【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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二章 主従

アルフレッドの擬鎧大作戦!

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「おぼっちゃま、調子はどうですか?」

「順調……とは言い難いけど歩けるようになったよ。見てて」

 今サリィが声かけしてるのは、本体のアルフレッド。そのすぐ横では椅子に腰掛けたもう一人のアルフレッド、アルフが居た。
 兄からのメッセージを受け、外で活動できるように訓練中である。

 サリィの言葉に応える為、アルフレッドが念を送ると歩き出す。まだ神経の一つ一つまで動かせていないが、人形のようにカクカクとした動きである。まるで銅線を入れて、それを折り曲げしながら無理やり動かした感じでとても不自然だった。
 これを自然になるまで動かすとなると骨が折れる。
 が、穏便に済ませるにはこれしかない。これさえ乗り越えれば、この場に居ながら兄と共に行動できるのだ。

 能力こそ制限されるが、自分でも若干強すぎると思ってたので丁度いいハンデだった。
 従者が主人より目立ちすぎるのも問題だしね。
 アルフレッドはそう考えるなり訓練に身をやつす。

「おぼっちゃまがここまでしないと本家に戻れないというのは、少しおかしい気がします。これもコモーノ様の意地悪なのではないですか?」

 前の兄ならそんな回りくどいことはせず、直接的にダメージを受ける嫌がらせをしてくるだろう。
 だが今の兄から出たアドバイスは、以前までの自身すら知らぬゲームデータ。
 とある男が誰のことを指すかはわからぬが、アルフレッドにとってもこれを知れたのは大きいのだ。

 従者を自在に扱えるようになる。
 これだけでやれることが増える。
 よもやただ兄の従者をするだけにとどまらないほどの恩恵があるのだ。

 だがサリィは今まで散々苦労してきたのに、ここからさらに苦労するのは拷問だ! と言わんばかりだ。

「落ち着いて、サリィ。これは兄さんが僕の身を案じて出してくれた提案でもあるんだ」

「今現在最強のおぼっちゃまを心配ですか?」

「そうだね。僕の使える職能は王家から見たらとても放って置けないものとなっている。なんなら今も延命できてるのは兄さんの配慮と言ってもいいくらいだ」

「スグエンキル家の呪縛は本当におありだと思いますか?」

「魔剣の担い手としての呪縛はありそうなんだよね。兄さんの魔剣ジャスティスの様子を思い出して」

 再び再開した時、今にも飛びかかってきそうなほど震えていた魔剣。もしお菓子で手懐けてなかったら、八つ裂きにされてたのは間違いなくアルフレッドの方だった。それを庇うサリィも同様に始末されていただろう。

「あれはすごく不気味でした」

「それだけ今の僕達が王国にとっての脅威になってるってことだ。僕が廃嫡されるまで、他者の命なんてどうでもいいと思っていたようにね」

「そんなお言葉……」

「事実だよ。実際に僕が爵位を継いだら兄さんは切り捨てるつもりだった。ミラクルが起きて返り討ちにされて正気を取り戻した。僕はアレを幻だなんて思えない。血筋の呪縛は確かにある。兄さんや父様は魔剣士としての宿命を背負われている」

「確かに、追放される前までのおぼっちゃまは何処か非情でした」

「役に立たなかったらサリィも切ってたと思う。そう考えたら追放されてよかったでしょ?」

「そんなこと考えてたんですか!?」

 飛び跳ねるほどに驚く彼女に、アルフレッドは冗談だよ、と溢した。実家のことは何よりも嫡男であった自分がよく分かる。

「だから兄さんのアドバイスは聞いておくべきだ。2度目の面会がないのは、魔剣を抑える余裕がなかったと見るべきだ。一見チャラチャラしてるように見えて、兄さんも苦しんでるんだ」

「そうは見えませんでしたが」

「兄さんの演技に騙されてるね、これは」

 なかなかに役者だな、と認める一方で別人のような振る舞いに両親は気味悪がらないのかと心配になる。
 が、前が悪すぎたので今の方が断然マシかと考えれば腑に落ちた。

「そんなことより訓練、訓練。ゆくゆくは30人くらい操って見せるんだから、一人目で躓いてられないよ!」

「まさかコモーノ様はそこまでお考えで?」

「いや、これは僕が表でいろんなことをしたくて動かすんだ。そのついでに両親と仲直りできたら最高じゃない? 兄さんは僕の為に場を取り持ってくれたんだよ」

「そう考えたら、悪いことのようには思えませんね」

「いいことづくめでしょ? 実際この技術は一体だけに集約するには効率が悪すぎる」

「効率と言いますと?」

「これは見た目こそ人の形をしてるが心臓もない、疲れ知らずの人形なんだ。動いても疲れず、労働力になる。今までサリィに任せきりだった農業もお手伝いできる。いや、させて欲しいんだよ。こもってるばかりじゃ鈍ってしまうからね」

