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六章

ココちゃんは心配性

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 あらかた検証を終えてホクホク顔で街へと帰路につく。
 いや、まさかね。タコ糸にあそこまでの応用力があったとは。
 魔糸とは根本から違うという思い込みでしたが。なかなかどうして、むふふ……想像が広がっていきますね。

 もしかしなくてもバトルコックってだいぶ強いですよね?
 だからヒューマンで落ち着いたのかも知れません。
 ヒューマンはステータスの上限が全種族の中で一番低いので、それらを装備の強化によって賄っていく種族です。
 それのせいで湯水のごとく資金を消費していくのがプレイヤーの一般常識。
 のびのび遊ぶのでしたら獣人がオススメされているぐらいの凡夫です。
 ですのでヒューマンを好んで遊ぶ層はエンジョイ勢か生産職に偏ります。
 ガチ勢ほどヒューマンの器用貧乏さに辟易しているので見切りをつけていますからね。
 中には住民のカインさんみたいにロマンに走る人もいますけど、ああいうのは別にヒューマンじゃなくても一定数居るんですよね。

 それでもヒューマンを選ぶ人は、リアルと同じ感覚のまま遊びたい人や食事の際の味覚を共感したい人が多いようです。
 料理人の殆どがヒューマンを選択しているのはそういうところもあるみたいですね。
 料理で思い出しましたけど、満腹値が結構やばいんでした。まだ40%あります、ですがここから下がるとお腹の虫が騒ぎ始めるので早めにお食事をとりませんと恥を晒してしまいます。
 ローズさんでしたらそこら辺気にしないと思いますが私なら絶対無理。
 酒場で昼食を頂きましょう。

 頂きました。
 帰り際に「早速試作してみた。味見を頼む」とゲンさんから特性スープを頂きました。有難い事ですね。
 受け取る際、「出掛けるんならお土産を期待してるぜ」なんて笑顔で頼まれてしまいました。せっかくですので何か持ち帰ってあげましょうか。彼は私を見た目で特別扱いして来ないので割と好感が持てます。その上で色々気を使ってくれますしね。
 シグルドさんは……まぁ、自分の感情に正直な方ですよね。それが悪いとは思いませんが。
 私とは合う人ばかりではないという良い例ですね。

 組合前でパーティ募集しているまだ装備の揃っていなそうな人達に声かけをしていきます。
 プレイヤーキラーに道中出会えれば、と思ってたんですが見つからなかったんですよね。
 だとするとソロプレイヤーは狙わない?  じゃあパーティかな?  という事で募集に乗ることにしました。全滅上等で行けるところまで行く人が多いのはゲームならではですね。


「こんにちは。どこかパーティ拾って貰えませんか?」


 ニコッと笑いかけますが見た目が初期装備だからか反応はあまりよろしくありませんでした。
 やはり冒険者組合に参加していない人は信用ならないのでしょうか?
 根気よく回ってみてもダメ。

 仕方がないので冒険者ランクをFにして問いかけたらあっさり捕まりました。しかしそこからジョブ紹介でごめんなさいされること十数回。
 ようやく拾ってくれる二人組みに巡り会えました。いやー、奇遇ですね。


「びっくりしたー、何してるんですか、姉さん!」
「あら琴子ちゃん、さっきぶりね」
「え?  ココをそう呼ぶってことは祐美さんなんですか?」
「あら、そちらの方はリアルの私を知っている人ですか?」
「あ、この姿じゃ分かりませんか」
「見てくれが違うから姉さんは分かんないかも。この子寧々よ」
「あら寧々ちゃんでしたか。こっちでもよろしくね。あ、フレンド申請良いですか?」
「もちろん、OKです!」


 フレンド登録をお互いにし終えて、パーティ申請を受け取ります。
 二人はすでにパーティを組んでいて、私がそれに乗っかる感じですね。
『パーティ:素材集め』とかもうちょっとひねりませんか?


「へー、こっちではユミリアさんて言うんですね。改めまして、こっちでのあたしはカザネ。
 それよりもそのネームで本名バレ大丈夫ですか?  あたしも苗字と名前のハイブリッドなんであまり強く言えませんけど」
「みんなそう言うのよね。そんなに変かしら?」
「本名知っている人は特定が容易いですよ、姉さん」
「でも知らなければどこにでも居そうなネームですよね?  それにうっかり本名を言ってしまいそうな人が遅れてやってきますので、そこも配慮して選択しました」
「ああ。ココのお兄さんなら絶対言いそう」
「確かに、兄さんなら姉さんの事をそう呼びそうですね。そこまで配慮していたのでしたらこちらから言うことはないです」
「絶対という確信はないけど、知り合いにはいつも通り。ローズさんからは後ろの方のリアを誇張して呼んでもらっているのよ。あれで結構あの子気を使ってくれているの」
「ローズさんとはまだ会ったことないですが、その方はどんなジョブを選択したんですか?  ユミさんとコンビなんですよね?」


