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序章
ゲームへのお誘い
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茉莉さんが何を言いたいかさっぱりわからない。
昔から彼女は直接答えを教えてくれず、こうやって回りくどく問いかけて私に考えるように促してくるタイプでした。
つまり答えはすぐそこにある。
諦める前に調べてみろと勧めてくれているのでしょう。
小包を改めて調べてみると、確かに消印は両親の運営している会社ではなく、どこかで聞いたことのあるような社名。
しかしそれがどこかは思い出せない。ヒントはどこかにないものかしら?
駄目元で聞いてみましょう。
「茉莉さん、ヒントをお願い!」
「祐美のその様子だとお見合いの為のアイテムではなかった……そうだね?」
「う、うん」
「では答え合わせと行きましょうか。EM社。この名前に聞き覚えは?」
クイズ形式ですか?
しかし私の記憶の引き出しは万能ではありません。それに彼女は失敗してもお母様のように叱りつけてはこない優しい方です。ここはひとつヒントを頂きましょう。
「うーん……どこかで聞いたことはあるのよ? でもどこでかはさっぱり思い出せないの。私ったらダメね、いつも誰かを頼ってしまうわ」
「決断するのが早いわよ、祐美。出会った頃は決断すら出来なかったから成長を喜ぶべきかしら? ううん、甘やかしてちゃ駄目ね。
まずヒント1。この会社は10年前にヒットを飛ばしたゲーム会社の開発、運営をしていました」
「10年前……ゲーム……茉莉さんと出会ったゲームがあるわね。確かimagination…想像する、βrave…勇気。でしたっけ? ごめんなさい、私にはそれしかわからないわ」
「それだけわかれば十分。正解はズバリそこなのだから」
「え?」
「あたしたちが当時電脳空間で出会ったあのゲーム。その開発と運営を手がけている会社こそEM社なのよ」
「ふぅん」
「おや、興味がない返事」
そりゃ、ね。
「今更ゲームだなんてしている暇無いもの。お飾りとはいえ社長としての責務もあるし、日程が近づいてきてるお見合いに合わせて予定も合わせなくちゃ行けないし。それこそ学生時代の頃のように自由な時間なんて……」
「それがあると言ったら?」
ほほう?
「……詳しく聞きましょう」
「お、いい食いつき。好奇心旺盛なのは変わらないね」
茉莉さんはそう言って茶化してきますが、私にとって彼女との会話は唯一の癒しです。とはいえお互い社会人として社会の歯車を全うする責務があります。
こうして会話を得る時間もあまり許されてません。一時でも長くこの時間を共有したい。その思いで興味のない話にでも食いつた次第です。
「それこそフルダイブの電脳空間よ、祐美。今の加速された電脳空間ではリアル4時間でゲーム内で一日なんて普通でね。一日で6日間遊べるなんて事もできちゃうんだ」
私がぼーっとしている間に技術はそんなにも進歩していたんだ。
「驚いてるでしょ?」
「わかります?」
「あたしが祐美と何年の付き合いだと思ってるのよ」
私の事はなんでもお見通しか。やっぱりこの子には敵わないなぁ。
「ははー。私めを真に理解してくれるのは茉莉様だけでございます。この人形姫に下知を与えてくださいませー」
「いつの時代よ、それ?」
「あはは、わかんない。多分時代劇の影響。お見合い相手の方が好きだから知っとけってお父様が」
「ふふ、おかしい。祐美は昔のままね」
「そんなことないですよ? 私も日々成長してるんです。こう……ね?」
なにかの成長を示すように言おうとしたところで何も出てきません。どう説明すべきでしょうか。口に出せないでいると彼女は爆弾を落としました。
「おっぱいは大きくなった?」
「…………」
「…………」
「……電話を切りたく、いえ……叩きつけたくなるのでそのお話は日を改めてお願いします」
「……ちっぱい(ボソッ)」
ガーン……この子、言ってはならないことを口にしてしまいましたね。持つべきものの余裕でしょうか。茉莉さんはそれはもう大きなおっぱいの持ち主です。嫉妬するのすら馬鹿らしくなるほどのサイズ差に悔しさを通り越して諦めの境地に晒されてしまいます。しかし言われっぱなしでは黒桐の一人娘として示しがつきません。ここは切り札を切りましょう。
「ごめんなさい、茉莉さん。私、急用を思い出しましてこの話は日を改めてする事にしませんか?
ええ、今すぐに売りに出したい株式がありまして」
「すとーーっぷ! そうやって問題を後回しにするのは祐美の悪い癖よ?