「ですが私一人でも十分ですよ?」

「いや、そういう意味じゃなくて僕に色々農業のことに教えて欲しいんだ。実際、この職能で出来ることは想像を絶する。この基準で外に出て、痛い目を見るのは僕だ。表で活動するときにそれは弊害となる。頼めるかな?」

「そういう事でしたら、このサリィにお任せください」

 ドンと胸を叩く目の前の少女に、よろしく頼むよとアルフレッドは頭を下げた。主人に頭を下げられたとあってはメイドの恥、とばかりに狼狽えるが。今や主従揃って貴族ではない。
 一般庶民の身なので頭を下げて痛むプライドなんてもうないのである。


 それから二ヶ月が過ぎ、身体操作、魔力操作、視覚、聴覚、嗅覚、触覚まで取り込んだアルフ。
 味覚は最後まで取っておこうとまだ実行していなかった。

 自分の手足のように動かせる兵隊と言うのは、考えるまでもなくやばい。ただ集中する為に本体が無力化するので複数同時は相当に気力がいるが、そこは慣れと言うものだろう。

 そしてパメロの案内の元、久しぶりの実家に帰省したアルフを迎えてくれたのは……

「兄さん……」

「久しぶりだな、弟。さてアスティ、こいつは危険か?」

 兄の持つ魔剣が一人でに浮かび上がり、アルフの周りをぐるぐる回る。これでダメだったら即座に切り刻まれてしまうだろう。
 が、特に問題が見当たらなかったようで兄の手元に戻って行った。影の中に溶け込むように消える。

「よかったな。こいつの面接をパスしたって事はオレの付き人として合格って事だ。歓迎するぞ、アルフ」

「うん、ありがとう兄さん」

「おいおい、家では弟として接していいが、外に出たらお前は死んでることになってるんだぞ? 部下として畏まってくれなきゃ困るんだが?」
 
「そこは安心していいよ。僕はそれができないほど愚かじゃない」

「まぁな。お前が愚かだったらまず誘ってない。お前ならこれくらいやるだろうなと信じて情報を渡したんだ」

「そういうずる賢いところ、前の兄さんらしいね」

「バカ言うな。オレは正真正銘コモーノだぞ? ただちょっと考えを改めただけでお前の兄としての記憶までは失ってない」

「追い出したメイド達がそれを聞いてどこまで信じてくれるのやら……」

「そんな弁明したって我が家の信用は地に落ちてるからな。相手を敵とみなしたら一族郎党根切りにするくらいだぞ? 弁明するだけ無駄だ。オレは無駄が嫌いなんだ」

「そうだね。状況に応じて掌を返すメイド。雇っていても損をするのはこちらか」

「唯一最後まで主人と共にいたサリィを合格点にしたら全員失格だろ?」

「確かに。僕にもそうしろと?」

「その為の擬鎧だ」

「まぁ本体が無事ならいくらでも作れるけどね?」

「お前の事だから、従者になる裏で暗躍しそうだが、それは見なかったことにしてやる。けど揉み消せる範囲はあまり多くないからな。やるんならバレないようにやれ」

「ちぇ、お見通しか」

「健康なのに引きこもってる奴の考えなんてお見通しだよ。さぁ、父様と母様がお待ちだ。今日はお前のために豪華メニューを用意したんだからな?」

「それを待ってました。サリィ、行くよ」

「はい、おぼっちゃま」

 従者を率いて、アルフは久しぶりの実家に足を踏み入れた。
 迎えられた家族。一緒に団欒する傍に、謝罪会見のような重苦しい場もあったが、喧嘩両成敗で不問とした。
 そもそも当時の問題はアルフレッドの方にあったと今ならわかる。

「その事はもういいんです。僕は平気です。父様も気になさらないでください」

「アルフレッド……」

「それに今の僕は廃嫡されて正式な家族ではありません」

「あなた、今すぐにアルフレッドちゃんの戸籍を取り戻してちょうだい! 今すぐに!」

「無理だ。貴族名鑑は王様がお目通しするのだぞ? そうポンポンと外したり戻したり出来ぬのだ。当主としての信用がただでさえ地に落ちてるのだぞ?」

「じゃあ、お家にいるときだけでも家族として過ごすくらいは許してくれるわよね?」

 ね、に対する熱のこもりようと圧力よ。
 これではどちらが当主かわからない。

「わかった、わかった! アルフレッドお前は家にいる時だけ嫡男と同じように扱う。ただ表では、不甲斐ない父ですまぬな」

 父が平謝りするのは、母から口を聞いて貰えなくなるからである。呪縛が強まってる時は気にも留めないが、平時は何かと気弱な父である。
 そんな父の意外な一面が見れて、アルフは擬鎧を物にしてよかったと思えた。

 稼働時間は一日5時間がせいぜい。
 事前に兄に伝えたら、それくらいの段取りはしてやると、なんとも頼もしい返事がきて敵わないなと思うアルフレッドであった。


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