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六章
強襲!プレイヤーキラー
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私達の元へ必死の形相の女の子が大声をあげながら駆け寄ってくる。なんといいますか、鬼気迫る! といった様相です。
「そんなところいたら危ないよ、早く逃げて! すぐにあいつらが……うわ、もうきてる! 急いで急いで」
「……だ、そうですよ? 皆さん(特に気にした様子もなく、紅茶を口付けながら)」
「だって、ココ。どうやら救援要請みたいね(同様にお茶請けに手を伸ばし、咀嚼する)」
「はぁ、それなら仕方ないかな(紅茶を飲みながら、ちらりと目配せをする)」
必死そうな彼女とは相対的にやる気なさげな私達。そのせいか彼女の表情に諦めの色が漂った。
説得するだけ無駄であると悟ったのでしょうね。
当然、私達に逃げるつもりも隠れるつもりもありません。
頭の中で撃退方法は色々と模索していますが、今の所負ける要素はありませんし。
流石に数が増えすぎると面倒ですが、今の私には心強い仲間がいますから。
目配せで合図を送ると、ココットは無言で頷き了承してくれました。
その間に私は三人分の椅子とティーカップを用意して同席を促します。
いらっしゃーい。
椅子に踏ん反り返りながら、ココットがやる気なさげに腕を前方にだらりと突き出し、追撃してきたウルフの群れに影を伸ばしていく。おお、かっこいいですね。
影が伸びきると、それは水たまりのように広がって、追撃してくるウルフの群れを範囲内に取り込んでいく。目に見えて進行速度の下がるウルフ達。
女の子のお仲間は訳がわからないなりにそれを好機と見て逃げ出した。
やっとか。とばかりにココットは嘆息し、だらんと伸ばした腕を掬うように持ち上げて、広げた指先をぎゅっと握りしめた。
それだけで、たったそれだけの行動で闇が収束し、闇の塊がウルフの群れを包み込み……パンッと音を立てて霧散した。そこにはただ静寂だけが残り、次いで虫の声が戻ってくる。
先ほどまで迫っていた脅威の消失に逃亡者達は訳がわからないと腰を抜かした尻を地につけていた。
あれほど手を焼いたMOBが一瞬で消滅せしめたのだ。驚くなという方が無理である。
しかし、それを行使したのが年端もいかない少女の身なりをしたプレイヤーだと知り、さらに表情を歪めていた。
「なんだ……一体何が、どうして?」
「夢でも見ているのか?」
「皆さんお強いんですね」
茶褐色のリザードは額をペチンと叩き、見たまんま豹が二足歩行している獣人は現実的じゃないと呆け、ヒューマンの女の子はすごーいとその場でぴょんぴょんと跳ねていた。
取り敢えずひとしきり騒いだら落ち着いたのか、椅子に座ると自己紹介と経緯を話してくれました。
リザードの人がラッツ。
豹……レオパルドの人がリッジ。
そして割とズケズケお茶会の輪に参加してきたヒューマンの子がアーシャ。
どうやら同じ学校の同じクラスのゲーム仲間らしく、よく行動を共にしている仲良しさんなのだとか。
他にも3人居たが、襲撃にあってデスペナ中。自分たちは逃走を図って今に至るという事でした。
それは大変でしたね「お腹が空いたでしょう?」と出した作り置きのホットサンドを差し出すと、空腹値も危なかったらしく、無我夢中でパクついてました。
そんなに慌てて食べなくても、まだありますよ。魔導コンロで湯を沸かしながら紅茶のお代わりを注いで行きます。
作ったものを美味しそうに食べてもらえると、作り手は嬉しいものですからね。
「それで貴方達は逃げ帰ってきたと」
「そうなんだ。掲示板からの情報集めも十分、気概もある。だけど、なぁ?」
「ああ、先に行きすぎていたんだ。誘導されているとも知らずにな」
「……その話は本当?」
「ああ、おかしいと思ったんだ、あいつらオレ達をずっと息を殺して見張ってたんだ、そうだとしか思えない」
「だな。退路を絶って、ここの袋小路に逃げ場を誘導したに違いない」
「成る程ね。ここのウルフもそういう進化をしたのか」
リザードと豹獣人が頷き合い、カザネが会話に加わった。
そして進化という言葉に食いついた。どうやらこの人達はMOBのAIが成長することも進化する事も知らないようでした。どこかで情報統制でも敷かれているんでしょうかね?
