【完結】ドライアドの糸使い

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
69 / 109
五章

早速やってしまいましたか?

しおりを挟む
 あれからリアルで一ケ月が経過しました。
 私も茉莉さんもまだまだ余裕を見せていますが、絶賛過保護気味な旦那様に安静にと言われて少し鬱憤が溜まり始めました。
 もう少し自由をくれてもいいのではないか?  ボイスメッセでの話題は大体それに終始します。

 そんな時です。ココットこと琴子ちゃんから改めてお誘いを受けたのは。

 とりあえず第三陣として受け入れ態勢が整ったという事で私達二人は先にログインして後から孝さんと合流する形になりました。
 早速やらかして怪しまれないようにヒューマンで行こうと事前に決めています。今回は料理でサポートが前提ですからね。
 ゲンさんまで、とはいきませんがお外でランチを頂けるようにはしときたいですね。
 茉莉さんは新しく解放されたジョブで行くそうです。私はどうしようかな?
 それじゃあこれで……

 全ての選択を終えて琴子ちゃんの待ってくれているいつもの酒場まで歩いていきます。途中茉莉さんと合流して雑談。
 一緒に組合へ入っていきます。
 なんだかんだと通い慣れた場所ですからね。少し雰囲気が違っているかもとは思いましたが、そんなこともなかったです。お、居ました。相変わらず頭の先から爪先まで真っ黒ですね。それよりも気になるのが種族です。お外はまだ明るいんですけど陽光(サン)のスリップダメージは平気なのでしょうか?  確か吸血鬼にとっての天敵ですよね?  ですがそれを突っ込むのはおかしなことなので突っ込みません。何か考えがあるのでしょうし、その手のアイテムを手に入れたのでしょう。


「おまたせしました、ココットさん」
「おまたせ~。あたしが誰かわかるかなー?」


 いつも通りに振る舞う私達に、ココットは本心を心の奥に蹴っ飛ばしてよそ行きの表情で対応してくれました。
 ちょっと茉莉さん、横で笑いすぎですよ?


「いらっしゃいませお姉さま方。本日はようこそお越しくださいました」
「ご招待に参じました」
「ん、ご招待ありがとねー。妊婦って暇だねーってこの子とよく話してたのよ。だから丁度良かったとも言えるね。ナイスよココちゃん」
「あ、そうだ。こっちでは違う名で呼び合うのが礼儀でしたね。改めまして、ユミリアです」
「あたしはローズ。安直だけどバラって意味ね」
「ユミリア姉様にローズ姉様ですね。では私の事もそのままココット、もしくはココとお呼びください」
「もう、そんなかたっ苦しい挨拶要らないって。呼び捨てでいいよ」
「では、そのように」
「ココちゃん、敬語もやめようか?」


 眼を見張るようにココットはこちらを見やり、俯きがちに言葉を濁した。


「よ、宜しいのですか?」
「宜しいのです。ゲームでは縦の付き合いではなく横のつながりが大事だと仰っていたではないですか。だからお姉さまではなくリア姉さんぐらいでお願いね」
「はい、わかりました。リア姉さん、ローズさん」
「宜しい。じゃあこれからの予定を考えようか。その前に……」


 茉莉(ローズ)さんはその場でキョロキョロすると、店員さんを呼んでおススメメニューを人数分頼みました。やはりゲンさんの料理が忘れられなかったみたいですね。

 注文を取りに来た店員さんは無防備にさらけ出されたローズさんの双丘をまじまじと見ながら心ここに在らずといった風に注文を受け取ってました。
 もはやガン見でしたがローズさんの方が気にしてないので気づかれてないと思ってるんでしょうか?  女性はそういうのすぐわかるから気をつけた方がいいですよー。この子はわざと見せつけてるだけですから。

 そして赤面しながら厨房へ戻っていきます。もうはっきり言って牛ですもんね。琴子ちゃんをちらりと覗くと胸を隠すようにして顔を赤くさせています。
 その顔には比べるな!  と、恥じらいの色が見て取れました。比べられるだけいいじゃないですか。私なんてぺったんこですよ?  これから赤ちゃんの為のおっぱいが張るのにかけてます……なんて口が裂けても言えませんよ、ええ。


「にゃはは、あの子あたしの魅力にメロメロだったね」
「へー、そんなことやってていいのかなー?  後で旦那さんに言いつけてやろ。ゲームの中で浮気してましたって」
「ああ、ちょっと待って、リアルの話持ち出すのはなしだから!」
「えー……どうしよっかなー。ココちゃんはどう思う?」
「え、私の意見ですか?  ローズさんは確かにお綺麗ですけど、もう少しガードを固めた方がいいと思いました。あれではまるで誘惑しているようにも取れますよ?」
「ですって、ローズさん?」
「んにゅぅ、ココちゃんは手厳しいな~」
「ふふ、そうこうしているうちに一品目が来たみたいですね。早速頂いてしまいましょう。ココちゃん、ここでのマナーで注意することはありますか?」
「一般的なテーブルマナーで大丈夫ですよ、姉さん。逆にマナーのなってない方が多いのでそれに眼を瞑る方が多いですね」
「まぁ、ですってローズさん」
「ん?  なんふぁ言った?」


