【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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二章 主従

ルードの頼み

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 今日は月に一度の王宮への訪問日。
 すでに行きつけとなっているので父とは城門で分かれてコモーノは厨房に顔を出して最後の仕上げとした。
 今日の持ち込み品はクロカンブッシュ。
 小さいシュークリームを雨でコーティングしてタワーにしたものだ。
 魔法で飴を作って合わせていく作業は、厨房の人々を虜にした。

「よし、完成です。ちょっと余っちゃった分は厨房の方々で消化しちゃってください」

「いつも悪いね」

「こちらこそ、正当な評価をしてくれる人は多い方がいいので」

 シュークリームは二ヶ月前には持ってきてたので味の想像はつきやすいだろう。しかし今回のクリームはバタークリーム。
 カスタードクリームと違い、濃厚なコクが口の中に広がるのだ。飴がカリッと食感を彩り、小さいので手が進むのだ。

「マーナ様、お待たせいたしました」

「よく来たわね、待っていたわ」

「いらっしゃいませ、コモーノ様」

「ちょっと、ここの部屋主は私よ? 客のあなたが偉そうにしないでくれる?」

「でも、出来立てを食べたいからとお呼びくださったのはマーナ様ですよね? 本日もご相伴に預かります」

 役得だ、とばかりにカーミが微笑む。
 コモーノによってそれぞれの皿に配膳され、王子様付きメイドに入れてもらった紅茶を頂く。
 ここに来てから飲ませてもらう茶は、王宮御用達と言うだけあって美味しい。

「これ、以前持ってきたシュークリームとは中のクリームが違うのね?」

「苦手な味でしたか?」

「ううん、大人の味っていうのかしら? 甘いだけじゃなく、こう風味? というのがすごくいいわ。お陰であなた以外のお菓子が陳腐に感じちゃってダメなのよね!」

「それは確かにありますね。私はこういった菓子を口にする機会はここでしかないんですけど、あまりお腹にたまらないのに口の中だけにいつまでも残る……余韻と言いますか、これが王族が口にする味なのかと毎度感謝の祈りをあげていますよ」

「それは良かったです」

 お陰で王都の菓子屋からの印象は最悪だ。
 別に商売してるわけでもないのに、やたらと目の敵にされるのだ。王女がわがままなのは今に始まった話じゃないし、それ以外でも菓子は流通してる。ただ、わがままを言う相手がコモーノになっただけ。感謝されこそすれ、咎められる謂れはないのである。

 そんな話をしてる時、ノックの音と王女様の返答。
 中に入ってきたのは第一王子のルードである。
 これもいつも通り。

 コモーノが王宮に通うようになって、茶会に同席するのは何度目か。ある意味で来ると思っていたので準備も怠らない。

「これはこれはルード様。お邪魔しております」

「お邪魔しておりますわ」

 コモーノとカーミが貴族流の挨拶を終え、上座にお迎えする。
 話す内容は近況というか雑談だ。
 体の弱い第一王子にとって、外の情報を仕入れる手段は多いに越した事はないのである。

「そう言えば皆様聞きました?」

 話を振る相手は、いつもカーミから。
 どんな話が出てくるかはその時になってからでないとわからない。取るに足らない領内の噂。今こんな事業をしている。アドバイスがあれば聞きたいという話だ。

 この際マーナ王女は危機に徹する。余計な口を挟んで、恥をかきたくないからだ。そして兄であるルードからいつまでも手のかかる妹だと思われたくないマーナは、この雑談に参加して少しでもいい印象を持たれようと必死に知ったかぶりをした。
 