 え、それ聞いちゃいます?
 琴子ちゃんのような子、って例えると怒り出すのが目に見えてますし。
 どう説明しましょうか。


「うーん……あの子はちょっとね。あまり人にオススメしたくないの。ココちゃんならわかってくれるわよね?」
「そうですね。なんて言いますか、口だけで生きてきた様なおっぱいオバケという第一印象が強すぎて、その他全てが霞んじゃうような人です」
「なにそれ。ココがそこまで言うほど大層なものをお持ちなんだ。あんただって結構でかい癖にウリウリ……」


 カザネ寧々ちゃんが肘でココット琴子ちゃんの脇腹を抉るように打ち据える。それを霧化して無効化し、少し離れたところで相槌を打つ。


「それほどのものをお持ちなの。正直あの人の横に居たくないぐらいよ」
「そうなのよー、あの子と居るといっつも比べられるの。その上手柄が全部持っていかれてしまうのよ。
 私は目立ちたくないから助かるけど、なんていうかね、カザネちゃんには迂闊に紹介して餌食にされたくないというか……こんな返しでごめんなさいね?」
「なんかごめんなさい。突っ込んで聞いちゃいけないような……ヤブヘビでしたか?」
「それよりも、です。姉さんはパーティに混じってこれからどこへ行くつもりだったんですか?」


 これ以上今の話題を続けられない!  とばかりに話の流れを切断、単刀直入にココットが物申す。
 少しツンツンとしながらも、心配そうな表情を映し出していた。
 なので私は安心させる様に無理はしませんから、と優しく言って聞かせます。その上で本題。


「草原もあらかた回りましたので、少し森にでも探検しに行こうかと」


 まるで近所に買い出しに行く様な気軽さで語ります。


「ボスに直行しないのは懸命ですが……」
「ボスは聞くところによれば食べるところがありませんし、大きいのでしょう?  持ち帰れる自信がありません」
「姉さんの理由はツッコミどころ満載ですけど、まあいいです。その前に一つお伺いしますが……その装備で?」
「はい」
「流石にそのままじゃあたし達が心配します。草原と違って森は本当に危険なんです。比較するわけじゃ無いですけど草原は所謂チュートリアルで、森林から本気を出してくると言いますか……」


 長くなりそうなので彼女の前に手を置いてそれ以上の言葉の本流を塞きとめる。
 心配してくれるのは嬉しいですけど、彼女は身内に甘すぎます。
 私としてはミュウ時代の時の気軽さを所望する所ですが、彼女に自分がミュウ、はたまたノワールであることをバラすのはまだ早いですので致し方ないことです。
 ここへはストレスを発散しに来ている訳ではありませんしね。だからこれは自身のワガママ。そこへ彼女を巻き込むのは下策もいいところでしょう。


「ですのでここでの私の力を少しお見せしてからやって行けるかどうかお二人に判断して貰おうかと提案します」
「……そういう事なら」
「ユミさんが危なくなったらあたし達が助けてあげればいいじゃん。ココは何をそんなに心配してるのよ」
「だってつい最近始めた人が森に行くっていうのよ?  あそこの実態を知っているなら引き止めるでしょ!」
「そりゃまあそうだけどさ。あんたの場合は別の何かを心配してるように見えたのよ」
「そんなこと無いわ、姉さんはまだこのゲームを甘く見ているから妹のあたしが警告を出してあげなきゃ。ただでさえ初見殺しなんだから!」
「それはみんなそうだよ。身内だからって甘やかしすぎじゃない?」
「そんなことっ!」
「……その前にお二人とも。少し小腹が空きませんか?」


 何やら険悪な雰囲気になってきましたので場を和ませるために提案を切り出します。
 そのせいか突然の切り出しにキョトン顔のお二人。
 手早くアイテムバッグからリンゴの様な果実を取り出して空中に放り投げる。
 それを対象の内側からタコ糸を展開させて八切りに。手元に着地と同時に割り開き、ココットとカザネへ「おひとついかが?」と分け与えた。


「え!?  すごーい、それどうやったんですか?」
「これはですねー……」


 手元にタコ糸を展開させながら実演してみせます。


「ほえ~、ユミさん器用だね」
「それほどでもありません。それに、これくらいのことなど出来ても戦闘で役に立たなければ意味もありませんし」
「確かに。でもそれをMOBに対しても実行できるんでしょ?」
「勿論です。それに私のスタイルは距離が遠すぎない限りはどの距離でも対応できるのが強みですから」
「分かりました。では早速参りましょうか」
「へー、バトルコックって実は強い?」
「どうでしょうか?  私は気に入ってますよ。どうして人気が無いのでしょうか?」