それとも何処かの誰かが敢えて封じているとか……何かキナ臭くなってきましたよ。良いですね、そういうスリルや刺激があると冒険に箔が付きます。
「そんな事になっているんだな、掲示板にはそんな情報載ってなかったぞ」
「誰かが意図的に隠しているのかもね」
「何のために?」
「そりゃよからぬことによ。このゲームって一般プレイヤーの他にも害悪プレイヤーが結構多いの。GMもろくに仕事しないしね。そりゃもうやりたい放題よ。
もちろんあたし達は一般側よ? でもゲームシステムがPKを容認しているところもあって、名うてのPKがいろんなジャンルのゲームから集結しているって聞いたことあるわ」
「自由度が高すぎた結果ね。とはいえ30分間拘束されるデスペナ以外に特にデメリットのない、命の安いこの世界じゃPKって煩わしいぐらいでそこまで脅威でもないの。なにせ通常のMOBやフィールドボスの方が一回りも二回りも狡猾だからね」
カザネやココットの説明に、逃亡者三人組は確かに、と笑い合った。
「それにしてはお強い。皆さんは結構な腕利きなのでしょうか?」
ラッツが態度を改めて聞いてくる。
もっとタメ口でも構いませんよ?
ちょっと先にプレイしただけで強いかもしれませんが、だからといって偉い訳でははありませんし。
「あたしは一応βプレイヤーだし、それなりには。でもあたし生産組だから。LV高い割に戦闘力はからきしよ。そっちの黒いのに比べたらね」
そう言ってカザネはココットを親指で差し、肩を竦めた。
ムッとするかと思ったけどココットは言われ慣れているのか、はたまた脳筋ビルドを自覚しているのか言い返すことはしなかった。
「ほう、カザネさんはβ組で生産組……待て、生産でカザネって言ったらトップの人じゃないか! なぜ気づかなかったんだ。気づかないで色々無礼な態度で接して申し訳ない! しかし雲の上の存在の貴女がなんでこんな序盤の森に!?」
「にゃはは、あたしそんな人気あるんだ? 参ったなー。もっと褒めて良いのよ?」
「こいつ外ヅラだけは良いからね。それよりみんなはココットって名に聞き覚えは?」
三人組は、聞いたことないと言っていました。プライドの高い彼女のことです。きっと怒りだすに違いありません。
怖々としていると「なら良かった」と安堵のため息を漏らしていました。
彼女に一体何があったのでしょうか。
詳しく知りたい反面、彼女の過去を知っているのはおかしいことです。それとなくカザネに聞いてみますと「イメージアップ作戦中だそうです」……ですって。
もう拭いきれないレベルの悪評だと思うのですが、さっきもしれっと一般プレイヤーとか言ってましたしね。
どうやら本気でイメージアップに取り組んでいるようでした。そして私の番が回ってきます。一応βテスターもやってましたが、それは秘密なのです。ですので最近始めたばかりと言っておきましょう。
多分彼らも装備を見る限りじゃ同じ時期でしょうし。
「あ、私は違いますからね。本サービスの第三陣で来ました。ここにいるカザネとココットがβテスターだったの。私は時間が合わなくてね」
「そうなんだ? じゃあオレ達と一緒だな。つかぬ事をお伺いするが、ユミリアさん、その二人とはどんなご縁で?」
「リアルの妹とその友達、って言えば分かるかな?」
「ああ、そういう……いや、野暮なこと聞いたな」
ホントですよ。でも変に勘ぐられるよりは全然マシですけどね。ニコッと笑いかけて本音を隠します。どうしました、お二人ともお顔が赤いですよ? アーシャさんまで。
「でもユミさんて、こう見えて結構強いのよ?」
「そうなのか!? とてもそうは見えないが」
カザネの声かけにラッツの言葉とそれに反応した妹達の不躾な視線が突き刺さる。
リッジはそんな彼の脇腹を肘で突き、アーシャは言葉を選びなよーと呆れていた。
しかし誰も一切否定を入れないあたり、そう思っているのが丸わかりです。
みんなして失礼ですね!