「大きな亀?」

「霊亀の伝承かな? 父様の書斎で見かけた気がします」

「霊亀ユグドラシル。確か背中に生やした木が世界樹で、その亀が寝床とする場所にマナの恩恵が宿ると言われてるんだったよね?」

「はい。ユグドラシルの麓には、頂上的な力を持つ守護者が住むと言われてますね」

「確か、エルフだったか。そのユグドラシルの目撃情報があった? ではどこに拠点を置くかで戦争になりかねないな」

「むしろその噂の出どころが怪しいですね」

 ルードの知識に感嘆としつつも、噂の出どころが怪しいとコモーノは指摘する。

「ふむ、確かに考えれば考えるほど謎だな。なぜ今その情報が出たか? しかも我々の耳に入らず、下級貴族にのみ伝達されてるのもきな臭い」

「ええ、まるで……」

 どこかの誰かが戦争を仕掛けようと企んで、噂を流したとしか思えない。ルードとコモーノの回答が一致する。

「まさかな」

「机上の空論であれば良いですが……必要ならば動きますよ?」

「そうだな。放っておけば弟との勝負に水を差されそうだ。悪いがコモーノ、頼まれてくれるか?」

「承知いたしました。我が魔剣ジャスティスに誓って」

 ポーズを取り、王族へ忠誠を誓う。
 もちろんポーズだ。それに動くのはコモーノ意外に任せるつもりである。

「それはさておき茶会の続きをしよう。話に夢中になり過ぎて喉が渇いた」

「今お茶をお持ちいたしますわ」

 メイドが立ち上がる。先ほどまで淹れていたティーポッドからではなく、わざわざお湯を沸かしなおして、茶葉を変えた。
 なんら不思議ではないが、コモーノやマーナ、カーミとは全く違う茶葉を取り出すのがおかしい。

 アイコンタクトでカーミに目配せすると、ニコリと微笑んだ。
 第一王子ルードは誰かに命を狙われている。
 まだ子供であるにも関わらず、こうまで執拗に命を狙われるのはあまりにもおかしいとコモーノ達も不審に思っていた。

 そして王女付きのメイドまでもこの態度である。
 まるで王子以外の全てが敵であるような感覚。
 だから紅茶を口にする際は一芝居打つ必要があった。

「そう言えばルード様。実は新しいフレーバーを開発しまして。是非お召しいただければ」

「ほう、お前が持ってきたものか。気になるな。だが念の為解毒はさせてもらうぞ?」

「もちろんでございます。カーミ嬢」

「ええ、では失礼して。アンチドーテ」

 カーミの手に光が集まり、震え、弾けた。
 反応したのはマグカップ。コモーノの持ち込んだフレーバーのグラスではない。

「全く、友の差し入れにこんなに警戒をしなくてはならないとは。王族とは面倒なものだな。うん、美味い」

「御身が大切であればこそにございますよ」

「分かっている。僕にだって自分の責務の重さを十分理解してるさ。だから同時に思うのだ。弟に全て投げ出してしまってもいいかと」

「聞かなかったことにしておきます」

「そうだな。今のは聞かなかったことにしてくれ」

 会話をしつつ、どこかへ連絡を入れようとメイドが怪しい動きをする。そのまま紅茶の替えを持ってくると退室した。
 即座にルードが目配せでコモーノを見やり。
 コモーノがそれに応えて室内の音を漏らさないように魔法を巡らせる。ついでに扉周辺人避けの魔法も使う。
 そこに扉があるのに、意識の外に向かわせる認識阻害の魔法である。

「やはりグルでしたか」

「私には普通だったのにどうしてお兄様だけ?」

「皆は弟を担ぎたいのだろう。これは相当の貴族を抱き抱えてるぞ? さてどうしたものか」

「そうですね、スグエンキルに療養に来られますか? ちょうど父が調薬師を招いて医療の事業をはじめられましたし自然の中で暮らすのも悪くないでしょう」

「ここに居たらいつ殺されるか分かったものではない。いっそ家出するか? だがどうやってこの王宮から逃げ出すかだ」

「でしたらちょうどいい人物が部下におります」

「それは一体?」

「私の信頼のおける部下です。彼に頼んで、ルード様の身代わりになっていただきましょう」

 全員が、どんなことが可能なのかとコモーノを注視する。
 コモーノはどこ吹く風で、三人の視線を受け止めた。

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