 ココットはまだ私がリアルと同じように危険な事をしでかさないか心配のご様子。
 何故ここまで心配されるのかさっぱり分かりませんが、彼女なりに色々と考えてくれているのでしょう。

 ◇

 場所は変わって草原フィールド。
 エリア1を歩きながら素通りしてエリア2へと入っていきます。
 ウサギなんて見なくても狩れるので無視。
 森に入る為の力自慢にもなりませんしね。ですのでエリア2のカエルがターゲットに選ばれました。


「では行きますね。お二人はここで見ててください」


 対象に加工魔法を行使して仕留めます。
 その間に先ほど通り際に仕留めたブラックラビット肉を仕上げて行きましょうか。
 アイテムバッグからテーブル、まな板、包丁を取り出して捌いて行きます。
 ゴミはバッグにポイ捨てして……ああ、スライムが欲しいですね。どこかに売ってないかな?  この場合はサブジョブで解放したほうが早そうですか?  うーむ。

 考え込みながらコンロ型魔道具と一緒に圧縮していたスープの入った寸胴を取り出します。
 おたまで攪拌しながらもう一つのコンロで捌いた方のお肉(味噌ダレ加工済み)を炙って行きます。少し煙が気になりますが無視。
 匂いにつられて不特定多数のプレイヤーがこちらを向きますが、ココットが用心棒をしてくれているので迂闊に近寄って来ません。これがローズなら殺到すること請け合いです。
 程よく火を通しましたら粗熱をとって、買い置きの食パンで挟んでからホットサンド専用フライパンで焼き上げてサクサクに仕上げます。間に料理クランから仕入れたレタスやヒツジ肉のハムなどを入れて、特性ドレッシングと共に炙り肉を挟んでもう一つのまな板で挟んでサンドイッチの完成です。
 その間に漬けダレ加工のカエル肉の処理が済んだようですね。
 食事用のテーブルとイス、テーブルクロスとスープカップ、専用スプーンを用意して特別席を用意します。
 これらを買い揃えてもなお残高が70%残るあたり本気で中身が気になりますが、気にしても仕方がありませんし、みなさんうまくやってくれたのでしょう。そういう事にしておきます。


「さぁ、こちらで座って観覧しててください」
「え?  どこから出したんですか、これ」
「アイテムバッグです」
「無駄よ、カザネ。これがここでの姉さんなの。自分のルールが通用すると思わないほうがいいわ」
「その言い方は悲しいわ。でも私を知って貰う為には良いのかしら?  なんだか複雑な気分ね」
「そうなんだ。じゃあそういう事で頂きまーす……ってうま!  ユミさん、これ美味しいです!」
「ありがとう、そう言ってもらえたら作った甲斐があるわ」
「美味いどころじゃ無いわよ、カザネ。これ料理バフがついてる……」
「うぇ!?  本当だ。あ、ココ、こっちのスープなんてMP回復までするよ!  マナポーションなんかより全然美味しいしこんなのが売り出された日にはあたし廃業だぁ」
「これがバトルコック……想像以上に厄介ね。だからと言って森に入って安全とはまだ……もぐもぐ」
「これらは旦那様専用ですので、不特定多数には売りませんから安心して良いですよカザネちゃん」
「ほんと!?  それは調薬師のあたしとしてはありがたいけど、逆にこれが飲めないのはなんか損した気がする……なんだこの葛藤は……ぐぬわーー」


 ひとしきり葛藤を終えた後に食べかけのホットサンドを一口。もぐもぐしながらスープをズズッと口に含み、ほわんとした表情を浮かべるカザネ。
 食べたら葛藤とかどうでも良くなったようです。チョロい。


「スープならおかわりがいくらでもありますのでそこの寸胴から掬って下さい。ではここからが本番です」


 そして先ほど漬けダレ加工済みのカエルを取り出します。
 ココットはバトルコックを理解しているのか驚きませんでしたが、カザネは口いっぱいに含んでいたスープを霧状に噴き出していました。


「ちょっ、え、ちょ!  どこから出したんですか、そのカエル!」
「アイテムバッグです」
「姉さんの言っている通りよ。加工処理しながら戦闘エリアで料理をしていたの。これが姉さんの普通。どう、自分の中で確立したルールが音を立てて崩れ落ちていくでしょ?」
「うん、確かに。バトルコックって凄いんだね……どうして誰もやらないんだろ」
「掲示板の通りよ」
「それじゃ凄いのはジョブじゃなくてユミさんの方か……え、本当に初心者なんですか?  色々と追いつかないんですけど」
「ふふふ、ヒミツです」


 ウィンクしながらそう言って、私は目の前に出したカエルをアイテムバッグに片付けて……刀を居合のごとく抜き放つようにして、もう一つのカエルを射出しました。
 おー、よく飛ぶ。たーまやー。
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