今の私は本気モードを封印しているんですからね! ぷんぷん。
そこへココットが助け(?)舟を出す。
「姉さんの場合は心臓が強い、っていうか神経が図太いわよね。こんなところで堂々とお茶会開いちゃう辺り、あたし真似できないもの」
いえ、より貶める方向で被せてきましたよ、この子。
日頃の鬱憤を晴らすような笑みを添えて。その顔は実に生き生きしていて、当時の彼女を思い起こします。やはり私に合わせて無理していたようですね。ですが……
「ちょっとココちゃん、耳が痛いのですけど。もう少しオブラートに包む努力をですね……」
「だってホントの事じゃない」
ぐっ、言い返せない。
ですがここで完全論破してしまうのも違うので今は負けておきましょう。
それにこういうやりとりも姉妹への第一歩に影響しますからね。グッと堪えます。
「この場を設けたのはユミリアさんだったのか! でも一体どうしてこんなところで? 言ってはなんですけど鬱蒼としてますし霧も深い。景観だってかなり悪いですよ?」
「だよねー。姉さんて見ての通り世間知らずだから」
「もう、カザネちゃんが最初に言ったんですよ。進行方向に戦闘音。横殴りはマナー違反ですので少しここで休憩だって。だから立ちっぱなしもなんですからこうしてゆっくり腰を落ち着ける場所を提供してましたのに……そんな風に言うんでしたらもうご馳走しません!」
「うそうそ、ユミさんの機転には大助かりだって。だから機嫌なおして!」
ちょっと膨れて気分を害した体を装えば、これこの通り。胃袋を掴まれているカザネは私の機嫌を直すべく味方につきました。
ほらココット、味方に着くなら今のうちですよ? ちょっと煽るようにしてやると「仕方ないわね」と一息ついて仲直りしました。まぁ喧嘩すらしてませんが。
拗れたら面倒ごとに発展するのは目に見えているのか、彼女達は実にチョロい立ち回りを見せてくれた。
「にしたって寛ぎすぎじゃ……」
そこへリッジが切り込んでくる。
さすが敏捷と筋力に均等に割り振った突撃隊長というだけはあります。ツッコミの切れ味もまた鋭く、的確に急所をえぐってくるものに。今のは結構ハートに来ましたよ。クリティカルヒットです。
「それがユミさんの魅力、もといすごいところなんだけどねー」
「そうよ、姉さんの非常識さはこんなもんじゃないんだから」
「それはゲーム初心者って意味で?」
「どうでしょうか? 皆さんのご想像にお任せします」
おほほ。
笑ってごまかしてテーブルセットをアイテムバッグに収納して行きます。これらはいっぺんにまとめることができるので楽チンなのですよね。水筒に料理クラン特製スープを入れまして、準備万端。
三人組と一緒に森林フィールドを探索することになりました。
お互いパーティを組んでいますので誘う事はせずに、一緒に行動を共にするだけです。目的が違いますからね。安全圏までご一緒したら私達はエリア4に向けて歩いていきます。
エリア切り替え前に香水を一振り。
これで大丈夫ですね。
エリア2からエリア1へ。
しかしそこで事態が急変する。
先行して歩いていた三人組が何者かにキルされたのだ。ここはエリアデバフを除けばMOBの生息範囲外。
プレイヤーが最も油断する場所である。
つまりそれを狙って行うものとは、そう……プレイヤーキラーの所業であった。
光になって教会送りにされた三人組を見送る間も無く、夜に等しい闇が私達を分断させる。
パーティチャットで確認することもできず、離れ離れにされてしまいました。
私の前にはちょっと正常じゃない表情の闇精霊が何がおかしいのかケタケタと笑っています。
まるでこちらのことなど眼中にないその態度にムッとなりました。
『悪いがお嬢さん、あんたにゃ人質になってもらう』
ふむ? どういうことでしょうか?