まさかとは思うけど祐美の所持しているウチの株式の売却でも考えているんじゃないでしょうね?
それだけは絶対阻止してやるわ! あたしとダーリンとの未来のためにも!」
「私より旦那さんを取るんだ……」
「あったりまえでしょ! ようやく掴んだ幸せなの。いくら親友といえどこればかりは譲れないわ」
「うわーーん、茉莉さんのばかーーーー、しんじゃえーーー」
「バカはどっちよ祐美! あんたも良い歳した大人なんだからいつまでもそんなみみっちぃこと言ってないでさっさと良い男捕まえてきなさいよ!」
「だってーー、だってーー、うわぁあぁぁあん」
「そうやって泣けば許してくれると思ったら大間違いよ。そんなだからいつまでたっても自立出来ないんじゃない!」
「どうすれば良いの?」
「それぐらい自分で考えなさいよ」
「うわぁん、茉莉さんがいじめる~」
「人聞きの悪いこと言わないの。それと祐美、今の嘘泣きでしょ?」
おや、私の演技はバレてしまったようですね。結構迫真な演技のつもりでしたのに。
「あらバレました?」
「こんな大根役者見たことないわよ? うちの近所のガキンチョの方がいくらかマシな演技するっての」
「うぐっ」
「それよりも祐美!」
「ひゃい!」
「あたしと一緒にVRで遊ばない?」
「……はい?」
話が見えてこないのでなんのことかと伺うと、送られてきた小包に同封されていたのはEM社が新たに手がけた、この度新しく生まれ変わった作品、<Imagination βrave>の正統ナンバリングタイトル<Imagination βrave Burst>その告知であった。
クローズドβを好評のまま終えて、本サービス開始前にオープンβを多方面に向けて実施。
そして私達前作プレイヤーでも特に種族貢献度上位10名に優先テスト権のシリアルと、特別に前作データの一部引き継ぎがあるとのこと。
そして種族貢献度No.1のキャラクターは公式専用NPCとして登録されることになったのだとか。
そしてNPC化したプレイヤーのスキルシステムを統合、エクストラジョブとして再構築。
ジョブというのは今作から実装されたもので、今の時代に合わせたようなものだと彼女は弁舌を披露しました。
要約すれば、私と茉莉さんのデータがNPC化されますよ、エクストラジョブ化されますよとのお知らせが含まれてました。はぁ、感慨深いものですね。
それに件のテスト期間は今から9日後の火曜日からです。どう時間を融通させても初めからインすることなんて出来そうもありません。お飾りとはいえ社長という身分。当然、出社しなければいけません。ここは彼女のお話を聞かなかった事にしてしまいましょうか。それが良いですね。だって私も今週は特に忙しいですし、ご縁がなかった事と切り出しましょう。
「祐美……あんた今どう断ろうか必死に考えてたでしょ?」
「!」
「どうしてわかったか、って言いたげね。皆まで言わなくても分かるわ。それこそ何年の付き合いよ」
「そうでした」
「そこで相談なんだけど、あんた今が最後のチャンスだってさっき言ってたでしょ?」
「はい……一人で居られる時間も残り僅かとなりました」
「そこで息抜きも必要かと思ってね、お誘いしたわけよ」
「息抜き……ですか?」
「うん。あたしも最近ダーリンが構ってくれなくて寂しいの。ご近所さんを巻き込むのもアレだし、どうせなら昔のあたしを知ってる祐美のほうがいいかなって」
「茉莉さん……まだ猫かぶってたんですね。人のこと言えないじゃないですか、まったく」
「にゃはは。照れるぜぃ」
「褒めてません」
「そこでさ、がっつりやるんじゃなくて、本当に息抜きで遊びたいと思ってるの。あたしはまったく新しい種族で遊ぶつもり。祐美はどうする? 考えるだけでも楽しい時間を過ごせると思うのよ」
「楽しく……遊ぶ?」
「すぐに答えは出さなくてもいいわ。ダメ元でのお誘いだし。いつでも待ってるから」
ここで引いて来るあたり流石は茉莉さん。すっかりその気でいる私から敢えて言葉を引き出そうとしているのがわかります。
答えはもう出てます。私はそのことを伝えると彼女は嬉しそうな声色で電話を切りました。次に会う時が楽しみです。
ゲーム……かぁ。
本当に久しぶりです。
やると決めてしまった以上、黒桐の娘として恥ずかしい真似は出来ませんね。
今はもう子供ではなく責任のある身なのですから。
さて、そうと決まれば早速登録だけでもしておきましょう。
