【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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一章 家族

わがまま王女様

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 会場へ戻ると、何やら騒がしい。
 騒ぎの中心にはまだ幼い少女が一人。
 持ち込んだ品々に感動してるのかと思ったが、どうやら数が足りないことに激怒している様だった。
 責任者を呼べと声を荒げているところへ、母アレサが対応する場所へとコモーノは駆けつける。

「ただいま戻りました母様。この騒ぎは一体……」

「コモーノちゃん、ちょうど良いところに!」

「貴方がこの持ち込み品の責任者?」

 騒ぎの中心に居たのはまだ幼いながらもこの会場の誰よりも偉そうな少女だった。身なりも煌びやかで、それだけで立場が上である事を示している。釣り上がった目尻、そして烈火の様に燃え上がる瞳。これは対応を間違えれば禍根を残しそうだと瞬時に悟る。

「はい、私がこの場にこれを持ち込んだ当人です。何か味に問題はおありでしたか?」

「あなた、一体どういうつもり!?」

「どういうつもりとは?」

 どこに激怒してるのか焦点を絞る為、敢えて聞き返す。
 なんでそれで理解できないのかと少女はより激昂し出す。

「あなたね、たったこれっぽっちの持ち込み量で王女であるこの私を満足させることができると思っているのかしら?」

 王女様だったのか、とようやくその時になって気がつくコモーノ。
 第一王子と第二王子はゲームにも出てきたが、王女の話は話題にも上らなかった為だ。
 それに気がついたコモーノはどうやって弁明するか頭を働かせる。

「数に関しては材料に限りがあるので申し訳ありません。しかし持ち込んだ時はそれなりに数をご用意しました」

「いくつ?」

「10種30個づつ、計300になります。生物ですので日持ちもしません。もしこちらによこされた数が少なかった場合、毒味役が多めにいただいた可能性があります。我が家を責めるのはお門違いかと」

「たった30!? 少ないわ!」

「お気に入り頂き恐悦至極にございます。しかしながら我が家の財政ではこれ以上を整えるのは非常に厳しく……」

「そう、今日は貴族しか呼んでないとお母様から聞いたのにおかしな事ね。あなた名は?」

「コモーノ。コモーノ=スグエンキルにございます、王女様」

「スグエンキル? スグエンキルってあの軍閥の?」

「その軍閥の息子にございます。職能に魔剣士を頂き、未熟ながらこの度馳せ参じました」

「そうなのね。じゃあ私がもらうというわけにもいかないわね。王国の剣ならお兄様が側に置きたがるもの」

「そうですね」

「でも私、あなたの作ったお菓子が気に入ってしまったの。どうしたら良いの?」

「では、私に王女様の菓子を作る名誉をいただけますか?」

「良いの?」

 パチクリ、と目を見張る王女様。
 さっきまでの勢いは止まり、瞳が右往左往する。
 今までは王族としての我儘を通した。
 そして現在、お互いの立ち位置を知り、自分の我儘を通せる相手ではないと知ったマーナ。
 だからコモーノの申し出を受け入れるべきか断るべきかで悩んでいた。

 もしコモーノが軍閥でもなんでもない上位貴族の次男坊なら王女権限でどうとでも出来た。
 だが盟約で縛られた軍閥に対して自由に指示できる立場を持たぬマーナは、恐る恐るコモーノの申し出を尋ねたのだ。

 イエスかノーかで言えば断然イエスよりのマーナである。

「まだ学園に行くまでに時間がございます。それに、王女様にお墨付きをいただければ私の菓子は王都中に知れ渡ります。私にとっても大きな恩恵があるのです」

「ならお願いしようかしら。コモーノ=スグエンキル。今日からあなたを私専属の菓子職人として任命するわ!」

「もったいなきお言葉にございます」

 コモーノの大立ち回りを見て、婦人たちの噂が加速する。
 たいそうな美味である菓子を作る腕もさることながら、王女に取り入る器量。そしてデビュタントとは別人の如く弁が立つ。
 あれが本当に無能なスグエンキル子息か?
 
