【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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二章 主従

ルード、己の実力不足を嘆く

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「新しい従者でも出来たの?」

 屋敷から出ていく集団を窓から見下ろし、朝食の支度ができたと迎えにきたメイドへと呼びかけるルード。

「ああ、あの方々ですか。コモーノ様がどこかから拾って来たようでして、主人の部下にどうだと一方的に押し付けてきたのですわ。今は雇用せずに使用期間として小間使いを命じています」

「へぇ、部下ねぇ。アルフも十分に強いでしょ? まだ必要?」

「お分かりになられますか?」

「そりゃもちろん。直接剣を交えたわけではないけどね、隙がなかった。ああ言うのは実際に戦ったら非常に厄介な立ち回りをする。僕でも苦戦しそうだ」

 メイドのサリィは苦笑するばかりで言葉を濁す。
 ルードとアルフレッドのどちらが強いか?
 気にならないわけではないが、比べたところで誰も得をしない。ルードはただでさえ王族だ。そんな相手に怪我を負わせたとあっては色々問題が出てくる。勝てる相手でも気を使う。
 そんな勝負は勝負にならない。だから戦うのは無駄だと結論づける。

 屋敷で引き取った時は随分と弱々しかったルードだが、健康になった今、寝てばかりもいられないと体を動かしたそうにしていた。

「でしたらリハビリも兼ねて素振りでもしてみたらいかがです? 体力も随分とお戻りになったようですし」

「なら少し体を動かさせてもらおうかな」

 ルードにしてみたら自由に動いてもいいと許可を貰えるのはありがたいことだった。
 同年代の少年、アルフは日中忙しそうにしてるし、毒殺の心配がなくなっただけでも随分と心に余裕ができた。
 その分暇を持て余しているのだ。

「でしたら刃を落とした武器をいくつか見繕って置きます」

「何から何まで世話をかける」

「御礼ならコモーノ様に直接お願いしますわ」

 王になって臣下に引き取れ。サリィの願いはそこに尽きると言わんばかりだ。その為にも弟との継承争いに勝たなくてはならないと気を引き締めるルード。

 サリィの後に続いて食堂でアルフと共に食事をした。
 王宮での食事に比べたら随分と質素な品々。
 しかし栄養価は高く、味は野手溢れる風味。
 平民では決して口にできぬ香辛料も複数使われており、ルードに気を使っているのが窺えた。

 もっと気楽に話しかけてくれたらいいのにと思いつつも、そうされたらされたで不敬だぞと言ってしまうそうになるのも事実。
 人の上に立つものと、王に傅く者では躾も異なる事を一緒に暮らす上で痛感するルード。
 今一つ物足りない暮らしでも、最大限の譲歩の上に成り立っているのだ。

「ルード様、ご気分はいかがですか」

「お陰様で随分と良くなったよ。随分と体が鈍っているので食後にでも軽く体を動かそうと思ってな」

「あぁ、それは名案ですね。できれば僕もご一緒させていただきたいのですが……」

「任務を優先してくれて構わないよ。僕の暇つぶしに付き合って貰ってはコモーノからの信頼が取れぬだろう? むしろこれ以上してもらうのも悪い」

「そう言っていただけて何よりです。では、今日のスイーツタイムと参りましょうか」

「お、今日は何が出るかな?」

 屋敷での暮らしでルードはすっかりアルフからのもてなしに満足していた。食後のスイーツタイムは憩いのひと時だ。
 王宮では月に一度コモーノがやってきた時に一緒になって食したが、ここでは二日に一度のご褒美。

 簡易的な焼き菓子の日もあれば、クリームを使ったその日のううちに食べなければ悪くなってしまうものも取り扱っていた。
 中でもルードの好みはトリュフチョコレートに定まっている。

 それ以外の菓子は今まで受け付けなかったが、コモーノの作る菓子なら割と何でも口にできた。まるで好みを把握されてるかのような安心感。
 だが同時に怖くもなる。
 コモーノは本館に居て、別館の方には顔を見せないのに、まるで今日の気分まで予測されて菓子を提供するのだ。それは予測を超えて余地の域まで達している。
 そんな相手が仲間になるのは頼もしい反面、怖くもあった。

「ほう、これはこれは」

 だが、口に入れた瞬間不安は綺麗さっぱり拭い去られる。
 最初に飛び込んで来たのは香ばしさ。
 ナッツを炒ったような独特の風味。
 バタークリームが口内に広がり、それを紅茶で流し込むと幸せな気持ちで一杯になる。もう怖いとはかけらも思わない。
 ただただ脳内にもっとこの時間が続いてほしいと願うだけである。