パソコンを起動して専用アドレスから公式ホームページを開きます。
ありました……もう一般公募の受付は終了しているみたいですね……その為の専用シリアルですか。運営さんも粋な計らいをしてくれるものですね。
専用シリアルを打ち込むと、当時のプレイヤーネームとキャラクターモデルがくるくる360°回転し、そして登録ありがとうございますの文字が上部に記されていました。
名称:『微笑みの』ノワール
称号:英雄 / 破壊神 / 災害指定精霊
種族:精霊 / ドライアド
LV:200
HP:10(固定)
MP:23150(常時回復)
ST:なし
EN:なし
知力:1050
■成長ステータス
MP+100
知力+50
□未成長ステータス
HP / 筋力 / 耐久 / 精神 / 器用 / 敏捷 /幸運
■種族特性
装備化[背] / 常時MP回復 / 状態異常無効 / 月、陽、水属性ダメージ吸収 / 地属性ダメージ無効
歩行不可 / 装備不可 / アイテム入手不可 / 火属性ダメージ10倍
■種族固有スキル
ノック/ ホール / ショック / スライド
■ワードスキル[10/10]
糸 / 鋼 / 斬 / 軟 / 断 / 透 / 掴 / 縫 / 纏 / 編
ああ、懐かしいですね。こんなでしたこんなでした。少し称号に気になるのがありますが、あれは事故です。まるでこちらが悪いみたいな感じですけど、少し悪意がある称号が多いんですよね、このゲームって。
登録完了と共にロード画面が現れます。
パソコンにVRマシン専用メモリを差し込んでダウンロードして待ちます。
この作業ばかりは10年経とうと同じですね。
終了まで5時間ですか……相変わらずの重さです。
当時の技術ですら8時間かかるようでしたし……あの頃はいつの間にか起動しててびっくりしたのを思い出します。
それが普通なのかとフレンドになったばかりのマリーに聞いたら異常だって言われて驚いたのが今では随分と懐かしいです。
ふふ、システムもそうですけど色々なことが初めて尽くしのお嬢様には刺激の強いものでした。
ああ、今日はもう眠れませんね。
遠足前の園児か! と茉莉さんにはよく突っ込まれていましたが、その意味がいまだにわかりません。検索しても出てこないんですよね。
明日のことは明日の私が考えてくれるでしょう。
まずはダウンロードが終わるまで、情報収集でもしましょうか。
昔から彼女は直接答えを教えてくれず、こうやって回りくどく問いかけて私に考えるように促してくるタイプでした。
つまり答えはすぐそこにある。
諦める前に調べてみろと勧めてくれているのでしょう。
小包を改めて調べてみると、確かに消印は両親の運営している会社ではなく、どこかで聞いたことのあるような社名。
しかしそれがどこかは思い出せない。ヒントはどこかにないものかしら?
駄目元で聞いてみましょう。
「茉莉さん、ヒントをお願い!」
「祐美のその様子だとお見合いの為のアイテムではなかった……そうだね?」
「う、うん」
「では答え合わせと行きましょうか。EM社。この名前に聞き覚えは?」
クイズ形式ですか?
しかし私の記憶の引き出しは万能ではありません。それに彼女は失敗してもお母様のように叱りつけてはこない優しい方です。ここはひとつヒントを頂きましょう。
「うーん……どこかで聞いたことはあるのよ? でもどこでかはさっぱり思い出せないの。私ったらダメね、いつも誰かを頼ってしまうわ」
「決断するのが早いわよ、祐美。出会った頃は決断すら出来なかったから成長を喜ぶべきかしら? ううん、甘やかしてちゃ駄目ね。
まずヒント1。この会社は10年前にヒットを飛ばしたゲーム会社の開発、運営をしていました」
「10年前……ゲーム……茉莉さんと出会ったゲームがあるわね。確かimagination…想像する、βrave…勇気。でしたっけ? ごめんなさい、私にはそれしかわからないわ」
「それだけわかれば十分。正解はズバリそこなのだから」
「え?」
「あたしたちが当時電脳空間で出会ったあのゲーム。その開発と運営を手がけている会社こそEM社なのよ」
「ふぅん」
「おや、興味がない返事」
そりゃ、ね。
「今更ゲームだなんてしている暇無いもの。お飾りとはいえ社長としての責務もあるし、日程が近づいてきてるお見合いに合わせて予定も合わせなくちゃ行けないし。それこそ学生時代の頃のように自由な時間なんて……」
「それがあると言ったら?」
ほほう?