『おっと、抵抗は無駄だぜ? 生憎と俺は物理攻撃無効でね。なんせ闇の精霊様だ。掲示板で噂のな!』
「精霊は非戦闘種族だったのでは?」
話しかけて時間稼ぎ。闇の精霊とはこれまた面倒臭い。心で舌打ちしているところでパーティチャットが入ってくる。
ココットから「速攻終わらせて助けに行くからそこにいて」との心強い応援とカザネから「時間だけ稼ぐから助けに来て!」という救援だった。
でしたら私も自分の身は自分で守りませんとね。
相手の余裕から見てLV差は相当上。
ですが人質作戦を取るような腑抜けです、ココットよりは下程度でしょう。
私は右手にタコ糸を巻きつけて、包丁を腰のベルトに装着した。
「そんなところいたら危ないよ、早く逃げて! すぐにあいつらが……うわ、もうきてる! 急いで急いで」
「……だ、そうですよ? 皆さん(特に気にした様子もなく、紅茶を口付けながら)」
「だって、ココ。どうやら救援要請みたいね(同様にお茶請けに手を伸ばし、咀嚼する)」
「はぁ、それなら仕方ないかな(紅茶を飲みながら、ちらりと目配せをする)」
必死そうな彼女とは相対的にやる気なさげな私達。そのせいか彼女の表情に諦めの色が漂った。
説得するだけ無駄であると悟ったのでしょうね。
当然、私達に逃げるつもりも隠れるつもりもありません。
頭の中で撃退方法は色々と模索していますが、今の所負ける要素はありませんし。
流石に数が増えすぎると面倒ですが、今の私には心強い仲間がいますから。
目配せで合図を送ると、ココットは無言で頷き了承してくれました。
その間に私は三人分の椅子とティーカップを用意して同席を促します。
いらっしゃーい。
椅子に踏ん反り返りながら、ココットがやる気なさげに腕を前方にだらりと突き出し、追撃してきたウルフの群れに影を伸ばしていく。おお、かっこいいですね。
影が伸びきると、それは水たまりのように広がって、追撃してくるウルフの群れを範囲内に取り込んでいく。目に見えて進行速度の下がるウルフ達。
女の子のお仲間は訳がわからないなりにそれを好機と見て逃げ出した。
やっとか。とばかりにココットは嘆息し、だらんと伸ばした腕を掬うように持ち上げて、広げた指先をぎゅっと握りしめた。
それだけで、たったそれだけの行動で闇が収束し、闇の塊がウルフの群れを包み込み……パンッと音を立てて霧散した。そこにはただ静寂だけが残り、次いで虫の声が戻ってくる。
先ほどまで迫っていた脅威の消失に逃亡者達は訳がわからないと腰を抜かした尻を地につけていた。
あれほど手を焼いたMOBが一瞬で消滅せしめたのだ。驚くなという方が無理である。
しかし、それを行使したのが年端もいかない少女の身なりをしたプレイヤーだと知り、さらに表情を歪めていた。
「なんだ……一体何が、どうして?」
「夢でも見ているのか?」
「皆さんお強いんですね」
茶褐色のリザードは額をペチンと叩き、見たまんま豹が二足歩行している獣人は現実的じゃないと呆け、ヒューマンの女の子はすごーいとその場でぴょんぴょんと跳ねていた。
取り敢えずひとしきり騒いだら落ち着いたのか、椅子に座ると自己紹介と経緯を話してくれました。
リザードの人がラッツ。
豹……レオパルドの人がリッジ。
そして割とズケズケお茶会の輪に参加してきたヒューマンの子がアーシャ。
どうやら同じ学校の同じクラスのゲーム仲間らしく、よく行動を共にしている仲良しさんなのだとか。
他にも3人居たが、襲撃にあってデスペナ中。自分たちは逃走を図って今に至るという事でした。
それは大変でしたね「お腹が空いたでしょう?」と出した作り置きのホットサンドを差し出すと、空腹値も危なかったらしく、無我夢中でパクついてました。
そんなに慌てて食べなくても、まだありますよ。魔導コンロで湯を沸かしながら紅茶のお代わりを注いで行きます。
作ったものを美味しそうに食べてもらえると、作り手は嬉しいものですからね。
「それで貴方達は逃げ帰ってきたと」
「そうなんだ。掲示板からの情報集めも十分、気概もある。だけど、なぁ?」
「ああ、先に行きすぎていたんだ。誘導されているとも知らずにな」
「……その話は本当?」
「ああ、おかしいと思ったんだ、あいつらオレ達をずっと息を殺して見張ってたんだ、そうだとしか思えない」
「だな。退路を絶って、ここの袋小路に逃げ場を誘導したに違いない」
「成る程ね。ここのウルフもそういう進化をしたのか」
リザードと豹獣人が頷き合い、カザネが会話に加わった。
そして進化という言葉に食いついた。どうやらこの人達はMOBのAIが成長することも進化する事も知らないようでした。どこかで情報統制でも敷かれているんでしょうかね?
