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七章

追い詰められ系女子、イチャイチャする

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 翌日体力か知力に悩んだものの、先日教えてもらったあのレシピ。あれがなんとMP回復ポーションの代わりになると知り、迷わず知力全振りに。

 圧縮して詰め込む方向にシフトしました。

 LVは9上がって15→24。
 残りステータスポイントは90。

 体力は150のまま変わらず、LVアップ分上昇して、
 HPが600→690に。

 知力は100に90加算して、さらにLVアップ分上昇して、
 MPが450→810に。

 体力の変動がないのでアイテムバッグの容量は80Kのまま。

 何やらLVが20を越えたあたりで種族進化の選択肢が出てきましたが、ヒューマン+しか出てこないので無視。
 このまま上げていきましょう。精霊の時と同じ仕組みなら、進化前のLVが高いほど選べる進化先が増える筈です。

 そして道中ホークの加工肉を4個程入手したおかげでジョブLVは7→8に上昇。スキルは覚えませんでしたが、少しづつ登り詰めて行くのも悪くはありませんね。
 ステータスの上昇幅は精霊程ではありませんが、強くなるのが目的ではありませんので、ちょうどいいくらい。
 なにせ家族からは私達は初心者……ということになってますからね。

 先日予想外の収入もあったので、今日は装備の新調も兼ねてローズさんと二人でショッピングに来ています。
 先日は旦那様との憩いの時間という事でお誘い出来ませんでしたがもう大丈夫なのでしょうか?
 笑顔ひとつで誤魔化されましたが、何かいいことでもあったのでしょうね。
 深く追及する程気になるわけでもありませんし、本人が良いのならそれで良いでしょう。

 それはともかくとして、午後からはようやく今回のゲームの目的、本番となります。
 そう、それが孝さんとの合流。

 仕事があるので参加日は20:00~24:00の6日目のみと期間は短いですが、それでも嬉しいです。
 私の体調次第では一日中顔を合わせることすらままならないですからね。
 それらを踏まえても今回の企画はココちゃんにはなまるを贈呈してあげなくてはいけません。

 そういうわけでして、いつまでも初心者装備のままというのも格好が付きません。
 ここは資金に物を言わせて装備周りを充実させようと武器・防具屋さんに足を延ばしましまた。
 お互いに体力に極端に振ってるおかげか多少の重さでもびくともしません。
 丈夫な防具も選びたい放題です。
 ……しかしこれから行うのは旦那様とのデート。それが守ってもらう側の私達が攻撃を食らってもビクともしない全身鎧で身を包んでいたらどう思うでしょう?

 ……却下ですね。
 冷静に考えるまでもありません。
 だいたい始めてから一週間もたってない私たちが何処からそんな大量の資金を調達してきたのか?  それを追及されても困ります。

 やっぱり小物関連を充実させていきましょうか?
 幸い武器の包丁に関しては手遅れなレベルで高級品ですし。
 そうしましょう。

 結局ローズさんは武器である鞭と装備関連を布中心の初心者装備から丈夫な革装備に変更。
 私はというと、黄色い布地に花柄の三角巾とエプロン、そして革のベストと動きやすいホットパンツ、革のブーツで纏まりました。
 冒険者らしく、それでいて家庭料理の提供も目指して……意外と高くついたのがミスリル銀の糸で編みこまれた三角巾とエプロンな辺り、ゲームですよね。
 防御力に関しては革製の防具と大差ないというのですから、油断出来ません。
 これで私達の準備はOK。
 元より二人とも動き回るジョブじゃありませんので、こんなものでも十分です。
 しかしまだ時間があると調理器具屋さんを覗き込んだのが運の尽き。
 あれもこれも欲しくなって器具を一新。

 気持ちも大きくなっていたのか気づけば70%まで増加していた預金が50%まで減っていたのは目も当てられません。
 ローズさんは美味しい料理が安定して食べれるなら、と目を瞑ってくれましたが、最近無駄使い……いえ、必要経費が多くなってきました。これは自分で気をつけて節制しませんといけませんね。

 周りが甘いので、ついそれに乗っかってしまいますが、これじゃあ寧々ちゃんのことを強く言えませんね。とほほ。


 お天道様が真上に座した頃、いよいよ合流します。現れたのはヒューマンの二人組。
 孝さんは一人でくると言っていた筈でしたが、はて?
 隣ではローズさんもニコニコとしてますし、これは何か知ってますね?