「これは……僕の好物が塗り替わるかもしれないな」

「お気に召しましたか?」

「この菓子の名は、何と?」

「エクレアにございます」

「覚えておこう」

 スイーツタイムを終えると、それぞれの時間を費やす職務に戻る。ルードもいても経っても居られず、素振りをしに庭先に出た。

 壁に立てかけられている木を削り出して作った剣や槍のような長物を手に取り、気分によって素振りをする。
 一心不乱に剣を振った後、気分を変えて槍の型を真似てみた。

 トレーニング相手はアルフの幻影。
 剣を手にして対峙した時、軽くあしらわれる未来が見えた。
 距離が足りない、何よりもそう思う。
 ならば槍ではどうだ? と持ち替えて振るってみても、攻略できずに時間だけが過ぎた。

 日がすっかり傾く頃、サリィから呼びかけられてルードは時間の経過を知る事になる。
 どれほど没入していたのだと、思い返して恥ずかしくなった。
 もし魔法を使っても、アルフに遠く及ばない未来だけがルードに強く刻まれる。

 正直に言って、自分はこんなに弱かったのか?
 とコモーノに会ってから驚かされて居る。

 デビュタントでの失態は王宮で知れ渡ったが、実際のところは功を焦って取り乱しただけ。それを取り繕うようにスイーツで婦人達を魅了した点は大きい。
 実際に女性向けだからと悪様に悪く言う子息達も多いが、甘いものが苦手なルードが口にしても絶賛する程の立体的な味の構成は唸るほかなかった。

 だから軍閥でありながら剣の腕ではなく菓子の技術で勝負してるのは勝負から逃げてるだけだと勝手に思い込む。

 もしこれがコモーノの狙いだとしたらどうだ?
 ルード達貴族子息は全員コモーノの演技に騙されて居ると言うことになる。

 それをアルフを前にして痛感した。

 それは屋敷に世話になって数日後のことであった。
 何の気なしにアルフがコモーノに就く経緯を聞いてみたことがあった。
 命の危機にあった時に手を差し伸べてくれた、命の恩人がコモーノだと聞く。

 アルフ程の達人が命の危機に瀕する状況とはどんなものだ?
 そしてその状況から救い出すほどの実力をコモーノが持って居ると聞いて、自分はなんて甘えて居るのだろうと悔しくなったのを思い出す。

 王子だから、命を狙われるなんて言うのは甘えだ。
 軍閥の家系も、同年代で命のやり取りをして居るのだ。

 妹から伝え聞いた話では、コモーノはつい最近弟をモンスターとの戦闘で失って居るらしい。
 アルフは弟の面影を見て引き取ったのだと言う。

 既にいくつかの死線を乗り越えて居るコモーノ。
 そんな相手を従者にしようと言うのだ。
 ルードはもっともっと強く、偉くなろうと訓練に励んだ。

 訓練を始めて一週間。
 新しい従者ともすっかり顔馴染みとなった。
 美しい顔立ちの戦士達は、どんな命令をアルフから下されたのか興味本位で聞いたことがある。
 だからその種族名を耳にした時、脳が理解することを拒んだ。


「え、ブラックグリズリー?」

「ああ、ここら辺では木材をダメにする害獣ってことです適度に間引いてるよ」

「害獣は害獣だが、人類にとっての脅威ではないのか?」

「まぁ普通はそうなんだろうけどね、ここでは面接のパス要項がソイツのソロ討伐でね」

「ちょっと待ってくれ、理解が追いつかない」

 ルードはおでこを片手で覆って状況整理に努めた。
 ブラックグリズリーとはBランクモンスターでその姿を見つけたら討伐隊が組まれるレベルのモンスターだ。
 それが一匹どころじゃ群れをなして襲ってくると聞いて、なんて危ない立地で暮らしてるんだと悟った。
 美しい少女達は、ルードの反応にやっぱり自分たちの判断は間違ってなかった。
 おかしいのはこの屋敷に住んでる連中の方だって笑い合う。

「あはは、坊やも常識こっち側かい。てっきり非常識向こう側だと思い込んでたよ」

 快活に笑う少女戦士の名はカティラ。
 ルードは一体自分の住んでる場所はどんなところなのか興味を持って、探索についていくことにした。

 そして思いの外実戦で戦えることに納得し、カティラからも一目置かれるようになる。
 それでも、まだまだアルフに届かないと独自の修練に励む。

 いったい軍閥の平均レベルはどのくらいまであるのか、興味の尽きないルードであった。
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