる事に対して、原因を作ったのが僕だと知ってちょっとだけ悪いことをした気分になった。
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