 おもむろにローズさんが手を振り、駆け寄ってきた二人と合流。その場で自己紹介しました。


「遅れてすまない、祐美。急にコイツが参加するって言い出してな。手間取ってた」
「ヤッホー祐美ちゃん。うちの茉莉が迷惑かけてないかい?」
「え、もしかして幸雄さんですか?」
「正解。茉莉には内緒にしといてくれって言い含めてあるから」
「ごめんね、リアさん。ダーリンは言い出したら聞かないから」
「ううん、別にいいけど……でも良かったねローズさん。ずっとそのことで心配してたでしょう?」
「そうなのか?  うちではそんな気配微塵も見せないから」
「この子はこう見えて繊細なんですからもっと構ってあげてくださいね?」
「あはは……うん、解ってる。苦労かけてすまないな、茉莉」
「いいのいいの。ところで孝さんたちはどんなビルドにしました?  そのことも含めて落ち着ける場所で打ち合わせをしましょう」



 ローズさんの音頭取りで私達一行は大通りから道一本外れた隠れ家的レストランへ。
 もちろん料理クランが関与しているそうですよ。
 最近こういう店舗が増えてきてますます街が充実してきたらしいです。
 彼女はこういう穴場を見つけ出すのが得意なので、任せておけば基本的には大丈夫。
 任せっぱなしにするとあくどいことをしでかしますので要監視が必要になりますが、今回は目立つことが前提にないので大丈夫でしょう……大丈夫ですよね?


「成る程、二人とも前衛戦闘職なんですね」
「ああ。俺は敏捷を生かしたシーフでコイツは器用を生かした手癖の悪いレンジャーだ」
「おい、クロウ。一言余計だぞ?」
「本当のことじゃないかジド」


 クロウが孝さんで、ジドが幸雄さん。
 どちらも昔一緒に遊んでいたキャラネだそうで、どうせならとその時のジョブに合わせたらしいですよ。
 私達はどちらかといえば前衛も中衛もできますのでバランスはいいかもですね。
 腹ごしらえを兼ねて目的を決めましたら武器が手に馴染むまで草原でレベリングといういつものパターン。

 久しぶり、と言いながらもお二人は上手に命を刈り取ります。なかなかの手練れですね。そこでローズさんが参戦してヘイトを消しながら二人が疾風の如く駆ける。
 クロウさんは文字通り風になり、相手に補足させないまま二刀流で斬りつけ、ジドさんは何処で組み上げたのか、そこら辺の地形を活用してトラップを作成、そこに魔力を流して発動するという変わった戦法を取っていました。
 もちろん塩コショウをかけるのは忘れません。
 バトルコックの能力は口で説明するのは難しいんですよね。

 戦闘終了後、作り置きのウサギ肉のホットサンドとスープ、ホーク肉のローストチキンに料理クラン特製のドレッシングを添えて休憩にします。


「お、うまそうだな。これはユミちゃんの手作り?  ……うん、美味い!」
「はい。お口に合えば良いのですが」
「でしょー、ご飯はリアさんに任せておけばバッチリさー」
「……ローズはせめて張り合ってくれよ」
「あたしの料理スキルを披露しても良いの?」
「あ、いや……うん、ユミちゃんに任せよう」


 ジドさんは何かを思い浮かべたあと、すぐにそれを手で振り払い、笑顔を浮かべながら言い直してきました。
 どうやらローズさんの料理スキルでの仲直り大作戦は成功したとはいえないようですね。
 この子は面倒くさがらなければもう少しまともになると思うんですが、どうにも効率を求めすぎます。
 その結果、待つことができずに肉じゃがをポテトサラダ(しょうゆ味)に錬成してしまうそうですよ。
 何がどうなってそうなるのかさっぱり理解できませんが、本人も理解してないので真相は闇の中です。