それとも何処かの誰かが敢えて封じているとか……何かキナ臭くなってきましたよ。良いですね、そういうスリルや刺激があると冒険に箔が付きます。
「そんな事になっているんだな、掲示板にはそんな情報載ってなかったぞ」
「誰かが意図的に隠しているのかもね」
「何のために?」
「そりゃよからぬことによ。このゲームって一般プレイヤーの他にも害悪プレイヤーが結構多いの。GMもろくに仕事しないしね。そりゃもうやりたい放題よ。
もちろんあたし達は一般側よ? でもゲームシステムがPKを容認しているところもあって、名うてのPKがいろんなジャンルのゲームから集結しているって聞いたことあるわ」
「自由度が高すぎた結果ね。とはいえ30分間拘束されるデスペナ以外に特にデメリットのない、命の安いこの世界じゃPKって煩わしいぐらいでそこまで脅威でもないの。なにせ通常のMOBやフィールドボスの方が一回りも二回りも狡猾だからね」
カザネやココットの説明に、逃亡者三人組は確かに、と笑い合った。
「それにしてはお強い。皆さんは結構な腕利きなのでしょうか?」
ラッツが態度を改めて聞いてくる。
もっとタメ口でも構いませんよ?
ちょっと先にプレイしただけで強いかもしれませんが、だからといって偉い訳でははありませんし。
「あたしは一応βプレイヤーだし、それなりには。でもあたし生産組だから。LV高い割に戦闘力はからきしよ。そっちの黒いのに比べたらね」
そう言ってカザネはココットを親指で差し、肩を竦めた。
ムッとするかと思ったけどココットは言われ慣れているのか、はたまた脳筋ビルドを自覚しているのか言い返すことはしなかった。
「ほう、カザネさんはβ組で生産組……待て、生産でカザネって言ったらトップの人じゃないか! なぜ気づかなかったんだ。気づかないで色々無礼な態度で接して申し訳ない! しかし雲の上の存在の貴女がなんでこんな序盤の森に!?」
「にゃはは、あたしそんな人気あるんだ? 参ったなー。もっと褒めて良いのよ?」
「こいつ外ヅラだけは良いからね。それよりみんなはココットって名に聞き覚えは?」
三人組は、聞いたことないと言っていました。プライドの高い彼女のことです。きっと怒りだすに違いありません。
怖々としていると「なら良かった」と安堵のため息を漏らしていました。
彼女に一体何があったのでしょうか。
詳しく知りたい反面、彼女の過去を知っているのはおかしいことです。それとなくカザネに聞いてみますと「イメージアップ作戦中だそうです」……ですって。
もう拭いきれないレベルの悪評だと思うのですが、さっきもしれっと一般プレイヤーとか言ってましたしね。
どうやら本気でイメージアップに取り組んでいるようでした。そして私の番が回ってきます。一応βテスターもやってましたが、それは秘密なのです。ですので最近始めたばかりと言っておきましょう。
多分彼らも装備を見る限りじゃ同じ時期でしょうし。
「あ、私は違いますからね。本サービスの第三陣で来ました。ここにいるカザネとココットがβテスターだったの。私は時間が合わなくてね」
「そうなんだ? じゃあオレ達と一緒だな。つかぬ事をお伺いするが、ユミリアさん、その二人とはどんなご縁で?」
「リアルの妹とその友達、って言えば分かるかな?」
「ああ、そういう……いや、野暮なこと聞いたな」
ホントですよ。でも変に勘ぐられるよりは全然マシですけどね。ニコッと笑いかけて本音を隠します。どうしました、お二人ともお顔が赤いですよ? アーシャさんまで。
「でもユミさんて、こう見えて結構強いのよ?」
「そうなのか!? とてもそうは見えないが」
カザネの声かけにラッツの言葉とそれに反応した妹達の不躾な視線が突き刺さる。
リッジはそんな彼の脇腹を肘で突き、アーシャは言葉を選びなよーと呆れていた。
しかし誰も一切否定を入れないあたり、そう思っているのが丸わかりです。
みんなして失礼ですね!