「……詳しく聞きましょう」
「お、いい食いつき。好奇心旺盛なのは変わらないね」
茉莉さんはそう言って茶化してきますが、私にとって彼女との会話は唯一の癒しです。とはいえお互い社会人として社会の歯車を全うする責務があります。
こうして会話を得る時間もあまり許されてません。一時でも長くこの時間を共有したい。その思いで興味のない話にでも食いつた次第です。
「それこそフルダイブの電脳空間よ、祐美。今の加速された電脳空間ではリアル4時間でゲーム内で一日なんて普通でね。一日で6日間遊べるなんて事もできちゃうんだ」
私がぼーっとしている間に技術はそんなにも進歩していたんだ。
「驚いてるでしょ?」
「わかります?」
「あたしが祐美と何年の付き合いだと思ってるのよ」
私の事はなんでもお見通しか。やっぱりこの子には敵わないなぁ。
「ははー。私めを真に理解してくれるのは茉莉様だけでございます。この人形姫に下知を与えてくださいませー」
「いつの時代よ、それ?」
「あはは、わかんない。多分時代劇の影響。お見合い相手の方が好きだから知っとけってお父様が」
「ふふ、おかしい。祐美は昔のままね」
「そんなことないですよ? 私も日々成長してるんです。こう……ね?」
なにかの成長を示すように言おうとしたところで何も出てきません。どう説明すべきでしょうか。口に出せないでいると彼女は爆弾を落としました。
「おっぱいは大きくなった?」
「…………」
「…………」
「……電話を切りたく、いえ……叩きつけたくなるのでそのお話は日を改めてお願いします」
「……ちっぱい(ボソッ)」
ガーン……この子、言ってはならないことを口にしてしまいましたね。持つべきものの余裕でしょうか。茉莉さんはそれはもう大きなおっぱいの持ち主です。嫉妬するのすら馬鹿らしくなるほどのサイズ差に悔しさを通り越して諦めの境地に晒されてしまいます。しかし言われっぱなしでは黒桐の一人娘として示しがつきません。ここは切り札を切りましょう。
「ごめんなさい、茉莉さん。私、急用を思い出しましてこの話は日を改めてする事にしませんか?
ええ、今すぐに売りに出したい株式がありまして」
「すとーーっぷ! そうやって問題を後回しにするのは祐美の悪い癖よ?
まさかとは思うけど祐美の所持しているウチの株式の売却でも考えているんじゃないでしょうね?
それだけは絶対阻止してやるわ! あたしとダーリンとの未来のためにも!」
「私より旦那さんを取るんだ……」
「あったりまえでしょ! ようやく掴んだ幸せなの。いくら親友といえどこればかりは譲れないわ」
「うわーーん、茉莉さんのばかーーーー、しんじゃえーーー」
「バカはどっちよ祐美! あんたも良い歳した大人なんだからいつまでもそんなみみっちぃこと言ってないでさっさと良い男捕まえてきなさいよ!」
「だってーー、だってーー、うわぁあぁぁあん」
「そうやって泣けば許してくれると思ったら大間違いよ。そんなだからいつまでたっても自立出来ないんじゃない!」
「どうすれば良いの?」
「それぐらい自分で考えなさいよ」
「うわぁん、茉莉さんがいじめる~」
「人聞きの悪いこと言わないの。それと祐美、今の嘘泣きでしょ?」
おや、私の演技はバレてしまったようですね。結構迫真な演技のつもりでしたのに。
「あらバレました?」
「こんな大根役者見たことないわよ? うちの近所のガキンチョの方がいくらかマシな演技するっての」
「うぐっ」
「それよりも祐美!」
「ひゃい!」
「あたしと一緒にVRで遊ばない?」
「……はい?」
話が見えてこないのでなんのことかと伺うと、送られてきた小包に同封されていたのはEM社が新たに手がけた、この度新しく生まれ変わった作品、<Imagination βrave>の正統ナンバリングタイトル<Imagination βrave Burst>その告知であった。
クローズドβを好評のまま終えて、本サービス開始前にオープンβを多方面に向けて実施。
そして私達前作プレイヤーでも特に種族貢献度上位10名に優先テスト権のシリアルと、特別に前作データの一部引き継ぎがあるとのこと。
そして種族貢献度No.1のキャラクターは公式専用NPCとして登録されることになったのだとか。
そしてNPC化したプレイヤーのスキルシステムを統合、エクストラジョブとして再構築。
ジョブというのは今作から実装されたもので、今の時代に合わせたようなものだと彼女は弁舌を披露しました。