「スープの温度は高くありませんか?  もう少し冷ました方がいいなら一言お伝え頂けましたら次からはそのように」
「ちょうど良いよ。気を使ってくれてありがとねユミちゃん。クロウはいい嫁さん貰って羨ましいぞ」
「だろ?」
「ぶー、ダーリンにとってあたしはダメな嫁?」
「ローズも頑張ってくれてるよ。ちょっとユミちゃんを褒めただけじゃないか」
「ほんとかなー?」
「ほんとほんと。な?  クロウ」
「オレに振るな。それよりユミ」
「はい、なんでしょう?」
「コイツにそこまで気を使わなくてもいいぞ。雑食だからなんでも食う」


 クロウさんがスープを啜りながらジドさんをじとりと見つめ、そんな事を漏らすと、ジドさんは聞き捨てならないとばかりにその場に立ち上がり、クロウさんにビシッと指をさしながら声を荒げる。
 ただならぬ雰囲気を醸し出しています。


「おい、聞き捨てならねーぞ日本食かぶれが!  お前に振り回されてる社員の身にもなれ!  さてはいつも影口叩かれてる事を知らないな?」
「ふん、日本人なら日本食にこだわって何が悪い。それとうちの社員には割と好評だぞ?  外野が知った風な口を聞くな」
「まぁまぁお二人とも、喧嘩はその辺で収めてください。せっかくの食事の席です。暖かいうちにお召し上がってくださいね?」
「うぐ、そうだな、ユミちゃんの言う通りだ、反省しよう」
「少し冷静さを欠いていたようだ。すまないなユミ。どうもコイツと一緒にいると気心が知れてる分、言い合いに発展してしまうんだ」
「いえ。私は孝さんの普段見せない顔が見れて楽しいですよ?」
「そう言ってくれると助かる」
「……ですが、お食事中はお静かに!  これを守れないようですと次からは私は用意しませんからね!」
「ジドにはあとできつく言っておこう」
「おい、なんでオレばっかりのせいになってるんだよ!  ユミちゃんはお前にも言ってるの!  人のせいにばっかりするのはお前の悪い癖だぞ、クロウ!」
「そんな事はないだろ。今のは圧倒的にお前が悪い。食事中に静かにしていないのはお前だけだっただろう?  恥を知れ」
「にゃははー、二人とも怒られてやーんの」
「ローズはせめてオレの味方についてよ。オレだけ味方いないみたいで立つ瀬ないじゃん」
「あたしはリアさんを敵に回してご飯食べられないと困るもーん」
「すっかり胃袋を掴まれてるか。確かにユミちゃんの料理は美味いもんな」
「そだよー。酒場って言う冒険者のメッカがあるんだけど、そこの料理と大差ないもん。下手したらそこより美味しい時もあるんだよ?  あたしにとっては死活問題なのさー」
「食いしん坊のローズにそこまで言わせるとはすごいな」
「もぉダーリン、せめてそこはグルメって言ってよ。食いしん坊だとイメージ悪いでしょ?」
「違うのか?」
「もぉおおお!!」


 頬をぷっくり膨らませたままローズさんはジドさんからマウントをとるとポカポカと叩き始めました。

 一見、微笑ましい光景ですが、押し付けた胸の圧迫感がすごくてジドさんは本当に苦しそうです。よく見れば本気で地面をタップしてますね。
 クロウさんはざまぁ見ろと言っているばかりで助けようともしません。本当にこの二人は親友……友達なのでしょうか? 


  これではココットとカザネと同じ腐れ縁のようにしか見えません。ああ、いえ。私とローズさんが言えた義理ではないのですが……

 仕方ないので助け舟を出します。嫌がるローズを無理矢理引き剥がして無事救出。なぜかジドさんから命の恩人だ、と感謝されましたが、ローズさんはそれに対してさらに頰を膨らませていました。

 ジドさんはローズさんがそうなるとわかっててからかってる感じさえしますね。これも夫婦の一つの形なのでしょうか?

 うちはここまで馴れ馴れしくしなくてもいいかなぁ?  まだ気恥ずかしさが上回ってしまいますから。

 時期が来たら、少しづつ……慣れていけたらなんて、ローズさんの家庭を見て思うのでした。
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