 すでに食べてましたよ、この子……
 なんてお行儀の悪い。いえ、知ってましたけど。
 マナー以前の問題でした。


「ではココちゃん、私達も頂いてしまいましょうか」
「はい、姉さん」


 茉莉(ローズ)さんの顔を見ながらくすくすと笑い、運ばれてくる食事を奪い合うようにしながら楽しい食事会を終えた私達は組合を出て買い物を済ませます。

 組合登録は初めっからするもんじゃないのが今の常識のようです。
 なんかこういうのは新鮮でいいですね。


「それじゃあ早速出かけましょう。その前に……はぐれないようにパーティ申請送っておきますのでOK押してくださいね」
「ええ」
「こっちはオッケー」
「確認しました。それでは参りましょう、こちらです」


 先導するココットの背中を眺めながら私達も後を追う。
 門番さんに挨拶を交わし、広がる大平原に感嘆の声をあげます。


「うわぁ、すごい」
「ほんとだねー。別ゲーじゃここまでマップにリアリティ求めないよ?」
「そこはやはりゲーム要素としてでしょうか?」
「わかんないけどMAPのうちの一つとして、序盤というのもあるけどひろーく作ってMOBは疎らにってのが定番だからね。ここみたいに草が一本一本風で靡かないし、風に乗って土や草の香りが届くって言うのはちょっとないね。五感フルダイブ型でも結構珍しい方かも。最近はリアル過ぎないやつに人気が集中する傾向だからね」
「へー、そうなんですね。ですってココちゃん。彼女はこう言ってますが、ココちゃんはどう思いますか?」


 ちょっと大げさすぎないように驚いて、ローズさんが合いの手を入れていく。
 ナイスフォローです。つい最近までやってたものですからうまくブランクを出すのが大変ですね。


「んー、そうだなぁ。姉さんも昔フルダイブ型VRMMOはやってたんだよね?  その当時はどんな感じだったの?  それと比べないとどこがどうすごいのか私にはわからないかも。だってここではこの環境が当たり前だったから」


 すっかりと口調を崩したココットに問われ、可能な限り思い出して見ます。
 鮮明に思い出せましたけどうまく思い出せない風に装いました。
 なんせ10年も前ですからね。鮮明に覚えてる方がおかしいでしょうから。


「そうだね。よく覚えてないけどここまでじゃなかったと思う。最初の方は風が全身に当たって気持ちいい、とかお水の中に手を入れたら冷たくて気持ちいいとか、当たり前のことで感動してたなぁ。リアルでいつでも体験できるのに、おかしいですよね」
「そうですね。でもそれがゲームの中で同様にできるとなると話は違うのではないでしょうか?」
「ふむ。言われてみれば当時はそこに注目されてましたね。ココちゃん賢いです」


 頭をなでなでしてあげます。
 するとくすぐったそうにしながらも、抵抗はしないでちょっと嬉しそうでした。

 話を戻しまして。
 ここでビルド公開をして出来ることを再確認していきましょうか。
 まず最初はココットから。言わずもがな今も【吸血姫】だそうです。このタイプは位階が上がっていくものだそうで、一番上まで来てしまったので、今はジョブのレベリングに終始しているようでした。
 そしてローズさんは【猛獣使い】。MOBに言うことを聞かせて餌やりをしている間は一時的にパーティメンバーに参加させることができるという珍しいジョブ。
 最近派生したものらしく、扱える人はそう多くないです。
 人気は最近派生したばかりのテイマーに取って変わられてますね。こっちは小型MOBを永続的にこき使うジョブです。
 そのかわり餌代が凄いらしく、人を選ぶとも言われて要るらしいですが、本人曰く「いい女は男もペットも取り替えるモノ」だなんて自慢してました。
 メモを取っていると足元で泣きつかれましたが、最後まで書ききって懐にしまいます。慈悲はない。
 そして私の番が回って来ました。


「それで姉さんはどんなのにしたの?」
「そうだよー、リアさんは何にしたのさ!」


 興味津々のココットに、粗探ししてやろうと息巻くローズさん。


「んー、私はこれ見て面白そう!  ってニュアンスで決めたのね。バトルコックっていうジョブで……」
「あっ……まぁ、うん。種族リセットは無料ですので、はい。今回がダメでもやり直しは効きますよ、うん」
「なんでしょう、ココちゃんのその言葉の濁し方。少々引っかかりますね」
「掲示板での評価は下から数えた方が早いやつだね。扱える人が居ないだけで弱くはないよ」
「ちょっと、ローズさん!」
「ははーん、成る程、そういう事ですね。ココちゃんの歯切れが悪い理由がわかりました。つまり万人受けはしない類だと?」


 無言でしたがココットは肯定するように頷きました。分かりやすいですね。
 まぁここはお姉さんに任せてくださいよ。

 ジョブLV1で扱えるスキルは塩コショウとタコ糸ですか。確かにこれは厄介ですね。ですが……

 《塩コショウ:肉の美味しさを引き出す》
 ・MPを1消費して下拵えをする。
 ・討伐前に対象へ使用する事で下拵えした肉がドロップする。

 《タコ糸:魔法のタコ糸を生成》
 ・MPを消費してタコ糸を生成、糸の長さによって消費するMPが変わる。
 ・料理前に使用することによって肉の形を整える。

 あらあら、これは良いですね。実に私向けと言えます。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...