要約すれば、私と茉莉さんのデータがNPC化されますよ、エクストラジョブ化されますよとのお知らせが含まれてました。はぁ、感慨深いものですね。
それに件のテスト期間は今から9日後の火曜日からです。どう時間を融通させても初めからインすることなんて出来そうもありません。お飾りとはいえ社長という身分。当然、出社しなければいけません。ここは彼女のお話を聞かなかった事にしてしまいましょうか。それが良いですね。だって私も今週は特に忙しいですし、ご縁がなかった事と切り出しましょう。
「祐美……あんた今どう断ろうか必死に考えてたでしょ?」
「!」
「どうしてわかったか、って言いたげね。皆まで言わなくても分かるわ。それこそ何年の付き合いよ」
「そうでした」
「そこで相談なんだけど、あんた今が最後のチャンスだってさっき言ってたでしょ?」
「はい……一人で居られる時間も残り僅かとなりました」
「そこで息抜きも必要かと思ってね、お誘いしたわけよ」
「息抜き……ですか?」
「うん。あたしも最近ダーリンが構ってくれなくて寂しいの。ご近所さんを巻き込むのもアレだし、どうせなら昔のあたしを知ってる祐美のほうがいいかなって」
「茉莉さん……まだ猫かぶってたんですね。人のこと言えないじゃないですか、まったく」
「にゃはは。照れるぜぃ」
「褒めてません」
「そこでさ、がっつりやるんじゃなくて、本当に息抜きで遊びたいと思ってるの。あたしはまったく新しい種族で遊ぶつもり。祐美はどうする? 考えるだけでも楽しい時間を過ごせると思うのよ」
「楽しく……遊ぶ?」
「すぐに答えは出さなくてもいいわ。ダメ元でのお誘いだし。いつでも待ってるから」
ここで引いて来るあたり流石は茉莉さん。すっかりその気でいる私から敢えて言葉を引き出そうとしているのがわかります。
答えはもう出てます。私はそのことを伝えると彼女は嬉しそうな声色で電話を切りました。次に会う時が楽しみです。
ゲーム……かぁ。
本当に久しぶりです。
やると決めてしまった以上、黒桐の娘として恥ずかしい真似は出来ませんね。
今はもう子供ではなく責任のある身なのですから。
さて、そうと決まれば早速登録だけでもしておきましょう。
パソコンを起動して専用アドレスから公式ホームページを開きます。
ありました……もう一般公募の受付は終了しているみたいですね……その為の専用シリアルですか。運営さんも粋な計らいをしてくれるものですね。
専用シリアルを打ち込むと、当時のプレイヤーネームとキャラクターモデルがくるくる360°回転し、そして登録ありがとうございますの文字が上部に記されていました。
名称:『微笑みの』ノワール
称号:英雄 / 破壊神 / 災害指定精霊
種族:精霊 / ドライアド
LV:200
HP:10(固定)
MP:23150(常時回復)
ST:なし
EN:なし
知力:1050
■成長ステータス
MP+100
知力+50
□未成長ステータス
HP / 筋力 / 耐久 / 精神 / 器用 / 敏捷 /幸運
■種族特性
装備化[背] / 常時MP回復 / 状態異常無効 / 月、陽、水属性ダメージ吸収 / 地属性ダメージ無効
歩行不可 / 装備不可 / アイテム入手不可 / 火属性ダメージ10倍
■種族固有スキル
ノック/ ホール / ショック / スライド
■ワードスキル[10/10]
糸 / 鋼 / 斬 / 軟 / 断 / 透 / 掴 / 縫 / 纏 / 編
ああ、懐かしいですね。こんなでしたこんなでした。少し称号に気になるのがありますが、あれは事故です。まるでこちらが悪いみたいな感じですけど、少し悪意がある称号が多いんですよね、このゲームって。
登録完了と共にロード画面が現れます。
パソコンにVRマシン専用メモリを差し込んでダウンロードして待ちます。
この作業ばかりは10年経とうと同じですね。
終了まで5時間ですか……相変わらずの重さです。
当時の技術ですら8時間かかるようでしたし……あの頃はいつの間にか起動しててびっくりしたのを思い出します。
それが普通なのかとフレンドになったばかりのマリーに聞いたら異常だって言われて驚いたのが今では随分と懐かしいです。
ふふ、システムもそうですけど色々なことが初めて尽くしのお嬢様には刺激の強いものでした。
ああ、今日はもう眠れませんね。
遠足前の園児か! と茉莉さんにはよく突っ込まれていましたが、その意味がいまだにわかりません。検索しても出てこないんですよね。
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