 今まで無能だからと巻き込まれぬ様に遠巻きに見ていた貴族達がここぞとばかりに詰め寄ってくる。つい先日までのスキャンダルなどまるでなかった様な手のひらの返しぶりだ。
 そんな状況も意に返さず、母アレサはコモーノに問う。

「コモーノちゃん、いつの間に王女様とお知り合いになったの?」

「流石に今日初めてお会いしましたよ。緊張して吃ってしまわないかドキドキしていましたが、なんとか乗り越えることができました」

「そうなの? 随分と親しくお話ししてたから、てっきりどこかでお会いしていたのかと思ったの。でも偉いわ、王女様の前で立派に立ち振る舞えていたわよ。ほら、その場を見ていた格下貴族がご縁をなすりつけにやってきた」

 まるで汚いものでも見るかの様な視線を向ける母に、コモーノも苦笑する。まさかこんなものが面目躍如になるとは当のコモーノも思っていなかった。
 せいぜいが、スグエンキル家の新しい家業の一つ。今日はそのお披露目だった。
 だから王女様の登場も、専任菓子職人に任命されることもコモーノにとっては想定外だったのである。

 遠巻きに見ていた貴族達は、第一王子か第二王子。どちらに与するかでつくかどうかの損切りを皮算用していたのだ。今までスグエンキル家が行ってきた非道に比べれば自分たちの行いは正しいものである、と言う正義のもとに。

 だがここで王女に着く、つまり王位継承争いの敵になることはないと踏んで共倒れにならないならと縁を結びにきたのだ。
 国を裏切れば粛清の対象となる番犬の前に首を差し出す度胸は見事なものだが、考えなしのバカなのか? とまだ貴族のあれこれに疎いコモーノですら思うほどである。

「スグエンキル婦人! ご挨拶が遅れまして申し訳ありませんわ」

「あらアーシ=ヒッパル男爵婦人。こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ないわ。そちらの子が噂の聖女様に任命されたカーミ嬢ね」

「カーミ=ヒッパルと申します侯爵夫人。本日はご挨拶できて感激ですわ」

「アレサよ。この子は息子のコモーノ」

「コモーノ=スグエンキルです。噂の聖女様と出会えた光栄、身に余る思いです」

 大人は大人同士、子供は子供で相手しろとばかりに母は婦人達を連れてどこかへ行った。

 職能を重んじる貴族にとって、高い爵位に嫁ぐのは誉れ。
 しかし聖女クラスなら侯爵どころか王族も狙える。
 所詮はキープ君止まりだろうと当たりをつけてコモーノは聖女カーミへ接した。

「まぁ、お上手なのね。それとスグエンキル家の持ち寄り品、大変おいしかったです。私のためにも作ってくれたりなんか……」

「あー……えっと」

 所詮子供か。色気より食い気全開で迫ってくる。
 どうせキープ君止まり。ならいつまでも付き合う必要はないなと遠慮の言葉を捻り出そうとしたところ、

「ダメよ! この泥棒猫!」

「まあ!」

 件の王女様が割り込んできた。
 先ほどよりも執着心強めでお怒りのご様子。
 まぁそりゃそうか。

 せっかく取り込んだのに成果ごと横から掠め取ろうとされたら誰だって怒る。
 さーて、どう対応するかな?
 コモーノは数瞬考え込んで、実行した。

 この思考速度の速さ、思い切りの良さはアルフレッドとずっと対立してきて身についたものだ。人前で緊張する、緊張すると言葉を噛む、失敗すると尻込みするさえ払拭すればコモーノは実はハイスペックな貴族の子供。
 それを正当に評価しているのは他ならぬ当人だ。アルフレッドさえ居なければ、コモーノは王都に響く名声を得ていたと言うのは嘘でも誇張でもないのである。
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