今の私は本気モードを封印しているんですからね! ぷんぷん。
そこへココットが助け(?)舟を出す。
「姉さんの場合は心臓が強い、っていうか神経が図太いわよね。こんなところで堂々とお茶会開いちゃう辺り、あたし真似できないもの」
いえ、より貶める方向で被せてきましたよ、この子。
日頃の鬱憤を晴らすような笑みを添えて。その顔は実に生き生きしていて、当時の彼女を思い起こします。やはり私に合わせて無理していたようですね。ですが……
「ちょっとココちゃん、耳が痛いのですけど。もう少しオブラートに包む努力をですね……」
「だってホントの事じゃない」
ぐっ、言い返せない。
ですがここで完全論破してしまうのも違うので今は負けておきましょう。
それにこういうやりとりも姉妹への第一歩に影響しますからね。グッと堪えます。
「この場を設けたのはユミリアさんだったのか! でも一体どうしてこんなところで? 言ってはなんですけど鬱蒼としてますし霧も深い。景観だってかなり悪いですよ?」
「だよねー。姉さんて見ての通り世間知らずだから」
「もう、カザネちゃんが最初に言ったんですよ。進行方向に戦闘音。横殴りはマナー違反ですので少しここで休憩だって。だから立ちっぱなしもなんですからこうしてゆっくり腰を落ち着ける場所を提供してましたのに……そんな風に言うんでしたらもうご馳走しません!」
「うそうそ、ユミさんの機転には大助かりだって。だから機嫌なおして!」
ちょっと膨れて気分を害した体を装えば、これこの通り。胃袋を掴まれているカザネは私の機嫌を直すべく味方につきました。
ほらココット、味方に着くなら今のうちですよ? ちょっと煽るようにしてやると「仕方ないわね」と一息ついて仲直りしました。まぁ喧嘩すらしてませんが。
拗れたら面倒ごとに発展するのは目に見えているのか、彼女達は実にチョロい立ち回りを見せてくれた。
「にしたって寛ぎすぎじゃ……」
そこへリッジが切り込んでくる。
さすが敏捷と筋力に均等に割り振った突撃隊長というだけはあります。ツッコミの切れ味もまた鋭く、的確に急所をえぐってくるものに。今のは結構ハートに来ましたよ。クリティカルヒットです。
「それがユミさんの魅力、もといすごいところなんだけどねー」
「そうよ、姉さんの非常識さはこんなもんじゃないんだから」
「それはゲーム初心者って意味で?」
「どうでしょうか? 皆さんのご想像にお任せします」
おほほ。
笑ってごまかしてテーブルセットをアイテムバッグに収納して行きます。これらはいっぺんにまとめることができるので楽チンなのですよね。水筒に料理クラン特製スープを入れまして、準備万端。
三人組と一緒に森林フィールドを探索することになりました。
お互いパーティを組んでいますので誘う事はせずに、一緒に行動を共にするだけです。目的が違いますからね。安全圏までご一緒したら私達はエリア4に向けて歩いていきます。
エリア切り替え前に香水を一振り。
これで大丈夫ですね。
エリア2からエリア1へ。
しかしそこで事態が急変する。
先行して歩いていた三人組が何者かにキルされたのだ。ここはエリアデバフを除けばMOBの生息範囲外。
プレイヤーが最も油断する場所である。
つまりそれを狙って行うものとは、そう……プレイヤーキラーの所業であった。
光になって教会送りにされた三人組を見送る間も無く、夜に等しい闇が私達を分断させる。
パーティチャットで確認することもできず、離れ離れにされてしまいました。
私の前にはちょっと正常じゃない表情の闇精霊が何がおかしいのかケタケタと笑っています。
まるでこちらのことなど眼中にないその態度にムッとなりました。
『悪いがお嬢さん、あんたにゃ人質になってもらう』
ふむ? どういうことでしょうか?
『おっと、抵抗は無駄だぜ? 生憎と俺は物理攻撃無効でね。なんせ闇の精霊様だ。掲示板で噂のな!』
「精霊は非戦闘種族だったのでは?」
話しかけて時間稼ぎ。闇の精霊とはこれまた面倒臭い。心で舌打ちしているところでパーティチャットが入ってくる。
ココットから「速攻終わらせて助けに行くからそこにいて」との心強い応援とカザネから「時間だけ稼ぐから助けに来て!」という救援だった。
でしたら私も自分の身は自分で守りませんとね。
相手の余裕から見てLV差は相当上。
ですが人質作戦を取るような腑抜けです、ココットよりは下程度でしょう。
私は右手にタコ糸を巻きつけて、包丁を腰のベルトに装着した。
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